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Our Story  作者: NeRix
水の章 第一部
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第四十二話 シロ【シロ】

 『シロ、これをあなたに・・・』

『僕に・・・嬉しいです』

『ずっと離さずに持っていてください。では・・・あなたに愛を渡してから行こうと思います』

『はい・・・僕からも・・・』

幸福な記憶・・・。


 『充分にわかっただろ?お前たちもこうなりたくなければ、黙って役目だけを果たしていればいい』

同時に恐い記憶・・・。


 ごめんなさい、僕は・・・。



 城内に足音が響いた。

・・・誰かが城に入ってきてる。

外の番犬・・・倒してきたのか?・・・なんのために?


 「シロ・・・私の人形がやられちゃったみたいなの・・・」

不安そうな声が、壁をすり抜けて部屋に入ってきた。

 「メピル、立て札には言った通りに書いてたの?」

「当たり前じゃない、私はあなたに背くことはできないもの」

「わかってるよ」

疑ってるわけじゃないけど、一応確認したかっただけだ。


 「入ってきたのは人間みたいね。うーん・・・みんな文字が読めるわけじゃないのかしら・・・」

「なんでもいい・・・」

もう三百年以上は外に出てないし、世界がどうなってるかなんて興味ない。

どうせ何もできないし・・・。


 「・・・二人みたいだね。・・・強いのかな?」

僕は城全体に探知の結界を張った。

これで動きはわかる。

 「あの子を倒してきた。・・・強いと思う」

メピルが顔を強張らせた。

 立て札も読めないくらい頭は悪いけど、力はあるってことか。

・・・人形をけしかけて帰ってもらうことにしよう。



 僕は部屋を出て、隣の玉座の間に兵隊を作った。

数は・・・三十くらいいればいいか。

素直に引き返せば別にいいけど、抵抗するなら覚悟はしてもらう。


 「じゃあ今度はあたしが開けるよ。お・・・これも軽いね」

扉の外から声が聞こえた。


 「シロ、早く戻ってきて」

「うん、そっちから操る・・・」

人形の目と僕の目に繋がりも作った。

どんなのが来たのかも見ておかなければ・・・。



 「・・・シロ、どうなの?」

「押されてる・・・」

人形の兵隊たちは、いつの間にか半分になっていた。


 なにこの人・・・。

間髪入れずに攻撃させているのに、全部捌いてる。どこかで崩れるはずなのに・・・。


 「動いてるのは一人だけみたいね・・・」

「うん・・・」

侵入者の二人は、人間の男の子と女の子で間違いない。

 戦ってるのはニルスと呼ばれた男の子だけだ。それなのに僕の人形が簡単に壊されていく。

 「人間で間違いない?」

「静かにしてて・・・」

とても冷たい目で人形を壊していく男の子に恐怖を感じた。

・・・誰?やだよ・・・あんなの関わりたくない・・・。



 「あなたで最後です・・・」

僕の人形がすべて壊された。

・・・どうする?


 「・・・さっきみたいに深くないね」

「ねえ、あいつらどう思う?」

「あたしがわかるわけないじゃん・・・。でも、奥にはもういないみたいだね」

声だけが聞こえる。

ケガの手当をしてるみたいだ。


 「・・・シロ、隠れよう?姿を見せずにやり過ごせばきっと帰る」

メピルが壁を作り、部屋を二つに分けた。

扉は作ってないからこっちに気付くことは無いはず・・・。

 

 「メピル、僕はここにいただけだよ。外に出てない!記憶も探ってない!・・・なんにもしてないよ!」

「落ち着いてシロ、あの人間たちはジナスと関係ない。こんなけしかけ方するわけないでしょ?」

「わからない・・・」

不安で仕方ない。関係ないなら早く帰ってよ・・・。



 「ちょっとだけ雰囲気違うね」

「そうだね・・・」

二人が入ってきた。

僕たちには気付いてないみたいだ。


 「ねえニルス、テーブルになんか彫ってあるよ。シ・・・ロ・・・メピ・・・ル?名前かな?」

机に彫ったのを見られた。

 ・・・待てよ、あの子たちは僕の名前を知らない?

本当にジナスとは関係ないってこと?


 「そっちの化粧台に・・・なにかある」

男の子が不思議そうな声を出した。

・・・化粧台?まずい・・・さっき触ってて置きっぱなし・・・。

 「・・・お宝?」

「見せて」

ダメ・・・それはダメ、渡すわけにはいかない。

・・・触られるのも嫌なのに。 


 「・・・メピルはこのまま隠れてて」

「ちょ・・・シロ・・・」

僕は壁をすり抜けて二人の前に飛び出した。


 やっぱり、僕の・・・。

赤毛の女の子の手にあったのは、僕の首飾りだった。

・・・持っていくことだけは許さない。


 「それに触るな!!!」

「・・・」「・・・」

どちらも動きが止まった。

二人からすれば、突然僕が目の前に現れたって感じだから当然だ。

 そして・・・僕の顔を見ても反応が無い。

なら、すぐにでも・・・。


 「早くそれを戻して出てって!!!」

話してるから言葉は通じるはずだ。

言うことを聞かないなら・・・やるしかない。

 「なにあの子・・・急に出てきた。ニルス、もしかして精霊じゃない?」

「話すな!!早くそれを戻せ!!」

二人を囲むように百以上のつららを出した。

言うことを聞かなければ全力でやる。


 「・・・ミランダ、元に戻して」

「う、うん」

二人は僕の要求に従ってくれた。

恐そうだと思っていた男の子・・・ニルスの方が話はわかるみたいだ。

 「大声出してごめんね。・・・ここは僕の城だ。で、君たちは招かれざる客・・・早く出てって」

そういう人には、強く言う気はない。


 「君の城・・・勝手に入ってしまってごめんなさい。・・・ミランダも謝って」

「・・・ごめんなさい」

ミランダと呼ばれている女の子も素直に謝ってくれた。

 ・・・迷い込んだだけなのか?

いや、番犬を倒してる。なにか目的があって来たんだ。

このまま帰していいのか・・・。


 「シロ、私その二人と話してみたいわ」

考えていると壁が消えた。

隠れててって言ったのに・・・。

 「わ、また出てきた」

「部屋が広くなった・・・」

「精霊の力も知らないのね・・・」

メピルが僕の横に並んだ。


 「・・・まず確認したい。あなたたちは、ジナスとはなんの関係も無い?私たちは偽りを見抜ける。嘘をついてもわかるからはっきり答えてね」

「・・・」「・・・」

二人は固まったまま、メピルをじっと見つめている。


 「答えてほしいの。私たちに害が無いとわかれば、シロもつららを消すと思う」

「ジナス・・・って人間?それとも精霊?悪いけど、どっちだとしても聞いたことない」

ニルスが答えてくれた。

 「あたしも・・・知らない」

ミランダも・・・。

メピルは僕を安心させるために聞いてくれたのか。


 「シロ、嘘じゃないのはわかったわね?もう少しお話ししてみようよ」

「・・・勝手にして」

僕は二人を囲んでいたつららを消して椅子に座った。

ジナスと関係ないみたいだし、少し聞くくらいならいい。



 「私はメピル、こっちはシロ、精霊よ。あなたたちの名前も教えて」

メピルは二人のために椅子を作って座らせた。

早くここに来た目的を聞いてほしい・・・。


 「オレ・・・あ、私はニルス・クライン、旅人です。精霊の城を見たいと思ってここに来ました」

「あた・・・私はミランダ・スプリングです。・・・ニルスと一緒に旅をしてます」

旅人・・・興味本位で、番犬まで倒してここまで来たってことか?


 「ありがとう、ニルスとミランダね。この場所は誰に聞いたの?」

「えっと・・・偶然というか、新聞にここにあるかもって書いてあったので・・・」

なんだって・・・。

 「まあ・・・本当にあるとは思いませんでしたけど・・・」

「信じてる人は少ないってこと?」

「はい・・・夢を見せてくれる新聞なので・・・」

「ふーん・・・ありがとう。えっと・・・楽な話し方でいいよ」

メピルが二人に微笑んだ。

・・・たしかに堅い感じじゃなくてもいい。


 「しかし・・・城の主の前で・・・」

「ああ・・・心配しないで。シロはたしかに精霊の王だけど、そういうのは気にしないから」

「え・・・この子が王様なの?どうみても十歳くらい・・・メピルだって、十四、五って感じだけど・・・」

ミランダは、僕たちを見て目を丸くした。

・・・失礼な子だな。


 「ふふ、精霊は年老いたりしないから見た目だけで判断しない方がいいよ。さあ、普通に話してちょうだい」

「えっと・・・二人はここで何をしてるの?」

「ほとんど何もしてないの。役目はあるけど・・・ただこの大陸の命を見守っているだけって感じかな・・・」

「そうなんだ。・・・悪いけど精霊のことはよくわからないんだ」

当然だ。今いる精霊は、僕とメピルを含めて七・・・いや、六か。誰も人前に出ることはないはず。

 逆に進んで僕らを探す人間もそんなにいない。こんなことが無ければ姿を見せたりしないからだ。


 「でもよくここまでこれたと思う。私の作った番犬は・・・あなたが倒したの?」

「番犬・・・あの大きな狼?」

「そうよ・・・」

「オレがやりました・・・ごめんなさい」

ニルスは申し訳なさそうな顔をした。

もしかして「殺しちゃった」って思ってるのかな?

 「大丈夫よ、あれは人形。また作れるから」

「・・・人形?」

「うん、こんな感じ」

メピルはテーブルの上に小さい番犬を作ってあげた。

だから気にしなくていい。


 「嘘・・・生き物じゃなかったんだ・・・」

ミランダが番犬を指でつついた。

 「じゃあ・・・さっきの兵士たちも?」

「あれはシロが作ったのよ。あんなに簡単に壊されるとは思わなかったけど・・・」

「・・・変だとは思ったんだ。戦場で戦う魔族と似てたし・・・」

戦場で戦ってたのか。・・・意味ないのに。

それに魔族・・・本当のことは知らないみたいだ。


 『なあシロ、楽しそうだと思わないか?お前も見に来ていいんだぞ』

『僕は・・・ここから出るつもりはない・・・』

『次から数を増やすつもりだ。記憶だけでは昂らないか?』

『興味が無い・・・』

また嫌な記憶が・・・。


 『それより・・・人間が魔法を使っている・・・。お前が渡したのか?』

『私ではない。・・・まあ気にするなよ。それに、興味があるなら見に来たらいい』

『無いって言っただろ・・・』

思い出したくないよ・・・。


 『つまらない奴だな。消さないでやってるんだから、楽しみを見つけろよ』

『・・・用が無いなら出て行け』

『ふ・・・臆病者め』

『役目だけでいい・・・。もう二度と来るな」

悔しいのに、強がるだけでなにもできなかった。

僕は・・・王なのに・・・。



 「私もシロもここを荒らされたくはないの。あなたたちはそんなことしない?」

気付くと話が変わっていた。

メピルは、僕以外と話すのは初めてだから楽しいんだろう。


 「そんなことしないよ。別に荒らしに来たわけじゃないし」

「・・・ニルスも?」

「オレもしない。・・・疑わしいなら武器も置く」

ニルスは腰に付けていた剣を外した。

 ・・・あの剣、なんか変だ。

僕たち精霊に似た力を感じる。


 「・・・ねえ、その剣・・・僕に見せて」

僕は椅子から下りてニルスに近付いた。

正体を確かめたい・・・。

 「いいよ。持てるかな?」

「平気だよ。僕たち精霊は重さとか感じない」

「じゃあ・・・」

「ありがとう。え・・・あれ・・・」

手が剣を支えきれずに落としてしまった。

これって・・・。


 「・・・シロ?」

メピルも椅子から立ち上がった。

 「・・・メピル、持ってみて」

「うん。・・・あ・・・ダメね・・・」

メピルも辛そうだ。

つまり・・・。

 「これにはオレの父さんの思いが込められている。家族しか持てないようになってるんだ」

ニルスはテーブルの上に剣を置いてくれた。

 「魂の魔法だ・・・」

「そう、精霊だし知ってるよね」

誰・・・誰が渡した?


 「じゃあ、精霊鉱も知ってる?この剣はそれでできてるんだ」

ニルスは鞘から剣を抜いて、刃を見せてくれた。

 「嘘だ・・・」

「嘘じゃないよ。父さんが精霊と契約して作ってもらったんだ。ええと・・・イナズマっていう奴だった」

ニルスは偽りを言っていない。

そしてこの刃は、間違いなく精霊鉱・・・。


 「魂の魔法も・・・イナズマ?」

「そうだって聞いたよ。オレも教えてもらった」

まさか・・・冗談じゃないぞ・・・。

静かにしてるのが一番なのに、そうすれば何もされないのに。

 イナズマ・・・何考えてるの?人間に魔法を与えたのも君?

待てよ・・・治癒はどういうことだ?あれはイナズマでも・・・。


 「ニルス、ミランダ。今日はここに泊まっていって。一階に客間を作る」

「メピル!!!」

「シロ、そうしてもらいましょう」

メピルも気付いた。

 「どうかしら?もう外は夕方・・・ちゃんとベッドも用意するから」

「たしかに・・・できれば泊めてもらおうっては思ってたけど・・・」

「その子・・・そんな雰囲気じゃないよ?」

二人が僕を見つめてきた。

気にはなるけど・・・。


 「ねえシロ、もっとお話を聞いてみようよ」

「聞いて・・・どうするの?」

「イナズマの意図だけでも知りたい」

僕は答えなかった。

知って・・・どうなる?


 「とりあえず、二人は先に一階に行ってて」

「え・・・ああ」

「わかった・・・」

ニルスとミランダは、戸惑いながらもこの城に留まることに応じてくれた。

 「どの部屋も自由に見てていいから。私は、シロと少しだけ話したら行くね」

「じゃあ・・・見させてもらうよ」

「えっと・・・泊めてくれてありがと・・・」

そして素直に部屋を出ていった。

・・・勝手にすればいい。



 「シロ、イナズマはジナスと戦おうとしているんじゃない?そうでなければ、今の状況で精霊鉱を人間に託すようなことはしないと思う」

二人の足音が遠ざかると、メピルが口を開いた。

話の内容は、さっき僕が思ったことと同じだ。


 「余計なことして・・・目を付けられたらどうなるか知ってるはずなのに」

「シロ・・・あの二人がここに来たのは偶然ではないのかもしれないわ。ニルスはとても強かったでしょ?ジナスに対抗できるかも・・・だから・・・」

「やめてよ!僕は嫌だ。・・・イナズマもどうかしてる。みんながどうなったか一緒に見せられたのに・・・。なんでこんなこと・・・」

やるなら自分だけでやればいい。

悪いけどイナズマに協力することはできない・・・。

 

 「私は・・・ニルスとミランダに事情を話して協力してもらった方がいいと思う」

「・・・僕たちの問題だ。人間に頼る必要は無い」

「問題だってことはわかってるんでしょ?もう三百年以上・・・解決したくないの?」

メピルが僕に意見をしてきた。

今までで初めてのこと・・・。


 「精霊鉱の剣ならジナスだって・・・。女神様を助けられるかもしれない。また・・・会いたくないの?」

「やめてよ・・・メピルは知らないからそんなこと言えるんじゃないか」

「シロ・・・」

僕は・・・恐いんだよ。


 「とにかく・・・僕にその気は無い。メピルが残れって言ったんだからあの二人のお世話でもしててよ!」

「気が向いたら来てね・・・」

メピルは部屋を出ていった。


 ・・・僕だってわかるよ。精霊鉱は、きっとイナズマが蒔いた種。

それがどういう巡り合わせかここに来た。

放っておけば、芽吹かずに終わる。


 でも・・・無理だよ。

僕は臆病者だから・・・。

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