第四百八話 大きな流れ【ニルス】
「みなさんおはようございます!ゆっくりとで構いませんので、落ち着いて席についてください」
観客たちのざわめきが大きくなってきた。
人を入れ出したから、時間が近付いてきているってことか・・・。
もっと・・・心を冷やす。
『おいティム、決勝で待っててやる。だから振り向かずに来い』
・・・軽く言ってしまった。
どうしよう・・・勝てるかどうか・・・。
母さんが本気で来るのは間違いない。
オレの控室まで届く気配が、それを教えてくれている。
そして、どんどん強くなってもいた。
『お前を世界で一番強い男にしてやろう』
今でも鮮明に思い出せる・・・それくらい嬉しかった。
たぶん、涙で色付けていたからなんだろう。
世界で一番・・・そうなれたのかな?
今だって母さんに勝てるかわかんないのに、一番なんて言えるはずない。
『じゃあニルス様とお母さんの差はどれくらいですか?』
ルージュに聞かれたことがあったな。
なんて答えたんだっけ・・・。
『このベッドからそこの扉まで』
ああそうだ・・・あれくらい近い。
近すぎるからわかんないんだよな・・・。
◆
「・・・昂っているな」
ジナスの声が聞こえた。
・・・お前もそうみたいだな。
「風神か、雷神か・・・待ち遠しかったぞ」
「ひとり言なら別でやれ」
「そう思うなら黙っていればいいだろ」
「・・・ここはオレの控室だ」
目を開けて立ち上がった。
乗せられたみたいで気に入らない。
「ふ・・・できあがっているな」
「・・・お前に用があるのはルージュの試合の時だけだ」
「しばらく会えなくなるんだ。少しは優しくしろ」
「お前にそんなもの必要ない」
今がどうであろうと、こいつに気を遣うことはこの先もしないつもりだ。
「ジナス、ニルスに迷惑をかけてはいけませんよ」
コトノハも入ってきた。
どっちも迷惑なんだけど・・・。
「ジナス、明日の日没までに私の所に来るのですよ?」
「・・・」
ジナスが本来の姿に戻った。
なんだ急に・・・。
「ずっとその姿でいなさい」
「・・・」
「でも、罰は無くなりませんからね」
「・・・」
おもちゃを取り上げられた子どもみたいな顔・・・。
「そ、そんな目をしてもダメです・・・」
「・・・」
「や、やめなさい!」
「・・・」
コトノハは揺らいでいるように見えた。
ジナスが懇願すれば許してしまいそうな・・・そんな気がする。
・・・絶対にダメだろ。
それにシロたちが認めるはずない。
「ジナス、黙って罰を受けろ。自分がやったことの後始末だろ」
「そうだな・・・これは、私がやらなければならない」
ジナスはずっとコトノハを見ている。
自由にしておいたらなにをするかわからない奴だ。
絶対に境界に置いた方がいい。
「コトノハ、揺らがないでほしい。シロたちを不安にさせることになる」
「わかっています・・・。ジナス、あなたもわかっていますね?」
「・・・」
ジナスは答えずに消えた。
「返事もせずに・・・」
全部コトノハの心を揺らすためだな。
ていうか揺らぐなよ・・・。
「ここでジナスを許すなら、オレはあなたを信用できなくなる」
「大丈夫です。二度と同じ悲しみは繰り返しません」
「あなたは一度囚われている。あいつに乗せられないようにしてほしい」
「はい・・・」
偽りを見抜く力はまだ持っていない。
・・・本心はどうなんだろう?
「ジナスを特別に見ているように感じる。シロたちがかわいそうだ。もっと愛してやってほしい」
「境界から戻りましたらそうします。不安を与えているのはわかっていますので・・・」
「そう・・・。じゃあジナスと交代したらすぐに?」
「はい、まじわり・・・たくさんの愛を与えます。もう不安にはさせません」
まじわる・・・なんの話だ?
まあ、ちゃんと動くんなら大丈夫か。
「メピルとカゲロウは、そのあとにすぐ解放できるの?」
「はい」
「メピルには、約束はちゃんと憶えているって伝えてほしい」
「承知しました」
二人が解放されれば・・・。
『もしそうなったら・・・海が見たいな』
いつにしようかな。
迎えに行くか、待ち合わせをするか・・・どっちがいいか考えておこう。
「さて・・・では本題です。・・・これが終わったら手に入るのですか?」
コトノハがオレの頭に乗った。
ああ、その話をしにきたのか。
「たぶんいけると思うんだけど・・・なんとかするよ」
「なかなか難しい気もしますよ?共にではダメなのですか?」
「どうにもならないって感じだったらそうするしかないかな」
「ならないと思います・・・」
・・・そうだよな。
なにも策が浮かばない。
誕生日は・・・まだ先だし、それを使っても難しそうだ。
「あなたに委ねます。少しですが、まだ時間はありますので」
「知恵を絞ってみるよ」
「どうなるか楽しみにしていますね」
コトノハが立てかけていた栄光の剣に乗った。
まあ、どっちにしても幸福なことに変わりはない。
◆
「ハリスがいじわるばかりするのです。もう私は怒りました」
コトノハがベッドに寝転がった。
ずっと喋ってる・・・。
愚痴も言いに来たのか?
オレがこのあと試合なの知ってるよな?
「ハリスはミランダのおっぱいが大好きなのですよ。揺れているのをよく見ています」
「そう・・・」
だからなんなんだ・・・。
『嫌われてるわね』
『・・・意固地になっているだけですよ』
『そう?』
『彼に触れた時、記憶を見ましたのでわかります』
前は得意気だったけど、当たりがキツくて辛くなってきたって感じか・・・。
「長い時間が必要だよ。そうだな・・・五百年以上は」
「ふふ・・・そうですね」
「・・・なんで笑ってるの?」
「これからが楽しみだからです。では・・・アリシアと仲良くしてくださいね」
コトノハが消えた。
なにかする気か?
余計嫌われてしまうんじゃ・・・。
◆
「ニルス様、そろそろ時間ですよ」
また瞑想に入ってしばらく経った頃、ハリスが現れた。
どのくらい経ったんだろう?
「寒気がしますね・・・」
「そうでもないよ」
周りの音が消えていた。
観客席がそろそろ埋まるってことか。
「あなたたち親子の気配で、清掃の者が近付けませんでした。ずいぶん昂っていらっしゃる」
「ああ・・・そうだったんだ。悪いことをした」
「まあ、今日くらいはいいでしょう。・・・席はすべて埋まりました。立ち見も入るだけ詰め込む予定です」
たくさんの風が集まっているみたいだ。
雷鳴のような歓声は、きのうまでとは比べものにならないほど大きくなるんだろう。
「そろそろって、あとどのくらい?」
「そろそろとしか言いようがありません。お席の方々の邪魔にならないように、立ち見の観戦客を案内しているところですね」
「ケガ人とか出ない?」
「ジナス様が立ち見用の足場を作ってくれました。そして観客席に配置する人間も増やしています。それと・・・治癒士たちも控えています」
出るかもってことか。
狂騒の中で大変だろうな。
「あなたは入場口で待機をお願いします。では失礼・・・」
「あ、待って。ハリスの気持ち、オレもわかるよ」
「・・・なんのお話でしょうか?」
「ミランダの胸、あれは見ちゃうよ。仕方ないと思う」
「・・・」
ハリスは眉間に皺を寄せながら影に沈んだ。
慰めようと思ったんだけど・・・。
◆
入場口が見えてきた。
薄暗い中、何人かの影が見える。
・・・少なめだな。
ほとんどは母さんのところなんだろう。
「ふふ、やっと来た」
「のんびりしてたのか?」
「緊張してなさそうですね」
「どれほどか見させていただこう」
四人・・・送り出すとか別にいらないんだけどな。
みんな母さんの方に行けばいいのに・・・。
◆
「雷神の気配、ここまで届いてるね」
真っ先に声をかけてくれたのはイライザさんだった。
「わかります。こっちを見てるみたいですね」
「あんたとアリシアの気配で血が騒ぐ・・・ルージュに勝たせたこと、ちょっと後悔してるんだ」
「これからはオレたち若い奴らの時代って言ってませんでしたっけ?」
「ああそうだ・・・ん・・・ルージュから聞いたのか?」
やっば・・・聞いてたのはあの子だけってことになってるんだった。
「まあ・・・そうですね」
「お喋りな子だ」
「かわいいから許してあげてください」
「怒ってないよ。・・・おもいっきりやってきな」
イライザさんが頭を撫でてくれた。
・・・おおらかで頼りになる。
やっぱりこういう人も仲間にしたい。
「若者たちの時代ではあるが、まだ私たちも必要だろう」
べモンドさんに背中を叩かれた。
・・・心が若いのはいいことだ。
「打倒クライン家はまだ先ですね」
「みんな忘れてるよ。ウォルターもアリシアの方に行ったからな。・・・また出るのか?」
「旅の疲れを癒しに戻った時、ちょうどやっていたらですね」
「そうか、待っているぞ」
待ってる・・・か。
こういうの嬉しいな。
「ニルス・・・すまなかった」
「え・・・まだ言うんですか?最後って・・・」
「なんのとは言ってない・・・」
「もういいです。好きにすればいい」
この人はいつまで引きずるんだろう?
いい加減にしてほしい・・・。
「ニルス殿、アリシア殿は儂のように体力が尽きたりはせんからな?」
カザハナさんもオレの方に来てくれていた。
「そうですね。底無しかもしれません」
「戦いのあと、股がどうなっているか楽しみじゃな」
想像したくもない・・・。
「ケイトさんと一緒ではなかったんですか?」
「さっきアリシア殿の方に行った。・・・いい肉付きじゃったな」
「・・・真面目に教えなかったんですか?」
「指導という名目で触り放題じゃ」
カザハナさんは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
ユウナギがこの人に似なくてよかったな・・・。
「爺さん、私のことはまだ苦手か?触ってもいいんだよ」
「・・・イライザ殿は母上を思い出す。押さえ込まれたら勝てん・・・」
「今日は許す。ナツメにも黙っててやるから尻でも揉んでみなよ」
「・・・やめておこう。ナツメと・・・イライザ殿の夫に申し訳ない」
この二人は相変わらずだな。
でも、この方がいい。
「ニルスさん、これで勝てばもっと人気者になれますね」
ヒルダがオレの前で手を合わせた。
この子はなんでこっちなんだろう・・・。
「人気者ね・・・そんなにいい?」
「はい、心が満たされます。目標は世界中の人に私の顔を知ってもらうことですね」
「その気持ち・・・利用されないようにね?」
「どういうことですか?」
わかってないみたいだ。
・・・危なっかしい子だな。
「人をよく見ろということだ。歌姫になるつもりが、騙されて娼婦にさせられた・・・そんな話はいくらでもある」
「え・・・なにがあったんですか?」
「乗せられて堕とされるのさ。客が集まらなかったから儲けが少ない、足りない分は体で稼げとかな。本人にも負い目がある・・・そこから未来が崩れ落ちるんだ」
べモンドさんが説明してくれた。
娼館の用心棒だから、そういう話をよく聞くんだろう。
「恐いですね・・・。人を見る目、あんまり自信無いです・・・」
「それならば信用できる者に相談すればいい。一人で決めないことだな」
「信用できる人・・・」
「ニルスに近しい者なら安全だ。そして、守ってもくれるだろう」
・・・たしかにそうかもな。
「つまりべモンドさんもですか?」
「近くにいればな」
「さすが元軍団長、頼れそうですね」
「そう思ってもらえると嬉しいよ。ちなみに、今すぐ決めなければ他に話が行く・・・こういう言い方をする者は断れ」
「わかりました」
ヒルダはもうこっちに残るって決めたのかな?
まだだとしても、傾いてはいそうだ。
「そういえば、ティムはあっちですか?」
姿が見えないから気になった。
あいつはいると思ってたけど・・・。
「いや、観戦席でふんぞりかえっておったぞ」
「そうでしたか・・・」
「寂しそうじゃな」
「いえ・・・待たせすぎたので」
・・・あいつ、信じてくれてるのか。
◆
「頑張ってねニルス」
ステラがゆるい雰囲気を纏って現れた。
見送りはいらないと思ってたけど、君からのは別だ。
「風と雷って、どっちが強いのかな」
「私にはわからないけど、強い方が強いんじゃない?」
「やってみないとってことか」
「雷は風を焼き尽くすかもね」
ステラの指が唇に触れた。
それなら、焼かれる前に吹き飛ばすしかないよな。
「あー!ニルスくーん!」
ジェニーが奥から駆けてきた。
わざわざ来てくれたのか・・・。
「頑張って。わたしの応援があれば勝てるよね?」
「ありがとう、やれるだけやってみるよ。今日は・・・よろしくね」
「そうなったらね」
友達も来てくれて嬉しい。
ライズさんは・・・いない・・・。
◆
「みなさんお静かにお願いします!!!」
ヘインの声が響き、闘技場が静まり返った。
いよいよか・・・。
「本日行われるのは、準決勝と決勝の三試合のみとなります!初日、二日目を越えて勝ち上がった四人、誰が闘神の称号を手にするのか!!しっかりとその目に焼き付けましょう!!!」
場内の空気が震えた。
・・・きのうまでよりも明らかに人数が多い。
立ち見が大勢いるせいで圧倒されそうだ。
「今朝の新聞で興奮してしまい、ここにいらっしゃった方も多いのではないでしょうか!私の眠気もそれで吹き飛びました!というわけで、まずは騎士団、衛兵団、元戦士たち、そして闘士たちに感謝の拍手を贈りましょう!!!」
豪雨のような音が鳴り響いた。
・・・この数だ、街にいる人たちにも届いているだろう。
「何度もお伝えしていますが、祭りに乗じて悪事を働く者に気を付けてください!ご両親、保護者の方はお子さんの手を離さぬように!!お子さんは大人の言うことをしっかり聞くように!!そして、女性はできる限り誰かと共に行動してください!!ここにいる方は私ヘインと約束してくださいね!!!」
そうだよな。ちゃんと言っておかないと悲しいことになるかもしれない。
せめてここにいる観客たちには守ってほしいことだ。
「焦らすようで申し訳ありませんが、先に準決勝まで勝ち上がった四人の闘士をおさらいさせていただきます!!」
・・・まだ入場はさせてもらえないらしい。
こういうのやめてほしいな・・・。
「水の組代表は風神ニルス・クライン!!戦士最強と呼ばれた男です!年齢二十六歳!恥ずかしがり屋のくせに寂しがり屋です!その性格から、アカデミー時代は友人が少なかったそうです!!特技は風の匂いで天気がわかること!そして女性への思わせぶりがとてもうまいとのことです!!」
あることないことを・・・ミランダめ。
「地の組代表は雷神の隠し子アリシア・クライン!!年齢四十一歳!十三から戦場に立ち、ニルスとルージュの出産時以外は毎回戦いに出ていました!幼少時から戦いのこと以外は考えておらず、アカデミーはただ通っていただけだったそうです!特技は掃除と料理と子育て!!戦いは生きがいなので、特技ではないとのことです!!」
なにが子育てだよ・・・。
うまくできたのはルージュだけだろ。
「風の組代表はティム・スウェード!!年齢二十五歳!ルコウ領主スウェード家長男!最後の戦場にのみ参加した元戦士です!当時十六歳、戦士の中で最年少でした!それと・・・みなさんが気になっている風神との関係が判明したので、ここでお伝えさせていただきます!!」
あ・・・それ言わせちゃうんだ・・・。
「ティム十五歳は訓練場に殴り込みました!それが風神ニルスとの出逢いです!まだ未熟だったティムは手も足も出せずに敗北!あまりの悔しさに英雄ミランダに泣きついたとのことです!そしてお情けでミランダ隊に入らせてもらい、風神ニルスを追いかけていました!そしていつしか恋心のような感情が芽生え・・・ひいいいい!!!」
ヘインが悲鳴を上げた。
たぶん・・・乗り込んだんだろう。
「シツレイシマシタ・・・。ティム・スウェードノショウカイハイジョウトサセテイタダキマス・・・」
剣でも突き付けられてそうだな・・・。
「では気を取り直して・・・気の組代表は水神ルージュ・クライン!!年齢十四歳!!雷神とは違い、とてもお淑やかな女の子です!!女子だけのアカデミーに入れた雷神は正しい!!私が親なら絶対に男を近付けたくありません!!・・・失礼、闘技大会最年少での出場ですが、それでもここまで勝ち上がりました!!彼女の魅力はその可愛らしさにあります!!きのう少しだけお話しさせていただきまして、新聞の訂正は正しいとはっきりしました!!!彼女はとても清いです!!!そして・・・勝手ではありますが、私はルージュの優勝を願っています!!!!」
一番声に力が入ってたな・・・。
かわいいから虜にされるのはわかるけど、直接欲望をぶつけるのはやめてほしい。
「本日初めて来た方にも、四人がどんな闘士なのかおわかりいただけたかと思います!!それでは準決勝第一試合・・・風神対雷神から始めていきましょう!!!」
・・・ここから一歩でも外に出たら始まる。
昂った心はすぐに冷やして凍らせる。
冷たく・・・冷たく・・・。
◆
「両者向かい合いました!!みなさんこの二人親子ですよ!!雷神はいつ老けるのでしょうか!!」
母さんはすでに顔が紅潮していた。
ああ・・・今までにないくらい興奮してるんだな。
・・・だからか?
「・・・その格好は何?」
「そういう気持ちでやりたいんだ」
母さんは大地奪還軍の服を着ていた。
なんか怖い・・・。
「雷神が纏っているのは大地奪還軍の軍服です!!彼女がこの姿で大会に出るとは思いませんでした!!」
誰もこんなことするなんて思ってなかっただろうな・・・。
「私の恰好など気にするな。それよりニルス、本気で来てくれ」
「そのつもりだよ母さん」
「ニルス・・・ここは戦う場所だ。だから・・・今だけは・・・その・・・いいだろうか?」
母さんが目を逸らした。
何が言いたいのか、なんとなく察しは付くけど・・・。
まあ、「今だけ」ならいいか。
昔もそうやって「お願い」って感じで言えばよかったのに・・・。
「わかった・・・アリシア」
「・・・お前を殺すつもりで行く。一瞬でも気を抜くな」
アリシアが雷神に変わった。
別にもう気にしてないけど、この人に罪悪感とか無いのかな?
・・・そう考えると素直に従うのはなんかやだ。
ちょっとからかってやるか。
「雷神は手を抜いてくれたりしないの?」
「風神にそれは必要無いな」
「オレ、ちょっとは抜いてやるつもりだったんだけど」
「・・・」
アリシアの目が鋭くなった。
言い過ぎたかな?
なんか返してくれよ・・・。
「なら・・・そうならないように賭けでもしようか。負けた方はなんでもいうことを聞く・・・どうだ?」
「なんでも・・・」
遠い記憶が蘇ってきた。
『ニルス、負けた方はなんでも言うことを聞く・・・どうだ?』
一騎打ちの時だったな・・・昔の気持ちに近付いているのか?
「そう、なんでもだ。受けるか?」
この提案は願ってもない。
「受ける。・・・オレに勝ったら何をさせる気?」
オレが勝てれば・・・。
「そうだな・・・。私が勝ったら、お前は旅人を諦めて・・・火山に一緒に来い。私に鍛冶を教えながら暮らすんだ」
「ふーん・・・よく言えるな。またオレから夢を奪うってこと?」
「手を抜けなくなっただろう?」
寂しいのもあるくせに・・・。
だけど、これでいい。こっちの要求も通しやすくなる。
言いづらかったんだよな・・・。
「いいよ、夢を賭けよう。じゃあオレが勝ったら・・・」
「私はこの剣を賭ける」
アリシアが聖戦の剣を抜いた。
え・・・。
「その剣・・・本気?」
「当然だ。お前の夢、どのくらい大切かはわかっている。それに見合うかはわからないが、私にとってかけがえのないものの一つを賭けよう」
とても大きな流れを感じた。
その先の未来に、アリシアも引き寄せられているってことなのかな・・・。




