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Our Story  作者: NeRix
気の章 第四部
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第三百七十二話 君を守る力【ユウナギ】

 守護の剣クロガネ、俺のために作られたもの。


 君を守る力・・・クロガネに刻まれた言葉。

ニルスさんから渡された時に、これは俺とステラ様のことだと教えてもらった。


 だけど、恋をしてからは変わっていた。

「君」はルージュ、今は自信を持って言える。

そして、これからは変わらない。


 『私は・・・お前以外にあの子を任せたくない』

アリシアさんの言葉が何度も頭の中で響いていた。

 新聞の内容と違って、もう認めてもらってはいる。

だからこそ勝つ気でいくんだ。

ルージュを守れる強さ・・・ここで証明するために。



 「自分を見失うなよ。勝てるとは言えないが、負けない戦いはできるはずだ」

ジェイスさんが俺の控室に来てくれた。

心配してくれてんのか・・・。


 「できると思います」

「なんだ・・・いい状態だな」

「・・・震えそうなのを抑えているだけですよ」

「抑えられているからいい状態なんだ。・・・折れるなよ?」

ジェイスさんはすぐに出て行ってしまった。

不器用って感じだけど、励ましてくれるのは嬉しい。



 「最後にカザハナ・メイプル。観客席のおじいちゃんたちも、自分に自信を持ってください!」

もう小休止が終わる。

そろそろ入場口に行かなければ・・・。


 「ユウナギ、迎えにきたよ」

ルージュが控室に入ってきた。

 顔を見た瞬間から全身に力が湧いている。

そう、これが『君を守る力』だ。


 「えっと・・・平気?」

「大丈夫だよ。ルージュの顔見たらいけそうな気がしてきた」

「いけるよ。わたしの騎士は強いもん」

・・・本気で言ってくれてるのか気になる。

 「雷神よりも強いと思うか?」

「・・・」

ルージュはちょっとだけ困った顔をした。

正直に答えてくれていいんだけどな。


 「言い負かそうとか、そういうんじゃないんだ。本当の気持ちが知りたい」

「・・・それは言葉にしない。でも、わたしはユウナギに勝ってほしいって思ってる」

「ありがとう。・・・勝ちにいくよ」

ルージュを抱きしめた。

もっと、思いを高める・・・。



 「わたしが連れてくつもりだったんだけど・・・」

ルージュの手を引いて東の入場口へ向かった。

そう言われても・・・。


 「ルージュが前だと違うだろ?」

「ここにわたしを襲う人はいないと思うけど・・・」

たしかにそうだけど・・・。

 「いいんだよ。ルージュは・・・俺の背中だけ見ていればいい」

「あ・・・お兄ちゃんの真似だ」

「言ってみたくなったんだ。かっこいいだろ?」

「うん、かっこよかった。でもわたしは背中だけじゃなくて顔も見たいな」

震えを抑える必要が無くなっている。

この手を繋いでいる限り・・・。


 

 「勝つ可能性・・・俺が教えてやるよ」

「よし、合ってるか聞いといてやる」

「おめーはアリシアんとこ行けよ・・・」

「オレの勝手だろ」

入場口前にティムさんとニルスさんがいた。

憧れの二人が俺に助言を持ってきてくれたらしい。


 「読めんのは初撃だけだ。剣の持ち手狙って斬り上げてくる」

ティムさんは剣を抜いて、ゆっくりとその動きを見せてくれた。

 「読みが外れたら?」

「無い、アリシアはいつもそっから始める。勢いがどんどん上がってくるからそこで止めて一気にいくしかねー」

「ちなみに、決まっても決まらなくても勢いは増す。だから今のユウナギが勝つにはそこしかない」

・・・この二人が言うなら間違いないんだろうな。


 『これがアリシア様の得意技だよ』

スコットさんがルージュに教えていたのを憶えている。

 人間相手だから持ち手を狙うらしいけど、戦場では腕を切り落としていたらしい。

まあ・・・武器を手放させるより、そっちの方が確実だ。


 「不確定なところとして、斬り上げじゃなくて突きでやる時もある」

「ああそーだな。どっちにしろ狙ってくんのは持ち手だ。なんとかなんだろ」

俺があんたらと同じくらいの実力ならな・・・。

 「あとは、叫びも使ってくる」

「そうだな、使えるもんは全部使うはずだ。痺れたらそこまで、目が覚めたらベッドの上だ」

つまり、いつでも構えとかないといけないってことか。

 ルージュのは耐えられるけど、アリシアさんのはかなり集中しないとダメだ。

当然だけど、それが切れたら終わる。



 「みなさんお待たせしました!地の組一回戦、第一試合を開始します!!」

その時が来てしまった。

 いよいよか・・・。

でも、妙に落ち着いている。

ルージュが近くにいるからなんだろう。


 「行ってこい」

「はい!」

ティムさんが俺の胸を拳で叩いてくれた。


 「クロガネを信じてくれ」

「はい!」

ニルスさんが背中を押してくれた。


 「離れても・・・繋がってるからね」

「わかってるよ。お前が後ろにいる・・・だから俺は負けない」

ルージュの手が離れた。

大丈夫だ、震えは無い。



 「先に姿を見せてくれたのは当代聖女の騎士、ユウナギ・メイプルです!!父親を先に見させてもらいましたが、この男もかなりの実力者だと思われます!!」

俺は中央へ歩き出した。

まだ雷神の姿は無い。


 「倍率十五倍!!この数字をひっくり返すことを願っている方もたくさんいます!!」

何人くらいいるんだろうな・・・。

一人はルージュで決まってるけど、他はもの好きって感じか?


 観客の騒がしさがちょっとだけ心地いい。

みんななにか叫んでいるけど、聞き取れないほどの人数だ。

 訓練場での時はけっこうわかったんだけどな。

たしか・・・こっちは四万五千だっけ?



 「出て来てくれましたーー!!!」

闘技場が揺れ始めた。

あの人の姿が見えたからだ。


 朝は一緒に食べた、そしてここまで一緒に来た、集合にもいた。

だから、出てこないはずないよな・・・。


 「闘技大会はこの人無しじゃ語れない!!雷神の隠し子という言葉は子どもでも知っています!!」

ゆっくりと。


 「失礼を承知で言わせていただきます!雷神の年齢は四十一歳、まったく老けません!!どう厳しく見ても二十代半ば!!風神、水神とは親子ではなく姉弟と間違われるそうです!!」

堂々と。


 「去年の凪の月で初めての欠場!今回はどうかと気を揉んでいたのは私だけではないでしょう!忘れないでください!!観戦客はあなたを見に来ているんですよ!!!」

悠々と・・・俺に近付いてくる。



 「・・・いい顔だ。意気込みを教えてくれ」

「俺は・・・勝つつもりです」

闘技盤中央で向かい合った。


 「・・・それでは足りないぞ。殺すつもりで来い」

目の前にいるのはアリシアさんじゃない。

 「あなたに勝つってことは、同じ意味だと思いますよ」

「そうか・・・わかっているんだな」

・・・雷神だ。


 「この二人の事情は、みなさんも知っていると思いますが説明させていただきます!それは、明日出場の水神ルージュ・クラインへの想いであります!かわいい娘を託すに相応しい男なのか・・・今日で判断されるのです!!」

ずいぶん熱く言ってくれる・・・。


 「お前よりも強い者がルージュを奪おうとしている・・・憶えているか?」

雷神が鋭い目で俺を睨んできた。

 「はい、死守ではダメです。悲しませない」

「お前が不甲斐なければ、あの子も火山に連れて行く・・・守ってみせろ」

なるほど、俺より強いってか。

・・・舐めんじゃねーぞ!



 互いに端に立ち、あとは待つだけだ。

やる・・・できる。

全部出し切ってやる!


 「さあ、まだ大会は始まったばかりです!今日はあと十試合もありますからね!では・・・合図を!!」

開始の鐘が打ち鳴らされ、直後に雷神が駆け出した。


 俺も近付き、待つ・・・。

見ることはできないけど、背中にはルージュの気配を感じている。

離れた手も・・・まだ熱い!



 「簡単に終わるなよ!!!!」

アリシアさんが間合いに入った。

 雷鳴のような叫びが、俺の自由を奪おうとしている。

最初っからかよ・・・。


 「終わるわけねーだろ!!」

気合で弾いた。

 「よく耐えたぞ!!」

雷神は背筋が凍るほどの笑みを浮かべ、腰の剣に手をかけた。

 ここ・・・俺が勝てる希望、絶対に決める!

まだ聖戦の剣は鞘の中だ。つまり・・・突きは無い、斬り上げでくる。

狙っているのは持ち手、あなたの力なら誰だって落としちまう。


 「さあ、楽しもう!!」

・・・やってやる!

 斬り上げの軌道は正確だ。

どうするかはもう決まっている。


 「ユウナギが武器を落としたー!!」

クロガネが俺の手から離れた・・・わざとだけど。

 「・・・」

ほんの一瞬、雷神が戸惑いを見せた。

ここ・・・。


 「騎士に必要なのは剣じゃねーんだ!!」

隙だらけの雷神の腹に、渾身の力で拳を打ち込んだ。

同じ好機は二度と無い。

 「ぐ・・・」

反応は見ない、効いてるか確かめてる場合じゃねーんだよ。


 「このまま決める!!!」

拳を開き、雷神の顔を覆った。

必ず連撃・・・そう教えてくれたよな。

 「やってみろ・・・」

雷神から嬉しそうな声が聞こえた。

頼む・・・これで気絶してくれ・・・


 「雷神が闘技盤に沈んだー!!!」

顔を押して足を払い、頭を盤上に叩きつけた。

 「私は毎回大会を見ていますが、一回戦目で雷神が倒れたところを見るのは初めてです!!聖女の騎士はとても強い、誰もがアカデミーで教わります!!若干十七歳がその事実を証明してくれました!!!」

倒れた・・・それでもまだ・・・俺に油断は無い。


 悪かったよ・・・。

ちょうど左手のそばにクロガネが待っていた。

 このまま力をうば・・・。

剣を拾った瞬間、目の前に硬そうな拳が現れた。


 「雷神の反撃だー!」

踏み込み無しの拳なのに俺の体は飛ばされた。

いてー・・・鍛錬の時の何倍だよ・・・。

 「いったいどう鍛えたらここまで頑丈になれるのか!!あれを受けたら常人は間違いなく死んでいます!!」

雷神は平然と立ち上がった。

そう・・・。


 「よかったぞ。私でなければな・・・」

雷神の頬は紅く染まり、呼吸が早くなっている。

・・・今ので興奮したらしい。

 「まだできるな?」

少女・・・顔を見てすぐに浮かんだ。

 新しい服を見てほしい、かわいく結わいた髪の毛を褒めてほしい。

普通の女の子が嬉しい、楽しいと思うこと、雷神にとってはそれが戦いなんだろう。



 「ユウナギは全力で守りに入っています!!」

雷神の猛攻が始まった。

 「致命傷はありませんが、切り裂かれた腕や脚はどれほどの痛みなのか!!」

雷神の勢いはどんどん増していく。

次の好機は・・・まだ来ない。


 「どうする!!どうやって守る!!」

「倒れなければ・・・死ななければいい!!」

・・・まだ耐える。



 「まだ来ないか・・・」

どれくらい経ったかわからないけど耐え続けた。


 時折見せる隙は確実に罠だ。

雷神だって人間、必ず息継ぎはある。

突くなら、呼吸の隙・・・。



 「そこだ!」

長く続いた攻撃が緩み、剣に気合を込めた。

これがダメでもまた耐えればいい・・・。


 「貫いたー!!!」

クロガネが雷神の腹に穴を空けた。

 ああ・・・応えてくれたんだな。

これからも頼むぜ・・・。


 「俺は死なない!!だから明日も・・・これからも・・・ずっと守っていける!!!」

クロガネを引き抜き、体ごとぶつかった。

もっと・・・思いを!!


 「これはルージュを守るための力だ!!」

よろけてくれたところに、おもいきり振り下ろした。

真っ二つにする!そうじゃなきゃ勝てな・・・。


 「止めたー!!!」

全身全霊の攻撃は簡単に受け止められた。

嘘だろ・・・腹に風穴空けたんだぞ・・・。


 「・・・十五のニルスと同じくらいだな」

雷神は満面の笑みでクロガネを弾き返した。

 「近付かなければ・・・超えなければ・・・守れない」

「そうだな・・・まだ先の話だ」

体勢を整える前に、聖戦の剣がクロガネにぶつかり・・・俺の手から離れた。

あー・・・やべー・・・。



 「・・・ルージュはお前に託す。変わらず守っていってくれ」

雷神の殺気が無くなった。

でも、喉元に当てられた刃はとても冷たい。


 「まあ・・・今回は譲ってくれ。私はまだ戦いたいんだ」

声は優しく暖かい・・・アリシアさんに戻ったみたいだ。

 遠い・・・遠すぎる。

だから胸が躍るんだ。


 「仕方ないですね・・・今回は譲りますよ」

両手を挙げた。

戦闘狂か、絶対勝てるって自信が付くまでやりたくねーな・・・。


 「決着がつきましたー!!早く治癒をお願いします!!!」

集中が切れた途端、全身が痛みだした。

あーあ・・・昼は何食べよう・・・。



 「勝負は終わりましたが、騎士のこれからが気になる所です。みなさんもそうですよねー?」

俺の治癒が済むと、進行のヘインさんがわざわざ下りてきた。

うるせー・・・余計なことすんな。


 「アリシア様、彼の力量はどうでしたか?」

周りから音が消えた。

四万以上もいて黙んじゃねーよ・・・。


 「全員見ていたはずだ。託せるに決まっているだろう」

突然嵐が起こった。

観戦者が起こす風が俺に当たる。


 「試合も結果も文句無しです!!みなさん、若き騎士に祝福を贈りましょう!!!」

んなもんいらねーから早く戻らせてくれ・・・。



 「おかえり」

戻るとルージュに飛びつかれた。

柔らかい・・・。


 「雷神はどうだった?」

「やべー女だったろ?俺はもう女とは見てねーけどな」

ニルスさんとティムさんも、ずっと見ていてくれたみたいだ。

ああ、やべー女だよ・・・。


 「よく持ちこたえたな」

「ニルスさんと同じです。すぐ後ろにルージュがいるから・・・」

だから負けない、倒れることを心が許さなかった。


 「すぐ後ろか・・・。これからも頼んだよ」

ニルスさんは言いながらルージュの頭を撫でた。

 「わかってると思うけど、支えが必要だ」

「うん、そうしていく」

「あとは・・・逃げられないようにな」

「え・・・逃がさない」

逃げるわけないだろ・・・。


 「おい、泣かしたら殺すからな」

ティムさんは、真剣な顔で俺の目を睨んできた。

 「はい」

「ルージュ、なんかあったら俺に言え」

「あはは・・・あったら・・・そうします」

そんなことにはしないつもりだけど、こえーなこの人・・・。



 「次はテッドさんだよ。一緒に見ようね」

ニルスさんとティムさんは観戦席に消えた。

そういや、俺たちは一番いい場所で見れるんだったな。


 「俺・・・腹も減ったんだ。昼はどうする?」

「あと三試合我慢してね。変装して売店区画行ってみる?」

「売店か・・・離れんなよ?」

ルージュの左手を引いた。

 「・・・離れないようにもしてほしいな」

「ずっと繋いでるよ」

「・・・」

目の前にはとびきりの笑顔があった。


 『君を守る力』

それはこうしていればいくらでも湧いてくる。

この先、いつまでもだ。

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