第三百六十二話 消えた思い【ニルス】
「風がさ・・・飛び出しちまえって言ってたんだよ」
ティムの言葉で、談話室にいた何人かの目がオレに向いた。
なぜ・・・。
「・・・なに?」
「・・・ニルスじゃないのか?」
母さんが真面目な顔で言った。
「何言ってんの?」
「そういえば、お前が家を出たのはアカデミーが終わる日だったな。・・・ティムの歳とも合う」
十五の誕生日・・・。
たしかにあいつは二つ下だけど・・・知るかよ・・・。
『お・・・見てニルス、そういや今日はアカデミーが終わる日だったね』
でも、テーゼを出た日はそうだった。
『世界には、あなたよりも不幸な子はたくさんいるんだ。旅をする中で出逢ったら、助けになってあげてね』
セイラさんが色々話してくれて・・・。
『・・・どこで聞いたか、何かで読んだか忘れたんだけど、風は心でできてるんだって』
『心・・・』
『うん、なんか素敵だなって思うんだ。ふふ、ニルスは風神くんだっけ?』
セイラさんが教えてくれて・・・。
『というわけで、ニルスの心も風に乗せてみよう。風神くんならできるんじゃない?』
『・・・風に乗せるのは、どんな心?』
『そうだな・・・じゃあ、今不幸な子への助言とか。届いたらいつか出逢えて、仲間になってくれるかもね』
まさかな・・・。
でも、あの時に飛ばした思いは・・・。
いや・・・偶然だろう。
◆
「ちょっと静かにしてよ。聞こえないでしょ」
ミランダがオレを睨んできた。
言うことは聞いておこう・・・。
「魔女は趣味が悪いですね・・・」
「あんたほどじゃないよ。・・・よくやるわ」
「愉快かと思っただけです」
ハリスも来ていた。
もちろん、リラとチルもだ。
よくないこと・・・わかっているけど、ここにいる全員で会議室の話を聞かせてもらっている。
『リラ、チル、どっちでもいいから精霊の耳貸して』
ミランダは戻るなり二人に声をかけていた。
会議室を貸したのはこのためだったのかな・・・。
まあいい、今は向こうの声に集中しよう。
「ティム様が戻らないことで、あの女は激怒していました・・・」
「・・・なんかされたか?」
「いえ・・・探してこいとだけ・・・。そこでティム様の鞄と書き置きが見つかりました・・・」
話はまだ終わっていない。
なんていうか、知っておきたい。
「あの女は書き置きを見て・・・もういないティム様をシャルメル様と共に嘲りました」
「あのババアか・・・。まあ・・・別にいいや」
ババア・・・先代のことか?
「その夜・・・何人も屋敷を去りました。今のティム様のことは・・・その全員が知っています・・・。みな返事をくれましたから」
「俺は・・・戻った方がよかったのか?」
「いえ・・・今のティム様が幸せだとわかり喜んでくれています。ご自身で決めたことを間違っていたとは思わないでください」
辞めた使用人たちもみんなティムを愛していた。
助けられなかったことをずっと悔やんでいたんだろう。
◆
「飛び出してからは、南を目指してずっと走ったんだ。全然疲れなくて、倒れて寝て、起きたらまた走った」
ティムの声が明るくなった。
ここからは、暗い思い出は少なそうだ。
「何日かそれを繰り返してたけど、調子が悪くなって動けなくなったんだ。その辺に生えてる草とか食ってたせいかもな・・・」
・・・そういうところは今と変わらずバカだったわけか。
「なんとかオーゼの川までたどりついて・・・そこで意識が無くなったんだ。次に気付いたら、ほとんど裸の女に抱かれて水の中にいた・・・」
「はい、それは私です」
オーゼの綺麗な声が聞こえた。
そういやそうだったな。
「あなたが・・・」
「あ・・・まだお名前も・・・」
「水の精霊オーゼです。気まぐれもありましたが、なんだかかわいそうだから助けました」
「シロ様やカゲロウ様と同じ・・・」
「そうですね。あの頃の私は大体川にいたので」
そのままオーゼと一緒にいれば、オレたちともっと早く出逢っていたのかもしれないな。
「お魚とか木の実とか、大丈夫そうなのを食べさせてあげたの。あ、でも・・・生は・・・無理だよ・・・って文句言われたわね」
急に子どもの声が聞こえた。
「ティム様の声・・・」
「そうです・・・かわいらしい声でした」
「・・・やめろ」
オーゼが出したみたいだ。
意外だな・・・「生で食えるわけねーだろ」って感じだと思ってた。
「なぜか警戒されていて、その時は名前も教えてくれなかったのよ」
「半裸のやべー女にペラペラ話せるかよ・・・。もしかしたら食われるんじゃねーかって思ってた・・・」
そう言われたら・・・ちょっと怖いかもしれないな。
「とりあえず身体も元気になったし、どうするのって聞いたら・・・北部にはいたくないから、南部に行く・・・って言ってたわね」
「真似すんな・・・」
「まあ、止める理由も無いから送り出したのよ。お金も渡したわね。けっこうあったんでしょ?」
「二百万くらい・・・」
二百・・・なんでオーゼが持ってたんだろ・・・。
「お金まで・・・」
「水の中に落ちてるのを集めてあげたのよ。当面は大丈夫だったみたいね」
「ああ・・・助かったよ」
なるほど、だからなんとかなったのか。
◆
「最初に買ったのは剣だった。強くなって・・・あいつらに復讐してやろうと思ったんだよ・・・」
ティムの声が少し低くなった。
自由を手に入れたのにまず考えるのがそれか・・・。
相当辛かったんだろうな。
「まずは勝てそうな魔物を相手にしていった。山、森、海・・・一人でなんとかなってて、自信も付いてきた」
「あたしと出逢ったのはそんくらいの時だな」
「あ・・・すみません。あなたは・・・」
「モナコ・フランジャー、大陸一の薬師だ。今は精霊の城にいるけど、旅をしながら薬を売るのが本業さ」
モナコの嬉しそうな声が入ってきた。
どんな出逢いだったのか・・・。
「薬の材料集めのために入った森でテント張ってたら、こいつのうめき声が聞こえたんだ。まあ・・・詳しくは言わねーけど、ヤバいキノコ食って錯乱してたんだよ」
「森で迷っちまったんだ・・・。買い込んでた食料も尽きて、それで適当に食った・・・」
一度その辺の草で危険を知ったはずなのによくやる・・・。
「とりあえず、縛ってテントにぶち込んだ。診てすぐに原因がわかったから処理・・・いや、処置してやったのさ」
「ああ・・・感謝してるよ」
「あんたらの言う通り、たしかにかわいいガキだった。ん・・・助けてくれて・・・ありがとう・・・」
「おい・・・」
モナコもティムの声を真似したみたいだ。
「あたしにも生まれとか事情とかはすぐに話してくれなかった。でも・・・なんか気になったからさ、荷物持ちで一緒に来いって誘ったんだ」
「もう毒で苦しむのは嫌だったからな。薬師なら病気の心配もねーし、旅の知識もかなりあったからそうしたんだ。見た目は魔女だけど・・・」
「なかなか強かったから魔物の心配も無くなった。いい守り手でもあったぞ」
「そうかよ・・・お前との旅はたしかに悪くなかった」
モナコとの旅か・・・楽しかったんだろうな。
オレには一度も話してくれなかったけど・・・。
「ひと月くらい一緒にいたら、こいつから自分のことを話してきた。正直やべーなって思った・・・あたしが誘拐したみたいじゃないか」
「ティム様がいなくなったことは・・・外には出すなと言われました。それなら・・・それがわかっていたら・・・私が連れ出していた・・・」
「ハンナ・・・」
「今悔やんでも仕方ないぞ。あたしもそこまで気にしてなかった。追っ手が来てもどうにか逃げ切れるように準備はしてたからな」
たしかにモナコならうまくやりそう・・・。
「風も北部には向いてなかったから南部を旅してた。そん時に話し方も矯正してやったんだよ。なよなよしてて男らしくなかったからな」
「あなたが・・・」
「それはしないでほしかったです・・・」
「あはは、僕から俺に変わるまでずいぶんかかったな。間違うたびに謝ってきて鬱陶しかったぞ」
虚勢はモナコの影響だったのか。
話し方だけでも大きく見せれば、カッコだけの奴は遠ざけられるからな。
「あとは強くなりてーつってたから修行もつけてやった」
「え・・・モナコさん戦えるんですか?」
「いや、あたしじゃない。賞金出る魔物、宿場とか街のケンカ自慢とやらせてた」
「人間とはあんまり勝負になんなかったな。俺に勝ったら十万エールとモナコひと晩が付く、それでバカを呼び込んでたのがよくなかったと思う」
たしかにあんまりよくない。
本当に強い人は自分から争いにはいかない。だからやり方が悪すぎる。
・・・たぶん強くなったのは、魔物を狩っていたおかげだ。
十五にしては動きが速かった。
野性を相手にしていたからだったんだろう。
「危険なことはしてほしくありませんでした・・・」
ハンナさんが溜め息をついた。
そんなことをしてるとは思ってなかったんだな。
「人助けもしてた。魔物に襲われてた奴らとか、あたしらで何人も助けてやったぞ」
「お前はなにもしてねーだろ。行け・・・それだけだった」
・・・雷神よりも厳しいな。
「ですが・・・ありがとうございます」
久々にエリィさんの声が聞こえた。
みんなの話を静かに聞いてたって感じか。
「何度もいらねーよ。それに・・・お前だけで行けよ?あたしはなんもしてねーからな」
「ちっ・・・。明日にでもそうするよ」
なんのことなのか・・・。
精霊の耳を借りる前に、どんな話をしていたんだろう・・・。
◆
「こいつと旅して一年くらい経った頃だ。戦場が終わるって話が出てきた」
モナコの声に寂しさが混じり出した。
オレたちがテーゼに着いて、色々と決まった頃・・・。
「それを聞いて、こいつがテーゼに行きてーって言ってきた。戦場が終わったら雷神と戦えなくなるかもしれない。今行って自分の力を試したいってさ」
「雷神が女だってのは知ってた。そいつを倒せば、すぐにあの女をぶっ殺しにいくつもりだったんだ」
「あたしは・・・なんか気分が乗らなかったんだ。だからそこで別れることにした・・・」
モナコの寂しさが濃くなっている。
本当は止めたかったのかもしれないな。
「テーゼと他の街に続く分かれ道・・・別れはやけにあっさりだった。ならここまでだ、じゃあな・・・これだけだったな」
「モナコお姉様になんか期待してたのか?」
「別に・・・引き留めねーんだなって思っただけだよ」
「あたしは・・・連れてってくんねーんだなって思ってたよ」
やっぱりか、二人とも素直に言っておけばよかったんだ。
モナコもティムも、どんな顔で別れたんだろう?
あっさりだったのは、泣き顔を見せないため・・・それだけはわかる。
◆
「テーゼに着いて、すぐ訓練場に殴り込んだ」
オレが知るティムの話になった。
たしか・・・イラついてたな。
「雷神出せっつったら別な奴が出てきた。そんな強くなくてさ、戦士ってこんなもんだったのかって思ったんだ」
「ティムさんは強いですから・・・」
「そうじゃなかったんだよセレシュ・・・。相手をしてくれたのは、治癒隊の待機兵・・・。やべー奴らは俺に見向きもしなかった」
そりゃそうだ。最後の戦場だけを見ている戦士が、子どもなんかに構ってくれるはずがない。
「何人かぶっ倒して、気分も良くなってた。そん時にあいつが・・・ニルスが出てきやがったんだ・・・」
今度は談話室全員の目がオレに向いた。
『出戻りのニルス君は新人と同じ扱いなんだよ。・・・上の命令は聞かないとダメだろ?』
オレじゃない、ウォルターさんだよ・・・。
「お兄ちゃんは・・・」
「ああ・・・強かった。そこまで積み上がった自信、粉々にされたんだ。俺・・・自分が思うより弱かったんだなってさ」
・・・そうでもないだろ。
戦士を除けばだけど・・・。
「蹴り一発で起き上がれなくなった。おまけにはらわたも潰された・・・」
「あはは、ニルスもやるな。かなり煽ったんだろ?」
「適当に戦士たちをバカにしてたけど・・・そん中に、あいつを本気で怒らせた言葉があったんだよ・・・」
うん、怒った。
『戦士は臆病者しかいねーって言いふらすぞ!!』
今は何とも思わないけど、あの時はかなりムカついたな。
「今思うと・・・その時の俺じゃあの女には勝てなかった・・・。だからあれでよかったんだと思う」
そう思ってくれてるんならオレも心が楽になるよ。
・・・どう考えてもやり過ぎだったからな。
「それで戦士になったのですか?」
「そうだよ、ウォルターっておっさん・・・セレシュの親父に誘われた。でも・・・気が付いた時からあそこに残ろうって思ってたんだ」
「ニルスさん・・・ですか?」
「そうだ、目標ができたんだよ・・・。あいつに勝てれば、きっとあの女も軽く殺せると思ったんだ」
オレは踏み台ってことか・・・。
「あいつとアリシアは毎日ひたすら戦ってた。正直、かなり遠いなって思ったよ。あの蹴り食らって平気な顔してるアリシア、剣でぶっ刺されても止まんねーニルス・・・いつ追いつけんだろーなって考えたら体が熱くなってくるんだ」
オレも必死だった時期だ。
今だと・・・どうだろうな。
「俺はずっとニルスとアリシアを見てた。あいつらの動きを覚えて、夜に一人でやってたんだ」
「教えてもらえばもっと早く・・・」
「自分の力がよかったんだ。教えは請わねーって決めてた」
ティムから笑いが零れた。
「けどさ、じーさん・・・一個前の聖女の騎士だな。よく俺に構ってくれた」
カザハナさんを見ると、優しい笑みを浮かべていた。
『今回最年少なんでしょ?生き残れるようにしてあげて』
『そうですね、弟子に死なれては困りますから』
そう、弟子だからな。
「シロもさ、夜に来て人形を出してくれたんだ。あれは助かったな」
「みんな気にかけてくれていたんだと思います」
「ミランダもそうだ・・・。なぜかあいつの隊に入れられた。だからか知らねーけど、一番話しかけてくれたのはあの魔女だったな」
ミランダの口元が大きく持ち上がった。
『・・・死んじゃったらどうすんだっての。いいよ、それまでに躾けとくから』
『ミランダ殿は優しいのう。あの男はそこまで弱くない』
『じゃあ・・・あたしが安心できるくらいにしてよ』
本当に気にかけていた。
普段は言い合うこともあるけど、そういうところは優しい。
「ニルスとアリシアも・・・俺の相手をしてくれるようになった。あいつらとやってると、自分が強くなってくのがわかって・・・なんか楽しかったんだ」
「ティム様・・・」
「このままがずっと続いても楽しいだろうなって・・・思い始めてた。わりーけど、モナコのことはちょっと薄れてたな」
「気にすんな」
たしかにあの時のティムは楽しそうだった。
『おい見ろ!!ニルスに剣を抜かせたぞ!!!』
本当に・・・。
「ニルスにさ・・・生まれのことを話した日があった。最後の戦場まであと半月ってくらいの時だ・・・」
憶えてるよ。
『けどさ・・・戦場までにお前に剣を抜かせることができたら教えてやる』
そういう約束だったからな。
「なんかさ、あいつには教えてもいいかなって思ったんだ。けど・・・誰にも言わねーと思ってたらアリシアに話してやがった」
「秘密だって言わなかったんですか?」
「信用・・・してたんだと思う。・・・そしたら少ししてアリシアから、家族にならねーかって言ってきやがった・・・」
今度は全員が母さんを見た。
「少し聞いただけだ・・・。戦場が終わったあとにも話したが、全部断られた」
色々理由はあるんだろうけど・・・。
「わたし、戦場が終わったあとにお母さんに聞かれましたよ。ティムさんが家族になってもいいかって。その前にも言われていたんですね」
「そうだな・・・」
「なぜ、アリシア様の申し出を受けなかったのですか?」
「ニルスが兄貴なんて絶対に嫌だっただけだ」
本当にそうなのかな?
「それに・・・お前たちの顔が浮かんだ・・・それだけだ」
「ティム様・・・」
ふふ、そっちが本音か。
◆
「・・・戦場の前日、お前らと初めて会ったな」
ティムの声色が変わった。
声だけだから会議室の様子はわからないけど、今のはルージュとセレシュのことだろう。
「ルージュは普通に話しかけてきて、セレシュはその後ろで少し怖がってたな」
「初めて会う人だったので・・・」
「わたしは・・・ミランダさんたちの仲間なら、いい人なんだろうなって思ってましたよ」
そういえば、ティムも花を貰ってたんだったな。
「こいつらがさ、戦場に行く前に花をくれたんだ。帰ってきてくれっていうおまじない・・・だったな」
「あとで知りましたけど、夕凪の花は帰還と再会の象徴でもあります」
「おまじないにぴったりのお花でした」
「そうか・・・。あの時はさ、お前たちにとってはただ余ってた花の一つだったのかもしれない。けど・・・俺にとってはそうじゃなかった」
ティムの声が震えた。
「帰ってきてってさ・・・嬉しかったんだ」
「ティムさん・・・」
「そん時に・・・俺が帰る場所って、テーゼなんだなって思ったんだよ。そして・・・こいつらのおまじないってのをちゃんと形にしてやりてーなっても思った」
「はい・・・ちゃんと帰ってきてくれました」
「そのあと・・・ただいまって言ってくれましたね・・・」
ルージュとセレシュの声も震えている。
『まだステラの戦いは終わっていない。・・・だからルージュに会うことはできない』
ステラのことを聞いてテーゼに帰らない決心をした時、もちろんルージュのことも考えた。
『俺は・・・必ず生き残る。ルージュとセレシュ・・・あいつらが帰ってこいってさ』
だけど、ティムがいるなら大丈夫かなっても思った。
そして、大丈夫だったな。
「戦場が終わってテーゼに戻った時、お前らに花を見せたらいい顔で笑ってくれたな」
「だって本当に嬉しかったんですよ」
「お父さんのは・・・ドラゴンの炎で焼けたって言ってましたから・・・」
でも、ウォルターさんも帰ってきた。
花を貰ったことでおまじないになる。
あとは失くしても問題無いんだろう。
「勝って訓練場に戻ってきてさ、ニルスたちを待ってた。一緒にルージュんとこ行ってやろーと思ったんだ。そんで・・・ミランダとシロが戻ってきたけど、あいつはいなかった・・・」
ちょっとだけ胸が痛んだ。
根に持ってんのかな・・・。
「あいつに勝ったら復讐・・・そう考えてたんだけどさ・・・。事情聞いて、仕方ねーなって思ったんだ」
「あの・・・本当に復讐しようと思ってたんですか?」
「実は・・・少し違う」
足音が響いた。
ティムが立ち上がって、誰かに近付いたみたいだ。
「訓練場にいる間に、いつの間にかその気持ちが減っていってた。もうあの女はどうでもいいなって・・・」
「そんな気がしました。テーゼに来てからのティムさんは、ずっと幸せだったんじゃないかなって」
「関わってきたら別だったけどな・・・こっちからなにかするってのは考えなくなった」
たぶん、ルージュとセレシュの頭が撫でられている。
「けど・・・戦場が終わる時、その感情はまだ少し残ってたんだ。それを・・・お前らが消してくれた」
「私たちは・・・なにも・・・」
「おかえりなさいってさ・・・それで消えたんだよ」
談話室のみんなが笑顔になっていた。
きっと会議室も同じだろう。
どうでもいい話 27
ティムというキャラは、初期構想ではニルスの後釜でアリシア隊に入った男でした。
ニルスへの対抗心をずっと出しているキャラで・・・と考えていましたが、アリシアとの和解に邪魔だなと思ったので今の形になりました。




