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Our Story  作者: NeRix
気の章 第三部
368/481

第三百五十三話 闘士たち【ニルス】

 予選三日目・・・最終日だ。

今日は昼までに闘技場に行けなければならない。


 知ってる顔、どのくらいいるんだろう?

本戦はまだ先なのに・・・昂ってきた。



 「しっかり食べて、今日も一日頑張りましょー」

ステラが食卓に料理を並べ終わった。

 人数が増えたから食事の時間がとても楽しい。

騒がしいけど、笑顔ばかりだからなんだろう。


 「ノアさん、葡萄のジャムです。無くなったらまた作るので、たくさん塗ってください」

「わあ、おいしいな。ありがとうスノウちゃん」

「その笑顔が見たかっただけです。お礼はいりませんよ」

ノアとスノウは仲がいい。

見ていて幸せな気持ちになってくる。

 「ノアさん、約束忘れないでくださいね。教えてる間・・・ずっと鳥肌が治まらなかったんですから」

「も、もちろんだよレインちゃん。約束通り、新商品は全部無料で届けるようにする」

「当然です」

レインは嫌な思いをしたみたいだ。

ノアも敵にはしたくないだろうから、これから立場は弱くなるかもな。


 「ニルス、食べたいジャムはある?」

ステラがニコニコしながらオレを見てくれた。

それなら・・・。

 「りんごがいい。ハチミツも入ってると嬉しいかも」

「ふーん・・・。レイン、今日は私にも教えてほしいなー」

「いいですよ。ニルスさんが蕩けるようなのを作りましょう」

「ありがとう。じゃあ、お礼にユーゴさんのお店でなにか欲しいものを選んでいいよ。そうだ、今日行こうか」

食べられるのは明日の朝になるのかな?

・・・楽しみにしておこう。


 「ニルス、ジェイス、おじいちゃん、ちゃんと時間通りに来なさいよ?」

ミランダがノアのためのジャムをたっぷりパンに塗り込んだ。

・・・怖い。

 「大丈夫だよ」

「儂は早めに出る」

「僕とニルスは一度雷神の家に集まる。心配は無い」

「遅れたら失格だけじゃ済まないからね?」

遅れなければいいだけだ・・・。



 「全員よくやったぞ。私も嬉しい」

母さんが、オレたちを一人ずつ抱きしめてくれた。

恥ずかしいからやめてほしい・・・。


 「だが、まだ本戦がある。そこでは誰と当たっても全力で戦うからな」

共に励んだ七人は、全員予選を突破できた。

雷神とは当たりたくないな・・・。


 「それまでは、また全員で頑張っていこう」

母さんは少女のような顔で笑った。

 どうなるかな・・・今以上に厳しくなりそうだ。

でも全員付いてくるだろう。

実際強くなってるし・・・。



 「宿の前で張っていたのか・・・」

「はい、出てきたところですぐに挑みました」

「早く教えなさいよね」

「私も教えてほしかった・・・」

ジェイス、ユウナギ、シェリル、母さんは相手探しの情報交換を始めた。

今さらいらないだろ・・・。


 「イザベラさんとジェイスさんは別で動いてたんですね。まあ、わたしとユウナギもですけど」

「私から言ったのだ。視線は・・・まだ気になるがな」

ルージュとイザベラは相手を探す必要は無かったらしい。

見た目で甘く見られていたんだろう。

 「やっぱり胸を見られていたんですか?」

「勝ったら揉ませろと言ってきた男もいた・・・。触れさせずにのしてやった」

イザベラも大変だったんだな・・・。

戦ったのはたぶん全員男、下心もあって挑んだって感じか。


 「ニルスはどうやって相手を見つけていたんだ?」

母さんがこっちを見てきた。

まあ・・・教えてもいいか。

 「オレは建物の屋根を移動してた。上からならすぐ見つかるよ。母さんは?」

「大通りで叫んだ。全員の動きを止めて、腕章を付けている者の腕を掴んだんだ」

「うわ・・・それはちょっと怖いですね」

気付いたら雷神がいるのか・・・オレなら逃げてしまうかも。



 「よし、今から全力で走れば間に合う。行くぞ!」

アリシアの掛け声で、オレたちは走り出した。

 今日は最初の走り込みは無い。

かわりにギリギリの時間に出て、闘技場まで走ることになっていた。

 

 たぶん一番遅いのはルージュだな。

母さんもそこに合わせて出発の時間を決めたはずだから、順番がどうなっても全員間に合う。

というわけで・・・。


 「先に行く。誰がいるか早く確認したいんだ」

「そうか・・・母さんはみんなを見ながら行くよ」

「じゃあ、あとでね」

さて・・・本気でいくか。



 闘技場の前には、すでに闘士たちが集まっていた。

・・・母さんたちが一番最後かな。


 「ニルス、やっぱり勝ち上がってたね」

イライザさんが話しかけてくれた。

まあ・・・いるよね。

 「なんか・・・また大きくなったんじゃ・・・」

「鍛えたからね。あんた相手だと、どうなるかわかんないけど」

「似顔絵のおかげで、人違いは減ったんじゃないですか?」

「ああ、減ったよ。何度雷神と間違えられたか・・・」

イライザさんは懐かしそうな顔で笑った。

すごい余裕だ。組み合わせによるけど、勝ち上がってくれるだろうな。


 「ニルス、あっち見てみな」

イライザさんは少し離れた所にいる集団を指さした。

 「あはは・・・」

元戦士たちがオレを物騒な目で見ている。


 「打倒クライン家の連中さ」

「イライザさんは違うんですか?」

「私は楽しめりゃいいのさ」

「オレと一緒ですね」

元戦士全員がそうではないらしい。

今日戦うわけでもないし、もっと緩めてもいいのに・・・。


 「アリシアはもちろんいるんだろ?」

「そうですね」

「じゃあ元戦士で本戦決めたのは十人か。みんな情けないな」

イライザさんは困ったように笑った。

鍛えなくなった人も多いみたいだからな。

 予選に参加した元戦士はそんなに多くないってミランダから聞いていた。

でも、ここにいる人たちは本当に強いんだろう。

戦場を経験していなくても・・・。


 「カーツなんか初戦で負けてたよ。冒険者やってるデカい男だったな・・・あいつだ」

イライザさんの視線の先には、本当に大きな男の人がいた。

 「たしかに大きいですね。べモンドさんと同じくらい・・・」

冒険者・・・仲良くなりたいけど、組み合わせとかもあるから大会のあとにしよう・・・。


 「イライザさんは余裕だったんですか?」

「きのうの昼前には終わったよ」

「強い人いました?」

「騎士団長はなかなかやると思う。気になったから初日に挑んだんだけど・・・腕章の数聞いて悪いことしたなって思ったよ」

ああ・・・一つの時に挑んだのか。

かわいそうに・・・。


 「あんたが来る前に最後の一人が来た。・・・遅刻がいなければ決まりだな」

「ここで失格者が出たらどうするんでしょうね」

「あと一つの奴ら集めて戦わせりゃいい」

「なるほど・・・」

考え方が雷神に近い。

でも・・・この人はかっこいい。


 「ティムも見た感じ強くなってたよ。まあ・・・力はまだまだだったけどね」

「あはは・・・そりゃイライザさんと比べたら・・・」

「私にはこれしかないからな」

「期待してますよ」

掴み合いになったら抜け出すのに苦労しそうだ。

当たったら距離を取らないといけないな。



 「え・・・」

「あら・・・」

信じられない人がいた。


 「セイラさん・・・出るの?」

「あはは、遊びだよ」

寒気がした。

勝てる、余裕でってはいかないだろうけど勝てる・・・ってくらい怪しい人だ。


 「シロに出ないって言ってたんじゃ・・・」

「だから遊びだって。予選だって、その辺歩いてたら終わってたよ」

「そうなんだ・・・。背中取られたら・・・恐いな」

「殺しは厳禁でしょ?でもニルスが相手なら・・・そのつもりでいかないとね」

セイラさんは不気味に笑った。

速さは今のオレと同じくらいのはず・・・当たったら疲れるだろうな。


 

 「動けるんですか?」

「バカにするなよ若造、お前の槍では儂に届かん」

「若返ったならともかく・・・」

少し奥で、テッドさんとカザハナさんが話していた。

久しぶりで楽しそうだ。


 「テッドさん、カザハナさんはまだまだいけますよ」

「おお、ニルス殿」

「オレは甘く見ていないので、当たったら全力でいきますね」

予選初日の夜に、ジェイスと軽くやり合っていたのを見ていた。

最後の戦場から九年経つのに前と変わらない動き・・・いい感じだと思う。


 「ニルス、急所を見せたら終わりだと思えよ」

テッドさんの目が鋭くなった。

 「はい、警戒します」

この人も恐い。

ツキヨはやめてくれよ・・・。


 「先ほどスコットたちとも話した。みんな驚いとったのう」

「まあ・・・歳を考えればそうでしょう。ですが、オレは油断しません」

「ニルス殿とは、もう一度戦いたいと思っていた。くじに期待じゃな」

先のことを考える前に、これから来る息子の心配をしてほしい・・・。


 「おなごも十人以上はいる。若いのもいて楽しみじゃのう・・・」

「お前が来る前に話しかけてた。奥さんもこっちに連れてきといてよくやる・・・」

「そうなんですか・・・。お気に入りはいましたか?」

「・・・」

カザハナさんが視線を向けた先には、母さんと同じくらいの背丈の女性がいた。

 「どんな人でした?」

「ゴーシュの衛兵団と言っておった」

「夢水の灯火ではないでしょうか?もしそうならかなり強いですよ」

「素性は気にしとらん。熟してていい・・・」

・・・強さはどうでもいいのか。


 「あとはあっちにいる若い娘、うぶくて興奮する」

カザハナさんが指をさしたのは、本当に若い女の子だった。

見た感じシェリルと同じくらいか、一つか二つ下だな。

 「戦っている姿が想像できないですね」

「武器は使わんと言っていた」

「素手ですか・・・すごいですね」

「まあ儂の敵ではない。それと・・・ティムの母親もいいのう。歳の割に肌に張りがある。なにより・・・いい尻をしていた。娘二人も早く見たい」

カザハナさんは本当にいやらしい顔で笑った。

ナツメさんに報告した方がいいかも・・・。


 「楽しそうだな騎士様」

イライザさんがカザハナさんの肩を叩いた。

ああ・・・。

 「イ・・・イライザ殿・・・久しぶりじゃな・・・」

「奥さん来てんだって?紹介してくれよ」

「いや・・・人見知りなんじゃ・・・」

「挨拶だけだよ」

あの人がいるなら大丈夫だ。

他行こ・・・。



 「ニルス・・・久方ぶりだな」

カザハナさんから離れると、スウェード家の家長が近付いてきた。

 顔を合わせるのは夜会の時以来か。

・・・カザハナさんのせいでお尻を見てしまう。


 「自分から男に話しかけてくるとは思わなかった」

「・・・知らない仲では無いだろう。・・・それと、伝えたいことがあった。子どもたちには・・・愛を渡せていると思う」

「母さんたちからも聞いてるよ。シロもよく遊びに行ってるらしいね」

「ああ・・・正直、助かっている」

ティアナの雰囲気は前よりも柔らかくなっていた。

 「・・・その剣でいけるの?」

だから、いらない心配もかけたくなってしまう。


 「・・・仕方が無いことだ。心配はいらん」

「自信ありそうだ」

「あるさ。シロかカゲロウが来た時は人形を出してもらっていたからな。お前とも戦ったぞ」

「ふーん・・・期待してます」

凪の月よりも確実に強くなってる。

・・・剣だけが残念ってとこだな。


 「それと・・・礼も言いたかった。子どもたちの仇・・・ありがとう」

「ああ・・・気にしなくていい。オレが許せなかっただけだから・・・」

ていうか・・・オレは特に何もしてない。

 「何か・・・私にできることがあれば言ってくれ」

「子どもたちを幸福に・・・それだけ」

「・・・わかった」

ティアナは胸を押さえた。

・・・痛むんだろう。


 「ニルス・・・アリシア様は・・・」

ティアナは辺りを見回した。

母さん・・・。

 「ちゃんと予選は突破してるから来るよ。・・・なにか話でも?」

「・・・相談があったんだ」

「ああ・・・」

思い当たることはある。

揉めそうになかったから誰にも話していないこと。


 初日、ティムとハンナさんの再会の時・・・近くにいたのを知っている。

二人の会話が聞こえる距離ではなかったけど、そのことかな?


 「もうじきだと思う。じゃあ、当たったらよろしくお願いします」

「ああ・・・頼むよ。私は隅の方にいる」

ティアナは暗い顔のまま離れていった。

・・・ハンナさんには何も言っていないんだろう。

 まあ、そっちは母さんに任せればいいか。

ステラも相談されたら動くみたいだし、なんの心配も無い。

それよりも・・・。


 「あの剣・・・悪くは無いけど、心許ないな」

今の感じなら打ってあげてもいいけど・・・時間が無い。



 「二日ぶりだな」

「え・・・ああ、そうだな」

みんなから少し離れたところに友の姿を見つけた。

 余裕のある眼差し、纏っている自信、それがオレをさらに昂らせる。

もっと心を冷やさないと・・・。


 「誰かと話さないの?」

「・・・お前が来る前に話したよ」

「なにか言われた?」

「打倒クライン家・・・だってさ」

ティムはそこに集まっている闘士たちを見渡した。

 「この場所・・・いい雰囲気だ」

「そうだな、昂るだろ?」

「・・・さあな」

ティムは歯を見せて笑った。

 聞くまでもなさそうだ。

もっと話したいな・・・。


 「ずっといなかったけど、どこで鍛えてたの?」

「キビナの頂上・・・」

「へー、すごい」

「冗談だよバーカ。お前には教えねー」

拳で胸を叩かれた。

やめろよ・・・剣を抜いてしまいそうだ。


 「アリシアたちはどーしたよ?」

「もうすぐ・・・来た」

母さんたちの姿が見えた。

やっぱりルージュに合わせてだったか。



 「ティム、久しぶりだ。愛しているよ」

母さんはオレたちに気付いてすぐ来てくれた。

 「やめろ・・・」

「いつもしてあげていただろう。会えなかった分だけきつく抱いてやる」

同時に目の端で二つの影が動いた。

 ティアナとカザハナさんが、身を隠すように闘士の中に紛れ込み小さくなっている。

カザハナさんはもう息子と話してもいいだろ・・・。


 「滾るな・・・。今すぐにでも戦いたい」

「うるせーな・・・早く離れろ」

「嫌だ、我慢しろ」

「おめーもイライザも・・・どうなってんだよ・・・」

ティムは本気で引き離そうとしているけど無理みたいだ。

 オレも単純な力では勝てない。

だから・・・恐い。



 「ようルージュ、当たったら手加減してくれよ」

やっと母さんが離れて、ルージュ、ユウナギ、ジェイスも近付いてきた。

息は整ったみたいだな。


 「しょうがないですね。ほんのちょっとだけ手加減してあげます」

「そいつは助かるよ。お前とは・・・当たりたくねー」

「わたしは当たりたいです。きっといい勝負ができますよ」

「剣握って一年も経ってねーだろ」

ティムはルージュの頭を撫でた。

妹には弱いな・・・オレもそうだけど。


 「ティムさん、俺は手を抜きませんからね」

ユウナギは背筋を伸ばし、堂々と言い放った。

頼もしく見えるようになってきたな。

 「ヴィクターに言われてもな・・・」

「弟はかわいくないんですか?あ・・・それにユウナギだって教えたじゃないですか」

「ああ、そうだったな。コロコロ名前変えてんじゃねーよ」

ティムは心から笑っている。

風神隊で共に戦った二人だし、強い絆を感じているんだろう。

 

 「あとは・・・よう、久しぶりだな」

ティムは自分からジェイスの前に立った。

毒で一回やられてるから怒ってるのかも・・・。


 「あなたを待っていた。感謝している・・・」

ジェイスが頭を下げた。

 「別に・・・決着、まだだったからな。お前どうせ死罪だろうから助けてやったんだよ」

「・・・再戦を望んでいるのか」

「毒・・・ムカついたからな」

たしかに決着はついていない。

・・・この感じだと別に怒ってなさそうだ。

 ジェイスはたった一人で戦っていた。

だからあれくらいの準備は当然・・・本心はそんな感じなんだろう。


 「もう使わねーんだろ?」

「・・・純粋な力と技だけだ」

「ああ、それでいい」

二人はもう友達だな。

当たったら全力で遊ぶはずだ。

 

 「アリシアと一緒だったんだろ?」

「そうだな・・・」

「やべー女だろ?」

「そうだな」

本人の近くでよく言える・・・。

あ・・・忘れてた。


 「母さん、ティアナが相談したいことあるって」

小声で伝えた。

あとで声をかけてはくるだろうけど、準備はしておいてもらおう。

 「・・・子どもたちについてだろうか?」

「どうかはわからない。ティムのことかもしれないよ」

「そうか・・・近くにいてやろう」

母さんが離れた。

あとででもいいと思うけど・・・心配なんだな。



 「よく集まった闘士たち。これから名前を読み上げるから、呼ばれたら返事をして手を挙げなさい」

昼の鐘が鳴り、ミランダが姿を現した。


 「あ・・・まず綺麗に整列しなさい!これ逆らったら反逆罪だから」

オレたちは横二列に並ばされた。

権力があってもなくても変わらない・・・。


 「あれが本戦に出る奴らか」「あと一つだったのに!」「顔見せろよ!」「こっち向かせろ!」

街の人たちや予選を勝ち上がれなかった闘士も集まってきている。

 今日ここに集まることは、本戦出場の者にしか教えられていないはずだ。

誰が喋ったんだろうな・・・。


 「順番に呼んでくよ。一番、ルージュ・クライン!」

「はい!」

「二番、カザハナ・メイプル!」

「儂じゃ!」

二人とも元気いっぱいだな・・・。

 「・・・メイプル?」「王族と同じ名前だぞ・・・」「あのじいさんなに?」

少しだけざわめきが起こった。

ああ・・・こういうことにもなるか。


 「ま、待ってください!!」

裏返った声が聞こえた。

 「父上!何をしているのですか!」

飛び出してきたのは息子だ。

そりゃそうか・・・。


 「あーうるさいなー・・・失格にするよ?」

「そうじゃ、これくらいで心を乱すな」

「・・・」

ユウナギは苦い顔で下がった。

オレで言ったら・・・実は王とか王子が参加していたくらいの衝撃なのかな。

 ・・・あれ、王子?

なんかあったような・・・。


 『殖の月か・・・遠いな。私はこの城にいる。会いに来てほしい』

『色々片付いたらでよろしいでしょうか・・・』

『約束だぞ。待っているからな』

思い出してしまった。

 やばい・・・忘れてた・・・。

まあ・・・今度でいいか。



 「九番、ティム・スウェード!」

「俺だ」

今日はこっちに集中することにした。

まだ「色々」片付いてないし・・・。


 「十番、ティアナ・スウェード!」

「・・・ここだ」

母親は声に覇気が無かった。

息子のすぐあとに呼ばれたらこうなるか。


 「・・・家族ってことか?」「さっきのイザベラってのもスウェードだったな」「雷神とこも家族で出てるだろ」

後ろで見ている人たちが勘繰り出した。

 「・・・」

ティアナはなんとも言えない顔をしている。

 周りの意見はどうしようもない。

何を言っても話す奴は話すから、聞き流すしかないな。



 「十四番、セイラ・ローズウッド!」

「はーい」

「え!!セイラさん?」

またユウナギの裏返った声が聞こえた。


 「あんたさ・・・いい加減にしてくんない?」

「・・・すみません」

ユウナギは乱れすぎだ。

誰がいても揺らがないようにしてほしいな。


 「はい、ここまでが初日で本戦決めた闘士たちね」

初日で十四人、約半分が決まってたのは焦った・・・。


 「じゃあ次・・・十五番、ニルス・クライン!」

一際大きな声で呼ばれた。

 「はい!」

「おい、風神だぜ」「なんで雷神の息子って隠してたんだ?」「凪の月は黒髪だったはずだけどな」「名前もニール・ホープだったぞ」

・・・うるさいな。

事情は誰にだってあるだろ・・・。



 全員の確認が終わった。

初めて見る人、聞く名前、できればみんなと友達になれたらいいな。


 「今後の予定を伝えるわ。まず、明日またここに集まってもらう。忘れないように紙でも渡すから遅刻厳禁ね。そこで組み合わせを決める」

今までの大会では当日に組み合わせを決めていた。

今回は早くやるみたいだ。


 「あと、風神と雷神みたいに全員の似顔絵を描きまーす!!」

ミランダが後ろで見ていたみんなに向けて言った。

これは嬉しい、みんなも道連れだ・・・。

 「欲しい!」「全員分部屋に飾りたい!」

「だよねー、当日販売しまーす!!一人二種類あるよー!!」

歓声が起こった。

ルージュのは・・・オレも欲しい。


 「ちなみに・・・文句ある闘士はいないよね?」

誰も声を出さなかった。

みんな無いみたいだ。

 「じゃあ解散!闘士たちよ、また明日会おう」

ミランダは、最後にオレを見て微笑んてくれた。


 大丈夫だよミランダ。

強く・・・強く拳を握った。

 こんなに昂ってるんだ・・・。

それに、怒らせたら恐いからな。

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