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Our Story  作者: NeRix
気の章 第三部
363/481

第三百四十八話 見たいのは【ステラ】

 街の中で戦わせるなんてよく考えたわね。

闘士たちの立場だと嬉しいのかな?


 こっちとしては、見たい人を探さないといけないっていうのがちょっとね・・・。

うーん・・・誰を見に行くか・・・。


 予選の説明が終わって、みんなが散ってしまった。

ニルスは、どうせ勝つだろうから心配いらないし・・・どうしよう。



 「・・・ユウナギとルージュかな」

片付いた広場の椅子に腰を下ろした。

 あの二人はちょっと心配ね。

シロと一緒にいればよかったな・・・。


 「あの・・・ステラ様・・・」

誰かが隣に座った。

聞き覚えのある声だ。


 「あら・・・見に来てたのね」

「はい・・・」

声をかけてくれたのはハンナだった。

ちょうどいい、一緒に行動できる人が増えた。

 「子どもたちは?」

「観戦は本戦からとなります。ティアナ様は必ず勝ち上がると約束していましたので、心配はしていませんよ」

男性がこんなにいる街の中を連れまわすのはかわいそうだし、仕方ないよね。


 「あの・・・どなたかを・・・見に行きませんか?」

ハンナがもじもじしだした。

 彼女が何を考えているのかはわかる。

でも・・・ちょっといじわるしたい。


 「あなたはスウェード家の応援?」

「そう・・・ですね。ちょうど休日だったので・・・」

「ふーん、悪いけど私は違うの。またあとでね」

「ま、待ってください!」

ハンナに腕を掴まれた。

 ふふ、そうだよね。

これくらいにしておこう。


 「冗談よ。明日になればってよく言っていたけど、ようやくその日が来たわね」

「・・・はい」

ただの口癖だったのかなってくらい弱い顔だ。


 「ティムは見た?」

まずは話を聞こう。

 「いえ・・・見つけられませんでした」

「まあ、たくさんいたからね。私もちらっとしか見てないけど・・・」

「よかった・・・いらっしゃるのですね」

ニルスが出るんだからそりゃいる。

それに来なかったら、ミランダに何されるかわからない恐怖もあると思う。


 「街のどこかにはいるのは間違いないけど・・・探さないといけないわね」

「あの・・・できればですが・・・」

「わかってるよ、一緒に行きましょ。よく考えたら、あなたの記憶にある見た目と違いすぎてて気付かなかっただけかもしれないしね」

「ありがとうございます・・・」

ハンナの目は潤んでいた。

一人だったら、見つけても声をかけられなかったんじゃ・・・。



 「まだ・・・戦っている様子は無いですね」

大通りに入った。

歩いている時に腕章を付けた闘士を何人も見たけど、全員目を光らせてるだけ。


 「みんな様子を見ているのかもね。それか・・・勝てそうなのを探してるんだと思う」

「ティム様もそうなのでしょうか?」

「あの子は違うと思う。早く終わらせようとしてるんじゃないかな」

「では・・・騒がしいところを探しましょう」

ハンナは積極的になってきた。

私と一緒にいるから?


 「シロかカゲロウも探しなさい。近道になるわ」

「はい」

あの子たちを見つければどこにいるかすぐにわかる。

シロは誰を見に行くか読めないけど、カゲロウはジェイスかな。



 「勝負あり!さあ、離れなさい!」

少し歩くと、誰かの戦いが終わった所に出くわした。


 「目の前だと迫力あるな」「なんか熱くなってきたー」「若くていい男ね・・・」

人だかりで誰かはわからないな・・・。


 「すみません・・・見せてください」

ハンナは私の手を引いて、人の群れをかき分けていく。

みんなが流れるのを待てばいいと思うんだけど・・・。



 「ありがとうございました!」

「ちっ・・・頑張れよ」

「はい!」

戦っていたのはユウナギだった。

 ちゃんと勝ってるわね。

ティムでは無かったけど、褒めてあげよう。


 「違いましたね・・・」

ハンナは肩を落とした。

なんか、かわいそうだな・・・。

 「彼はユウナギって言うの。ティムに剣を教わっていたのよ。凪の月は共に大会に出たわ」

「え・・・そうなのですか?では、ご挨拶だけでもしたいです」

違ってはいたけど近い人間ではある。

それに、ティムがどこに行ったのかを知っているかもしれない。



 「あ・・・お姉様。見ていてくれたんですね」

ユウナギは私に気付いてこっちに来てくれた。

今日は堂々とした印象だ。


 「頑張ったみたいね。お姉様も嬉しいよ」

「ご姉弟だったのですか?」

ハンナが私たちの顔を見比べ始めた。

 「まあ・・・そんな感じかな」

「ち、違いますよ。あの・・・この方は?」

別に姉弟でいい気もするけど、嫌なのかな?


 「この人はハンナ、ティムを探しているの」

「ハンナさん・・・アリシアさんから聞いていました」

「あら、そうだったの・・・」

アリシアは一緒に住んでいる子たちには話したみたいだ。

・・・なら話が早い。

 「アリシアさんが言ってましたよ。ハンナさんはティムさんにとって母親のような人だって」

「アリシア様が・・・」

「だから自分の申し出を断っていたのかもしれないとも」

「・・・」

ハンナは口元を押さえている。

まだ泣いちゃダメなのに・・・。


 「少しだけでいいのですが・・・あなたから見たティム様を教えてください」

「尊敬している一人です。俺よりもずっと強く、そして優しい」

「そこまで・・・ティム様を・・・」

「俺の命が危ない時に助けてくれたのは、いつもあの人でした。だから、俺もああなりたいなって思っています」

ユウナギは本当に嬉しそうに語ってくれた。

この子も師に恵まれた一人ね。


 「早く会った方がいいですよ。ティムさんとはさっき少し話しました。うろうろして適当なのとやるそうです」

「どっちに行ったの?」

「北区の方ですね」

北区・・・道が広くて戦いやすいからかな。


 「ありがとうございます。今度、なにかお礼をさせていただきます」

「別に・・・それならティムさんと一緒にいる姿を見せてください」

「・・・はい」

「ふふ、きっとそうなるよ。次も頑張りなさいね」

この子と会えてよかった。

よし、早くティムを見つけよう。



 「逃げも隠れもしない!闘士は好きに挑んでこい!」

「お父さん・・・みんなこっち見ないね」

「こちらから挑んだ方が早いと思います」

「わかってないな。挑まれて勝つのがかっこいいんだよ」

北区への道を進むと、ウォルターさんたちがいた。

見た感じ、ずっと挑戦者を待っていたみたいだ。



 「ティムさんはとってもいい人です。話し方は荒っぽいですけど、そこも好きですね」

「知り合って数ヶ月のボクにもとてもよくしてくれました」

セレシュとシリウスを呼んで、ティムへの気持ちを話してもらった。

こういうので気持ちを盛り上げていこう。


 「私はティムさんをお兄ちゃんだと思っています。小さい時から一緒に遊んでくれたり、アカデミーの送り迎えもしてくれたんですよ」

「ティム様も・・・あなたをそう思っているのでしょうか?」

「そうだと思いますよ。たまにお兄ちゃんって呼ぶと、照れながらぎゅっとしてくれます」

「そうなのですね・・・」

ハンナは口元を緩めた。


 『また時間を作ります。ティム様と関りのある方たちに、ぜひお会いしたいです』

『じゃあ抜け出せる時に私のところに・・・いえ、まずティムとの再会が先よ。あの子からお世話になった人を直接聞いてから行きなさい。その時は一緒に回ってあげる』

そうした方がいいって思ってたけど・・・もっと早くにみんなと会わせてあげればよかったな。


 「ちなみに、あいつを戦士に誘ったのは俺だ」

ウォルターさんもこっちに来てしまった。

相手にされなさ過ぎて飽きちゃったのね。

 「あなたが・・・」

「最初は強い奴出せって、訓練場に殴り込んできたんだ」

「殴り込み・・・」

「お望み通りに、本当に強い奴を出してやったんだよ」

私たちと知り合ったきっかけ・・・これもまだ話してなかったな。



 「で・・・誘ったらすぐ入ってくれたよ。よっぽどニルスに負けて悔しかったんだろうな」

ウォルターさんは自慢げにその時のことを話してくれた。

今のだと・・・ニルスのおかげって聞こえる。


 「ウォルターさんにも感謝します・・・」

「変わった奴でもある。功労者も断ってたからな」

「功労・・・ティム様がですか?」

「なんだよ、話してなかったのか?二億も王への願いも必要無いって言いやがった」

そういう踏み込んだところは本人から言わせるつもりだったのに・・・。

アリシアだって黙っててあげたことだったのに・・・。


 「ステラ様・・・そうなのですか?」

ここで教えないのはかわいそうだ。



 「・・・ティムはティアナたちに自分の存在を知られたくなかったの。だから今までの闘技大会も偽りの名前で出ていたみたいよ」

ウォルターさんたちから離れて、ティムのことを教えてあげた。

あれ以上近くにいたら、本人から話すことが無くなってしまいそうだ。


 「知られても・・・いいではないですか・・・」

ハンナは堅く拳を握った。

 「スウェード家があるせいで・・・ティム様は幸福を手放した・・・」

ティアナたちと、救えなかった自分への憤りなんだろう。


 「・・・そんな顔してたらダメよ。前にも言ったけど、今のティムは幸福なの」

「ステラ様・・・」

「さあ、もっと緩めて。でないと動かないわよ」

「ん・・・はい」

これからは、余計なことを言いそうな人には話しかけないようにしていこう。



 「ティムの・・・」

イライザさんがいたから声をかけた。

この人とは話した方がいい。


 「ティム様にとても良くしていただいたと伺っています。本当にありがとうございます」

「いいよお礼なんて・・・大したことしてない」

「暖かい食事・・・住むところまでお世話していただいたと・・・」

「ああいう男の子は・・・放っておけなかっただけだ・・・」

イライザさんはちょっと迷惑そう。

 ティムが好きだからそうしただけ。

だからお礼を言われると困るんだろうな。


 「あ・・・私闘士だからさ。そろそろ戦いに行かないと・・・」

「後日・・・ご自宅に伺ってもよろしいでしょうか?」

「・・・少しなら」

「はい」

ティムと一緒に行けばいい。

本人はどこにいるんだろう?



 「すげー!」「今何したんだよ・・・」「雷神との戦いも見せてくれ!」

かなりの人だかりが見えた。

あそこにいるのは誰かな・・・。


 「あとで話しかけてみようかな・・・」「たまに女の子と歩いてるの見たことある」「似顔絵部屋に飾ってるよー」

女の子も結構多い。

私の・・・ニルスみたいね。



 「さっき会ったんだけど逃げられたんだよね・・・」

ニルスは優しい微笑みを浮かべた。

予選は難なく突破できるって感じなんだろうな。


 「久しぶりだから話しかけようとしたんだ。そしたら、お前とは本戦でしかやらねー・・・だってさ」

似てない・・・。

でも「さっき」ってことはすぐに見つかるかも。


 「ハンナさん、あなたのことはステラから聞いています。早く会えるといいですね」

「ニルスさん・・・」

「気休めってわけじゃないですけど・・・オレはあいつと出逢えてよかった。飛び出してくれてありがとうって思ってます」

「私は・・・あなたにも感謝しています。ティム様の幸福はニルスさんが始まり・・・そう聞いていますから・・・」

ハンナはニルスにも深く頭を下げた。

始まりか・・・。


 「そうですか?オレは・・・あなたたちだと思います」

「救えませんでした・・・」

「でも、目に見える愛を渡せていた。ハンナさんたちは、あいつの心を救えていたと思いますよ」

そうでなければ今のティムにはならなかった。

だから私もその通りだと思うな・・・。



 「じゃあ、またあとでねステラ」

ニルスが遠くを見つめて離れていった。

 今日は腕章を二つ手に入れたらやめるらしい。

そんな余裕で大丈夫かしら?


 「不思議な方ですね。とても大きな愛というのでしょうか・・・話していると安心感があります」

「そういう人なの。だからみんなに好かれているわ」

「ティム様もそうなのでしょうか?」

「私にはそう見える。・・・口には絶対出さないけどね。でも態度はわかりやすい。ニルスに作ってもらった剣をとても大事にしているの」

それだけでどう思っているのかはわかる。

それに・・・。


 『ティム、頼りにしている。お前がいるからこっちの心配は一切しない』

『当然だ。任しとけ』

エリィと二人きりの時は知らないけど、あれは私が知る中で一番嬉しそうな顔だったな。



 「お前が?嘘泣きでもして油断させただろ・・・」

「な・・・実力です!それよりも・・・よくやったぞルージュ、とか言ってほしいです」

「あはは、よくやったよ。ずいぶん鍛えられたみたいだな」

やっと見つけた。

私も話したいけど、今の話も気になる。


 「わたしはくじを一番最初に引けます。そう、一番だからです」

ルージュは腕章をしていない。本当にもう本戦出場を決めたみたいだ。

あの見た目だから狙われやすかったのかな?

 「聞いてたよりは危ない人じゃなさそうですね・・・」

「あ?何お前?」

「きゃあ、睨まれた―。シロ、守ってー」

「レイン、恐くないよ。これが普通だから」

シロとレインも一緒だった。

ルージュに連れまわされてるってところか・・・。


 「ステラ様・・・」

ハンナがかすれた声を出した。

 姿は十年以上見ていない。

それなのに、ひと目で誰だかわかったみたいだ。


 「思っている通りよ。でも・・・よくわかったわね」

「・・・」

「一緒に探す必要は無かったわね」

「・・・」

ハンナが私に抱きついてきた。

 「背丈も声も顔立ちも変わってるはずなのに・・・不思議ね」

「・・・」

「行くんじゃないの?抱きしめてあげてって頼んだはずだけど・・・」

「・・・」

ここで泣かれてもな・・・。



 「ティム、久しぶりね。お姉ちゃんにただいまは?」

「ステラ・・・」

ハンナを物陰に置いてきた。

涙は乾きそうもないからこっちを連れて行くことにしよう。


 「あ、ステラさん。わたしはもう予選終わりましたよ。なんと・・・一抜けです!」

ルージュがかわいく胸を張った。

頭を撫でてあげよう。

 「がんばったわね。でもそんなに緩めちゃダメよ」

「今日だけ・・・です」

「ふふ、冗談よ。ティムも一緒なら大丈夫だろうし」

「俺はまだ終わってねーよ・・・」

そうは言うけど全身から余裕が溢れている。

やろうと思えばすぐにでも予選を突破できそうだ。


 「えっと・・・エリィは一緒じゃないの?」

近くに恋人の姿が無かった。

どうしたのかしら・・・。

 「邪魔したくねーから帰って夕食の準備するってさ」

「かわいそうに。久しぶりに会ったんでしょ?」

「・・・まあ、な」

余裕な顔が少しだけ崩れた。

 どうしたんだろう・・・いや違う。

今はハンナのことを伝えないといけないんだった。

なんて言って連れてこうか・・・。

 「そこにいるの。来て」じゃ・・・面白くない。

うーん・・・やっぱりハンナから顔を見せてほしいな。


 「そうだ・・・ティムさん、わたしとの約束破りましたよね?」

ルージュがティムの腕を叩いた。

ちょっと繋いでてもらおう。

 「約束・・・してたか?」

「戦場で息を切らしてた時です。帰ったらまた一緒に走るって約束しました。わたし・・・楽しみにしてたのに・・・」

「悪かったよ・・・。けど、お前もずいぶん鍛えたみたいだな」

「本戦で待ってます」

仲良しね。

さてどうしよう・・・。


 「予選が終わったらこっちで鍛えるんですか?」

「いや、あとは瞑想くらいでいいらしい。思いを高めろってさ」

「・・・誰に言われたんですか?」

「あ・・・。俺が俺に言ったんだよ」

とりあえず、ルージュがいるからしばらく動かないだろうけど・・・。

困ったな・・・見たいのは、ハンナから近付いて抱きしめる姿。


 「なんか隠してますよね?」

「そんなことねーよ・・・」

「あ・・・ふふ、じゃあ聞かないでおいてあげます」

「大会が終わったら・・・お前とセレシュにだけは教えてやるよ」

ティムがルージュの頭を優しく撫でた。


 『俺は・・・お前が笑ってた方がいい。次からはすぐに言え、なんでもしてやる』

二人の光景を見て、いつかの記憶が瞼に映った。

なら・・・ルージュがいい。



 「闘士だな。俺と戦ってくれ」

知らない男の人が声をかけてきた。

もちろんティムにだ。


 「ふーん・・・お前腕章は?」

「二つ」

「へー・・・やろうぜ」

断れないからやるしかない。

つまり、私たちは離れなければいけない。


 「ルージュ、ちょっと来てちょうだい。シロ、レインとはぐれないようにここにいて」

「え・・・ティムさんを見たいんですけど・・・」

「それより大事なことよ」

まずはルージュと会わせる。

 ティムが大切に想っている妹に、二人を繋いでもらうことにしよう。

ルージュが引き合わせるのなら、ティムお兄ちゃんも文句は無いはずだよね。

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