第三百四十二話 未来図【ハリス】
会議、会議、会議・・・少し疲れが溜まってきた。
なにか・・・気持ちを入れ換えるようなことがしたい。
◆
「おや・・・ここで預かることになったのですか?」
ミランダ様の家にはスワロの時期領主たちがいた。
「ミランダさんのはてんこ盛りだからわかりやすいね」
「それでもユウナギは色々取られたって言ってたよ」
きのう、ほんの少しだけ顔を合わせた姉妹が朝食を運んでいる。
「きのうは泊めてあげたの。まあ・・・いたいなら別にここでもいいんだけどね」
ミランダ様が肉団子を口に入れた。
品の無い・・・。
「え!本当ですか?」
「あたしも宿よりこっちがいいなー」
騒がしさが増しそうだ。
・・・この家のいいところか。
「今日みたいに手伝いできる?」
「やりますやります。なんかしてないと落ち着かなくって」
「わ、私も頑張ります!」
「よしよし、そんならあとで宿から荷物持ってきな」
「やった」「楽しくなってきたね」
双子の姉妹は可愛らしく手を打ち合った。
「宿にはもう出てくって伝えなさい、部屋空けば喜ぶだろうしね。あと、ダリスさんたちにもちゃんと言うのよ?」
「もちろんです」
「お昼過ぎにドリス様に会いますので伝えます」
「ニルスー、鞄貸してあげてー」
まあいい・・・勝手にしてください。
「早く食べてください」
「待っててよね」
談話室で待たせてもらおう・・・。
◆
「なにかいい方法はありますかハリスさん・・・」
会議室の全員が私に視線を向けた。
あるわけがないだろう・・・。
「街道の整備まで我々の知ったことではありませんよ」
議題を聞いてイライラしてしまった。
声を荒げたくはないが、議題にするまでも無いことだ。
「地方はまだまだ手が回っていないようです。移動しやすくなれば、その分集客も望めるかと思いまして・・・」
「あとひと月を切っているのですよ?そして祭り運営の議題ではありません。王にお伝えください」
どうにかなるとでも思っているのだろうか?
若い者が多いのはいいが、付いていけない所もある。
「まあ・・・これはハリスでも無理だよ」
ミランダ様も溜め息を零した。
さすがに魔女でも諦めるしかない。
「でもさ、直接じゃないけど協力はできるよね。今回は無理だけど、次回以降に繋げていこうよ」
「どうするのですか?」
「街道整備のために寄付を募ればいい。お祭り楽しんでる人たちは財布緩そうだし」
なるほど・・・。
「競売を利用してもいいのではないでしょうか。祭りに協力してくれているお金持ちに出品できるものを出していただき、売り上げを寄付させていただく」
一人が笑顔でミランダ様を見つめた。
「こう言っちゃなんですけど、いい人って思われますって煽れば出してくれる人いますよね」
「運営主催の競売か・・・」
「話題にはなりそうですね」
会議室が盛り上がってきた。
話がずれているのでは・・・。
「ねえハリス・・・うちの倉庫に功労者の剣いっぱい置いてあったよね?」
ミランダ様がいやらしい顔で腕をつついてきた。
「たしかティムが持ってきたんだよ。アリシア様は旦那が作ったのと、ニルスが貰った二つ以外はどうなってもいいって言ってたんだって」
ああ・・・見覚えがある。
『ずっとあの家の物置にしまってたんだぜ?盗まれてもいいっつってたけど、そうなった時にルージュが出くわしたらどーすんだっての』
だから商会の倉庫の隅に置いていたはず。
雷神のものであれば・・・売れるだろう。
「一応・・・許可を取ってからですね」
「闘技場使ってやろうよ。別に金持ちからお宝出してもらう必要無いよね」
「そうですね・・・」
これくらいならやって・・・。
「よし!競売はやろう!雷神が功労者の剣いっぱい出してくれるから、それで稼がせてもらおうよ!!」
「それであれば、街の外のここよりも大きな劇場を使わせてもらいましょう」
「よーし決まり―!!」
許可を取ってからと言ったのに・・・。
◆
「ねえねえ、あの双子の妹がさ・・・」
会議が終わり、魔女からお茶に誘われた。
最近は多い、話題は仲間たちのこと・・・。
「私はどちらが妹か、まだ判断がつきません」
「その内覚えるよ。で、その妹がノアに恋しちゃったのよ」
あの家は話の種がよく取れる。
そしてそれをいたるところに蒔く魔女・・・。
「ノア様は知っているのですか?」
「教えるかどうか考え中なんだ。そっちの方が面白いし」
「私は知りませんからね・・・」
「ステラが言うには、ノアは責任を取らないといけないみたいよ」
責任・・・子どもだと甘く見て、大人の迫り方でもしたのだろう。
「ふふふ、詳しい話聞きたいって顔ね。仕方ないなーハリス君は・・・」
相槌がなくとも話し続けるくせに何を言っているのか。
◆
「・・・心を奪ってしまったのですね」
予想通りだった。
たしかに責任は取らなければならない。
「そうなのよ。もうノアは逃げられないかもね」
「スワロで領主の夫にさせる予定ですか?」
私の心配はそこだけだ。
ノア様は必要な人材、本当にそうなり商会を抜けられては困る。
「そこはいい手があるから大丈夫よ。あたしは部下のためにちゃんと動いてあげるんだから」
魔女には秘策があるようですね。
それならすべて任せましょう。
◆
「なんだよ・・・」
「お願いがあるんだよね」
休憩も終わり、テッド様に会いに来た。
なにか依頼があるらしい。
「裏町で犯罪起きないようにしてほしいんだよね」
「心配無いだろ・・・」
「あたしから直接頼みたい。仕切ってる奴と繋いでほしい」
「関わらない方がいい。俺から伝える」
テッド様は裏町の権力者と繋がりがあるようだ。
おそらく、本当に関わらせたらメルダ様が黙っていない。
「信用していいの?なんかあったら稼げないようにするからって言っといて。女、子どもが行方不明になって、裏町で見つかったとかってなったらもう終わりだからね?」
「そいつが関わってるかはまた別の話だろ。お前を敵にしたらヤバいってのは伝えとくよ」
それで問題無いだろう。
テッド様はその危うさをしっかり伝えるはずだ。
「じゃあ任した・・・奥さんどうなったか聞いてる?」
「会いたいのはそっちが目的だろ・・・誠意を見せたそうだ」
「おー・・・覚悟決めたんだね」
「子どもも授かってる」
私の知らない話・・・。
「間男は?」
「・・・その時点で、稼いだ金全部持たせて解放したんだと。あぶねー仕事だったから千二百万くらいはあったらしい」
「やさしー。でも、五千万までまだまだだったんだね」
まあいい、害が無ければ関わらない。
「お待たせ・・・じゃあ行こっか」
「次はどちらへ?」
「邪神のとこ」
洗い場か・・・。
◆
「ジナスくーん。あんたの弟子どうなのよ?」
ミランダ様がにやけながらティム様の頭を撫でた。
・・・魔女と邪神は仲がいい。
「・・・静かにしていろ。食事が来るまで瞑想の予定だ」
「見りゃわかるよ。集中切らさないか試してるんじゃん」
「・・・」
ティム様は微動だにせず、静かに座っている。
無・・・そんな状態だ。
「起きている間は、過去に気に入っていた戦士の人形と戦わせているんだ」
「ニルスのとはやらせてないの?」
「本物以外とやらせるつもりは無い。こいつもそうしたいと言っていた」
「ふーん・・・まあ、任せた」
私たちは大会が盛り上がればそれでいい。
最も望んでいるのは、雷神と風神の決勝・・・。
ティム様がそこに割り込んでくる番狂わせは・・・次点ですね。
「あ・・・ミランダさんたちもいらしていたのですね」
エリィ様が魔法陣から姿を現した。
大きな籠、中には愛が詰まっているのだろう。
「ん?そういえばあんたって、聖女でも精霊でもないのになんで魔法陣動かせんの?」
まったく疑問に思っていなかったことだった。
言われてみればそう、なぜエリィ様が動かせるのだろう・・・。
「人間ではその女だけに限定させている」
「そう教えていただきました」
なるほど、動かせる者を指定できるのか。
「戦場のは?あんたしか使えないようにしてもよかったんじゃない?」
「ハリス・・・説明してやれ」
ジナス様に睨まれた。
なぜ私が・・・。
「・・・ジナス様には何も害がありませんので」
「ああ・・・なるほど」
戦場とテーゼを行き来できたとして、なんの脅威にもならない。
わざわざ動かせる者を限定する必要が無かったということだ。
「じゃあ精霊鉱は?なんでイナズマ残したの?」
「・・・ハリス」
「・・・のちほど説明します」
「なんだ・・・ちゃんと理由あるんだ・・・」
おそらくその場限りの疑問、夕方までには忘れている。
◆
「つーか何しに来たんだよ。忙しいんだろ?」
ティム様がお昼を食べだした。
私も知りたい・・・。
「スウェード家もテーゼに来た」
ミランダ様がティム様の正面に座った。
なるほど、その話をするためにここに来たのか。
しかし、ティム様はもうスウェード家を捨てている。
それを言われても仕方ないのでは・・・。
「あのさ・・・もう俺は関係ねーんだって・・・」
思った通りだ。
からかいに来ただけだとすれば、あまりいい趣味ではない。
「関係ある人がいるみたいなのよ」
「は?」
「ステラが言ってたんだけど、あんたにどうしても会いたいって使用人たちがいるんだって」
「・・・そうか」
ティム様の表情が変わった。
そのあたりの事情はよくわからない。
「ティムさん、ハンナさんたちのことではないでしょうか」
エリィ様は察しがついたようだ。
色々と過去を話していたのですね。
「名前は知らないけど、そういうことなんじゃない?」
「・・・」
「教えたくなったから来てあげた。戻ったら会いなよ?まあ、ステラからも話あると思う」
「・・・戻ったらな」
母親ではなく使用人・・・。
予想ではあるが、ティム様に愛を教えた方たち・・・そういうことなのだろう。
◆
「げ・・・明日には入場券刷り終わるって・・・それ持って出かけないとな」
家に戻ってきた。
最近は応接室が仕事場だ。
「多すぎますね・・・。予定が近いものから順に壁に張っていきましょう」
目を通す書類が山積み、他の担当に比べればこれでも少ない方だという。
「・・・ふと思ったのですが、余った入場券の回収も私になるのですか?」
「当たり前じゃん。移動の日数考えて、もう必要無いって所から回収して。残りはぜーんぶ当日販売に回す」
今回、入場券は地域ごとにも売り出す。
見たい者にしっかりと回すため、そして席を埋めるため。
・・・まずはその予定を立てることにしよう。
「信頼できるって商会を選んではみたけど、割増で売ってたら潰すって言っとかないとね」
「すでに新聞で金額を公表しています。懸念がありますか?」
「やりようは色々あるよ。うちだけ多めに回してもらったから、ちょっと金額変わるよーとか。それを誰かに話したら入場券が無効になるから黙っててねーとか」
「あなたがやるならそうするということですね」
「・・・」
ミランダ様は口笛を鳴らした。
ツキヨが監視する。
不正があればすぐにわかるので心配はない。
「それと・・・ステラ様が直接王に頼んだ件ですが・・・」
いつの間にか勝手なことをしてくれていた。
「ああ・・・。まあ可能性が無いっては言えないけど、好きにやらせときゃいいよ」
「騎士を解放し、聖女の立場もいらないと言った割にずいぶん利用していますね」
「それは本人が言ってるだけだからね。だから王様も逆らえないんだよ」
「困ったものです・・・」
やることが増えたわけではないが、まず私たちに言ってほしかった。
私的な要求で運営は動かせないことをわかっていて、一番上に行ったのだろう。
だが・・・これは容認する。
「まあ、そっちはステラが準備してるからもういいよ。それよりも・・・これ見てよ。他の闘士の似顔絵も用意しろってさ。やっぱあたしの意見が正しかったんだよ」
ミランダ様はまた別の書類を壁に貼り付けた。
嘘だ・・・。
「バカな・・・雷神と風神だけと決まったはずです・・・」
この魔女を言いくるめてそうしたのだ。
どこで変わった?・・・いつ?
「本戦に出る三十二人、全員あった方がいいよねって王様にちょーっとお伺いを立ててみたんだ」
この女・・・。
「王様もそれがいいって言うからそっちからの指示なんじゃないかなー」
「・・・予選が終わって当日まで十日も無いのですよ。残り三十人・・・私にそんな暇はありません」
「でも、あんたの人気じゃん。何枚持ってかれたか・・・」
寝るなと・・・休むなと・・・そう言っているように聞こえる。
絶対にそれだけは避ける!
「張り出すのは構いませんが・・・私は描けてもあと一人です。他は画家を雇ってください。募集をかけましょう」
できないとは言わない。
ただ、どこまでかは決めさせていただく。
「さもなければ・・・私はすべて投げ出して逃げます」
「ちょ・・・脅そうっての?」
「従わなければそうなりますね」
「・・・そうしよっか。・・・儲かるしね」
勝った・・・。
「じゃあ・・・闘士一人につき二種類。宣伝で張り出すのと、かっこいいのを・・・。もちろん宣伝用のもいっぱい複製して、当日に売るってことで・・・」
「そこまで決めていたのですね?」
「・・・ニルスとアリシア様のはもうできてるでしょ?」
できている。それで済むと思っていたからだ。
「あと三十人・・・早いとこ募集かけよっか」
「・・・二十九にしてください」
「知り合い?」
「ルージュ様・・・本戦出場の場合、私が担当します」
他の画家には渡さない・・・。
◆
「ほら、休憩しよー」
ミランダ様が紅茶を淹れてくれた。
ずいぶん時間が経ったように感じるが、まだ空の色は変わっていない。
「集金があったら無理でしたね」
「リラに感謝だね」
「・・・次も依頼があるなら、今回の三倍の対価を王に要求します」
「まあ・・・商会を一番にで頼むよ」
当然そちらが優先だ。
それに次回からは気が乗らない。
「でも、あんたがいたから伝達が早くできたわけじゃん。かなりお金積んでくれると思うよ」
「情報を迅速に伝えるのであれば、私か精霊の力が必要ですからね。まあ・・・それだけならば受けてもいいでしょう」
「だよね。他は今回のやり方で問題なければ続けていくだろうし」
大変なのは一からやる時だけ、次回はもっと楽になるだろう。
ただ、一番上があなたではない。
だからあまりやる気が出ない・・・。
◆
「あ、ハリスさん。これ、おみやげに持っていってください」
仕事を切り上げ、談話室に入ると双子のどちらかが近付いてきた。
首筋にほくろ・・・だとしてもわからない。
「申し訳ありません。あなたは・・・どちらですか?」
「レインです。あたしが作った特製ジャムなので、ぜひ食べてください」
・・・いただいておこう。
「ありがとうございます。スノウ様は別ですか?」
「はい、今日はニルスさんたちと・・・えっと、ジーナさんという方のところに行っていますね。晩鐘までには戻ると言っていました」
「ジーナ様・・・」
肉欲の魔女の家に・・・。
なにをしに・・・。
「レイン様はお留守番ですか?」
「いえ、昼間はセレシュとシリウスと、あとダリス様の四人でお買い物をしていました」
「そうでしたか。お祭りもぜひ楽しんでください」
「はい、ハリスさんも頑張ってくださいね」
子どもに言われると少し安らぐ。
今度リラさんにも紹介しよう。
◆
「ただいま・・・。なんだハリス、まだ帰ってなかったのか」
「あ・・・改めてよろしくお願いします」
晩鐘前にニルス様とスノウ様が帰ってきた。
ジーナ様にはなにもされていないようだ。
◆
「みんなで未知の世界を見ながら、お喋りしてたんです」
「へえ、じゃあ楽しかったんだね。僕にも教えてほしいな」
ノア様も談話室に入ってきた。
スノウ様はすぐに近付き、かわいらしい仕草をしながら話している。
「ミランダ様からお話は聞きましたが、ノア様には・・・」
「オレからも伝えてない。どうするんだろうな」
ニルス様は荷が降りたことで、そこまで深くは考えていないようだ。
「帰らないのはあの二人の観察があるから?」
「いえ、今日はルル様の所で夕食を取ります。リラさんとチル様はもう少しあとで来るので暇つぶしですね」
リラさんはルル様と共に精霊の城に行くと言っていた。
『でも、そういうのをハリスが飲んだらどうなるかは気になりますね』
『あ・・・そしたらあたしと一緒に作ってもらいに行こうよ。ハリスが近くにいたら頼みづらいでしょ?』
おそらくあの薬をモナコ様に頼むつもりなのだろう。
もし何かに混ぜられたら飲んでしまうが、あらかじめニコル様に作ってもらった薬がある・・・。
「まあ・・・あとは気晴らしですね」
「疲れてるんだな。今日はからかってこないし」
「あなただけにそうするわけではありませんよ」
私はノア様たちに近付いた。
ルージュ様を描くのなら少し練習もしたい。
「時間があるので、仲のよろしいお二人の絵でも描きましょうか」
鞄から画材を取り出した。
拒否は受け付けない。
「え・・・いいですよ別に・・・」
「わ、私は描いてほしいです」
「スノウちゃん?」
「もう準備されていますし、お願いしましょう」
スノウ様の顔を見れば、拒まれることはないと踏んでいた。
「では・・・寄り添うように立ってください」
「はい」
「じっとしてなきゃいけないのか・・・」
疲れていても、これはやりたかったことだ。
練習と揶揄、いい気晴らしになる。
◆
「なるほど・・・ハリスも気が利くわね」
「私も部下を気遣っているだけですよ」
「ふーん・・・いい感じ」
ミランダ様が覗き込んできた。
目的を察してか、絵の中身には触れてこない。
「へえ、優しいのね」
「タダって本当ですか?わたしからはお金取りますよね?」
「ジェイスとイザベラ様もお願いしたいです」
ステラ様、エスト様、カゲロウ。
いつの間にか他の方たちも完成間近の絵を見物していた。
「素敵ですね。あたしもその時に描いてもらいたいなー」
「レイン様の時も無償で描きます」
「やったー」
ジャムと先ほどの励ましの対価だ。
まあ、相手が見つかればですが。
「カゲロウ様、色を作っておいていただきたいです」
「承知しました」
しっかり完成させてやろう。
◆
「着ているものを少し変えましたので」
描き上がった絵を二人に見せた。
「あ・・・わあ・・・」
スノウ様は頬を赤くしている。
「ハリスさん・・・これはどういう意味ですか・・・」
ノア様には悪ふざけにしか見えていないようだ。
その通り、悪ふざけで描いた。
「深い意味はございません。ずいぶんと仲がよろしいように見えたので」
「・・・そうですか」
「私・・・これを宝物にします」
「明日はそれに合う額縁を探してきてもいいでしょう・・・お二人で」
描いたのは二人の未来図になりうる姿・・・。
スノウ様には少し大人っぽい花嫁衣裳を着せてあげた。
「ス、スノウちゃん。ニルスさんとのも描いてもらったら?」
「いえ、私はこれだけでいいです」
「え・・・」
ノア様の顔が引きつっている。
なにかを察した表情だ。
ミランダ様には秘策があるようなので、私はこれくらいにしておこう。
◆
「ハリス、ルージュが会いたいってさ」
出ようとしたところで、ニルス様が妹の願いを教えてくれた。
そういえば、最近は顔を合わせても挨拶くらいだったか・・・。
「それもいいですね。近いうちに時間を取りましょう」
「今夜、街の外で水晶の馬車を走らせるんだ。疲れてなければ来てほしい」
今夜か・・・リラさんたちも誘おう。
『ハリスさん、シロの言ったことが本当なら・・・精霊銀は、きっとあなたの愛に導かれたんだと思います』
私とリラさんを救ってくれた。
明日こそはと探していた日々がどんどん重なり、虚しさと暗闇に覆われそうになっていた心・・・。
あの愛に触れれば、気持ちも入れ替わるかもしれない。
『綺麗な石や形のいい木の実です。鳥さんと一緒に集めていました』
そういえば、まだお礼を言えていなかった。
今夜・・・伝えに行こう。




