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Our Story  作者: NeRix
気の章 第二部
354/481

第三百四十話 恋の季節【ミランダ】

 スノウはたしかにニルスが好きみたいだ。

でも、ニルスだけじゃないっぽい。


 どういう思考なのかは確かめないといけないけど、レインなら絶対知ってるはず。

面白そうだし、早く真相を聞いてみよう。



 「あはは、やっぱそうなんだ?」

「はい、好みはずっとそうです。昔から変わりないですね」

レインだけを呼び出して話を聞いてみた。

答えはすぐにわかりそうだ。


 「なので、ここはスノウにとって楽園ですね」

「なるほどね。一番は誰だろ?」

「みんな一番です」

レインはスノウのことをよく知っている。

双子だし、誰よりもお喋りしてるんだろうな。


 「じゃあニルスだけが特別ってわけじゃないのね?」

「はいそうです。ジェイスさんとノアさんの二人もですね」

「将来が心配ね・・・浮気しまくりそう」

「あたしも心配ですよ・・・。それでいて欲張りなところもあります。全部取れるならそうしちゃうかもしれません」

スノウの場合は、様子を見ながら作戦を立てようかなって感じだったけど、この子の話でまとまるかもしれない。

じゃあ・・・どうしてやろうか・・・。



 「あー・・・ステラさんですか・・・」

教えてくれたし、こっちのことも話した。

そんな以外かな?


 「うん、だからニルスもどうしようかなって困ってたんだよ」

「そうだったんですか・・・言えばいいのに」

「妹の友達を傷付けちゃうでしょ?」

「ふふ、それでもいいと思います」

レインは鼻で笑った。

どういうことだろ?


 「憧れていた人に恋人がいた。スノウはその切なさも楽しんでます」

「楽しんでる?」

「言い方はちょっと違うかもしれませんがそんな感じですね。次の日にはいつも通りに戻ってます」

切り替えが早いのか・・・。

 「でもさ、そのあとニルスに態度変わったりしない?」

「なんていうか・・・接し方は変わらないですね。また機会があるかもしれないからって言ってましたよ」

「は?ふられたのと一緒じゃん。なんでそうなんのよ?」

「スノウは相手に想いを伝えたことは一度もありません。だからふられてはいないですね」

なんかワクワクしてきた。

 なにあの子、おもしろいじゃん。

これを誰にも伝えずに、ただ眺めていたい・・・。


 「最初はアカデミーの教官でしたね」

「ありがちかもね。あたしの教官は・・・厳しいおばあちゃんだったよ」

あんま思い出したくないな。

何度叱られたか・・・。

 「それと、恋人がいるかっては絶対に自分から聞きません」

「絶対?」

「はい」

なぜかその話は無かったってニルスも言ってたな。

じゃあ意図的にしてないのか。


 「じゃあレインは合わせてあげてるんだ?」

「そうですね。あ・・・この人に目を付けたなってわかるんで、あたしもそこは触れません」

「妹思いだね」

「怒るとめんどうなんです」

んー、あたしならそこもからかっちゃうかも・・・。


 「とにかくあの子は恋していたいんですよ。うまくいかなくてもいいんです」

「恋に恋してる?」

「近い気もしますね」

色々わかってきた。

 あの子の恋の対象は、ニルスみたいな年上でかっこいいお兄さん。

歳の近い男の子にはまだ無い大人の余裕に惹かれるんだろうな。


 『じゃあ、あのお店でなんか飲みながら教えてあげる』

『え、でも・・・』

『平気平気、お姉さんが出してあげる。だから来なさい』

『・・・』

スワロで初めて誘った時にも思った。

 スノウは引っ張ってもらう感じがいいんだ。

そして、想いを伝えることをしないのは、本当に傷付くのが恐いからってとこかな。


 「助かったよ。お礼に洗い屋ミランダを見せてあげる」

「え・・・洗い屋・・・」

「お風呂行くよ」

最近疲れてたから誰も洗ってあげてなかった。

久しぶりにやってやろう。



 「すごい気持ちよかったです・・・」

レインはゆるゆるの顔で湯船に入った。

でも、あたし以上がいるのよね・・・。


 「もっとうまいのいるよ。来たら頼んであげる」

「今のよりも・・・」

ロゼのはもっと気持ちいい。ステラも敵わないって言ってたな。

お祭りの時はシロが連れてくるから、その間はうちに泊まってもらうつもりだ。



 「じゃあ、談話室戻ろっかー。早く体拭きなよ」

お風呂を出た。

向こうがどうなってるか気になる。


 「え・・・なんで下着しか持ってきてないんですか?」

レインがあたしの恰好を見て一歩引いた。

 「寝るならこれだけでいいのよ。精霊いるから快適だし」

「談話室に行くんですよね?みんないますよ・・・」

「いるからなによ?」

「え・・・いえ、別に・・・」

そういやレインは家でのあたしを知らなかったな。


 「ていうか・・・あんまり押さえつけないから大きくなるんですか?」

「いや、そんなことないよ。イザベラはあたしよりデカいし」

一緒のベッドで寝た時に揉んだけど、大きさは本当にあたし以上だった。

だから押さえつけてるとかは関係ないはず。

 「イザベラ・・・さん?」

「ああ、ごめん会ったことないか。えっと・・・ジェイスの女よ」

「あ・・・まあ、そりゃいますよね」

これを教えたらスノウは諦めるのか・・・。


 「ちょっと間違った。そうなるかもしれない女」

「まだ恋人ってわけではないんですね」

つい言っちゃったけど、まだジェイスのになったわけじゃないよね。

ニルスの話を聞く限りでは、勝手にくっつきそうだけど・・・。



 「ジェイス、今すり替えたな。戻せ」

「わかるのか・・・」

「僕は見えませんでした。すごい目ですね」

「私も気付きませんでした。ニルスさんもジェイスさんもすごいですね」

談話室はスノウの楽園になっていた。

「夢みたい」って思ってんのかな?


 「オレが配り直す。ジェイス、やるならバレないようにやるんだな」

「・・・次はうまくできる」

「予告するなんて大胆ですね」

「私もジェイスさんの手元をよく見ておきます」

ノアはうまくやってくれたっぽい。


 『あたしレインに話聞くから、スノウがこっち来ないようにしといて』

『・・・簡単に言わないでくださいよ』

『ニルスとジェイスも使っていいよ。三人で接待してあげて。・・・得意でしょ?』

『接待・・・』

絵札で遊んであげるだけで足止めになってくれたみたいだ。


 「これが夕凪の花から取れた香料よ」

「・・・ちょっと鼻への当たりが弱いですね」

ステラとシリウスはお勉強中だ。

スノウの様子を見るためにこっちでやってるみたい。


 「カゲロウさん、ジェイスさんの裸の記憶ください」

「はい、どうぞ」

エストとカゲロウか・・・。

 「おー・・・お、おおーーー!!!」

「大丈夫ですか?」

ま、まあ・・・あれは放っておこう。


 「ステラさん、あたしにも嗅がせてください」

レインは迷わずそっちに行った。

たしかに今ある三つの組で「どこに入る?」って言われたらそこしかない。

 あたしもそうしよ。

あ、お酒持ってこないと・・・。



 「わあ・・・かなり爽やかですね」「うわっ、甘すぎ・・・」「これはお腹が空く香りですね」

レインはたくさんある小瓶を開けて、色んな顔を見せてくれた。

反応がかわいいな・・・。


 「シリウスとセレシュも、もうじきこういう調香ができるようになるのよ」

「えー!すごいじゃん!」

「あはは・・・でもまだ半分なんだ。香料の抽出ができるようにならないと、調香師とは言えないからね」

シリウスは照れくさそうに目を逸らした。

 あれ・・・この子、調香師になりたいのかな?

けど精霊学のアカデミーには行くって言ってるし・・・色々やってみたいって感じ?


 「ねえねえ、そしたら練習でいいからあたしに合う香りも作ってよ」

レインがシリウスの腕をつついた。

 「うんいいよ。でも先に作りたいのがあるから、そのあとになっちゃうね」

「どんな香りが作りたいの?」

「まだ・・・内緒」

シリウスは恥ずかしそうに微笑んだ。

これはまさか・・・。


 「セレシュがやらしくなるやつでしょ?」

思ったら聞いてしまう。

 「そ、そうなのシリウス?」

「へー、セレシュは知っているのかしら」

「ち、違いますよ。そういうのじゃありません!」

年下の男の子はこういう反応がかわいい。

だからもっとからかいたくなる。


 「師匠であるステラにも教えてないのはちょっと良くないんじゃない?」

「たしかにそうね・・・」

「わかりました・・・ステラさんには教えます・・・」

シリウスがステラの耳元に口を近付けた。

なんかやらしい・・・。


 「ふふ・・・それなら先に教えてほしかったわ」

ステラの口元が緩んだ。

なんだったんだろ・・・。

 「ステラ、あたしたちにも教えてよ」

「うーん・・・悪いけどまだ教えられないかな。でも素敵な香りだよ」

「え・・・仲間にも秘密?」

「ごめんね。驚かせたいの」

ステラはかわいく舌を出した。

なら・・・許そう。


 「でもレインも大胆ね」

「へ・・・何がですか?」

「合うのを作るにはあなたの香りを調べないといけないわ。普段の時、汗をかいた時、イライラしてる時、起きてすぐとか・・・。シリウスが一日中付いてないとね」

「一日中・・・」

おー、面白そう。

セレシュがどう思うかも含めてだけど・・・。


 「あとは色んな部分を嗅がせてあげないといけないわね。髪の毛、首筋、脇の下・・・」

「そ、そこまで本格的じゃなくていいからね。あたしを見て、こういう香りが合いそうだなってのを作って」

「う、うん。頑張るよ」

なんだつまんな。

レインもちょっとは誘惑するくらいしてみなさいよ。



 「たぶん、これはノアとスノウも練習すればできるよ。・・・ここで捨て札と、持っていたのを入れ換える」

ニルスたちを見ると、まだ楽しい雰囲気が続いていた。

あんな手品教えて、誰に使わせる気よ・・・。


 「ニルスさんみたいに一瞬では難しそうです・・・」

「僕もかなり練習しないと厳しいですね。どこで覚えたんですか?」

「ロゼがやってるのを見てたんだ。酔っ払いを相手にして稼いでいたよ」

ロゼ?たしかに強かった・・・。


 『夜か・・・ミランダが来るまで、酒場で酔っ払い相手に絵札で賭けして遊んでた』

そういえば聞いたことあったっけ・・・。

 『わたしこれで負けたことあんまり無いの。あ・・・でもたぶんニルスには勝てないかなー』

ニルスは目が良すぎるから手品は通用しないってことだ。

あの女・・・あたしを嵌めたな。


 「あ、スノウちゃん。ミランダさんたち出たみたいだから、先にお風呂入ってきていいよ」

ノアがこっちに気付いた。

ずいぶん楽しそうに見えたのは、スノウがいたからなのかな?

 「いえ、みなさんが先の方が・・・」

「この家は女性優先なんだ。どうしてもあとがいいなら別だけど」

ノアは嘘をついた。

 そんな決まり無い。入りたい人が優先で、一緒に入るのも自由だ。

状況を知りたくてそうしたのね。


 「それなら・・・ステラさんかカゲロウさんが・・・」

スノウはこの場を離れるのが嫌みたいだ。

この子以外で情報を共有するには、離れてもらうしかないから・・・。

 「ニルス、ジェイス、ノア」

三人がまだ相手してくれるってわかればいい。


 「今夜は、スノウが眠くなるまで遊んであげてね」

「いいよ」「わかりました」

ニルスとノアはすぐに返事をくれた。

 「・・・僕が眠くなってもか?」

文句があるのは、よくわかっていないジェイスだけか。

 「家主に逆らう気?」

「・・・わかった」

この家ではあたしの思い通りにしてもらう。


 「みんな起きてるなら夜食を作ってあげるね」

ステラもその気だ。

早く知りたくて仕方ないって感じ。

 「聞いた?早く行ってきな」

「はい、ではお先にいただきます」

スノウはとっても嬉しそうに立ち上がった。

あとは・・・。


 「エスト、一緒に入ってあげて」

「え・・・」

嫌な顔をされた。

こっちに混ざって楽しい話を聞きたかったんだろうけど、監視役も必要だ。

 「スノウ一人じゃ勝手がわかんないでしょ?お客様だから念入りに洗ってあげて」

「あの・・・」

「お願いね」

あたしはカゲロウを指さした。

・・・あとで記憶をやるって意味。


 「早く行きなさい」

「・・・はい。スノウちゃん、一緒に入ろうね」

「いいんですか?なにか・・・変な感じが・・・」

「ああ違うのよ。わたしはいつも最後に入って、みんなの残り湯と抜けた毛を見るのが趣味だから」

気持ちわるい理由考えやがって。

・・・本当じゃないよね?



 「ふふ、やっぱり年上好きだったのね」

ステラは話を聞いてニコニコしだした。

ジェニーとイザベラが解決して、余裕な態度が戻ってきてる・・・。


 「ステラ、そんな油断してたらまた新しいのが出てくるかもよ」

「ふっふっふ、もう大丈夫だよ」

泣きついてきても知らないからね・・・。

 「それにスノウから想いを打ち明けることが無いなら、ニルスに無理矢理迫ることも無いんでしょ?」

「まあそうですね」

「レインが言うなら間違いないわね。春風が吹き始めているし、恋の季節なのよ」

だからって恋人がそんな態度じゃダメでしょ。


 「結局、オレは気にせずに接していけばいいのか?」

「・・・僕はどうしたらいいんだ?」

ニルスとジェイスは困り顔のままだ。

たしかに接し方よね。


 「あの・・・ニルスさんはもういつも通りでいいのではないでしょうか」

シリウスも話に入ってきた。

 「いつも通り?」

「はい、寝る前はステラさんを連れて部屋に戻るところを見てもらえばいいんです」

ああ、なにも気付いてないふりね。

 「早い方がいいと思いますよ。今夜は傷付くかもしれませんが・・・」

そう、早い方がいい。

 スノウの考えがいつも同じとは限らない。

もうじき大人だし、やり方が変わってくる可能性はある。


 「それしかないか・・・。ありがとうシリウス」

ニルスはちょっと暗い顔だ。

 思わせぶりな態度をしてたのはよくなかったけど、それが無くてもこうなってはいたっぽいのよね。

そう考えるとスノウが傷付くのはもう決まっていたから、受け入れるしかない。


 「僕はお前たちに合わせよう」

ジェイスがお菓子をつまんだ。

 「あなたはイザベラがいるじゃない」

「彼女は恋人というわけではない」

ジェイスくんはまだ恋も知らないからめんどうね・・・。


 「・・・一緒に歩きたいんじゃないの?」

ニルスもお菓子をかじった。

周りからはそう見えてるっぽいな。

 「カゲロウほどじゃない。ただ・・・少し安らぐだけだ」

「ジェイス、私に恋はわかりませんがあなたの感情はそうだと思いますよ」

カゲロウが紅茶を淹れてくれた。

恋を知らないお母さんも大変ね・・・。


 「僕は・・・よくわからない」

「そばにいてほしいのではないですか?」

「・・・」

ジェイスは腕を組んで天井を見上げた。


 「異性と聞き、目を閉じて、最初に浮かぶならそうだと思います」

カゲロウがジェイスの瞼を塞いだ。

 この聞き方はニルスの質問よりいいかもしれない。

恋を知らなくても、どういうものかは周りの人を見てわかってきてるんだね。


 「なるほど・・・。それなら彼女がそうだ」

「では、私も改めてイザベラ様にご挨拶に伺いましょう」

「そういうものなのか・・・」

「はい、そういうものだと思います」

イザベラも困るでしょ・・・。


 あ・・・スノウのことからずれてる。

こうなるとニルスとジェイスはダメ。

残ったのは・・・。


 「ノアはどうする気よ?」

「僕は恋人がいるわけではないので、スノウちゃんがここにいる間はよくしてあげるつもりですよ」

たしかにノアはそういうのがいない。

気持ちを伝えてもこないんなら・・・任せてもいいのかな。

 「もちろんレインちゃんもね」

「あ、ありがとうございます。でも・・・スノウをもてあそんだりはしないでくださいね」

「ふふ、そんなことしないよ」

付き合いの長いあたしとエストはそうだってのは知ってる。

ノアはかなりいい奴だから、その心配は無いのよね。


 「とりあえず、ニルスさんとジェイスさんはもう気にしなくていいですよ」

ノアはステラよりも余裕な顔をした。

 「恋の季節・・・いい思い出にしてあげましょう。お・・・うまくいった」

ノアはさっき教わっていたすり替えを難なく成功させた。

・・・世渡り上手め、ここにいる男の中で間違いなく一番大人だ。


 作戦はもういらないかもな。

スノウの恋は、全部あたしの優秀な部下に任せていいみたいだし。

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