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Our Story  作者: NeRix
気の章 第二部
341/481

第三百二十七話 式典【ミランダ】

 夜明けにはまだ遠い時間、闘技場が完成した。

石造り、ところどころに水晶での装飾・・・いい感じじゃん。


 観客席も全部埋まってほしい・・・いや、そうするんだ。

もっともっと人が集まる宣伝をしないとね。


 

 「よーし、中の確認よ。ジナス、ちょっとでも違ったら作り直しだからね」

「・・・だとしたら図面が悪い」

ジナスが不気味な顔で笑った。

ふふ、この感じだと自信ありってことね。


 「大きいな・・・かっこいい」

「美しいわね。細部にまで綺麗な模様が彫られてて素敵」

ニルスとステラが門を見上げて溜め息をついた。

これからは入場料を取るけど、今回は特別だ。


 「本当に街が潤いそうだな。これをひと目見るため、祭りの時期でなくとも観光客が増えそうだ」

「はい、闘技場ではなく芸術品と呼べる美しさです」

「清掃や維持管理は徹底しましょう。テーゼの新たな象徴です。闘技大会だけでなく、様々な催しにも使えますね」

王様たちも大満足って顔をした。

けど・・・まだ中も見ないでそんなこと言われても困る。



 「王様、悪いんだけど一番最初に設計士たちを中に入れてほしい」

門を抜けて、入り口の前でみんなを止めた。

そうしてあげたい。


 「ミランダ・・・俺たちは王のあとでいいよ・・・」

ライズが顔を強張らせた。

・・・いいわけないじゃん。

 「ダメだよ。これは譲れない」

「はっはっは、私はそこまでひどい男ではないぞ。先に入る権利はそなたたちにある」

王様が一歩下がると、合わせてニルスとステラ、ハリスも身を引いてくれた。


 「さあ、扉を開けなさい。あんたたちが入んないと、あたしたちずっと待ってることになるんだからね」

「・・・感謝するぜ」

ライズが扉に手を当て、おもいきり押した。


 「すげー・・・あ・・・おいお前ら興奮すんなよ。全員図面持ってるな?楽しむのは全部確認したあとだ」

「はい!」「早く行きましょう!」「売店区画の天井を見せろ!」

設計士たちが中に駆け込んでいく。

ふふ、みんないい顔だ。


 「じゃあ、あたしたちも行ってみよー。まず、これ見取り図ね」

「オレは戦う場所が見たい」

「私はスウェード家用の観戦室と出入口が見たいな」

「じゃあ先にそこを確認しよう」

ニルスとステラが見取り図を手に奥へ歩いて行った。

 「王、我々は一通り見学させていただきましょう」

「そうだな。ふふ、ここまで心が躍るのは戦場が終わってから無かった」

王様たちも浮足立ってる。

あたしも興奮してくるな・・・。



 「うん、ここからなら他の観戦客に会わずに行けるわね」

ステラたちと一緒に秘密の入り口を確認した。

スウェード家の子どもたちのための場所、ちゃんと注文通りにできている。


 「・・・やっぱり男がいると厳しいんだね」

「そうね。まだ・・・傷は癒えていないはず。とても長い時間がかかるの」

心が痛む話ではあるけど、大会を笑顔で楽しむくらいはいいよね。

・・・そういやティムはお兄ちゃんってことになるけど、家族は平気なのかな?



 「広い部屋ね。ここで泊まってもよさそう」

スウェード家の観戦室も見に来た。

本当に広い、たしかここはライズの設計だ。


 「へー、よく見える。・・・あいつら二人で何やってんだろ?」

「悪だくみじゃない?」

「他に無いか・・・」

闘士たちが戦う盤上では、ジナスとハリスが二人でたたずんでいた。

・・・うん、高い所に作ったから下の闘技場もちゃんと見える。


 「観客席の方は屋根が無いのね」

「基本はね。でも東側と西側に仕掛けがあって、それ動かすと塞げるようになってる・・・はず」

「天気が悪くても問題ないってことか」

上も問題無しだ。


 「こっちの扉から観客席のほうにも行けるみたいだよ」

「繋げないとティアナの移動が大変だと思ったの」

「なるほど、たしかにいちいち裏口から回り込んでられないな」

ティアナか・・・。たぶんティムには勝てないよね?

家長の剣、返すのかな?



 「けっこう高いな。変な落ち方したらケガしそう・・・」

「なかなかいいだろニルス?訓練場の方よりも広く頑強だ」

スウェード家の部屋を出て、ジナスたちの所に来た。

闘技盤も言うこと無しだ。

 

 「頑強ね・・・」

「ちょうどいい、踏み込んでみろ」

「お前の言いなりにはなりたくないけど・・・試してやるよ」

闘技場にニルスの大きな踏み込みが響いた。

・・・観客がいてもかき消されなさそう。


 「ふーん・・・たしかに」

「当然だ、お前ごときでは壊せん」

「・・・」

ニルスが真顔になった。

悔しいのか・・・。


 「・・・この石はかなり密度が高いようです。ニルス様にも限界があるでしょう」

ハリスも煽った。

 「・・・今のが全力だと思うか?」

ニルスは大きく息を吸った。

さすがにこの石は無理じゃないかな。


 「泣くなよジナス・・・」

さっきの何倍も大きな音が響いた。

 「なんだ・・・オレごときで壊れるのか」

ニルスの足元が砕けている。

すご・・・できるんだ・・・。

 「困るぞジナス、手を抜い・・・」

ニルスの体が吹き飛んで観客席に突っ込み、椅子がいくつか壊れた。

調子に乗り過ぎたか・・・。


 「ジナス・・・何をしているの・・・」

ステラが無表情で指先から小さな火を出した。

やば・・・あれだけなのに、ここの温度が一気に上がってる・・・。

 「ミランダ様・・・距離を取りますよ」

ハリスがあたしの腕を引っ張った。

あ・・・服から煙出てる・・・。


 「・・・客席の強度を確かめただけだ」

「私もあなたごと試してみたいわ」

「お前のぬるい炎で私は焼けん。それに手は抜いた・・・見ろ、動いたぞ」

ジナスの指の向こうでニルスが立ち上がっていた。

自分で治癒をかけてるみたいね。


 「無事だな。あいつの強さ・・・私は信用し、お前は疑った」

「・・・私、本当にあなた嫌い」

「気が合うな。私もお前は好かない」

「・・・」

ステラは指先の炎を消した。

お互い恋敵みたいに思ってるってとこなんだろうな。



 「暴れてんじゃねーよ!この椅子どうすんだ!!」

ライズの怒鳴り声が聞こえた。

 「ああ・・・僕が設計したのに・・・」「そういうつもりで来たんですか?」「風神って性格悪いんだな・・・」

設計士たちがニルスを囲んでいる。

みんなは音が聞こえてから入ってきた。

まあ・・・そう思われても仕方ないよね。


 「す、すみません。あの・・・違うんです」

「ん・・・あー!!!闘技盤が割れてんじゃね―か!!」

「あ、あの・・・オレは・・・」

「てめーか・・・」

あれは面白いから助けたくないな・・・。

 「ジナス・・・早く直しなさい」

ステラだけは違うみたいだけど。


 「・・・心配するなよ」

にやけたジナスが指を立てると、壊れた所があっという間に元に戻った。

おお、これならなんの問題も無いな。

 「密度も上げた・・・。あの程度ではもう壊れない」

相当悔しかったのか・・・。



 「大丈夫かニルス?はしゃぎすぎるとこうなるのだ」

「・・・」

ニルスがふてくされた顔で戻ってきた。


 「直してやったんだが・・・礼をまだ聞けていないな。アリシアとケルトに教わらなかったか?」

「・・・タスカッタヨ、アリガトウ」

「ふふ・・・私とお前の仲だ。礼なんてやめろよ」

「・・・」

面倒な奴・・・。

ジナスの煽りには乗らないのが正解ってことね。



 「ジナス、償いの一つであれば感謝は言わない」

王様たちも合流した。

顔は喜んでるけど、ジナスを褒めるような感情は無さそうだ。

 「いらん。見学が終わったのならさっさと帰れ」

「城へ送ってもらおうか。償いがこれで済むと思うな」

王様は堂々と言ってのけた。

あたしと同じで、使えるものは使うって考えか。


 「この程度で償いとは・・・。甘い王だな」

「早くしてもらおうか。少し休みたいのだ」

「ああ、早く帰れ」

ジナスは素直に従うみたいだ。

 煽りはするけど、ややこしくする気は無いってことね。

こいつも少しは考えてるんだな。



 「これ以上の出来はない。全員納得している」

設計士たちが戻ってきた。

みんな満足した顔だ。


 もうじき夜が明ける。

早起きの人なんかが異変に気付いて、騒ぎが起こるだろうな。


 「そろそろ街の掲示板すべてに張り出されます。王も休息を取っているようなので、私たちもそうしましょう」

ハリスに肩を叩かれた。

今日の正午に完成の式典をやる・・・。

 なんでも早い方がいい。

会議も無いし、ちょっと寝かせてもらおう。


 「俺たちも一度帰る。・・・全員遅れんなよ。それと正装で来い」

「そうよ。寝過ごしたら設計者から名前外すからね」

もちろんそこまでする気はないけど、それくらい重要ってことだ。


 「・・・お前一人では無理だが、私の補助があれば可能だ」

「必要になったらやってくれ」

「いいだろう。ステラ・・・これもお前ではできないことだな。さぞ悔しいだろ?」

「利用されただけなのに浮かれないで。あなたならって教えたのは私なのよ?」

なんか後ろでまたやり合ってる感じがする・・・。

ニルスがジナスのとこに行くなんてありえないんだから、そんなにムキになることないのに・・・。



 あたしたちも一旦帰ってきた。

ねむい・・・。


 「あれ・・・そういやリラには言ってきたの?」

寝ようと思ったけど、変な疑問が浮かんできた。

 ハリスとひと晩中一緒にいたけど、これはかなり珍しいことだ。

設計士の面談の時は、リラも差し入れ持って来てくれたからな・・・。


 「伝えていますよ。リラさんとチル様もテーゼにいます」

「そうなの?」

「アリシア様に預けました。騒がしくなると喜んでいましたよ」

ああなるほど・・・向こうも帰ってないから問題ないってことね。

じゃあ・・・寝よ・・・。



 「ほらミランダ起きなさい。あなたは先に出ないとダメでしょ」

ステラの声が聞こえた。

 体・・・揺らされてる・・・。

おっぱい触ってるのは・・・たぶんわざとだ。


 「うう・・・眠い・・・」

「ハリスはとっくに起きてるよ。早くしないと置いてかれちゃうかも」

「やだ・・・」

ふわふわしてる体をなんとか起こした。

走りたくない・・・。


 「よくできました。帰ってから市場に行ってきたんだけど、もうお祭り騒ぎだったのよ。これはおまけしてくれたの」

あたしの口にりんごが入れられた。

ああ・・・しゃりしゃりで蜜がたくさん入ってる。


 「おいしい・・・」

なんか・・・思い出す。

 『仲間だから半分こ、分かち合いだよ』

『仲間・・・うん、ありがとう』

ニルスとの初めての朝、りんごを二つに分けて食べたな・・・。

あれはここまで甘くなかったけど、とってもおいしく感じた。


 「はい、ステラも食べて」

りんごの一切れをステラの口に入れてあげた。

 「分かち合いだよ」

「ふふ、ありがとうミランダ」

優しい気持ちで起きられたな。

よし、着替えて化粧するか!



 闘技場前に着くと、運営と主役たちが待っていてくれた。

みんなビシッとした格好だ。


 「あっちはもう人が並んでる。勝手に屋台まで出てる始末だ」

「まあ明日からは入場料を取ります。今日くらいは大目に見てあげましょう」

「整列に騎士まで駆り出されてる。当日までに順路を作った方がいいな」

「そうですね。次の会議で決めましょう」

影で移動してきたから並んでる様子は見れてない。

ただ、ここまで聞こえるざわめきで簡単に想像がつく。


 「なんにしても、あんたたちを称えに来てんのよ。明日から仕事の依頼が増えるね」

「へっへっへ、その前に今日は飲もうぜ」

「いいね・・・それいいねー!」

「浮かれていないで早く入りますよ」

どんどん楽しくなってくる。

でもまだ途中・・・これよりもっと盛り上がるお祭りにしてやろう。



 「・・・おそらく、仕事を投げ出してきた者もいるだろう」

王様が闘技盤の真ん中で話し始めた。

あたしたちは紹介まで闘士の入場口で待機だ。


 「まだ空いている席が目立つが、当日はすべて埋まるだろう。毎度のことだが、席が足りないと苦情が来ていた。対応が遅くなり申し訳ない」

大きな歓声と拍手が起こった。

今回その苦情はかなり減るはず、見たい奴は全員入れてあげたい。

 「ひと晩で完成したのは、精霊が力を貸してくれたからだ。人前にはあまり姿を見せないが、そなたたちも感謝してほしい」

まあ「全人類の仇」とか言えるはずないし、あれでいいか。


 「おい、出る順番どうする?」

「ライズさんが責任者なんだから先に行ってください」

「いやだ・・・。行くなら最後がいい。噛みしめながら・・・」

「そんなの通りません」

設計士たちは仲良く背中を押し合っている。

誰が最初でもちゃんと全員出てきてくれればそれでいい。


 「ではこれから、称えるべき者たちを紹介しよう。まずは、みなも知っている人間だ」

きた・・・最初はあたし・・・。


 「ハリス、本当にあんたはいいの?」

「はい、動きにくくなるので顔は売りません」

「ちやほやされんのも悪くないよ」

「くどいですね。早く出てください」

ハリスが背中を押してくれた。

ひねくれ者め・・・。



 「英雄ミランダだ!!」「酔ったら抱かせてくれるらしいぞ」「男の精気を吸い取る魔女だって聞いたことある」「だからいっつも胸揺らして歩いてたのか・・・」

あたしが出ると、男たちの声が大きくなった。

 とんでもない噂が流れてる。

有名人は辛いわね・・・。


 「自己紹介は・・・いらないみたいね」

「頼むぞミランダ、私は下がる」

王様はあたしと入れ替わりで闘士の入場口に戻っていった。

じゃあ好きにしていいってことね・・・。


 「今回はあたしも運営に関わってる。王から観光客を呼べるだけ呼べって言われたの!」

なんか・・・みんなに見られてるのって気持ちいいな。

 「だからこの闘技場を作った。精霊はあたしが頼んだら、ぜひやらせてくれって言ってたわ」

気持ちが昂ってきた。

この空気に酔う前に、言っておかなきゃならないことがいくつかある。


 「今回の闘技大会は、三日かけてやることになった。みんな知ってると思うけど、優勝者には闘神の称号が与えられるの!」

歓声が全部あたしに当たる・・・。

 「そして、祭りの十日前には予選を開催する!戦士の街に相応しいものを用意した!今話せるのはここまで、楽しみにしてなさい!!」

まだどうやるのかは明かせないけど、これくらいはいいよね。


 「じゃあそろそろ、この闘技場を設計した奴らを紹介するね。みんなで称えてやってちょうだい!!」

あいつらにも早くこの空気を味わってもらおう。


 あと決めなきゃいけないことはどのくらいあったかな・・・。

まあいいや、今日はこれが終わったら酒場に集合だ。

みんながいるから、きっと全部うまくいくよね。

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