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Our Story  作者: NeRix
風の章 第五部
268/481

第二百五十七話 隠し事【ニルス】

 『・・・ジェイスのことでお話があります。まあ、そちらのやり取りが終わったらでいいですよ』

ハリスの言っていたことが気になる。


 例えば、居場所がわかった・・・それならすぐにでも向かいたい。

今日・・・今日で全部解決。そうなったらシロも自由になれる。

ジナスを女神に渡せば、君の不安は消えるはずだ。


 相手が誰であっても、何であっても守る。

約束・・・ちゃんと果たすよ。



 「・・・一度休みます」

ハリスが溜め息をついたと同時に、オレたちは見知らぬ平原に出た。

・・・一度で精霊の城までは無理だったみたいだ。


 「六人は初めてです・・・疲れますね」

「・・・ん?おい、これ北部にしかねー草だ。あんたの力すげーな・・・」

「女神の力だからな。洗い場まで入ってこれるだけはある」

「洗い場か・・・あたしには雲の上って感じで想像つかねーな」

ハリス、モナコ、ジナスの三人はお互いに思う所は無いらしい。

普通に話す・・・オレには無理だな。


 「そういやお前転移っての使えんだろ?」

モナコがジナスの頭を指でつついた。

 「・・・頭の悪い女だな。今の状態では使えないのだ」

「そうじゃねーよちびっ子。負けるって思った時に逃げればよかったんだ」

「・・・」

ジナスがモナコを睨みつけた。

・・・言われてみればそうだな。


 「たしかに・・・あんたなんで逃げなかったのよ?」

ミランダも乗っかった。

 「あなたとニルス様は死の寸前まで追い詰められていました。・・・実際死にましたね。ジナス様の肩を持つわけではありませんが、勝ちを確信してもおかしくないほどです。いかがですかジナス様?」

ハリスも興味あるみたいだ。


 「・・・私が敗北を確信したのはニルスが立ち上がった時だ。次の瞬間には真っ二つだったな・・・」

「あたしの守護で閉じ込めてたしね。あ・・・シロの精霊封印もあったね」

「つーかさ、洗い場ってとこに来られた時点でやべーって思わなかったのかよ?あたしなら様子見して逃げるぞ」

「私が遥か格下のこいつらから逃げる・・・そんな選択があるわけないだろ」

ジナスは眉間に皺を寄せた。

なるほど、意地みたいなものか・・・。



 「そろそろ行きましょう・・・オーゼ様、ふた手に分かれませんか?」

ハリスが深呼吸をして夕焼けを見つめた。

六人運ぶのはかなり疲れるんだな。


 「いいけど、どう分けるの?」

「私はニルス様とルージュ様を先に運びます。シロ様の気持ちも落ち着くでしょう」

「いいわね、そうしましょう。そのあとに私がジナスを縛って持っていけば、より不安も薄れるだろうし」

たしかにいい考えだ。

先にシロの不安を解いてあげれば、これからの話もしやすいだろう。


 「それとイナズマ様、チル様、コトノハ様、リラさんにも精霊の城に集まるように伝えていただきたい」

「そうね、呼びかけておくわ。じゃあすぐに追いつくからシロをお願いね」

オーゼが大きなガチョウを出した。

なにも無ければ、オレもそっちに乗って行きたいけど・・・今はシロの方が大切だ。


 「待って!あたしもハリスと一緒がいい!」

ミランダがガチョウを見て悲鳴に似た声を上げた。

たしかにミランダも一緒の方がいいな。

 「・・・シロ様がご心配なのはわかりますが、ニルス様に任せていいでしょう。それに置いていくわけではありません」

「そうじゃない!飛んでくのは絶対無理!」

あ・・・そういえばミランダは高いとこダメだったな。

たぶんそっちのことだ。


 「飛ぶのは気持ちいいですよ。オーゼさんのガチョウはふわふわで乗り心地もいいですし」

ルージュがミランダに微笑んだ。

・・・そうじゃない。

 「それに、ハリスさんも負担が・・・」

「あたしもシロが心配なの!!」

「う・・・そんな怒鳴らなくても・・・」

ルージュがオレの背中に隠れた。

いいな・・・かわいい。


 「・・・落ち着けミランダ、ルージュが怯えてる。ハリス、ミランダも運んでくれ」

「ふふ・・・まあ三人なら問題ありませんね。そちらはお願いしますよ」

ハリスは薄ら笑いを浮かべた。

ミランダの弱点を知ったことで気分が良くなったんだろう。


 「そうだハリス、あなたの鞄よ。忘れないうちに渡しておくわ」

オーゼはハリスのために作った精霊の手織り袋を取り出した。

ああ・・・ルージュのと一緒に作ってたっけ。

 「・・・本当に無償でよろしいのですね?」

「あなたじゃないから大丈夫よ。だけど・・・リラを借りることはあると思う」

「彼女が嫌がらなければいいでしょう。・・・感謝します。これでシロ様に鞄を返せます」

「入れた物、忘れちゃダメよ?」

ハリスは何を入れるんだろうな・・・。

とりあえずオレの作品は必ず入れてもらおう。


 「じゃあ私たちはもう行くね。・・・ジナスちゃん、いい子にしてないとダメよ。お仕置きされたくないでしょ?」

「・・・」

「モナコは前に乗ってちょうだい。私が後ろから落ちないように抱いててあげるから」

「じゃあちびっ子はあたしが抱いてやるよ」

あの三人は・・・大丈夫かな?

 「あんたオーゼっつったな。影野郎に渡したのはミランダのと同じ鞄か?」

「そうよ」

「あたしも欲しい・・・」

「ふふ・・・いいわよ。愛を・・・込めてあげる」

まあ・・・大丈夫だろう。



 「あ・・・ニルス!!」

城に着くと、泣きそうな顔のシロがオレに飛びついてきた。

城内はかなり温度が低い・・・張り詰めてたみたいだな。


 「シロ、心配かけたな。あとは全部任せてくれ」

「あたしもいるんだから大丈夫だよ」

「わたしも一緒だよ」

ミランダとルージュも暖かい声をかけた。

やっぱり先に来てよかったな。



 「なにが起こったのか教えてほしい。・・・なんでジナスが急に出てきたの?」

シロは落ち着くと王としての顔になっていた。

全部話す・・・もう隠し事はしない。



 「・・・ずっとオレの中にいたらしい」

あいつが言っていたことをそのままシロに話した。

声に出すとイライラしてくるな・・・。


 「ごめんニルス・・・僕・・・」

「シロのせいじゃないよ。それに今のあいつは何の力も無い・・・なにもできやしないらしい」

「そうそう、あたしかなりバカにしたけど、なんにもやり返してこなかったよ」

「バカに・・・僕、ミランダには敵わないや・・・」

シロはそこまで取り乱したりはしなかった。

オレたちが一緒にいるからかな。

 あとは実際見た時にどうなるかだ。

保てるように少しずつ勇気を渡そう。


 「シロは堂々としていればいい。ジナスが何をしようとオレが守ってやる」

「ニルス・・・うん」

オレが小さくならなければ、カゲロウのこともすぐに話せたんだけどな。

・・・そう、彼女のことも謝らなければならない。



 「カゲロウ・・・」

「うん・・・今はあの家でステラが見ている・・・」

苦しかったけど打ち明けた。

いつかはだったけど・・・辛い。


 「みんな・・・隠してたの?」

シロの目が潤んだ。

 心が痛む・・・。

やむをえなかったわけだけど、ずっと嘘をついてたようなもんだからな。


 「あ・・・夜会に行った日・・・あの家にあった精霊の気配はカゲロウだったんだね・・・」

「ごめん・・・あたしなんとか隠さなきゃって・・・」

「オレもそれでいいと思った。夜会だけを楽しんでほしくて・・・」

「・・・」

「ごめんねシロ・・・やだよね・・・」

ルージュがシロを抱きしめた。

この子は似た苦しさがわかるからな・・・。


 「ルージュ・・・いや、僕だってニルスのこと隠してた・・・やだったよね・・・」

「・・・それはオレのせいだ。シロは悪くない」

「ニルス・・・。でも・・・みんなの思ってる通りだ。お母さんのこと、ニルスのこと、そこにカゲロウがいたって知ったら・・・バニラやニコルさんがいても保てなかったかもしれない・・・」

シロは俯いた。

 誰も責めずに自分の弱さを正面から受け止める・・・強くなったな。

でも今回はそんなことしなくていい・・・。


 「けど・・・もう隠し事は無いよね?」

「無い!あたしの命を賭けるよ」

「わたしも無いよ。・・・嘘じゃないってシロはわかるもんね?」

「オレも無いな」

「・・・わかった」

城内の冷気が引いていく。

シロの心は穏やかになったみたいだ。


 「それにね、カゲロウさんはすごく優しいの。子どもたちが大好きなんだよ」

「本当に以前のカゲロウとは違う。シロと同じで愛があるんだ」

「そっか・・・きっとみんなと一緒にいたからだよ」

シロはまだ完全に信じてはいなそうだ。

 まだ話したことも無いから仕方がない。

だけど、会えばすぐにわかってくれるだろう。


 「とりあえず、まずはジナスだ。・・・オーゼが他の精霊にも来てもらうように呼びかけた。あいつをどうするか・・・精霊たちで決めてほしい」

「うん・・・でも、ニルスたちも一緒にいてほしい」

「当然だ」

カゲロウがいるから消すまではできないけど、何かあれば斬る・・・。


 「シロ、本当にごめんなさい・・・。隠し事してたから・・・自分勝手かもしれないけど、わたしのこと嫌いにならないでね・・・」

ルージュがまたシロを抱きしめた。

さっきだけじゃ伝えきれなったんだろう。

 「本当に気にしないで。教えたいけどできないって・・・僕もわかるから」

「シロは・・・わたしに隠し事・・・もう無い?」

「え・・・うん・・・」

シロが困った目でオレを見てきた。

ごめんね・・・。


 「ふ・・・」

ハリスが鼻で笑った。

許さん・・・。



 「近い・・・もうすぐオーゼたちが来る・・・」

シロが拳を握った。

そんなに構えることないのに・・・。

 「大丈夫だよ。不安ならオレの背中だけを見てて」

「・・・もう充分見てきた。だから僕も強くなる」

シロ、君は強くなった。

もう誰にも負けはしないよ。


 「みんなは部屋で待っててくれ。オーゼが来たら、オレがジナスの首を掴んで持ってくる」

「・・・私もご一緒しましょう。ルージュ様とミランダ様は、シロ様と共に待っていてください」

「二人とも頼んだよ。シロ、今のあいつは恐くないってことをちゃんと見せる」

「うん・・・ありがとうニルス」

オレとハリスは部屋を出た。

シロだけじゃない、チルとイナズマも安心してくれるはずだ。



 「・・・二人きりになりたかったのです。話してよろしいでしょうか?」

門の外に出ると、ハリスが真剣な声を出した。

一緒に来たのは、そういう話のためだったんだろう。


 「・・・ジェイスの居場所がわかりました。あなたの準備ができ次第、お連れしたいと思っています」

「・・・欲しかった情報だ」

オレは拳を強く握った。

なんとしてでも今日の内に終わらせる・・・。


 「みんなの前で言わなかったのはルージュがいたから?」

「当然です」

「助かるよ」

ジェイスとの戦いを知れば、ルージュは必ず「付いて行く」って譲らなかったはずだ。

 ・・・たぶんだけど、オレはそれを拒み切れない。

ハリスはそれをわかっていたから、オレにだけ話すことにしてくれたんだろう。


 「泣かれでもしたらあなたは同行を許してしまうでしょう?守りながら全力で戦えるのならば話は別ですが・・・」

「黒煙の性質がわからない・・・正直厳しい」

「そうだろうと思いました。まあ・・・私も自信はありません」

「お互い様か・・・」

だからこれでいい・・・。

 あの子を戦いには連れて行かない・・・剣を教える時から決めていたことだ。

隠し事が一つ増えたけど、アリシアが助かったあとで償いをしよう。


 「それと・・・ジェイスがテーゼに現れたことはまだ話していませんでしたね」

「え・・・」

「アリシア様の家に来ていました」

「なんだと!!」

大声を出してしまった。

 ・・・いつだ?

なんでハリスはこんなに冷静なんだよ・・・。


 「・・・みなさん無事ですのでご安心ください」

「本当だな?」

「はい。・・・カゲロウのおかげで出自がわかりましたので、精霊たちが集まったらお話しますよ」

みんなは無事・・・とりあえずこれだけでいい。


 「・・・話は変わりますが、ジナス様はあなたの心の内を知っているようです。お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「どういうことだ?」

「この八年、あなたの心と記憶は筒抜けだったようです。私のことをどう思っているのか聞きたかったのですが・・・」

あの野郎・・・。

余計イライラしてきた。

 「・・・ダメだな」

「そうですか・・・まあいいでしょう。さて・・・いらっしゃいましたよ」

オーゼのガチョウが洞窟をすり抜けて飛んできた。

あいつの顔、また見るのか・・・。



 「ガキみたいだけど、鳥に乗って飛ぶっていいな」

「モナコは特別よ。また体に触らせてね」

「そんくらいならお安いご用だ」

モナコとオーゼはずいぶん緩くなっていた。

ていうか、モナコはこれからの話し合いに参加するのかな・・・。


 「じゃあ行きましょう。・・・ジナスちゃん、王の前でちゃんと言うのよ?」

オーゼは振り返り、ジナスに不気味な微笑みを向けた。

 「ジナスちゃん?」

「・・・」

「お返事は?」

「いいだろう・・・」

緩いのはなにか決めごとをしてきたかららしい。

・・・オレが引っ張っていかなくても、これを見れば安心するんじゃないのか?


 「それとハリス、一つお願いがあるの」

オーゼがハリスの胸に触れた。

 「なんでしょうか?」

「カゲロウを連れてきて」

「・・・ジナスと引き合わせて問題ありませんか?」

オレも心配だ・・・。

 「何もさせないから大丈夫よ。ねージナスちゃん?」

「・・・お前たちの望む通りにしよう」

「わかりました。ただ、話し合いは待っていただきたい」

「もちろん大事な話はあなたが来るまで待つ。私たちは・・・ちょっとこの子にお仕置きをしないといけないから」

オーゼは妖しい手つきでジナスの頬を撫でた。

お仕置きか・・・それでみんなの気が済むならさせてあげた方がいい。


 「それであれば私も見たかったのですが・・・」

「あとで記憶をあげる」

「承知しました」

そんなに見たいかよ・・・。

 「それと・・・ステラ様も一緒に来てしまう可能性がありますがよろしいですか?」

「ステラならいた方がいいでしょうね。私、まだ会ったことないし」

そういえば・・・そうだな。


 「お、聖女がくるんならあたしも嬉しいよ」

モナコは気楽だな・・・。

 「・・・すぐにお連れします。では・・・のちほど」

ハリスが影に沈んだ。

 でも、ステラが来るならオレも嬉しい。

・・・抱きしめてしまうかもしれないな。


 

 「じゃあ行こうか。・・・オーゼ、ジナスはオレが持つ」

オレはシロに言った通りジナスの首を掴んで持ち上げた。

これで安心してくれるかな。


 「じゃあお願いね。・・・すれ違った鳥に、ニルスのことは解決したって教えた。シルに伝えてくれるはずよ」

「ありがとう」

シルにも直接お礼を言いに行かないとな。

・・・旅だったらまずは神鳥の森を目指そう。


 でもまずは・・・。


 「行くぞジナス、王がお前を待っている」

「光栄なことだな」

「面倒は早く終わらせたいんだ。素直に聞けよ?」

「抵抗もできない私は従うしかない」

今夜・・・今夜中にすべて終わらせる。

 ジナスの処遇が決まったらルージュを寝かせよう。

そして、ジェイスをここに連れてくる!

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