表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Our Story  作者: NeRix
風の章 第四部
251/481

第二百四十一話 配達【ハリス】

 「見て、綺麗に洗ったの。早く腕を通して」

笑顔のリラさんが私の上着を広げた。

 「ありがとうございます」

「ほら、次はチルだよ。腕を通して」

「チルは別にいらないのに・・・」

ただ服を着せる・・・それだけのこと。

だけど・・・リラさんがずっとしたかったこと。


 「なんか着替えるのって変な気分なんだよね・・・。いっつも勝手に替えてたのに・・・」

「精霊の力じゃなくて、ちゃんと着てほしいの」

「汚れちゃうじゃん」

「そしたら洗ってあげる」

私もこういう光景が見たかった。

だから、もう消えないようにしなければならない。



 「真実を映す眼は、変装とかを見破るのに使われてたみたいだね。これを作った精霊は、人間に説明をしないで渡した。だから実際に手に入れないと、どこまで力があるのかわからない」

食卓につくと、シロ様が情報を教えてくれた。

 本当にひと晩で記憶を集めたらしい。

昨夜はバニラ様と一緒にいたのではないのか?


 「わかりました。とりあえず集めた記憶をいただいてもよろしいですか?ルージュ様たちに手紙を届けるついでに伝えます」

「多いからね」

シロ様の手が私の額に触れた。

憶えの無い光景や言葉が一気に入ってくる・・・。

 アリシア様が襲われた時の記憶はほんの僅かだった。

だからすぐに受け入れられたが、量が多いと飲まれてしまいそうになる。

自分自身のものと混同しないように気を付けなければ・・・。



 「またお手紙を預かりましたら届けに来ますので」

朝食も済み、私たちは早速出ることにした。

今日は行く場所が多い。


 「ありがとう。リラ、ハリスをよろしくね」

「うん、任せて。シロもバニラを気遣ってあげてね」

「あ・・・うん」

シロ様は、はにかみながら頷いた。

 バニラ様がどんな答えを出すのかは興味がある。

いずれにしてもシロ様はすべて受け止めて包んでくれるはずだ。


 「では、二人とも私から手を離さないでくださいね」

「ずっと離さないよ」

「チルは遊びに行く時は離すね」

まずは・・・。



 「こんな場所で育てば、穏やかな人間になりそうなものですが・・・」

影から顔を出し、周囲を見渡した。


 訪れたのは大陸の西の海にある離れ島、地図には「オール島」と記されている場所だ。

戦場の島よりもずっと狭いが、あそこと違って血の匂いはしない。

そのおかげで波音と風が優しく響き、静かに胸の中に染み込んでいくような心地よさがある。


 「育て方によるんじゃない?カゲロウとの触れ合いはそんなに無かったんだと思うよ。シロの記憶の彼女は・・・とっても冷たかったから」

リラさんが空を見上げた。

 その通りなのだろう。

記憶と食料を与え、鍛えていただけ・・・。

寄り添っての教育などは皆無に近かったはずだ。


 『君は人形を出して、僕はそれを相手にしていた。一度も褒めてくれたことはないが感謝している』

ただ・・・それでもジェイスは特別な感情があったようだ。

彼の中だけにある記憶なのだろう・・・。


 「小屋みたいなのがあるよ。そのまま進んで」

チル様が空から下りてきた。

小屋か・・・もしいらっしゃればすべて解決だ。


 『僕が赤ん坊の時・・・乗っていた船が難破し、西の離れ島に流れ着いた』

彼が育った場所・・・姿が無くとも、なにか手がかりを見つけられる可能性はある。



 「残念だったね。長いこと使われてない・・・」

「そうですね。・・・出てから一度も戻ってはいないようです」

狭い小屋の中には、眠るための場所と・・・食事をするためのテーブルと椅子だけが置いてあった。

ここで十五までか・・・。


 「どんな感じだったんだろうね・・・」

リラさんが色褪せたテーブルを撫でた。

 「なんとも言えませんね。ただ、ジェイスは不幸だと思ってはいなかったように見えましたよ」

真意は誰も知ることはできない。

 彼の使った死の呪いは、流すのではなく消滅させるもの。

すなわち、アリシア様の呪いを返せばジェイスは消えてしまう。

 流れないのであれば、記憶を集めることもできない。

すべては彼が胸に抱いたまま・・・この世界から無くなってしまう。


 「手がかりは・・・」

「ありませんでしたね」

収穫は無し、教団の幹部を追うしかないか・・・。

メルダ様に「早くしろ」と言っておこう。

 「次はどこ行くの?チルはもちもちのパンが食べたい」

「そうですね・・・ではテーゼに行きましょう。手紙の届け先が固まっていますからね」

「じゃあバートンのお店がいいな。あいつじゃなくて、ジークが作ったやつね」

「チル・・・そんな言い方やめなさい」

ここにはもう用がない、配達を優先しよう。



 「あ、ハリス。ちょうどよかったわ、あなたにも解毒薬をあげる」

商会に入るとステラ様が出迎えてくれた。

この方はなにも不安が無さそうだ。


 「解毒・・・本当ですか?おかしな薬ではないでしょうね?」

失礼なのは承知の上で聞いた。

いや、聞かずにはいられなかった・・・。

 『下品な大きさですが、揺れるのを見ると揉みたくなりますね。何度そうしてやろうと思ったことか・・・』

・・・思い出すだけで憤る。

きのうのニコル様の薬は、私の心に大きな傷を付けてくれた・・・。


 「大丈夫よ、近付くのなら事前に飲んでおいてもいいわ」

「感謝します・・・」

「あと、ニルスたちの分よ。・・・絶対安全っては言えないだろし」

「承知しました」

まあ・・・ステラ様の薬なら信用してもいいでしょう。


 「ちなみに・・・真実を話してしまう薬・・・あなたは作れますか?」

私は小瓶をしまった。

ただ・・・確認しておきたいだけ・・・。

 「真実・・・作れるけど作らない」

「そうですか・・・ニコル様にいただきました。自白させるために使うつもりです」

「え・・・あの人作れるの?管理は厳重にね、出回ったら大変なことになる」

「はい。そのつもりです」

当然だ・・・。


 「あなたが伝えたのですか?」

「・・・ずーっと昔だけど、旅の薬師に弟子以外には伝えない約束をして色んなお薬の調合書を渡したことがある。たぶん・・・それかな」

「なるほど・・・」

恐ろしいものを渡してくれた・・・。

 「当時の騎士にも認められたのですか?」

「うん・・・お薬で動けなくしてた。まあ・・・私も会ってもいいかなって思ったから」

「つまり、製法を知っている人間は多くいる可能性があると・・・」

「今どうなのかはわからないけど・・・でも出回ってる気配は無いでしょ?弟子たちにも危険性とかをちゃんと伝えてくれてたんだよ」

・・・たしかに裏でもツキヨでもこの薬は手に入らない。


 『これの作り方を知ってる人間は、たぶんだけどこの世界でボクともう一人だけ・・・だと思う』

あれを信じるしかないか・・・。

もう一人・・・おとなしくしていればいい。



 「あ、ハリスさん。今から会議なので出席してください」

ステラ様とのお話が終わるとノア様が入ってきた。

会議・・・気分ではない。


 「私は・・・」

「大事な会議なんです」

仕方ありませんね・・・。


 「ステラ様、チル様はもちもちのパンを食べたいそうです。お願いしてよろしいでしょうか」

「バートンのとこだよ。買ってきてみんなでお昼にしよ」

「いいよ、じゃあリラも一緒に行きましょ。微笑みのパンってお店なの。店主は騒がしいけど、弟子の子は柔らかくて真面目なのよ」

「初めて行くお店って緊張しますね・・・。ご案内よろしくお願いします」

三人は楽しそうな顔で談話室を出て行った。


 私もそっちがよかったが、切り替えて少しだけ仕事をしよう。

そうだ・・・仲間ならバッジを付けて参加するか。



 「よう、早く座れよ」

会議室に入るとティム様もいた。

・・・これは意外だ。


 「ヴィクター様に付きっきりかと思いましたよ」

「俺は配達もあるからな。けど、これが終わったら行く」

「元戦士たちは役に立っていますか?」

「まーね」

死線を越えて来た者たちが教えるのであれば、ヴィクター様が纏っていた甘さは消えそうだ。

それにしても・・・みなさん暇なのですね。

 「お話しする機会がありませんでしたが、懐かしい剣を背負っていますね」

まあいい、せっかく会えたから話を聞きたい。


 「・・・知ってんのか?」

「はい、私とケルト様・・・ニルス様たちのお父様ですね。大切な思い出のあるものです」

「へー」

「あなたの手に渡っているとは思いませんでした」

いつの間に手に入れたのだろう?

たしかにティム様が持っていていいものではあるが・・・。


 「もしや・・・スウェード家と和解されたのですか?」

「あー?バカ言ってんじゃねーよ!」

予想通りの答えが返ってきた。

 「失礼・・・わかっていて聞きました」

「ふざけてでもやめろ」

「はい」

スウェード家はティム様以外好きではない。

おそらくケルト様も・・・だからこの剣がティム様に渡っていることを知ればきっと喜んでくれただろう。


 「・・・つーかお前、俺のこと知ってたのか?」

「その剣のこともあり、スウェードと聞いた瞬間から知っていました。・・・調べさせてもいただきましたよ」

「気持ちわりーやつ・・・」

ティム様が口元を緩めた。

怒ってはいないようだ。

 「私だけでなく、ミランダ様のお母様もあなたを調べていましたよ。事情を知り怒っています」

「暇な奴ら・・・」

「もっと早く気付いていれば、あなたを引き取るつもりだったらしいです。ミランダ様の弟になっていた今があったかもしれませんね」

「俺は・・・今でいいよ」

・・・私もそうだ。


 「で・・・この剣は?」

「それは私の依頼でケルト様に作ってもらったものなのです」

「お前が・・・。これは闘技大会で、ルージュが自分を賭けて勝ち取った。あいつらには持っててほしくねーんだってさ」

凪の月か・・・。

見ておきたかったですね。



 「・・・それで、とりあえず俺が持ってる」

ティム様は簡単に経緯を教えてくれた。

 「使わないのですか?」

「シロガネの方がいい・・・。俺はルージュの気持ちを背負ってるだけだ」

ニルス様はひと目で父親が作った剣だと見抜き、それを知ったルージュ様が賭けを持ち掛けて勝ち取った。

・・・いずれは返すつもりなのだろうか?


 「そのままがいいと思います。私はあなたに持っていてほしい」

「・・・これ、重いんだよね」

「あなたが相応しいのです。・・・名前を知りたくはありませんか?その剣に込められた思い・・・スウェード家には伝えていませんでした」

今の持ち主がティム様ならば教えよう。

できれば返してほしくはない。

 「・・・家長の剣じゃねーの?」

「ケルト様は、そのようなつまらない名前を付けません」

「なんて名前だ?」

気になるのですね。


 『名前は伝えなくていいよ』

だから言う通りにしたが、ティム様になら構わないでしょう。


 「その剣は、ほ・・・」

「あの・・・会議なんです。あとにしてください」

ノア様が手を叩いた。

 「・・・」「・・・」

シリウス様とエスト様もじっとこっちを見ている。

そう・・・会議で来たのだった。


 「失礼しました。ティム様、のちほどにしましょう」

「憶えてたらでいーよ」

そこまで興味は無かったようだ。

 「しかし、代表がいないのに会議ですか・・・」

剣の名は、また機会があればにしよう。


 「どちらかと言うと、シリウスが色々考えてくれたことを詰めていくって感じですね」

「お世話になるので、できる限り役に立ちたいだけです。では・・・始めますね」

シリウス様が立ち上がり、板書を始めた。

・・・いいことかもしれない。

 ミランダ様はいずれ旅に出る。そうなれば、残った方たちで商会の運営をしなければならない。

私も協力はするが、今の皆さんがどの程度かは把握しておく必要がある。



 「・・・以上が考えていることです」

シリウス様が話し終えた。

 場を仕切ることができる人間ではある。

気の弱そうな王子としか思っていなかったが、頭は回るようだ。


 「・・・なぜ孤児院で石鹸と美容水を作っているのですか?その話は私が動けない間に決まったことのようなのでわかりません」

私はシリウス様の目を見つめた。

 質問への回答の仕方も見せてもらおう。

端的にわかりやすく・・・。


 「知っている記憶を渡しましょう」

カゲロウが私の額に触れた。

許可も取らずに・・・。

 「・・・今後は、渡してもいいかと聞いてからにしてください」

朝にシロ様から頂いた記憶もまだごちゃごちゃしている・・・。

私の意図を察せとは言わない、せめて反応を見てからにしてほしかった。


 「・・・事情はわかりました。とりあえず各地の孤児院を拠点にするということですね」

済んでしまったことは仕方が無い。

話しつつ別な所を詰めてみよう。

 「はい。それにハリスさんはとても優秀だとみなさんから聞いていますので、意見をいただきたいのです」

「大したことをした記憶はありませんね」

「シリウス、気にしなくていいよ。ハリスさんは謙虚なだけだから」

「そうそう、テーゼ以外のお客さんは、ほとんどハリスさんが取ってきたんだよ」

ノア様とエスト様が微笑んだ。

 断られて嫌な思いをするような所には行っていない。

必要としていて、周りに広められそうな方に勧めただけだ。


 「つーかミランダも仕事のことではハリスに逆らわねー。商会で一番やべー奴だな」

「言い負かされるとわかっているからでしょう」

「それもあるだろーな。あ・・・わりーなシリウス。おい、早く意見言えよ」

「そうですね・・・」

正直シリウス様の案は採用できない。

・・・教えるのではなく気付かせるように話すか。


 「孤児院を使う以上、細心の注意が必要です。やるのであれば悪い評判が立たないようにしなければなりません」

「評判・・・」

「考えていなかったのですか?」

「すみません・・・どういうことでしょうか?」

・・・まだそこまでは至っていないか。

考えてみればまだ子ども・・・だが、しっかり学べばすぐに吸収してくれるはずだ。


 「あ・・・たしかにそうね。そうなった時、真っ先に嫌な思いするのは子どもたちになっちゃう」

エスト様は私の意図がわかったようだ。

付き合いが長いこともあって、こういうところは信頼できる。

 「・・・その可能性があるのならば私は反対です。泣いてしまう子が出ることは許しません」

カゲロウも気付いたか。

 今の彼女は、本当に裏切る心配は無さそうだ。

ここにいるみなさんのおかげなのだろう。


 「あ・・・なるほど、そこまでは考えていませんでした。こちらに落ち度は無くても、気に入らなければ苦情を言いたくなる人もいますよね・・・」

シリウス様が俯いた。

話の流れから問題点を察したか・・・気の利く方だ。

 「カゲロウ様の仰ったように泣いてしまう子どももいるでしょう」

「そうですよね・・・」

「お客様からすれば、子どもを盾にするような商会に映ります。そういった所から買いたいと思うでしょうか?まあ、私は物が良ければ買いますが、お客様のすべてがそうではありません。悪質な方だと、おかしな噂を流したり・・・」

「はい・・・視野が狭かったと思います」

そうでもない。シリウス様もヴィクター様と同じで青いだけ、こうやって揉まれていくことで色付いていく。

それに他者の意見をしっかりと聞けるので期待はできそうだ。


 「おそらくミランダ様も同じことを考えたと思います。しなかったのは、私が話したような考えに至ったからでしょう。彼女は強欲ですが、その辺りはしっかり考えています」

「それはあるかも・・・孤児院は製造だけでいいって感じだったし」

「なるほど・・・僕は利益だけを追ってしまったわけですね」

間違いもすぐに受け入れる。

 将来、ミランダ様が旅に出たあとを任せてもいいかもしれない。

ノア様たちがしっかりと支えれば、進路を間違うことはないだろう。


 「気にすんなよ。商会のために頑張って考えたんだろ?」

ティム様が優しい声をかけた。

そう、こういう支えも必要だ。

 「はい・・・そのつもりでしたが・・・」

「今日ダメだったらまた明日だ。ヴィクターはそうやって頑張ってる。そうすりゃ少しずつ変わってくるから焦んなよ」

「ティムさん・・・」

しかし・・・シリウス様は来年から精霊学のアカデミーに通うはずでは?

こちらに本気になって、勉学がおろそかにならなければいいのだが・・・。


 「・・・ノア様とエスト様の説明不足でもありますよ。なぜ店を出さないのかも教えていないのですか?」

あとはこちらにも再教育が必要だ。

代表の考えを忘れかけている可能性がある。

 「ああ・・・まだでしたね。頭の中にはあったんですけど、シリウスが意外と色々考えてて嬉しくなったんです」

「だから変に否定とかはしないで、ハリスさんに託したんですよ」

二人はわかっていたか。

私に汚れ役をやらせるつもりだったというわけですね・・・。


 「ちなみに店を出さないのはなぜですか?なにか事情があるにしても、お祭りで露店くらいはできるのではないでしょうか?」

シリウス様はもう立ち直っている。

教えるのは私がやるか・・・。

 「まずは信用できる方だけに売り、そこからは人づてで広めていくと立ち上げの時に決めました。シリウス様のお母様もその一人ですね。試供用をたくさんお届けしていたはずです」

「はい・・・その理由を知りたいです」

「品質に問題はありませんが、なにかにつけて苦情を入れる方はどこにでも一定数います」

「つまり・・・客を選ぶようにしたのですね?」

理解が早い。


 「その通りです。納得し、自らの意思で購入している・・・そういったお客様だけを相手にするためです。それでも意味不明な苦情があれば、取引はそこまで・・・嫌なら買わなくて結構ということですね」

「帳簿を見ましたが、それでも取引数は増えていますね。美容水は恐ろしい増え方だと思いました」

「ものがいい、聖女の調合という付加価値・・・この二つですね」

「ありがとうございます。・・・まずはミランダさんの理念を勉強するべきでした」

今は大丈夫だが、その代表のおかげで苦情を生んでいたこともある。


 『半年以上待ったお客様には、わざとシロ様かチル様に届けさせていますね。・・・あの見た目ですから文句も言われないようですが、不満が残れば良くない評判が広まりますよ?』

『・・・石鹸や美容水もです。こちらはティム様にも頭を下げさせていますね。あなたのためかはわかりませんが、見ていて気の毒です』

商品が届かない・・・あの時は苦労した。

うまくいきすぎてミランダ様も調子に乗ってしまったのだ。

 『・・・わかった、手袋は一度締め切る。石鹸と美容水も取り違え多いから整理します』

たまにおかしくなる時はあったが、私の意見は聞いてくれるようで助かった。

・・・いや、聞かせたのだ。


 「けど、各街ごとに拠点を作るっていうのはいいと思うんだ。ミランダさんもそのつもりだったし」

「そうそう、そこはシリウスと同じで、孤児院出身の子を雇うって言ってたよ」

ノア様とエスト様がシリウス様の肩を叩いた。

慰め係、いい役は率先してやるのか・・・。

 さっき出た問題点に、二人は最初から気付いていた。

私を汚れ役にせずに、説明してあげればいいものを・・・。

 「わかりました。とりあえずミランダさんが戻ったら色々お話を聞いてみます」

シリウス様はまだ頼りないが向上心がある。

地方領主などもったいない。


 「そういえば・・・怒らないんですね」

エスト様が不安そうに私を見てきた。

怒るような話題は無かったはず・・・。

 「なにがですか?」

「孤児院・・・勝手に大金動かしたので・・・」

「この程度・・・すぐに取り返せますよ」

普段なら止めていた。

 億まで使ったとは思わなかったが、どうにでもなる。

この程度で傾くようには作っていない・・・。



 「みなさんにシロ様から手紙を預かっています。もし返事があるなら書いてから呼んでくださいね」

会議が終わり、ここに来た目的を伝えた。

時間は取られたが、愉快な話し合いができたのでよしとしよう。


 「わかりました、ありがとうございます」

「そしてまとめてでお願いしますよ」

これは念押しをしなければいけない。

届けて次の日に別な方・・・そんな無駄なことを避けるためだ。


 「ねえハリス、ミランダのところにも行くの?」

ステラ様が紅茶を出してくれた。

 「こっちがジークのやつ、バートンのと全然違うでしょ?」

「うん・・・おいしい・・・」

「あいつ弟子に負けてて恥ずかしくないのかな?」

「チル・・・そういうのやめなさいって言ったでしょ」

リラさんとチル様の案内はしっかりやってくれたようだ。


 「行くよね?解毒薬も渡してほしいし」

「そうですね、手紙も届けます。それと・・・もう昏の月、情報の共有もしておこうかと」

「困ってたら助けてあげてね」

ステラ様の雰囲気が変わった。

早くニルス様に会いたいのか・・・。


 あなたたちへのツケはもう無い、しかし貰いすぎてしまった。

だから少しずつ返していくつもりです。

まあ、本当に困っていればですが・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ