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Our Story  作者: NeRix
風の章 第四部
245/481

第二百三十五話 その未来【ヴィクター】

どうでもいい話 20


このお話が一番文字数少ない。

 あれ・・・俺、ベッドにいる・・・。

瞼を少しだけ開くと、まだ薄暗い自分の部屋だった。

窓の外は少しだけ白んでいて、夜明け前なのがわかる。


 えっと・・・カゲロウさんとジェイスはどうなったんだ?

ここにいるってことは、誰かが助けてくれた?

 体に痛みや違和感は無い。

ぶっ刺されたとこも治ってる・・・。

でも服はそのまま・・・。



 「よう、起きたか」

天井を見上げていると、一度も使ったことの無い机から声が聞こえた。

ああ・・・この人も無事だったんだな。


 「ティムさん・・・」

「起きたらおめーと同じベッドだった。冗談じゃねーよ気持ちわりー」

ひどい・・・。

俺は記憶に無いからなんも思わない。

 ていうか、誰が運んでくれた?

カゲロウさんが黒煙を晴らしたあと、ジェイスからまた別な毒を入れられて・・・そこから記憶が無い。


 「あの、ジェイスは・・・」

俺は体を起こした。

状況を知りたい。

 「・・・逃げたってさ。下に知らねー精霊がいた。そいつから記憶を貰ったよ。説明すんのだりーからおめーもそうしてもらえ」

「はい・・・」

その知らない精霊が助けてくれたのか?

 あ・・・ベルを鳴らしてたな。

ハリスさんも来てくれた?


 「とりあえず今は安全だ・・・俺から言えんのはこんくらいだな」

「そうですか・・・」

俺もあとで記憶を貰おう。

でもまずは・・・。

 「ティムさん・・・」

「・・・なんだよ?」

「助けに来てくれてありがとうございます・・・」

この人が間に合わなければ俺はヤバかった。

言葉だけじゃ失礼に思えるほどの感謝がある。


 「・・・いらねー」

ティムさんは優しい目をしていた。

 「え・・・」

「一人でよく戦ったよ」

褒められた。

・・・やべー、泣きそうだ。


 「それより、どうだったか話せ。生きてんなら次に活かす」

ティムさんが椅子ごとベッド脇に来てくれた。

次・・・。

 「えっと・・・最初は守りに徹してました。向こうも本気じゃなかったんで・・・」

「最初?攻めたのか?」

「そうです・・・。奇襲をかけました。それであいつの両脚を切り落としたんです。でも・・・黒煙に包まれたと思ったらくっついていました」

あれでいけたと思ったんだけどな・・・。


 「脚・・・おめーがどうやって落としたんだよ?」

「これです・・・」

俺は服を捲って肌着を見せた。

これがあったから・・・。

 「ルージュが作ってくれたものです。斬撃を防げるくらい強い生地だと」

「それは知らねーな。・・・どっちにしろ脚は治ってたろ。人間だとはもう思わねー」

人間じゃないか・・・たしかにそうだな。

黒煙だってどうにもならなかった。


 「俺・・・勝てないって思いました。ティムさんがもう少し遅かったら死んでましたね・・・」

「ふーん・・・俺は自分が負けるとか死ぬなんて思ったことは一度もねーからわかんねーな」

そりゃあんたは強いから・・・。

 だからこの人が来たとわかった時、かなり安心感があった。

ああ・・・もっと、もっと強くなりたい・・・。


 「ティムさん・・・お願いがあります」

なるしかない・・・。

 「・・・わかってるよ」

「え・・・」

ティムさんは立ち上がって窓を開けた。

少し冷たい風・・・そろそろ陽が昇る。


 「あの野郎・・・俺ら二人の攻撃を捌いてやがったな」

「そうですね・・・格上でした・・・」

「ハリスは、ニルスじゃなきゃ無理だって言いやがった」

ああ・・・たしかにそうかもしれない。

ニルスさんがあの場にいたらどうなっていたんだろう・・・。


 「・・・実際に打ち合った俺から言わせると少し違う」

ティムさんは拳を握った。

 「あいつやアリシアと同じくらいだ。負けるとは思えねーけど、刺し違えて・・・そんな感じだな」

「ニルスさんでも・・・」

「余裕でっていうのは無理そうだ。だから・・・俺たちも必要だ」

この人がここまで言うんだから本当なんだろう。


 「俺は・・・まだまだですね」

「そうだな、弱い」

「アリシアさん・・・弱い男は嫌いらしいですね」

気持ちまでそうなってくる。

こういうの嫌なのに・・・。


 『アリシアは、弱い男にルージュはやりたくないって言ってた』

死ぬかもって間際に浮かんできた言葉。

 気持ちが弱くなっていたこともあったけど、俺はルージュに相応しいわけじゃないってのは今の状態でもそう思う。

だから・・・強くなりたい。


 「誰がそんなこと言ってたんだ?・・・この剣、俺には合わねーな」

ティムさんがクロガネを抜いた。

そんな興味無さそうだ。

 「ルルさんから・・・アリシアさんは、弱い男にルージュはやりたくないと・・・」

「ああ・・・たしかにんなこと言ってたな。嫌いまでは聞いたことねーけど」

「やっぱりそうですか・・・」

「あはは、バカかおめーは」

ティムさんは俺の不安を笑い飛ばした。

なんだよ・・・。


 「それはアリシアの考えだろーが、ルージュがそう言ったのかよ?」

「言ってないですけど・・・」

「お前らが今どうなってんのかは知らねーけど、そこにアリシアは関係ねーだろ。・・・ほらよ」

俺の前に封筒が置かれた。

「ヴィクターへ」って書いてある。


 「ルージュからだ」

「俺に・・・」

「お前しか読めねーもんだな。しばらく帰れねーらしいから書いたんだろ」

封筒の裏には「ヴィクター以外は絶対に開けないでください」と書かれていた。

しばらく帰れない・・・そうなのか。


 「・・・」

ティムさんは窓の外に目を向けた。

「開けて今読め」ってことらしい。



 まず書いてあったのが家を出てからの事だった。


 ハリスさんの件が解決してミランダさんと合流したのはいいけど、領主の使用人として働くことになったらしい。

 だからしばらく帰れないわけか・・・。

いきさつはかなり簡単に書かれていて、残りはすべて俺への想いだ。


 『いつも想っています。ユウナギもそうだと嬉しいです』

『帰ったら何度も合図を出します。すぐに気付いてね』

『早くみんなの前でユウナギって呼べる日が来るといいな。会えなくて寂しいけど、なるべく笑顔でいてね』

・・・俺は何を考えていたんだろう。

ティムさんが言ったように、大事なのはアリシアさんのじゃなくてルージュの気持ちだ。


 『ゴーシュはとっても綺麗な街でした。いつかわたしの騎士に手を引かれて一緒に歩きたいです』

『ニルス様が教えてくれたんだけど、ロレッタっていう温泉の街は、湯煙と街明かりが素敵なところみたいです。そこにも一緒に行こうね』

最後に書かれていた想いが心を焦がした。

ルージュが思い描いている未来には俺がいる・・・。



 「ほらよ。泣いてる暇ねーだろ?」

ティムさんはクロガネを俺に持たせてくれた。

 「はい・・・」

ぼやけた視界に刻まれた言葉が映った。


 『君を守る力』

・・・もっと強くなれそうだ。

ルージュ、いつもお前を守っていける・・・その未来を俺は目指そう。

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