第二十二話 臆病者【ニルス】
『ニルスは、大人になったら何になりたいんだ?』
始まりはあの時だったんだと思う。
『オレは旅人になりたい。色んなところに行くんだ』
オレはちゃんとやりたいことを伝えた。
『強くなければダメだ。それなら・・・母さんが鍛えてやろう』
母さんも協力してくれると思っていたけど、実は最初から違ったんじゃないかな。
たぶん、初めからオレを戦士にするつもりだったんだ。
そして引き返せなくなったのは、十歳の時・・・。
『ニルスと一緒に戦えれば楽しいだろうな。そうなってくれたら母さんは嬉しい』
『え・・・あの・・・わかった・・・そうする』
もう戻れない気がしたっけ・・・。
嫌な予感はしていたけど、ずっと気付かないふりをしていた。
どうして、あの日酒場で「嫌だ」って言えなかったんだろう。
そうだ・・・あれからセイラさんに会いに行くことも無くなったんだ。
ジーナさんの家に行くことも・・・。
思い描いていた未来から色が無くなって、回っていた世界の心臓が止まった。
心で燃えていた火は、それと一緒にすべて消えてしまったんだと思う。
これから自分はどうなっていくのか・・・。
そんなことを考えていた時に光が生まれた。
それは妹のルージュ・・・。
旅に出たい気持ち・・・まだほんの少しだけ灰の中にある。
でも、オレがいなくなったらルージュはどうなる?
母さんは同じようにあの子を鍛え始めないか?
それが心配だった。
「大丈夫だよ・・・」
この子はオレが守る。
ルージュには好きなことをさせてあげたい。
そのかわりオレは、嫌なことでも我慢してやろう。
◆
水の月、十三歳になってしまった。
アカデミーも終わり・・・。
「ニルス、明日から一緒に訓練場に行こう」
家に帰ると、嬉しそうな母さんがいた。
まあ・・・そうなるよな。
『とりあえず十五までは遊んでようかな。まあ、許してくれたらだけど』『わたしは、精霊学のアカデミーに行きたいってお父さんたちに話してみるんだ』『俺は仕事させられると思う。けど、ちょっと説得してみようかな』
同い年のみんなは、これからのことを親と話し合って決めるらしい。
仕事をどうするか、もしくはもっと知識を付けるために上のアカデミーに通うかの話だ。
だけど、オレの家でそれは無かった。
母さんから将来の話をされることも、オレからすることも・・・。
「明日から・・・わかった」
言う通りにしているのは、産んで育ててくれた母さんを裏切りたくない気持ちがあるからだ。
「・・・ルージュは?」
「連れて行って大丈夫だ」
「そう・・・よかった」
そして、それよりも大事なこと。
ルージュにはオレが付いていなければいけない・・・。
ああ・・・明日からか・・・。
訓練場でも、どうせ今までと一緒なんだろうな。
変化があるとは思えない、他の戦士がいるってだけ・・・。
◆
「おおーニルスだ」「アカデミーも終わりか。・・・早いな」「いい男になりやがって」「ニルスくーん、お昼は一緒に食べようよ」
訓練場に入ると、戦士たちがオレに期待の目を向けてきた。
この感じ、今日だけだといいな・・・。
「ニルスはお前と違って十二からじゃないんだな」
「ルージュを任せていたので」
母さんは胸を張って答えた。
ルージュがいなければ、十二からここに来ることになっていたのか・・・。
「おい、どんくらい鍛えたんだよ?ずっと隠してやがったな」
「気になるならやってみてください」
勝手なことを・・・。
「俺もどのくらいか見たい」「私もやらせてください」「アリシア、借りていいのか?」
みんな母さんに聞いている。
・・・オレの意思は関係ないんだな。
「ニルス、何人かがお前と戦いたいらしい」
「聞こえてたよ。・・・よろしくお願いします」
すぐに終わらせればいい。
鞄にはルージュに読んであげる本を持ってきた。
強ければ、誰も文句を言わないはずだ。
◆
「うう・・・冗談じゃねーぞ・・・」
「大丈夫ですか?」
「ああ・・・すげー蹴りだな」
「・・・鍛えたので」
試しにと戦わされた大人たちは、オレよりもずっと・・・ずっと弱かった。
戦場って、これくらいで出られるんだ・・・。
「ニルス、俺とも勝負してみるか?」
「はい・・・よろしくお願いします」
スコットさんが申し出てきた。
・・・あんまりやりたくない。
「さっきまでの奴らと一緒にするなよ?」
「・・・はい」
「よーし、もうちょっと真ん中行こうぜ」
会わないようにしていたけど、前と変わらない接し方だ。
正直、誰とやっても同じ気がしていた。
でもスコットさんは違う。アリシア隊にいるだけの実力がある人だ。
そして、友達だから・・・。
◆
「いやーさすがだなニルス、もう少しでやられるところだったよ」
切っ先がオレの首元に当てられた。
「オレよりも剣を振っていた時間が長いんです。その差だと思います」
合わせるの面倒だな・・・。
勝たせた。本当は勝てた・・・。
でもこれでいい。注目されるのは苦手だし、戦いのことで褒められたり期待されるのはイラつく・・・。
「ほら」
「・・・ありがとうございます」
オレはスコットさんが出してくれた手を掴んで立ち上がった。
「・・・ニルス、未知の世界はもういいのか?ジーナさん寂しそうだぞ」
耳元で囁かれた。
そんなわけ・・・。
「ごめんなさい。もう・・・いいんです」
「・・・ニルス?」
いい・・・これでいい・・・。あれを見てもしょうがない。
もうここまで来てしまった。
今さら引き返せば母さんが悲しむ・・・。
◆
「ルージュ、あっちで重そうなのを持ち上げてるのがイライザさん。ずっと向こうでみんなに話をしてるのがカーツさんだよ。作戦の打ち合わせかな?」
ルージュを抱いて訓練場を眺めていた。
やっぱり、強ければこうしていても何も言われないらしい。
「凪の月の戦場に出すことはできない。アカデミーも出たばかりだしな」
「私はすぐに出していただけたではないですか」
後ろから、また勝手な話が聞こえてきた。
母さんはオレを次の戦場に出したいらしい・・・。
「お前は戦士になって何年だ?・・・あとふた月を切っている。すでに千人は選出済みだ」
「実力を見たでしょう!私の時と同じように、誰かと入れ替えていただくわけにはいかないでしょうか」
母さんは十三になってすぐに戦場へ出たって聞いた。
今のオレと同い年、どんな気持ちだったんだろう・・・。
「私の隊は、ひと月を切っていてもねじ込んでくれたではありませんか」
「ニルスを同じ扱いにはできない。それに・・・焦るな」
「・・・わかりました。でも・・・その次はお願いします」
べモンドさんの判断は本当に嬉しかった。
けど・・・オレが戦場に出なければならないのは一緒らしい。
ああ・・・来年の殖の月か。
◆
季節は流れて、宵の月になった。
「ニルス、君を次の戦場に出す。まずは死守隊に入り、戦場がどんなところか見るといい」
べモンドさんが直接伝えに来てくれた。
死守隊か、母さんもそうだったって言ってたな。
「見てるだけで・・・」
「そうだ。まあ・・・前線が突破されたら戦うが、君は私の指示があるまで動かなくていい」
「・・・わかりました」
なにも起きなければ、ただ立ってるだけでいいらしいから気が楽だ。
前線なんか絶対に行きたくない・・・。
◆
日々が瞬く間に流れていき、種の月に入った。
戦場までひと月を切っていて、みんなの表情も変わってきている。
「ニルス、夜は何が食べたい?」
「・・・なんでもいい。早く帰ってルージュに本を読んであげたい」
「じゃあ、走って帰ろうか」
母さんと一緒にいる時間が増えていた。
もう、逃げる場所は無い。
◆
「お前は死守隊も経験して、自分から前線への希望を出した。・・・気が変わったのか?」
「申し訳ありません。やはり恐くなってしまいました・・・」
訓練場の出入り口近くで、べモンドさんと名前も知らない戦士が話していた。
辞退を願っているらしい。
あの人が羨ましい・・・。
素直に自分の気持ちを伝えている姿は、たとえ逃げるためだとしてもオレより強い心を持っている。
「出たい人間は多くいる。だから誰もお前を責めないしさせない」
「ありがとうございます。あの・・・大地奪還軍からは除名ですか?」
「いや、実力はあるので待機兵だな。せっかく鍛えたんだ、勇気が出たら教えてくれ」
「ありがとう・・・ございます」
その人は、とても安心した顔で頭を下げた。
「それと・・・戦士の報酬を返金しなければならない。戦場に出る前提での金額・・・待機兵との差額だ」
「・・・はい、わかっています」
「それと、ただいられるだけでも困る。ダラダラ待機兵を続けていると判断されれば除名だ」
「はい、次の戦場までに勇気が出なければ奪還軍を去ります」
たしかに当然のことだな。
ていうか、お金なんかは使ってしまってたらどうするんだろ?
「それ以外はなにも心配することはない。イライザにも話したんだろ?怒っていたか?」
「いえ・・・隊長は、迷いがあるならこうしろと・・・ウォルターさんも・・・」
「それでいいのさ。・・・勇気が湧くことを願っている」
「はい、ありがとうございます。では、失礼します」
辞退を願った戦士は、穏やかな雰囲気で帰っていった。
オレも素直に言えばいいのか?
正直な気持ちを話してもいいんじゃ・・・。
◆
「なんだいたのか・・・よくあることだ。ニルスもなにか思うところがあれば私に相談してくれ」
べモンドさんは優しく教えてくれた。
せっかく鍛えて千人に選ばれはしたけど、それでも辞退者は毎回出るらしい。
・・・母さんもいる。今打ち明けてもいい雰囲気なんじゃないか?
がっかりさせるかな・・・。でも信じてみてもいいよな。
「あの、オレは・・・」
「ニルスは大丈夫です」
母さんに遮られた。
ああ・・・そうか。
「臆病者は必要ない。ニルスもそう思うだろ?」
「・・・そう・・・だね」
この人に、今出て行った戦士やオレの気持ちは一生わからないだろう。
「アリシア、そんな言い方をするな」
「え・・・すみません・・・」
力や技術じゃない、心が弱い者の気持ちは理解するつもりもなさそうだ。
「待てよ・・・べモンドさん、かわりにニルスが突撃隊として出るのはどうでしょう。この子は強い、きっと活躍できます」
「なにを言っているんだ・・・」
べモンドさんはさすがに険しい顔をした。
普通じゃないことを言ってるんだから当然だ。
「アリシア、お前もそうだったが初めての者は死守隊で私が見る。ニルスがさっきの者のようになったらどうする?」
そう、さすがにそれはないはずだ・・・。
「ニルスはああなったりしません。母である私が保証しましょう」
「・・・どう保証できる?」
「私が鍛えたのです。逆に聞きますが、まだ十三のこの子に勝てる戦士は何人いますか?絶対に前線に置くべきです!」
「お前の言いたいことはわかるが・・・」
なんとなく感じた。
べモンドさんは、この言い合いに負ける・・・。
◆
「彼はイライザの隊だった。ウォルターも一緒だからそこに置く・・・。だが戦わせるかはあいつらに判断させるからな」
「ありがとうございます!」
勝手な熱を吹いた母、そしてそれに負ける軍団長。
オレの意見はどこにもなかった。
・・・もういい、好きにすればいい。
初めての戦場で、死者が一番多く出る突撃隊・・・。
雷神の息子でなければ、通るはずの無い話だったんだろう。
前線・・・突撃隊・・・。
訓練場で戦うのとはわけが違う。
だから・・・恐い。
◆
もっと強くなるしかなかった。
もっと心を殺すしかなかった。
恐怖に負けないように。
折れてしまわないように。
母を裏切らないために。
見捨てられないために。
ルージュだけは守れるように・・・。
たくさん溢れてくる思いは、誰にも言えないまま・・・。
オレは・・・このままいくしかない・・・。
◆
戦場まであと三日、時間の流れがとても早く感じた。
「ルル、力が付くものを頼む」
今日は母と一緒にルルさんの所で夕食を取ることになった。
あんまり騒がしい所にルージュを連れてきたくはなかったけど、意見をする気力がオレにはない。
でも、食べ終わったらすぐに帰ろう・・・。
「ニルス、しっかり食べなさいね」
「・・・ありがとう」
「たくさん作ったからね。こっちがルージュのよ」
ルルさんはすぐに食事を出してくれた。
帰ってルージュとお話をしたい・・・。
◆
・・・変だな。
食べていると自分に違和感が湧いてきた。
吐き気がする。体が食べ物を受け付けていないような・・・。
「ニルス、おいしい?」
「うん・・・」
ルルさんに答えつつ、母はどこか探した。
「お前ニルスに無茶な教え方しただろ?」
「してません。ちゃんと付いてくるので元から強い子なんです」
・・・他の戦士の席へ行ってるのか。
今なら・・・。
「ティララさん・・・ちょっと外に出る・・・ルージュをお願い」
「え・・・うん」
なんとか伝えて店の裏に走った。
なんだ・・・どうしたんだ・・・。
◆
「はあ・・・はあ・・・」
さっき食べたものをすべて吐き出した。
体の震えが止まらない。オレの体・・・何が起こっているんだ?
「・・・ニルス、どうしたの?」
暗がりの中、ルルさんの声が聞こえた。
たぶん、オレの様子がおかしかったんだと思う。
ルージュを置いていく・・・たぶんこれだ。
「・・・吐いたの?具合が悪いならうちで休んでいきなさい。アリシアには言っておくから」
すごく暖かい言葉を貰えた。
ああ・・・心からオレを気遣ってくれてるんだ。
けど・・・。
「・・・なんでもない、具合も悪くない。・・・母さんには言わないで」
オレはルルさんの腕を引いて止めた。
知られてはいけない・・・。
「・・・なんでもないわけないでしょ」
「大丈夫だから・・・」
「ニルス・・・あたしはあなたを自分の子どものように思ってる。・・・全部あたしに話してみなさい」
ルルさんはオレを抱きしめてくれた。
母よりも安心感があって、気持ちが安らぐ。
「オレ・・・戦場・・・」
押し込んでいた気持ちが溢れてきてしまった。
ルルさんはあの母よりも信用できる・・・。
◆
「だから・・・本当は出たくない・・・。オレは・・・戦士になりたいなんて一度だって言ってない・・・」
思っていることを全部打ち明けた。
少しだけ楽になった気がする。
食べ物と一緒で、吐き出したからかな・・・。
「・・・あたしに任せなさい。あのバカな母さんに話してあげる。だからもう無理はしなくていいのよ」
ルルさんはずっとオレを抱きしめていてくれた。
気持ちはとても嬉しいけど、それはしてほしくない。
「そんなことしなくていい。・・・母さんが悲しむ。だから戦場にも出る」
話を聞いてもらえただけでよかった。
自分が何を思っているのか、それを知っている人がいるってだけでいいんだ。
「ニルス・・・よくないと思うよ。ちゃんと言ってやらないと・・・」
ルルさんは納得していないけど、オレはそうしてほしくなかった。
「母さんには絶対に話さないでほしい。雷神の息子は臆病者じゃダメだし、戦うこともしないといけないんだ。そうじゃなきゃ・・・きっと見捨てられる・・・それだけは嫌なんだ。じゃあ・・・」
返事は聞かずに酒場に戻った。
ルージュをティララさんに返してもらおう。もう帰るんだ・・・。
◆
「大丈夫だよ。兄さんは臆病者だけど、ルージュだけは同じようにはしない」
家に戻ってからも、ずっとルージュを抱いていた。
「まだ寝ないの?夜更かしすると大きくなれないんだよ」
「・・・」
「どうしたの?兄さんはもう大きいからいいんだよ。じゃあ、眠るまで本を読んであげるね」
妹と二人でいる時間はとても幸福だ。
だから不安なこととかを忘れられる時間でもある。
◆
「僕ね、お母さんの作ったものは全部好き。目隠しして食べてもお母さんのだってわかるよ。イタチくんはお母さんが作ったゴツゴツ芋のシチューを喜んで食べています。ニルスとルージュは、お母さんの料理を思い出しながら・・・ふふ、すぐに寝ちゃった。全然お話が進まないね」
ルージュが目を閉じた。
オレも寝てしまおう・・・。
たぶん戦場が終わるまでは何を食べても吐く。
食事は・・・適当な説明でたぶん通る。
あとは瞑想をして過ごそう・・・。
◆
ついに、来てほしくなかった時が訪れた。
でも・・・必ず・・・必ず帰る・・・。
「緊張するか?」
オレの背中が軽い力で叩かれた。
・・・ウォルターさんか。
「・・・いえ」
「匂いは?」
「・・・平気です」
嘘をついた。
初めての戦場、血の匂いが鼻について気持ちが悪い。
これがダメな人はたくさんいるって聞いた。
大嫌いな匂いだけど・・・我慢しよう。
「お前、食ってないって聞いたけど大丈夫か?」
「問題ありません」
「そう・・・」
胃の中にはなにも入っていないけど、空腹感もないし普通に動けそうだ。
「ニルス、とりあえずお前はできそうなら戦え。初めての戦場は緊張で普段の力が出せないと思う。・・・だからよく観察しろ。まったく・・・アリシアもバカなことをしやがる」
ウォルターさんは優しかった。
やっぱり母も、それに合わせているオレも普通ではないんだな。
「ウォルターさんは恐くないの?もし・・・もし死んだら、エイミィさんとセレシュに会えなくなる・・・」
「・・・心配すんなよ」
娘が生まれて、まだ一年も経っていない。
この人はなんで戦場に出てるんだろう・・・。
「ウォルターじゃ不安だってさ。ニルス、少しでも恐怖があるなら私の後ろにいていいよ」
イライザさんも優しくしてくれた。
この人も子どもがたくさんいる。なんでこんなところにいるんだろう・・・。
「・・・大丈夫です」
「そう・・・でも覚えておいてね。なにかあれば無理しないで私の近くに来なさい」
「行って・・・何をすればいいの?」
「私の背中だけ見てればいい」
ほんの少しだけ安心した。
今の・・・かっこいいな。
◆
空が白んできた。
もうすぐ夜明け・・・。
「ニルス、功労者を狙ってもいいんだぞ」
母がわざわざオレの所にまで来た。
この人はなにを考えているんだろう。
オレが万が一にも死なないと思っているのかな?
「あの、母さん・・・」
「ニルス・・・。ここは戦う場所だ。戦場で家族と呼ぶのはやめてくれ」
ほんの少しでも、心配してくれている言葉を聞きたかっただけだった。
ウォルターさんやイライザさんからはあったのに、この人からはなにも無い。
オレが母に期待していたものが、すべて枯れた気がした。
◆
太陽が顔を出し、戦いが始まった。
何人かが倒れ、大地に沈んでいく。
怒号や悲鳴、気合いの声が響くたびに吐き気がする。
みんな異常に見えた。
死んだ戦士の心配を誰もしない。
形見の武器がまだ使えるのか、考えているのはそれだけのような気がした。
「ニルス!お前は下がってていい!」
「・・・無理はしません」
オレたちがぶつかった奴らはそこまで強くない。
頭はとても冷静で、何度も繰り返した動きはもたつかずにできる。
「はあ・・・はあ・・・これで終わったの?」
「ああ、これが普通だ」
敵は斬られて倒れてもうめき声すら上げない。
魔族ってなんだ?
得体の知れない奴らと、なんで殺し合いまでさせられているんだ?
神はそんなことを本気で望んでいるのか?
疑問と恐怖の中、気付けばオレはウォルターさんよりも前に出ていた。
◆
「ニルス、あんたはここまでだ!」
周りの魔族をすべて片付けたところで、イライザさんから命令された。
たぶん、ここから先は治癒領域を出てしまうからだろう。
「・・・行きます。足手纏いにはなりません」
「ダメだ!もしもがあったらどうする?ルージュに会えなくなるかもしれない!」
「・・・オレは早くルージュの所に帰りたいんだ!!」
「・・・このまま行く!!ニルスを死なせるな!!!」
もっと、もっと倒さないと・・・。
◆
オレはイライザ隊で一番前に出ていた。
全員遅すぎる・・・。
「ケガをしているなら下がってください!オレがやる!」
魔族に囲まれている隊を見つけた。
「ニルス・・・。悪いな、忘れないぜ」
「早く行け!!」
息のある戦士たちを庇い、治癒隊へ向かわせた。
帰ったら鍛え直せ・・・。
「本当に初めてかお前?」
「・・・何度も経験してそうだ」
ウォルターさんとイライザさんが呟いた。
この隊でオレに付いてこれるのは二人だけみたいだ。
◆
「十四、十五・・・」
気が紛れるから、殺した敵の数を数えることにした。
自分にイライラする。
戦っているとなぜか昂ってしまう。
こんなことをしたいわけじゃないのに・・・。
◆
・・・三十一、オレが命を奪った数。
それで戦いは終わった。
『今回も人間側の勝利だな。また大地を返そう』
どこからか声が聞こえてきた。
『魔族は負け続けているな。・・・お前たちは何をしている?このままでは、いつまでも大地は戻らないぞ』
これが神の声・・・・
そもそも大地はまだ必要なのか?
また疑問が浮かんできた。
『開拓の進んでない土地っていっぱいあるんだよ。なんにもない荒野がずーっと続いてたり』
『今は土地がたくさんあって、逆に人が足りないんだよ』
セイラさんも言ってたっけ。
それならもう戦う必要なんてないんじゃないか?
それとも、あと数回勝てば終わる?
そうだったら・・・いいな。
戦場が終われば、全部いい方向に・・・。
◆
「ウォルターさん、ニルスはどうでしたか?」
アリシアが駆けつけてきた。
この人が無事なのは、叫びが何度も聞こえてきたから知っている。
オレたちよりもずっと奥で暴れていたらしい。
「初めてとは思えないな。お前と戦い方は違うが、とびきりの戦士だ」
「そうでしょう。イライザさんはどう思いましたか?」
「まあ・・・強いな。でも、まだ危なっかしい」
「強いなら大丈夫です。よしニルス、次は私の隊に入れてもらえるように頼んでみよう。突撃隊よりも自由に動けるぞ」
目の前には、自分と同い年くらいの少女みたいな笑顔があった。
なるほど・・・オレが死ぬか、大地が全部戻るまで「次」があるんだな・・・。
「・・・わかった。アリシア隊長」
オレは彼女を母と呼ぶのをやめた。
余計に狂っていく気がする。
でも、もう戻れない・・・。
どうでもいい話 2
しっかり推敲したつもりだったのに、投稿前の最終チェック時、加筆・修正で3、4時間かかってしまう。




