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Our Story  作者: NeRix
地の章 第二部
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第二十二話 臆病者【ニルス】

 『ニルスは、大人になったら何になりたいんだ?』

始まりはあの時だったんだと思う。


 『オレは旅人になりたい。色んなところに行くんだ』

オレはちゃんとやりたいことを伝えた。

 『強くなければダメだ。それなら・・・母さんが鍛えてやろう』

母さんも協力してくれると思っていたけど、実は最初から違ったんじゃないかな。

たぶん、初めからオレを戦士にするつもりだったんだ。


 そして引き返せなくなったのは、十歳の時・・・。

 

 『ニルスと一緒に戦えれば楽しいだろうな。そうなってくれたら母さんは嬉しい』

『え・・・あの・・・わかった・・・そうする』

もう戻れない気がしたっけ・・・。

嫌な予感はしていたけど、ずっと気付かないふりをしていた。


 どうして、あの日酒場で「嫌だ」って言えなかったんだろう。

そうだ・・・あれからセイラさんに会いに行くことも無くなったんだ。

ジーナさんの家に行くことも・・・。


 思い描いていた未来から色が無くなって、回っていた世界の心臓が止まった。

心で燃えていた火は、それと一緒にすべて消えてしまったんだと思う。


 これから自分はどうなっていくのか・・・。

そんなことを考えていた時に光が生まれた。

それは妹のルージュ・・・。


 旅に出たい気持ち・・・まだほんの少しだけ灰の中にある。

でも、オレがいなくなったらルージュはどうなる?

母さんは同じようにあの子を鍛え始めないか?

それが心配だった。


 「大丈夫だよ・・・」

この子はオレが守る。

 ルージュには好きなことをさせてあげたい。

そのかわりオレは、嫌なことでも我慢してやろう。



 水の月、十三歳になってしまった。

アカデミーも終わり・・・。


 「ニルス、明日から一緒に訓練場に行こう」

家に帰ると、嬉しそうな母さんがいた。

まあ・・・そうなるよな。


 『とりあえず十五までは遊んでようかな。まあ、許してくれたらだけど』『わたしは、精霊学のアカデミーに行きたいってお父さんたちに話してみるんだ』『俺は仕事させられると思う。けど、ちょっと説得してみようかな』

同い年のみんなは、これからのことを親と話し合って決めるらしい。

 仕事をどうするか、もしくはもっと知識を付けるために上のアカデミーに通うかの話だ。


 だけど、オレの家でそれは無かった。

母さんから将来の話をされることも、オレからすることも・・・。


 「明日から・・・わかった」

言う通りにしているのは、産んで育ててくれた母さんを裏切りたくない気持ちがあるからだ。

 「・・・ルージュは?」

「連れて行って大丈夫だ」

「そう・・・よかった」

そして、それよりも大事なこと。

ルージュにはオレが付いていなければいけない・・・。


 ああ・・・明日からか・・・。

訓練場でも、どうせ今までと一緒なんだろうな。

変化があるとは思えない、他の戦士がいるってだけ・・・。



 「おおーニルスだ」「アカデミーも終わりか。・・・早いな」「いい男になりやがって」「ニルスくーん、お昼は一緒に食べようよ」

訓練場に入ると、戦士たちがオレに期待の目を向けてきた。

この感じ、今日だけだといいな・・・。


 「ニルスはお前と違って十二からじゃないんだな」

「ルージュを任せていたので」

母さんは胸を張って答えた。

ルージュがいなければ、十二からここに来ることになっていたのか・・・。


 「おい、どんくらい鍛えたんだよ?ずっと隠してやがったな」

「気になるならやってみてください」

勝手なことを・・・。

 「俺もどのくらいか見たい」「私もやらせてください」「アリシア、借りていいのか?」

みんな母さんに聞いている。

・・・オレの意思は関係ないんだな。


 「ニルス、何人かがお前と戦いたいらしい」

「聞こえてたよ。・・・よろしくお願いします」

すぐに終わらせればいい。

 鞄にはルージュに読んであげる本を持ってきた。

強ければ、誰も文句を言わないはずだ。



 「うう・・・冗談じゃねーぞ・・・」

「大丈夫ですか?」

「ああ・・・すげー蹴りだな」

「・・・鍛えたので」

試しにと戦わされた大人たちは、オレよりもずっと・・・ずっと弱かった。

戦場って、これくらいで出られるんだ・・・。


 「ニルス、俺とも勝負してみるか?」

「はい・・・よろしくお願いします」

スコットさんが申し出てきた。

・・・あんまりやりたくない。


 「さっきまでの奴らと一緒にするなよ?」

「・・・はい」

「よーし、もうちょっと真ん中行こうぜ」

会わないようにしていたけど、前と変わらない接し方だ。


 正直、誰とやっても同じ気がしていた。

でもスコットさんは違う。アリシア隊にいるだけの実力がある人だ。

そして、友達だから・・・。



 「いやーさすがだなニルス、もう少しでやられるところだったよ」

切っ先がオレの首元に当てられた。

 「オレよりも剣を振っていた時間が長いんです。その差だと思います」

合わせるの面倒だな・・・。


 勝たせた。本当は勝てた・・・。

でもこれでいい。注目されるのは苦手だし、戦いのことで褒められたり期待されるのはイラつく・・・。


 「ほら」

「・・・ありがとうございます」

オレはスコットさんが出してくれた手を掴んで立ち上がった。

 「・・・ニルス、未知の世界はもういいのか?ジーナさん寂しそうだぞ」

耳元で囁かれた。

そんなわけ・・・。


 「ごめんなさい。もう・・・いいんです」

「・・・ニルス?」

いい・・・これでいい・・・。あれを見てもしょうがない。

 

 もうここまで来てしまった。

今さら引き返せば母さんが悲しむ・・・。



 「ルージュ、あっちで重そうなのを持ち上げてるのがイライザさん。ずっと向こうでみんなに話をしてるのがカーツさんだよ。作戦の打ち合わせかな?」

ルージュを抱いて訓練場を眺めていた。

やっぱり、強ければこうしていても何も言われないらしい。

 

 「凪の月の戦場に出すことはできない。アカデミーも出たばかりだしな」

「私はすぐに出していただけたではないですか」

後ろから、また勝手な話が聞こえてきた。

母さんはオレを次の戦場に出したいらしい・・・。


 「お前は戦士になって何年だ?・・・あとふた月を切っている。すでに千人は選出済みだ」

「実力を見たでしょう!私の時と同じように、誰かと入れ替えていただくわけにはいかないでしょうか」

母さんは十三になってすぐに戦場へ出たって聞いた。

今のオレと同い年、どんな気持ちだったんだろう・・・。


 「私の隊は、ひと月を切っていてもねじ込んでくれたではありませんか」 

「ニルスを同じ扱いにはできない。それに・・・焦るな」

「・・・わかりました。でも・・・その次はお願いします」

べモンドさんの判断は本当に嬉しかった。


 けど・・・オレが戦場に出なければならないのは一緒らしい。

ああ・・・来年の殖の月か。



 季節は流れて、宵の月になった。

 

 「ニルス、君を次の戦場に出す。まずは死守隊に入り、戦場がどんなところか見るといい」

べモンドさんが直接伝えに来てくれた。

死守隊か、母さんもそうだったって言ってたな。


 「見てるだけで・・・」

「そうだ。まあ・・・前線が突破されたら戦うが、君は私の指示があるまで動かなくていい」

「・・・わかりました」

なにも起きなければ、ただ立ってるだけでいいらしいから気が楽だ。

前線なんか絶対に行きたくない・・・。


 

 日々が瞬く間に流れていき、種の月に入った。

戦場までひと月を切っていて、みんなの表情も変わってきている。


 「ニルス、夜は何が食べたい?」

「・・・なんでもいい。早く帰ってルージュに本を読んであげたい」

「じゃあ、走って帰ろうか」

母さんと一緒にいる時間が増えていた。

もう、逃げる場所は無い。



 「お前は死守隊も経験して、自分から前線への希望を出した。・・・気が変わったのか?」

「申し訳ありません。やはり恐くなってしまいました・・・」

訓練場の出入り口近くで、べモンドさんと名前も知らない戦士が話していた。

辞退を願っているらしい。


 あの人が羨ましい・・・。

素直に自分の気持ちを伝えている姿は、たとえ逃げるためだとしてもオレより強い心を持っている。


 「出たい人間は多くいる。だから誰もお前を責めないしさせない」

「ありがとうございます。あの・・・大地奪還軍からは除名ですか?」

「いや、実力はあるので待機兵だな。せっかく鍛えたんだ、勇気が出たら教えてくれ」

「ありがとう・・・ございます」

その人は、とても安心した顔で頭を下げた。


 「それと・・・戦士の報酬を返金しなければならない。戦場に出る前提での金額・・・待機兵との差額だ」

「・・・はい、わかっています」

「それと、ただいられるだけでも困る。ダラダラ待機兵を続けていると判断されれば除名だ」

「はい、次の戦場までに勇気が出なければ奪還軍を去ります」

たしかに当然のことだな。

ていうか、お金なんかは使ってしまってたらどうするんだろ?


 「それ以外はなにも心配することはない。イライザにも話したんだろ?怒っていたか?」

「いえ・・・隊長は、迷いがあるならこうしろと・・・ウォルターさんも・・・」

「それでいいのさ。・・・勇気が湧くことを願っている」

「はい、ありがとうございます。では、失礼します」

辞退を願った戦士は、穏やかな雰囲気で帰っていった。

 

 オレも素直に言えばいいのか?

正直な気持ちを話してもいいんじゃ・・・。



 「なんだいたのか・・・よくあることだ。ニルスもなにか思うところがあれば私に相談してくれ」

べモンドさんは優しく教えてくれた。

せっかく鍛えて千人に選ばれはしたけど、それでも辞退者は毎回出るらしい。


 ・・・母さんもいる。今打ち明けてもいい雰囲気なんじゃないか?

がっかりさせるかな・・・。でも信じてみてもいいよな。


 「あの、オレは・・・」

「ニルスは大丈夫です」

母さんに遮られた。

ああ・・・そうか。


 「臆病者は必要ない。ニルスもそう思うだろ?」

「・・・そう・・・だね」

この人に、今出て行った戦士やオレの気持ちは一生わからないだろう。

 「アリシア、そんな言い方をするな」

「え・・・すみません・・・」

力や技術じゃない、心が弱い者の気持ちは理解するつもりもなさそうだ。


 「待てよ・・・べモンドさん、かわりにニルスが突撃隊として出るのはどうでしょう。この子は強い、きっと活躍できます」

「なにを言っているんだ・・・」

べモンドさんはさすがに険しい顔をした。

普通じゃないことを言ってるんだから当然だ。


 「アリシア、お前もそうだったが初めての者は死守隊で私が見る。ニルスがさっきの者のようになったらどうする?」

そう、さすがにそれはないはずだ・・・。

 「ニルスはああなったりしません。母である私が保証しましょう」

「・・・どう保証できる?」

「私が鍛えたのです。逆に聞きますが、まだ十三のこの子に勝てる戦士は何人いますか?絶対に前線に置くべきです!」

「お前の言いたいことはわかるが・・・」

なんとなく感じた。

べモンドさんは、この言い合いに負ける・・・。



 「彼はイライザの隊だった。ウォルターも一緒だからそこに置く・・・。だが戦わせるかはあいつらに判断させるからな」

「ありがとうございます!」

勝手な熱を吹いた母、そしてそれに負ける軍団長。

オレの意見はどこにもなかった。

・・・もういい、好きにすればいい。


 初めての戦場で、死者が一番多く出る突撃隊・・・。

雷神の息子でなければ、通るはずの無い話だったんだろう。


 前線・・・突撃隊・・・。

訓練場で戦うのとはわけが違う。

だから・・・恐い。



 もっと強くなるしかなかった。


 もっと心を殺すしかなかった。

 

 恐怖に負けないように。


 折れてしまわないように。


 母を裏切らないために。


 見捨てられないために。


 ルージュだけは守れるように・・・。


 たくさん溢れてくる思いは、誰にも言えないまま・・・。

オレは・・・このままいくしかない・・・。



 戦場まであと三日、時間の流れがとても早く感じた。


 「ルル、力が付くものを頼む」

今日は母と一緒にルルさんの所で夕食を取ることになった。

 あんまり騒がしい所にルージュを連れてきたくはなかったけど、意見をする気力がオレにはない。

でも、食べ終わったらすぐに帰ろう・・・。


 「ニルス、しっかり食べなさいね」

「・・・ありがとう」

「たくさん作ったからね。こっちがルージュのよ」

ルルさんはすぐに食事を出してくれた。

帰ってルージュとお話をしたい・・・。



 ・・・変だな。

食べていると自分に違和感が湧いてきた。

吐き気がする。体が食べ物を受け付けていないような・・・。


 「ニルス、おいしい?」

「うん・・・」

ルルさんに答えつつ、母はどこか探した。

 

 「お前ニルスに無茶な教え方しただろ?」

「してません。ちゃんと付いてくるので元から強い子なんです」

・・・他の戦士の席へ行ってるのか。

今なら・・・。


 「ティララさん・・・ちょっと外に出る・・・ルージュをお願い」

「え・・・うん」

なんとか伝えて店の裏に走った。

なんだ・・・どうしたんだ・・・。



 「はあ・・・はあ・・・」

さっき食べたものをすべて吐き出した。

体の震えが止まらない。オレの体・・・何が起こっているんだ?


 「・・・ニルス、どうしたの?」

暗がりの中、ルルさんの声が聞こえた。

 たぶん、オレの様子がおかしかったんだと思う。

ルージュを置いていく・・・たぶんこれだ。


 「・・・吐いたの?具合が悪いならうちで休んでいきなさい。アリシアには言っておくから」

すごく暖かい言葉を貰えた。

ああ・・・心からオレを気遣ってくれてるんだ。

けど・・・。

 「・・・なんでもない、具合も悪くない。・・・母さんには言わないで」

オレはルルさんの腕を引いて止めた。

知られてはいけない・・・。


 「・・・なんでもないわけないでしょ」

「大丈夫だから・・・」

「ニルス・・・あたしはあなたを自分の子どものように思ってる。・・・全部あたしに話してみなさい」

ルルさんはオレを抱きしめてくれた。

母よりも安心感があって、気持ちが安らぐ。

 

 「オレ・・・戦場・・・」

押し込んでいた気持ちが溢れてきてしまった。

ルルさんはあの母よりも信用できる・・・。



 「だから・・・本当は出たくない・・・。オレは・・・戦士になりたいなんて一度だって言ってない・・・」

思っていることを全部打ち明けた。

 少しだけ楽になった気がする。

食べ物と一緒で、吐き出したからかな・・・。


 「・・・あたしに任せなさい。あのバカな母さんに話してあげる。だからもう無理はしなくていいのよ」

ルルさんはずっとオレを抱きしめていてくれた。

気持ちはとても嬉しいけど、それはしてほしくない。


 「そんなことしなくていい。・・・母さんが悲しむ。だから戦場にも出る」

話を聞いてもらえただけでよかった。

自分が何を思っているのか、それを知っている人がいるってだけでいいんだ。

 

 「ニルス・・・よくないと思うよ。ちゃんと言ってやらないと・・・」

ルルさんは納得していないけど、オレはそうしてほしくなかった。

 「母さんには絶対に話さないでほしい。雷神の息子は臆病者じゃダメだし、戦うこともしないといけないんだ。そうじゃなきゃ・・・きっと見捨てられる・・・それだけは嫌なんだ。じゃあ・・・」

返事は聞かずに酒場に戻った。

ルージュをティララさんに返してもらおう。もう帰るんだ・・・。



 「大丈夫だよ。兄さんは臆病者だけど、ルージュだけは同じようにはしない」

家に戻ってからも、ずっとルージュを抱いていた。

 

 「まだ寝ないの?夜更かしすると大きくなれないんだよ」

「・・・」

「どうしたの?兄さんはもう大きいからいいんだよ。じゃあ、眠るまで本を読んであげるね」

妹と二人でいる時間はとても幸福だ。

だから不安なこととかを忘れられる時間でもある。



 「僕ね、お母さんの作ったものは全部好き。目隠しして食べてもお母さんのだってわかるよ。イタチくんはお母さんが作ったゴツゴツ芋のシチューを喜んで食べています。ニルスとルージュは、お母さんの料理を思い出しながら・・・ふふ、すぐに寝ちゃった。全然お話が進まないね」

ルージュが目を閉じた。

オレも寝てしまおう・・・。


 たぶん戦場が終わるまでは何を食べても吐く。

食事は・・・適当な説明でたぶん通る。

あとは瞑想をして過ごそう・・・。



 ついに、来てほしくなかった時が訪れた。

でも・・・必ず・・・必ず帰る・・・。


 「緊張するか?」

オレの背中が軽い力で叩かれた。

・・・ウォルターさんか。

 「・・・いえ」

「匂いは?」

「・・・平気です」

嘘をついた。

初めての戦場、血の匂いが鼻について気持ちが悪い。

 これがダメな人はたくさんいるって聞いた。

大嫌いな匂いだけど・・・我慢しよう。


 「お前、食ってないって聞いたけど大丈夫か?」

「問題ありません」

「そう・・・」

胃の中にはなにも入っていないけど、空腹感もないし普通に動けそうだ。

 

 「ニルス、とりあえずお前はできそうなら戦え。初めての戦場は緊張で普段の力が出せないと思う。・・・だからよく観察しろ。まったく・・・アリシアもバカなことをしやがる」

ウォルターさんは優しかった。

やっぱり母も、それに合わせているオレも普通ではないんだな。


 「ウォルターさんは恐くないの?もし・・・もし死んだら、エイミィさんとセレシュに会えなくなる・・・」

「・・・心配すんなよ」

娘が生まれて、まだ一年も経っていない。

この人はなんで戦場に出てるんだろう・・・。


 「ウォルターじゃ不安だってさ。ニルス、少しでも恐怖があるなら私の後ろにいていいよ」

イライザさんも優しくしてくれた。

この人も子どもがたくさんいる。なんでこんなところにいるんだろう・・・。 


 「・・・大丈夫です」

「そう・・・でも覚えておいてね。なにかあれば無理しないで私の近くに来なさい」

「行って・・・何をすればいいの?」

「私の背中だけ見てればいい」

ほんの少しだけ安心した。

今の・・・かっこいいな。



 空が白んできた。

もうすぐ夜明け・・・。


 「ニルス、功労者を狙ってもいいんだぞ」

母がわざわざオレの所にまで来た。

 この人はなにを考えているんだろう。

オレが万が一にも死なないと思っているのかな?


 「あの、母さん・・・」

「ニルス・・・。ここは戦う場所だ。戦場で家族と呼ぶのはやめてくれ」

ほんの少しでも、心配してくれている言葉を聞きたかっただけだった。

ウォルターさんやイライザさんからはあったのに、この人からはなにも無い。


 オレが母に期待していたものが、すべて枯れた気がした。



 太陽が顔を出し、戦いが始まった。


 何人かが倒れ、大地に沈んでいく。

怒号や悲鳴、気合いの声が響くたびに吐き気がする。


 みんな異常に見えた。

死んだ戦士の心配を誰もしない。

形見の武器がまだ使えるのか、考えているのはそれだけのような気がした。


 「ニルス!お前は下がってていい!」

「・・・無理はしません」

オレたちがぶつかった奴らはそこまで強くない。

頭はとても冷静で、何度も繰り返した動きはもたつかずにできる。


 「はあ・・・はあ・・・これで終わったの?」

「ああ、これが普通だ」

敵は斬られて倒れてもうめき声すら上げない。


 魔族ってなんだ?

得体の知れない奴らと、なんで殺し合いまでさせられているんだ?

神はそんなことを本気で望んでいるのか?

疑問と恐怖の中、気付けばオレはウォルターさんよりも前に出ていた。



 「ニルス、あんたはここまでだ!」

周りの魔族をすべて片付けたところで、イライザさんから命令された。

たぶん、ここから先は治癒領域を出てしまうからだろう。


 「・・・行きます。足手纏いにはなりません」

「ダメだ!もしもがあったらどうする?ルージュに会えなくなるかもしれない!」

「・・・オレは早くルージュの所に帰りたいんだ!!」

「・・・このまま行く!!ニルスを死なせるな!!!」

もっと、もっと倒さないと・・・。



 オレはイライザ隊で一番前に出ていた。

全員遅すぎる・・・。


 「ケガをしているなら下がってください!オレがやる!」

魔族に囲まれている隊を見つけた。

 「ニルス・・・。悪いな、忘れないぜ」

「早く行け!!」

息のある戦士たちを庇い、治癒隊へ向かわせた。

帰ったら鍛え直せ・・・。


 「本当に初めてかお前?」

「・・・何度も経験してそうだ」

ウォルターさんとイライザさんが呟いた。

この隊でオレに付いてこれるのは二人だけみたいだ。



 「十四、十五・・・」

気が紛れるから、殺した敵の数を数えることにした。


 自分にイライラする。

戦っているとなぜか昂ってしまう。

こんなことをしたいわけじゃないのに・・・。



 ・・・三十一、オレが命を奪った数。

それで戦いは終わった。


 『今回も人間側の勝利だな。また大地を返そう』

どこからか声が聞こえてきた。

 『魔族は負け続けているな。・・・お前たちは何をしている?このままでは、いつまでも大地は戻らないぞ』

これが神の声・・・・


 そもそも大地はまだ必要なのか?

また疑問が浮かんできた。

 『開拓の進んでない土地っていっぱいあるんだよ。なんにもない荒野がずーっと続いてたり』

『今は土地がたくさんあって、逆に人が足りないんだよ』

セイラさんも言ってたっけ。

それならもう戦う必要なんてないんじゃないか?


 それとも、あと数回勝てば終わる?

そうだったら・・・いいな。

戦場が終われば、全部いい方向に・・・。



 「ウォルターさん、ニルスはどうでしたか?」

アリシアが駆けつけてきた。

 この人が無事なのは、叫びが何度も聞こえてきたから知っている。

オレたちよりもずっと奥で暴れていたらしい。


 「初めてとは思えないな。お前と戦い方は違うが、とびきりの戦士だ」

「そうでしょう。イライザさんはどう思いましたか?」

「まあ・・・強いな。でも、まだ危なっかしい」

「強いなら大丈夫です。よしニルス、次は私の隊に入れてもらえるように頼んでみよう。突撃隊よりも自由に動けるぞ」

目の前には、自分と同い年くらいの少女みたいな笑顔があった。

 なるほど・・・オレが死ぬか、大地が全部戻るまで「次」があるんだな・・・。


 「・・・わかった。アリシア隊長」

オレは彼女を母と呼ぶのをやめた。


 余計に狂っていく気がする。

でも、もう戻れない・・・。

どうでもいい話 2


しっかり推敲したつもりだったのに、投稿前の最終チェック時、加筆・修正で3、4時間かかってしまう。

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