第二百十三話 王子様【ヴィクター】
今夜・・・今夜ルージュに気持ちを伝える。
『バカじゃないの!!あんたが幸せにすんのよ!!他の男じゃなくて、自分の隣で笑ってた方がいいでしょーよ!!』
ミランダさんには感謝している。
あの人のおかげで伝える勇気を大きくすることができた。
『あんたがルージュの騎士になんのよ。今日も明日も守ってやんな』
自分の中にはあったけど見つからなかった言葉・・・引っ張り出してくれた。
やっとわかったよルージュ。
そういうことを言えばいいんだ・・・。
◆
「着いたみたいだね」
「そ、そうだな・・・」
馬車が停まった。
窓の外には城門が見える。
「さあ、外に出ろ」
テッドさんが扉を開けてくれた。
「ありがとうございます」
着いてしまった。
夜会なんて初めて・・・緊張する・・・。
「・・・ヴィクター、なにをしている。先に降りてルージュの手を引いてやるんだ」
「あ・・・はい」
怒られた・・・。
情けないな・・・いや、しっかりしなければ。
「ルージュ、気を付けて降りろ」
「ふふ、ありがとう」
今日も俺はルージュの騎士、堂々としているって決めたんだ。
でも・・・馬車でなに話したか全然憶えてねー・・・。
「ルージュ、アリシアが戻ったらその姿を見せてやれよ」
「はい、そうします」
「帰りもこの辺りが停車場になる。混むから客がいなくなってから来い」
テッドさんはすぐ馬車に乗り込んだ。
・・・そんなに会場に残ってていいのか?
夜会の掟なんてなんにも知らねーぞ・・・。
やっちゃいけないこととかあんのかな?
「ルージュ、ヴィクター」
考えていると、背中に知っている声が当たった。
・・・安心する。
「あ、セレシュ・・・いつもと違うね。アカデミーで教わってきた素敵な女性って感じ」
「そ、そんなことないよ・・・ルージュの方が綺麗だし・・・ね、ニルスさん?」
「二人とも綺麗だよ。早く中に入ろうか」
ニルスさんはいつも通りの感じで微笑んだ。
この人も初めての夜会なのに落ち着いてるな・・・。
年上だからか?俺も見習わなければ・・・。
◆
門の前にいた人に招待状を見せると、城の中に入れてもらえた。
会場までは案内人が付いてくれるらしい。
「わあ、あの鏡大きい・・・」
「見て、あっちに綺麗な絵が飾ってある」
ルージュとセレシュは、中の装飾や雰囲気をめいっぱい楽しみながら歩いている。
ドレス着てても街の中と変わらないな・・・。
「上品にしていないと親が笑われるかもしれないよ」
ニルスさんが目を細くした。
「は・・・」「う・・・」
二人は背筋を伸ばした。
ニルスさんて、たまに厳しいこと言うよな・・・。
楽しそうにしてるんだから水差さなくていいだろ。
「ふふ、お楽しみいただいて構いませんよ」
案内の人の方が優しい・・・。
◆
「あ・・・」「あ・・・」
奥に進んだところで、オレとルージュは同時に立ち止まった。
あの人・・・。
「あ・・・そっか、ここにいて当然だよね・・・」
城内には騎士たちも配置されていた。
だからいて当たり前・・・。
「気まずいな・・・」
「まあ・・・わたしはこの髪の毛の時会ったことないから・・・」
「俺は無理がある・・・」
すぐ近くにイザベラ・スウェードがいた。
ティムさんの元姉・・・俺がぶっ飛ばした人・・・。
「・・・」
向こうも俺に気付いたみたいだけど、特に反応は無い。
あの人、今何考えてんだろうな・・・。
◆
「・・・なにも言ってこなかったね」
離れたところで、ルージュが溜め息を零した。
絡まれなくてよかった・・・。
「今日は対戦相手じゃないからな」
「ニルス様・・・」
「思う所はあっても、話すことは許されていないんだろう」
なるほどね、それなら気が楽だ。
「ニルスさんとルージュの髪の毛を見て驚いていましたよ」
セレシュが兄妹を見て笑った。
俺は気まずくて下向いてたから気付かなかったな。
「髪の毛?」
「アリシア・・・雷神と同じで驚いたんじゃないのか?」
ああそっか、二人の髪色はまあまあ目立つ。
俺に対してなんかあったとしても、そっちで忘れててほしい・・・。
◆
「あちらが会場でございます」
大きな扉が近付いてきた。
・・・気合を入れなければ!
「あ・・・扉が開きましたよ」
「そうだな・・・あ・・・」
ニルスさんが立ち止まった。
視線を追いかけると、今出てきた人を凝視している。
「・・・第一王子のヴェルミュレオ様ですね。お忙しい方なので、ご挨拶だけで済ませたのでしょう」
案内人もニルスさんの視線を追ったみたいだ。
ふーん、あれが王子・・・。
腹違いらしいけど、シリウスと似てんのかな?
「・・・ニルス様?」
「お客様・・・どうなされましたか?」
「・・・」
ニルスさんは固まったまま動かない。
ただこっちに来る王子を見ているだけ・・・。
「ん・・・おお!!」
王子が俺たちに気付いて、歓喜に似た声を上げた。
いや・・・ニルスさんか?
「ニルス!ニルスだな?」
「・・・」
「そうだろう?・・・あの頃よりも逞しくなったな。招待されていたのか?」
「・・・はい」
ニルスさんがか細い声を出した。
この二人、面識あったのか?
「憶えて・・・いたのですね」
「当然だ。あの時、もっとしつこく誘ってもよかったと今でも後悔する夜がある」
「せっかくのお誘いを・・・すみませんでした・・・」
「気にするな。また会えて嬉しいぞ」
なんか妖しい会話に聞こえる。
・・・変な意味じゃねーよな?
「父上から招待されたのか?」
「ま、まあ・・・そうだと思います」
「どうした?緊張しているのなら私の部屋に来ないか?今再会できたのは運命のような気がする」
「ぐ、偶然ですよ。あの・・・夜会に行かなければ・・・」
ニルスさんが狼狽えている。
どうすんだこれ?
「お、王子・・・お客様はまだ会場にすら入っておりません・・・」
案内人が止めてくれた。
後ろから他の招待客も来るからな。
「すみません王子・・・またの機会にしましょう。今は本当に忙しいのです。今日もなんとか時間を作って来たので・・・」
「ニルス・・・今は何をしている?闘技大会にも出てこないな」
出てたけど名前は「ニール・ホープ」だったし、髪の毛も違うから気付かなかったのか・・・。
「次の殖の月・・・状況によっては出ます。あの・・・そろそろよろしいでしょうか・・・」
苦しそうだな。
王子と何があったんだ?
「殖の月か・・・遠いな。私はこの城にいる。会いに来てほしい」
「色々片付いたらでよろしいでしょうか・・・」
「約束だぞ。待っているからな」
「・・・はい」
ニルスさんは頷いてしまった。
この人って、けっこう勢いに弱いんだな・・・。
◆
「・・・どういったご関係だったのですか?」
王子が去ると案内人が尋ねてきた。
予想外のことだったんだろうな・・・俺もだけど。
「わたしも知りたいです・・・」
「私も・・・」
俺も知りたい・・・。
「昔・・・ずっと昔、初めて功労者になった時だ。・・・騎士団に入って護衛についてほしいと言われたことがある。大陸の各地を巡る旅、一緒に来てほしいと・・・」
「そうだったのですか・・・失礼しました。あそこまで興奮されているお姿は初めて見たもので・・・」
「いえ、気にしないでください。ただ・・・それだけです」
ニルスさんは懐かしそうに微笑み、ルージュの頭を優しく撫でた。
なんとなくわかった。
色々辛かった時期・・・その時のことなんだろう。
「・・・たった一度、それも今と同じくらい短い時間だった。・・・よく憶えてたな」
「ニルス様と仲良くしたいって感じでしたね。お友達ですよ」
「友達・・・まあ、色々解決したらだな。とりあえず、今日は夜会を楽しもうか」
「はい」
あ・・・そうだった、夜会に来てんだったな。
色々片付くのはいつになるか・・・いや、こんなんじゃダメだ。
俺も一緒に片付ける。
◆
「では、交流をお楽しみください」
案内人が会場の扉を開いてくれた。
中には、俺たちと同じように夜会服の男女がたくさんいる。みんな身分の高い奴らなんだろう。
ていうか、交流って言われても今回だけだしな・・・。
「セレシュ、なにか飲み物を貰いに行こうか。せっかく来たんだ、夜の中庭も見せてあげるよ」
「は、はい・・・」
セレシュが震えながらニルスさんの手を取った。
え・・・。
「あの・・・ニルス様、わたしたちは・・・」
「ルージュにはヴィクターがいるだろ。またあとでな」
ニルスさんはセレシュを連れて奥へと消えた。
・・・そりゃあんたは城に来たことあるからいいけど、俺たちは初めてだぞ。一緒にいてくれても・・・違う、二人にしてくれた?そうだよな。
「ルージュ、中を見て回ろうか」
俺も同じ感じで・・・。
「あ・・・うん、ちゃんと守ってね」
「任せろよ」
見回すと、若い男の何人かがルージュを見ていた。
近寄っても斬りはしないけど・・・。
「ルージュ、たぶん話しかけられるのは避けられないと思う。すぐに追い返すのも無礼だ」
「えー・・・どうしよう」
ルージュが不安そうな顔をした。
だから・・・。
「合図を決めよう。助けてほしいって思ったら手を後ろにして小指を立ててくれ、なんとかしてやる」
「うん・・・わかった。約束ね」
今、ルージュの支えは俺しかいない。
シリウスが現れれば人も避けるだろうけど、それまでは俺が何とかしないとな。
◆
「失礼、とても美しい方で見惚れていました。お名前を教えていただけますか?」
飲み物を貰ったところで、育ちのよさそうな男が話しかけてきた。
早速か・・・。
「えっと・・・あの、ルーン・ホープといいます」
「ホープ・・・初めて聞く名前ですね。夜会も初めてですか?」
「はい・・・」
「お住まいはどちらですか?どなたの招待で・・・」
ルージュが指を立てた。
早いな・・・。
「申し訳ありませんが、先に挨拶をしたい方がいるのです」
俺は一歩前に出た。
付き人ってこんな感じでいいのかな・・・。
「・・・なるほど。ではルーンさん、またお話ししましょうね」
男は素直に引いてくれた。
爽やかだな・・・そういう育ち方をしてきたってことか。
「いやー、本当に話しかけられるとは思わなかったよ」
ルージュが振り返って笑ってくれた。
「今みたいな感じで助けてやる。ルージュは無礼な態度を取らないようにだけ考えてればいい」
それに騒いだりするような品の無い奴はここにいない。
やんわりと伝えればすぐに引いてくれるはずだ。
◆
二人で会場を歩き回っていた。
楽しいのは楽しいんだけど・・・。
「美しい髪ですね」「素敵なドレスです」「静かな所で語らいませんか?」
次から次へと男が寄ってくる。
・・・ルージュに近付くなよ。
「・・・なんでみんなわたしに来るの?他にも女の人はたくさんいるのに・・・」
ルージュも疲れてきたみたいだ。
「そのくらいルージュに魅力があるんだ。若い男が相手を見つける場所でもあるからな」
これはエリィさんに教わった。
女性もそれがわかっているから対応しないといけない。
でも、気に入らなければやんわりと断っていいらしい。
「あーあ・・・わたしはヴィクターがいればいいんだけどな・・・」
「え・・・」
心臓が大きく震えた。
この場所だけの話なのか、それとも全部含めての話なのか・・・。
「それにみんな偉い人の子どもなんだって。わたしなんかとは話も合わないよ」
「ルージュは英雄の子だろ?」
「お母さんは偉いっていうのとは違うよ。えーと・・・すごい人?」
ルージュは微笑みながら話してくれた。
ここでルージュの笑顔を見れるのは俺だけ・・・すげー優越感だ。
これだけで一緒に来て良かった。そして、あいつらには絶対見せねー・・・。
◆
「そうだ・・・ねえねえ、話しかけられないようにするいい方法を思いついたよ」
ルージュが楽団の近くで振り返った。
また笑顔・・・どうするんだろうな。
「どのくらいの名案なんだ?」
「簡単なことだったんだよ」
「簡単?」
「ふふ、踊っていただけますか?」
ルージュの手が俺の目の前に出された。
なるほど・・・「付き人」にこだわってたけど、そうじゃなくすればいいってことか。
◆
会場の真ん中には、優しい旋律に合わせて踊っている男女が何組もいた。
たぶん、相手を見つけた人たちなんだろう。
「ここで踊ってれば大丈夫だよ。次の曲で入ろうね」
「そうするか・・・」
きのうまで、夜にルージュと練習をしていた。
ステラ様が「必要だ」と何度も言っていたから・・・。
「他からは相手を見つけた者同士って見えるだろうな」
「そうだね。あと移動する時は後ろじゃなくて、わたしの手を引いて少し前を歩いてください」
「わかった」
最初からそうしとけばよかった。
「あ・・・よし、行こう」
曲が変わった。
「ゆっくりだからな?」
大丈夫・・・練習したから大丈夫・・・。
◆
「上手だよ、ちゃんと教えた足運びができてるね」
ルージュが褒めてくれた。
そして、俺だけを見てくれている。
「・・・緊張してないな」
「だってみんな踊ってるもん。ほら、ちゃんと左手はわたしの腰に当てて」
嬉しいけど恥ずかしさもある。ルージュの顔が近くにあるから余計に・・・。
でも、これはいい。
もう終わるまでこのままでも・・・。
「ちょっと二人とも来て」
誰かに手を引っ張られた。
なんだよ・・・せっかく・・・。
「あれ・・・シロ?」
「当たり前でしょ、なに言ってんの?こっちに来て」
成長したシロがいた。
「ヴィクター」
「そうだな」
俺もルージュも同じ気持ちみたいだ。
◆
「シロ、会いたかったぞ。・・・大きくなったな」
「ヴィクターとも友達になったんだよ。わたしはいつものちっちゃいシロの方が好きだな」
中央から離れて、久しぶりの友達に言葉をかけた。
ルージュとの時間は無くなってしまったけどシロなら全然許せる。
会えなかった間に何をしてきたか、たくさん話したい。
「あのね・・・ちょっと一緒に来てほしいんだ」
シロが会場の奥に目を向けた。
あんま嬉しくなさそう・・・。
「どこに行くの?あ、おいしいお菓子があったんでしょ?」
「えっとね・・・王子様が君たちと話したいんだって」
「え・・・王子・・・」
ルージュの顔が引きつった。
そうか・・・シリウス・・・。
◆
「女みたいな顔してるな」
会場の隅、壁にもたれかかって頭を抱えている男がいた。
なんか想像してた奴と違う。
さっき見た兄貴は男らしかったんだけど・・・。
「あれが・・・王子様?」
ルージュはあんまり乗り気じゃなかったけど来てくれた。
「うん、恥ずかしがり屋さんなんだ」
「そんな感じだね・・・」
だから俺も会いたいこと、合図のこと、ちゃんとまた守ることを伝えたら頷いてくれた。
シロの頼みでも結構渋ってたな・・・。
小さい頃に離れた友達、再会の時はどんな顔をするのか・・・たくさんのルージュを知りたい。
「まあ・・・あの感じなら話しやすいかも」
「え・・・ルージュ、わかんない?」
「なにが?」
「え・・・」
ルージュはシリウスの正体に気付いていない。
・・・嘘だろ、そんなに変わってるのか?
子どもの時はどんなんだったんだよ・・・。
「ちょっと待ってて、連れてくるよ」
シロはシリウスの近くへ走り、肩を叩いて俺たちを指さした。
「ねえヴィクター、あれって本当に王子様?」
ルージュが不思議そうな顔をした。
ああ・・・。
「・・・どうしてそう思うんだ?」
「だって王子様って三人しかいないんだよ。一番下がゼメキス王子、あの人はわたしと同い年くらいだよね?」
「・・・どうなんだろうな」
まずい・・・シロも浮かれて「王子」なんて言うからルージュが怪しんでる。もう早く連れて来てくれよ。
二人の方を見ると、シリウスの顔は真っ赤になっていて、俺たちと目が合うとすぐに後ろを向いた。
なんだあいつ・・・友達なんだろ?
「たしかにすごい恥ずかしがりみたいだね。親近感っていうのかな・・・全然大丈夫そう」
ルージュが口元を緩ませた。
それはあいつを舐めてるって言うんだ・・・。
あ・・・でもよく考えたらここにいる男たちよりもルージュの方が強い。
シリウスじゃなくても恐がることないんじゃないか?
◆
「あ・・・動いた」
シロたちは何度かやり取りをしたあと、俺たちの方に歩いてきた。
シリウスはシロの手を握り、後ろからおどおどしながら付いて来ている。
「なんか同じような光景を見たことある・・・」
ルージュが目を細めた。
「既視感ってやつ?」
「うん・・・シリウスがシロに連れられてきた時、あんな感じだったんだ」
ならあいつは昔となにも変わってないのか。
顔だけは違うみたいだけど。
「ほら」
シロが繋いでいた手を離して後ろに下がった。
けっこう厳しいんだな。
「早く話して」
「う、うん・・・あの、来てくれてありがとう」
シリウスはルージュから目を逸らして、俺だけを見て言った。
こいつ仕方ねーな・・・俺がやるしかないか。
「シロから話だけは聞いてた。ヴィクターだ」
「う、うん。ボクも・・・君のことは聞いていたよ。友達に・・・なってね」
「今からそうだ」
「あはは・・・ありがとう・・・」
シリウスはぎこちなく笑った。
もっと堂々としろ・・・。
「ヴィクター、王子様・・・だよ。そんな話し方じゃ・・・」
ルージュが俺の腕を掴んだ。
これでいいんじゃないのかよ・・・。
「ダメなのか?」
「普通に話していいよ・・・ルージュもそうしてほしいな・・・」
「あれ?わたしのことを知っているんですか?」
「あ・・・うん」
ルージュと目が合ったシリウスはよけいに顔を赤くした。
「なんか・・・緊張してます?」
なるほど、ここまで弱気ならルージュも恐がらないってことか。
「ねえルージュ、まだわかんないの?」
シロは痺れを切らしたみたいだ。
目の前に立てば、すぐ昔みたいになると思ったんだろうな。
「え・・・どういうこと?」
「シロ・・・ボク・・・」
「自分で言って」
「あ・・・」
こいつ本当に仕方ねーな。
言葉じゃなくてもわかるもの、お前たちはそれを持ってるじゃないか。
「・・・ちょっとこれを見てくれ」
俺は首元から騎士のしるしを取り出した。
言いづらいならこれを出してくればよかったのに。
「どうしたのヴィクター?」
「これは聖女の騎士が女神様から授かった石だ。シロ、似たようなものをお前の友達は持ってるんだったよな?」
「そうだよ、ルージュとセレシュにチルとバニラ、あとメピル・・・それにシリウス」
「あ・・・」
シリウスもやっと気が付いたみたいだ。
自分の首にもそれがある・・・。
◆
「えーーー!!!」
ルージュの声で、近くにいた何人かがこっちを見てきた。
恥ずかしいけど、いい顔だな。
「ルージュ、ちょっと声を・・・」
「だって・・・だって・・・」
ルージュは「信じられない」って顔でシリウスを見つめている。
「えっと・・・久しぶりだね。綺麗になってて・・・わからなかったよ」
「・・・シリウス」
「来てくれてありがとう、ルージュ・・・わっ!」
ルージュがシリウスに抱きついた。
・・・これは引き離してはダメだ。
それにシリウスだからかなんとも思わない。
「・・・緊張したんだ。子どもの時と全然違うんだもん」
「わたしだってわからなかったよ。あっ、ねえ王子様ってどういうこと?」
二人はもう大丈夫そうだ。
昔遊んでた頃の雰囲気に戻ったって感じかな。
「ルージュ、ちょっと静かに話そう。・・・君たちを招待したのはボクなんだ。内緒にしてたけど、ボクは第四王子のシリウス・・・秘密にしてね」
「あはは・・・冗談?」
「本当だよ。外に出してはいけない話だから隠していたんだ」
たしか将来はどっかの地方領主になるくらいって話だったな。
シリウスが治める土地なら過ごしやすそうだ。
「シロにもずっと黙ってもらってたんだ。・・・ごめんねルージュ、本当は隠し事なんかしたくなかったんだけど・・・」
「い、いや・・・わたし・・・王子様と遊んでたの?」
「肩書はそうだけど、ボクは王子として育てられてはいない。君たちと同じだよ」
だからかはわからないけど、兄貴のゼメキスからの当たりがきつくて辛かったらしい。
・・・話だけ聞くとかわいそうな奴だ。
「へー・・・あ!ねえ、セレシュも来てるんだよ。早く会いに行こう」
「う・・・うん」
シリウスはまた弱気な顔になった。
「え・・・どうしたの?迎えに来てって言ってたでしょ?そしてシリウスはそうするって約束した。・・・ずっと待ってたんだよ」
「う・・・よし・・・行こう!」
シリウスは拳を握って胸を張った。
俺たちと話せたことで勇気が出たみたいだけど、一番待ってくれてた女の子を最後にするなよ・・・。
◆
「あそこにいる素敵な女性がそうだよ」
四人でセレシュが見える所まで近付いた。
・・・なんかつまんなそうな顔になってる。
近くにニルスさんとバニラさんもいるけど、ちょっとだけ離れて寂しそうに会場を眺めているだけだ。
「わあ、なんか違うね・・・ルージュと一緒で言われなきゃわからないよ」
「そうだよ、とっても綺麗になってるんだ。毎日美容水をつけて、いつシリウスが来てもいいようにしてたんだよ」
「ボクが・・・うん、頑張るよ」
シリウスの表情はまだ堅いけど、さっきよりはよさそうだ。
あとは歩き出すだけ。
「シリウス、セレシュにはお前一人で話しに行った方がいい」
そこに俺たちはいらない。
「え・・・一緒に来てくれないの?」
「そうだね、わたしたちは様子を見てるよ。それと、友達のしるしは隠してね。ちゃんと自分で名前を教えてあげるんだよ?」
「・・・うん」
シリウスは大きく息を吸い込んだ。
「ニルスから聞いたけど、セレシュはもう帰ってもいいかなって思ってるみたいだよ。せっかく来たのに楽しくなさそう」
シロが「急げ」って感じで伝えた。
あのつまんなそうな顔はそういうことか。
「わかった・・・任せて。話したらここに連れてくるね」
「頑張って」
ルージュは優しくシリウスの背中を押した。
「・・・」
たどたどしいけど、ちゃんとセレシュに向かっていってる。
「何を話すか気になるね」
「それなら二人とも僕に触れてて、シリウスの話を一緒に聞こう」
シロが俺たちの手を握った。
精霊の耳ってやつか。
「見て、ニルス様とバニラさんがシリウスに気付いて離れたよ」
「あいつ遅くなってるぞ・・・早く行けよ」
シリウスの足は近付くごとに重くなっていく。
それでも向かってはいるわけで、もうすぐずっと待っていてくれた女の子の前だ。
◆
「あの・・・夜会は・・・いかがですか?」
シリウスが覚悟を決めた顔でセレシュに話しかけた。
声は震えてるけどちゃんとできたな。
「え・・・私・・・ですか?」
「そうです・・・ずっと話したいと思っていて・・・」
「あ・・・あれ・・・」
セレシュは周りを見た。
いつの間にかニルスさんが消えて焦ってるっぽい。
「・・・どうされました?えっと・・・素敵なドレスですね、似合っています」
「あ、ありがとうございます・・・」
セレシュも話しかけてきた男が誰なのか気付いていないみたいだ。
ていうか目線逸らしてる・・・。
「少し・・・語らいませんか?」
「あ・・・少し・・・なら・・・」
「ありがとうございます。えと・・・ボク・・・精霊学が好きなんです」
「そうなんですね・・・私も好きです・・・」
あいつバカか?早く名乗れよ。
つーかその話でどう切り出すつもりだ?・・・考えてないんじゃないか?
「うーん・・・助けに行かないとダメかな?」
「ダメだよシロ、きっと大丈夫」
ルージュは見守るつもりだ。
じれったいけど俺もそうしよう。
「ボク・・・長い間テーゼを離れていたんです。でも来年からこの街にある精霊学のアカデミーに通うために戻ってきました」
「そうなんですか?私も・・・来年から通う予定です・・・」
「楽しみですよね。・・・ここだけの話なんですが、ボクには精霊の友達がいるんです」
「え・・・」
なるほどな、繋がりは友達のしるしだけじゃない。
けど・・・回りくどいな。
「精霊の王シロ・・・ボクの初めての友達でした」
「シロを・・・知っているのですか?」
「今から九年前・・・ボクが四歳の時です。シロと友達になった日に、また別の友達が二人できました」
「・・・」
セレシュが顔を上げてシリウスを見た。
「一人は元気な女の子で、もう一人は・・・少し内気な女の子でした。その日は、四人で一緒にパンを食べたんですよ」
「・・・」
二人は見つめ合った。
さすがにわかったか。
「最後に遊んだ時、夜会に行ってみたいって言ってたね・・・セレシュ」
「・・・」
二人はどちらともなく体を重ねた。
・・・やるじゃん。
「夏の風・・・ボクの好きな香りだ・・・」
「ずっと使ってたんだよ・・・。あなたは未来の音・・・私の好きな香り・・・」
もう大丈夫だな。
「ほらニルスさん、隠しててごめんねって謝りに行きましょ」
「・・・そうだな」
後ろで見ていたニルスさんとバニラさんも安心したみたいだ。
「シロ、ヴィクター、わたしたちも早く行こう」
ルージュは友達の再会と幸せを心から喜んでいた。
この子にもセレシュと同じくらい幸せな顔をしてほしい。
だから俺も・・・今夜想いを・・・。




