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Our Story  作者: NeRix
風の章 第三部
222/481

第二百十三話 王子様【ヴィクター】

 今夜・・・今夜ルージュに気持ちを伝える。


 『バカじゃないの!!あんたが幸せにすんのよ!!他の男じゃなくて、自分の隣で笑ってた方がいいでしょーよ!!』

ミランダさんには感謝している。

あの人のおかげで伝える勇気を大きくすることができた。


 『あんたがルージュの騎士になんのよ。今日も明日も守ってやんな』

自分の中にはあったけど見つからなかった言葉・・・引っ張り出してくれた。


 やっとわかったよルージュ。

そういうことを言えばいいんだ・・・。



 「着いたみたいだね」

「そ、そうだな・・・」 

馬車が停まった。

窓の外には城門が見える。


 「さあ、外に出ろ」

テッドさんが扉を開けてくれた。

 「ありがとうございます」

着いてしまった。

夜会なんて初めて・・・緊張する・・・。


 「・・・ヴィクター、なにをしている。先に降りてルージュの手を引いてやるんだ」

「あ・・・はい」

怒られた・・・。

情けないな・・・いや、しっかりしなければ。

 「ルージュ、気を付けて降りろ」

「ふふ、ありがとう」

今日も俺はルージュの騎士、堂々としているって決めたんだ。

でも・・・馬車でなに話したか全然憶えてねー・・・。


 「ルージュ、アリシアが戻ったらその姿を見せてやれよ」

「はい、そうします」

「帰りもこの辺りが停車場になる。混むから客がいなくなってから来い」

テッドさんはすぐ馬車に乗り込んだ。

 ・・・そんなに会場に残ってていいのか?

夜会の掟なんてなんにも知らねーぞ・・・。

やっちゃいけないこととかあんのかな?

 「ルージュ、ヴィクター」

考えていると、背中に知っている声が当たった。

・・・安心する。


 「あ、セレシュ・・・いつもと違うね。アカデミーで教わってきた素敵な女性って感じ」

「そ、そんなことないよ・・・ルージュの方が綺麗だし・・・ね、ニルスさん?」

「二人とも綺麗だよ。早く中に入ろうか」

ニルスさんはいつも通りの感じで微笑んだ。

 この人も初めての夜会なのに落ち着いてるな・・・。

年上だからか?俺も見習わなければ・・・。



 門の前にいた人に招待状を見せると、城の中に入れてもらえた。

会場までは案内人が付いてくれるらしい。


 「わあ、あの鏡大きい・・・」

「見て、あっちに綺麗な絵が飾ってある」

ルージュとセレシュは、中の装飾や雰囲気をめいっぱい楽しみながら歩いている。

ドレス着てても街の中と変わらないな・・・。


 「上品にしていないと親が笑われるかもしれないよ」

ニルスさんが目を細くした。

 「は・・・」「う・・・」

二人は背筋を伸ばした。

 ニルスさんて、たまに厳しいこと言うよな・・・。

楽しそうにしてるんだから水差さなくていいだろ。


 「ふふ、お楽しみいただいて構いませんよ」

案内の人の方が優しい・・・。



 「あ・・・」「あ・・・」

奥に進んだところで、オレとルージュは同時に立ち止まった。

あの人・・・。


 「あ・・・そっか、ここにいて当然だよね・・・」

城内には騎士たちも配置されていた。

だからいて当たり前・・・。

 「気まずいな・・・」

「まあ・・・わたしはこの髪の毛の時会ったことないから・・・」

「俺は無理がある・・・」

すぐ近くにイザベラ・スウェードがいた。

ティムさんの元姉・・・俺がぶっ飛ばした人・・・。


 「・・・」

向こうも俺に気付いたみたいだけど、特に反応は無い。

あの人、今何考えてんだろうな・・・。

 


 「・・・なにも言ってこなかったね」

離れたところで、ルージュが溜め息を零した。

絡まれなくてよかった・・・。


 「今日は対戦相手じゃないからな」

「ニルス様・・・」

「思う所はあっても、話すことは許されていないんだろう」

なるほどね、それなら気が楽だ。


 「ニルスさんとルージュの髪の毛を見て驚いていましたよ」

セレシュが兄妹を見て笑った。

俺は気まずくて下向いてたから気付かなかったな。

 「髪の毛?」

「アリシア・・・雷神と同じで驚いたんじゃないのか?」

ああそっか、二人の髪色はまあまあ目立つ。

俺に対してなんかあったとしても、そっちで忘れててほしい・・・。



 「あちらが会場でございます」

大きな扉が近付いてきた。

・・・気合を入れなければ!


 「あ・・・扉が開きましたよ」

「そうだな・・・あ・・・」

ニルスさんが立ち止まった。

視線を追いかけると、今出てきた人を凝視している。


 「・・・第一王子のヴェルミュレオ様ですね。お忙しい方なので、ご挨拶だけで済ませたのでしょう」

案内人もニルスさんの視線を追ったみたいだ。

 ふーん、あれが王子・・・。

腹違いらしいけど、シリウスと似てんのかな?


 「・・・ニルス様?」

「お客様・・・どうなされましたか?」

「・・・」

ニルスさんは固まったまま動かない。

ただこっちに来る王子を見ているだけ・・・。


 「ん・・・おお!!」

王子が俺たちに気付いて、歓喜に似た声を上げた。

いや・・・ニルスさんか?

 「ニルス!ニルスだな?」

「・・・」

「そうだろう?・・・あの頃よりも逞しくなったな。招待されていたのか?」

「・・・はい」

ニルスさんがか細い声を出した。

この二人、面識あったのか?


 「憶えて・・・いたのですね」

「当然だ。あの時、もっとしつこく誘ってもよかったと今でも後悔する夜がある」

「せっかくのお誘いを・・・すみませんでした・・・」

「気にするな。また会えて嬉しいぞ」

なんか妖しい会話に聞こえる。

・・・変な意味じゃねーよな?


 「父上から招待されたのか?」

「ま、まあ・・・そうだと思います」

「どうした?緊張しているのなら私の部屋に来ないか?今再会できたのは運命のような気がする」

「ぐ、偶然ですよ。あの・・・夜会に行かなければ・・・」

ニルスさんが狼狽えている。

どうすんだこれ?


 「お、王子・・・お客様はまだ会場にすら入っておりません・・・」

案内人が止めてくれた。

後ろから他の招待客も来るからな。


 「すみません王子・・・またの機会にしましょう。今は本当に忙しいのです。今日もなんとか時間を作って来たので・・・」

「ニルス・・・今は何をしている?闘技大会にも出てこないな」

出てたけど名前は「ニール・ホープ」だったし、髪の毛も違うから気付かなかったのか・・・。

 「次の殖の月・・・状況によっては出ます。あの・・・そろそろよろしいでしょうか・・・」

苦しそうだな。

王子と何があったんだ?


 「殖の月か・・・遠いな。私はこの城にいる。会いに来てほしい」

「色々片付いたらでよろしいでしょうか・・・」

「約束だぞ。待っているからな」

「・・・はい」

ニルスさんは頷いてしまった。

この人って、けっこう勢いに弱いんだな・・・。



 「・・・どういったご関係だったのですか?」

王子が去ると案内人が尋ねてきた。

予想外のことだったんだろうな・・・俺もだけど。

 「わたしも知りたいです・・・」

「私も・・・」

俺も知りたい・・・。


 「昔・・・ずっと昔、初めて功労者になった時だ。・・・騎士団に入って護衛についてほしいと言われたことがある。大陸の各地を巡る旅、一緒に来てほしいと・・・」

「そうだったのですか・・・失礼しました。あそこまで興奮されているお姿は初めて見たもので・・・」

「いえ、気にしないでください。ただ・・・それだけです」

ニルスさんは懐かしそうに微笑み、ルージュの頭を優しく撫でた。

 なんとなくわかった。

色々辛かった時期・・・その時のことなんだろう。


 「・・・たった一度、それも今と同じくらい短い時間だった。・・・よく憶えてたな」

「ニルス様と仲良くしたいって感じでしたね。お友達ですよ」

「友達・・・まあ、色々解決したらだな。とりあえず、今日は夜会を楽しもうか」

「はい」

あ・・・そうだった、夜会に来てんだったな。


 色々片付くのはいつになるか・・・いや、こんなんじゃダメだ。

俺も一緒に片付ける。



 「では、交流をお楽しみください」

案内人が会場の扉を開いてくれた。

 中には、俺たちと同じように夜会服の男女がたくさんいる。みんな身分の高い奴らなんだろう。

ていうか、交流って言われても今回だけだしな・・・。


 「セレシュ、なにか飲み物を貰いに行こうか。せっかく来たんだ、夜の中庭も見せてあげるよ」

「は、はい・・・」

セレシュが震えながらニルスさんの手を取った。

え・・・。

 「あの・・・ニルス様、わたしたちは・・・」

「ルージュにはヴィクターがいるだろ。またあとでな」

ニルスさんはセレシュを連れて奥へと消えた。

 ・・・そりゃあんたは城に来たことあるからいいけど、俺たちは初めてだぞ。一緒にいてくれても・・・違う、二人にしてくれた?そうだよな。


 「ルージュ、中を見て回ろうか」

俺も同じ感じで・・・。

 「あ・・・うん、ちゃんと守ってね」

「任せろよ」

見回すと、若い男の何人かがルージュを見ていた。

近寄っても斬りはしないけど・・・。


 「ルージュ、たぶん話しかけられるのは避けられないと思う。すぐに追い返すのも無礼だ」

「えー・・・どうしよう」

ルージュが不安そうな顔をした。

だから・・・。

 「合図を決めよう。助けてほしいって思ったら手を後ろにして小指を立ててくれ、なんとかしてやる」

「うん・・・わかった。約束ね」

今、ルージュの支えは俺しかいない。

シリウスが現れれば人も避けるだろうけど、それまでは俺が何とかしないとな。



 「失礼、とても美しい方で見惚れていました。お名前を教えていただけますか?」

飲み物を貰ったところで、育ちのよさそうな男が話しかけてきた。

早速か・・・。


 「えっと・・・あの、ルーン・ホープといいます」

「ホープ・・・初めて聞く名前ですね。夜会も初めてですか?」

「はい・・・」

「お住まいはどちらですか?どなたの招待で・・・」

ルージュが指を立てた。

早いな・・・。

 「申し訳ありませんが、先に挨拶をしたい方がいるのです」

俺は一歩前に出た。

付き人ってこんな感じでいいのかな・・・。


 「・・・なるほど。ではルーンさん、またお話ししましょうね」

男は素直に引いてくれた。

爽やかだな・・・そういう育ち方をしてきたってことか。

 

 「いやー、本当に話しかけられるとは思わなかったよ」

ルージュが振り返って笑ってくれた。

 「今みたいな感じで助けてやる。ルージュは無礼な態度を取らないようにだけ考えてればいい」

それに騒いだりするような品の無い奴はここにいない。

やんわりと伝えればすぐに引いてくれるはずだ。



 二人で会場を歩き回っていた。

楽しいのは楽しいんだけど・・・。


 「美しい髪ですね」「素敵なドレスです」「静かな所で語らいませんか?」

次から次へと男が寄ってくる。

・・・ルージュに近付くなよ。


 「・・・なんでみんなわたしに来るの?他にも女の人はたくさんいるのに・・・」

ルージュも疲れてきたみたいだ。

 「そのくらいルージュに魅力があるんだ。若い男が相手を見つける場所でもあるからな」

これはエリィさんに教わった。

 女性もそれがわかっているから対応しないといけない。

でも、気に入らなければやんわりと断っていいらしい。


 「あーあ・・・わたしはヴィクターがいればいいんだけどな・・・」

「え・・・」

心臓が大きく震えた。

この場所だけの話なのか、それとも全部含めての話なのか・・・。


 「それにみんな偉い人の子どもなんだって。わたしなんかとは話も合わないよ」

「ルージュは英雄の子だろ?」

「お母さんは偉いっていうのとは違うよ。えーと・・・すごい人?」

ルージュは微笑みながら話してくれた。

 ここでルージュの笑顔を見れるのは俺だけ・・・すげー優越感だ。

これだけで一緒に来て良かった。そして、あいつらには絶対見せねー・・・。



 「そうだ・・・ねえねえ、話しかけられないようにするいい方法を思いついたよ」

ルージュが楽団の近くで振り返った。

また笑顔・・・どうするんだろうな。


 「どのくらいの名案なんだ?」

「簡単なことだったんだよ」

「簡単?」

「ふふ、踊っていただけますか?」

ルージュの手が俺の目の前に出された。

なるほど・・・「付き人」にこだわってたけど、そうじゃなくすればいいってことか。



 会場の真ん中には、優しい旋律に合わせて踊っている男女が何組もいた。

たぶん、相手を見つけた人たちなんだろう。


 「ここで踊ってれば大丈夫だよ。次の曲で入ろうね」

「そうするか・・・」

きのうまで、夜にルージュと練習をしていた。

ステラ様が「必要だ」と何度も言っていたから・・・。


 「他からは相手を見つけた者同士って見えるだろうな」

「そうだね。あと移動する時は後ろじゃなくて、わたしの手を引いて少し前を歩いてください」

「わかった」

最初からそうしとけばよかった。


 「あ・・・よし、行こう」

曲が変わった。

 「ゆっくりだからな?」

大丈夫・・・練習したから大丈夫・・・。



 「上手だよ、ちゃんと教えた足運びができてるね」

ルージュが褒めてくれた。

そして、俺だけを見てくれている。


 「・・・緊張してないな」

「だってみんな踊ってるもん。ほら、ちゃんと左手はわたしの腰に当てて」

嬉しいけど恥ずかしさもある。ルージュの顔が近くにあるから余計に・・・。

 でも、これはいい。

もう終わるまでこのままでも・・・。

 「ちょっと二人とも来て」

誰かに手を引っ張られた。

なんだよ・・・せっかく・・・。


 「あれ・・・シロ?」

「当たり前でしょ、なに言ってんの?こっちに来て」

成長したシロがいた。

 「ヴィクター」

「そうだな」

俺もルージュも同じ気持ちみたいだ。



 「シロ、会いたかったぞ。・・・大きくなったな」

「ヴィクターとも友達になったんだよ。わたしはいつものちっちゃいシロの方が好きだな」

中央から離れて、久しぶりの友達に言葉をかけた。

 ルージュとの時間は無くなってしまったけどシロなら全然許せる。

会えなかった間に何をしてきたか、たくさん話したい。


 「あのね・・・ちょっと一緒に来てほしいんだ」

シロが会場の奥に目を向けた。

あんま嬉しくなさそう・・・。

 「どこに行くの?あ、おいしいお菓子があったんでしょ?」

「えっとね・・・王子様が君たちと話したいんだって」

「え・・・王子・・・」

ルージュの顔が引きつった。

そうか・・・シリウス・・・。



 「女みたいな顔してるな」

会場の隅、壁にもたれかかって頭を抱えている男がいた。

 なんか想像してた奴と違う。

さっき見た兄貴は男らしかったんだけど・・・。


 「あれが・・・王子様?」

ルージュはあんまり乗り気じゃなかったけど来てくれた。

 「うん、恥ずかしがり屋さんなんだ」

「そんな感じだね・・・」

だから俺も会いたいこと、合図のこと、ちゃんとまた守ることを伝えたら頷いてくれた。

シロの頼みでも結構渋ってたな・・・。


 小さい頃に離れた友達、再会の時はどんな顔をするのか・・・たくさんのルージュを知りたい。


 「まあ・・・あの感じなら話しやすいかも」

「え・・・ルージュ、わかんない?」

「なにが?」

「え・・・」

ルージュはシリウスの正体に気付いていない。

 ・・・嘘だろ、そんなに変わってるのか?

子どもの時はどんなんだったんだよ・・・。


 「ちょっと待ってて、連れてくるよ」

シロはシリウスの近くへ走り、肩を叩いて俺たちを指さした。

 「ねえヴィクター、あれって本当に王子様?」

ルージュが不思議そうな顔をした。

ああ・・・。


 「・・・どうしてそう思うんだ?」

「だって王子様って三人しかいないんだよ。一番下がゼメキス王子、あの人はわたしと同い年くらいだよね?」

「・・・どうなんだろうな」

まずい・・・シロも浮かれて「王子」なんて言うからルージュが怪しんでる。もう早く連れて来てくれよ。


 二人の方を見ると、シリウスの顔は真っ赤になっていて、俺たちと目が合うとすぐに後ろを向いた。

なんだあいつ・・・友達なんだろ?

 「たしかにすごい恥ずかしがりみたいだね。親近感っていうのかな・・・全然大丈夫そう」

ルージュが口元を緩ませた。

それはあいつを舐めてるって言うんだ・・・。

 あ・・・でもよく考えたらここにいる男たちよりもルージュの方が強い。

シリウスじゃなくても恐がることないんじゃないか?



 「あ・・・動いた」

シロたちは何度かやり取りをしたあと、俺たちの方に歩いてきた。

シリウスはシロの手を握り、後ろからおどおどしながら付いて来ている。


 「なんか同じような光景を見たことある・・・」

ルージュが目を細めた。

 「既視感ってやつ?」

「うん・・・シリウスがシロに連れられてきた時、あんな感じだったんだ」

ならあいつは昔となにも変わってないのか。

顔だけは違うみたいだけど。


 「ほら」

シロが繋いでいた手を離して後ろに下がった。

けっこう厳しいんだな。

 「早く話して」

「う、うん・・・あの、来てくれてありがとう」

シリウスはルージュから目を逸らして、俺だけを見て言った。

こいつ仕方ねーな・・・俺がやるしかないか。


 「シロから話だけは聞いてた。ヴィクターだ」

「う、うん。ボクも・・・君のことは聞いていたよ。友達に・・・なってね」

「今からそうだ」

「あはは・・・ありがとう・・・」

シリウスはぎこちなく笑った。

もっと堂々としろ・・・。


 「ヴィクター、王子様・・・だよ。そんな話し方じゃ・・・」

ルージュが俺の腕を掴んだ。

これでいいんじゃないのかよ・・・。

 「ダメなのか?」

「普通に話していいよ・・・ルージュもそうしてほしいな・・・」

「あれ?わたしのことを知っているんですか?」

「あ・・・うん」

ルージュと目が合ったシリウスはよけいに顔を赤くした。

 「なんか・・・緊張してます?」

なるほど、ここまで弱気ならルージュも恐がらないってことか。


 「ねえルージュ、まだわかんないの?」

シロは痺れを切らしたみたいだ。

目の前に立てば、すぐ昔みたいになると思ったんだろうな。

 「え・・・どういうこと?」

「シロ・・・ボク・・・」

「自分で言って」

「あ・・・」

こいつ本当に仕方ねーな。

言葉じゃなくてもわかるもの、お前たちはそれを持ってるじゃないか。


 「・・・ちょっとこれを見てくれ」

俺は首元から騎士のしるしを取り出した。

言いづらいならこれを出してくればよかったのに。

 「どうしたのヴィクター?」

「これは聖女の騎士が女神様から授かった石だ。シロ、似たようなものをお前の友達は持ってるんだったよな?」

「そうだよ、ルージュとセレシュにチルとバニラ、あとメピル・・・それにシリウス」

「あ・・・」

シリウスもやっと気が付いたみたいだ。

自分の首にもそれがある・・・。



 「えーーー!!!」

ルージュの声で、近くにいた何人かがこっちを見てきた。

恥ずかしいけど、いい顔だな。


 「ルージュ、ちょっと声を・・・」

「だって・・・だって・・・」

ルージュは「信じられない」って顔でシリウスを見つめている。

 「えっと・・・久しぶりだね。綺麗になってて・・・わからなかったよ」

「・・・シリウス」

「来てくれてありがとう、ルージュ・・・わっ!」

ルージュがシリウスに抱きついた。

 ・・・これは引き離してはダメだ。

それにシリウスだからかなんとも思わない。


 「・・・緊張したんだ。子どもの時と全然違うんだもん」

「わたしだってわからなかったよ。あっ、ねえ王子様ってどういうこと?」

二人はもう大丈夫そうだ。

昔遊んでた頃の雰囲気に戻ったって感じかな。


 「ルージュ、ちょっと静かに話そう。・・・君たちを招待したのはボクなんだ。内緒にしてたけど、ボクは第四王子のシリウス・・・秘密にしてね」

「あはは・・・冗談?」

「本当だよ。外に出してはいけない話だから隠していたんだ」

たしか将来はどっかの地方領主になるくらいって話だったな。

シリウスが治める土地なら過ごしやすそうだ。


 「シロにもずっと黙ってもらってたんだ。・・・ごめんねルージュ、本当は隠し事なんかしたくなかったんだけど・・・」

「い、いや・・・わたし・・・王子様と遊んでたの?」

「肩書はそうだけど、ボクは王子として育てられてはいない。君たちと同じだよ」

だからかはわからないけど、兄貴のゼメキスからの当たりがきつくて辛かったらしい。

・・・話だけ聞くとかわいそうな奴だ。


 「へー・・・あ!ねえ、セレシュも来てるんだよ。早く会いに行こう」

「う・・・うん」

シリウスはまた弱気な顔になった。

 「え・・・どうしたの?迎えに来てって言ってたでしょ?そしてシリウスはそうするって約束した。・・・ずっと待ってたんだよ」

「う・・・よし・・・行こう!」

シリウスは拳を握って胸を張った。

俺たちと話せたことで勇気が出たみたいだけど、一番待ってくれてた女の子を最後にするなよ・・・。



 「あそこにいる素敵な女性がそうだよ」

四人でセレシュが見える所まで近付いた。

 ・・・なんかつまんなそうな顔になってる。

近くにニルスさんとバニラさんもいるけど、ちょっとだけ離れて寂しそうに会場を眺めているだけだ。


 「わあ、なんか違うね・・・ルージュと一緒で言われなきゃわからないよ」

「そうだよ、とっても綺麗になってるんだ。毎日美容水をつけて、いつシリウスが来てもいいようにしてたんだよ」

「ボクが・・・うん、頑張るよ」

シリウスの表情はまだ堅いけど、さっきよりはよさそうだ。

あとは歩き出すだけ。

 「シリウス、セレシュにはお前一人で話しに行った方がいい」

そこに俺たちはいらない。


 「え・・・一緒に来てくれないの?」

「そうだね、わたしたちは様子を見てるよ。それと、友達のしるしは隠してね。ちゃんと自分で名前を教えてあげるんだよ?」

「・・・うん」

シリウスは大きく息を吸い込んだ。

 「ニルスから聞いたけど、セレシュはもう帰ってもいいかなって思ってるみたいだよ。せっかく来たのに楽しくなさそう」

シロが「急げ」って感じで伝えた。

あのつまんなそうな顔はそういうことか。


 「わかった・・・任せて。話したらここに連れてくるね」

「頑張って」

ルージュは優しくシリウスの背中を押した。

 「・・・」

たどたどしいけど、ちゃんとセレシュに向かっていってる。


 「何を話すか気になるね」

「それなら二人とも僕に触れてて、シリウスの話を一緒に聞こう」

シロが俺たちの手を握った。

精霊の耳ってやつか。

 「見て、ニルス様とバニラさんがシリウスに気付いて離れたよ」

「あいつ遅くなってるぞ・・・早く行けよ」

シリウスの足は近付くごとに重くなっていく。

それでも向かってはいるわけで、もうすぐずっと待っていてくれた女の子の前だ。



 「あの・・・夜会は・・・いかがですか?」

シリウスが覚悟を決めた顔でセレシュに話しかけた。

声は震えてるけどちゃんとできたな。


 「え・・・私・・・ですか?」

「そうです・・・ずっと話したいと思っていて・・・」

「あ・・・あれ・・・」

セレシュは周りを見た。

いつの間にかニルスさんが消えて焦ってるっぽい。

 「・・・どうされました?えっと・・・素敵なドレスですね、似合っています」

「あ、ありがとうございます・・・」

セレシュも話しかけてきた男が誰なのか気付いていないみたいだ。

ていうか目線逸らしてる・・・。


 「少し・・・語らいませんか?」

「あ・・・少し・・・なら・・・」

「ありがとうございます。えと・・・ボク・・・精霊学が好きなんです」

「そうなんですね・・・私も好きです・・・」

あいつバカか?早く名乗れよ。

つーかその話でどう切り出すつもりだ?・・・考えてないんじゃないか?


 「うーん・・・助けに行かないとダメかな?」

「ダメだよシロ、きっと大丈夫」

ルージュは見守るつもりだ。

じれったいけど俺もそうしよう。


 「ボク・・・長い間テーゼを離れていたんです。でも来年からこの街にある精霊学のアカデミーに通うために戻ってきました」

「そうなんですか?私も・・・来年から通う予定です・・・」

「楽しみですよね。・・・ここだけの話なんですが、ボクには精霊の友達がいるんです」

「え・・・」

なるほどな、繋がりは友達のしるしだけじゃない。

けど・・・回りくどいな。


 「精霊の王シロ・・・ボクの初めての友達でした」

「シロを・・・知っているのですか?」

「今から九年前・・・ボクが四歳の時です。シロと友達になった日に、また別の友達が二人できました」

「・・・」

セレシュが顔を上げてシリウスを見た。


 「一人は元気な女の子で、もう一人は・・・少し内気な女の子でした。その日は、四人で一緒にパンを食べたんですよ」

「・・・」

二人は見つめ合った。

さすがにわかったか。


 「最後に遊んだ時、夜会に行ってみたいって言ってたね・・・セレシュ」

「・・・」

二人はどちらともなく体を重ねた。

・・・やるじゃん。

 「夏の風・・・ボクの好きな香りだ・・・」

「ずっと使ってたんだよ・・・。あなたは未来の音・・・私の好きな香り・・・」

もう大丈夫だな。


 「ほらニルスさん、隠しててごめんねって謝りに行きましょ」

「・・・そうだな」

後ろで見ていたニルスさんとバニラさんも安心したみたいだ。


 「シロ、ヴィクター、わたしたちも早く行こう」

ルージュは友達の再会と幸せを心から喜んでいた。


 この子にもセレシュと同じくらい幸せな顔をしてほしい。

だから俺も・・・今夜想いを・・・。

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