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Our Story  作者: NeRix
風の章 第三部
216/481

第二百七話 夜会服【ニルス】

 招待状を出したのはシリウスで間違いないだろう。

オレは成長した姿をまだ見ていないけど、ステラが言うにはかなりの美少年らしい。


 そういえば、夜会が終わったら預かるんだよな?

みんないるし楽しくなりそうだ。

はあ・・・楽しいだけならいいんだけど。



 「本当にセレシュも招待されてるのかな?」

「行ってみりゃわかるだろ」

「でも・・・一緒だったらいいな」

「早く行ってみようぜ」

ルージュとヴィクターが足を早めた。

嘘つくの・・・けっこう大変かも。


 『さっきね、ジェニーの鞄の中身が見えたの。全部は見えなかったけど、グリーンって書いてあったわ』

ステラが機転を利かせてくれた。

 『セレシュもってことですか?』

『そうかもしれない。一度様子を見に行ってあげて』

自然にセレシュの所へ行く口実ができたけど大丈夫かな?

シリウスのために、バレないようにしないと・・・。



 「目的がはっきりしないならこの招待状は受け取れん!!!」

セレシュの家の前、外にまで聞こえる怒鳴り声がるルージュたちの足を止めた。

けっこうやばい雰囲気・・・。


 「うわあ・・・おじさん怒ってる・・・。招待状はほんとだったんだ・・・」

「こえーな・・・」

ルージュとヴィクターが構えた。

 ここまで怒ってるのは初めてかもしれない。

・・・ジェニーもとんでもない仕事を任されたな。


 「まさか・・・第三王子か?ダメだ!!それだけは絶対に許さん!!!」

また怒鳴り声が聞こえた。

オレと同じこと考えてる・・・。


 「ニルス様・・・果実を・・・」

「ダメだ、この状態で説得する」

「あ、あれを止めるんですか?俺は厳しいです・・・」

「・・・オレが話すよ。とりあえず入ろう」

二人の足は重い、何気なく遊びに来たくらいだったら引き返していただろうな。



 「どうしたんですか・・・。いいか、これが第一声だ。止めれば余計熱くなる、偶然ここに来たって感じで入ること」

「・・・はい」「・・・わかりました」

「よし、行け」

二人は扉を開けて駆け込んだ。


 「どうしたのおじさん!外まで聞こえてたよ!」

「なにがあったんですか!奥さんもセレシュも震えてる、落ち着いて話を聞かせてください!」

「ルージュ・・・ヴィクター・・・」

ウォルターさんはオレたちを物騒な目で睨んできた。

戦場での顔じゃないか・・・。


 「あ・・・助けて・・・」

ジェニーは涙目だった。

 きっと承諾を貰うまで帰れないんだ。

シリウスの名前を出せないから困り果てていたんだろう。


 「ウォルターさん、落ち着いて・・・まずは座ってください」

「ニルス・・・」

ああ・・・これはルージュとヴィクターではダメだ。

 「・・・」「・・・」

気圧されて動けなくなってるからな。


 「セレシュに夜会の招待状が来たんですよね?」

「ああそうだ。・・・だが詳しいことは話せないらしい」

「ひ・・・ニルスくーん・・・」

「ジェニーを睨まないでください。とりあえずオレと二人で話しましょう。みんなは外に出るか別な部屋に」

他は一度遠ざけた方がいい。

これ以上刺激したら槍を持ってきそうだ。



 「ルージュにも招待状が来ました」

二人だけになった所で切り出した。

どう説明するか・・・。


 「ルージュにも・・・なぜ身分の違う二人を呼ぶ?なにか聞いたか?」

「いえ、ですが行かせるつもりです」

「お前・・・何考えてんだ?まだ成人前だぞ、朝帰りでもしたらどうする!金持ってるだけのガキがセレシュの純潔を奪ったら俺は・・・おい、今からそいつ殺し行くぞ!」

・・・想像力豊かだな。

まあそういう心配はわかるけど。


 「セレシュは今家にいるでしょ・・・。冷静になってください」

「セレシュとルージュが男に無理矢理連れ出されるかもしれないだろ。・・・特にゼメキス、あいつは好かない。アリシアだって許さないはずだ」

「その心配が無いようにしたんです」

「心配が無い・・・どういうことだ?」

よかった、少しだけ落ち着いてくれたみたいだ。

シリウス・・・これは貸しだからな・・・。


 「ヴィクターを付き人として行かせます。セレシュにも誰か信頼できる男を付ければいいんです」

「信頼・・・シロは動けないだろ?あとはシリウスがいれば任せたが・・・無理だ」

そのシリウスから呼ばれてるんだけどな・・・。

 話せるならとっくにジェニーは名前を出している。でも「自分の名前は出すな」って言われているんだろう。


 「ティムはどうですか?セレシュも信頼してます」

「友達同士の集まりじゃなくて王城での夜会だぞ?もっとしっかりした話し方ができる奴じゃないとセレシュが恥をかく」

かわいそうな奴・・・。でもとりあえず誰かがセレシュに付けば、行かせてもいいとは思ってるんだな。

ていうか・・・。

 「心配ならウォルターさんが行けばいいんですよ」

これでなんの問題も無い。


 「・・・俺じゃダメだ」

「どうしてですか?」

「こんなおっさんが一緒にいたらセレシュが安く見られる・・・」

く・・・どうせシリウスと会うんだから気にすることないのに・・・。


 「そうだ・・・お前なら任せてもいい」

ウォルターさんの声色が変わった。

・・・オレ?

 「あの・・・」

「お前の容姿ならセレシュに見合う。そして誰よりも信頼できる」

オレは大きな手に持ち上げられた。

顔が近い・・・。


 「事情は知ってる・・・その上で頼めないか?セレシュは夜会に行ってみたいって、小さい頃はずっと言ってたんだ」

「さっきはダメだって怒鳴ってたじゃないですか・・・」

「詳しいことを教えてくれないからだ。行ったら知らないガキから辱めを受けていた・・・そんな危険があるなら行かせられん。口には出さなくなったけど・・・あの子は今もシリウスを想っている・・・」

シリウスもそうだから呼んでるんだよ・・・。


 でもオレか・・・果実は残り三つ・・・どうする?

ここで使っていいのか?闘技大会で使うべきではなかった?

色んな考えが湧いてくる。

 戦いが必要になった時に一つは残っていればいいか?

いや、真実を映す眼・・・それで元に戻れるなら気にする必要は無い?

・・・待て待て、甘く考えていいのか?


 「お前がダメなら断る」

「考えてるんでちょっと待ってください」

セレシュ・・・ずっとルージュと友達でいてくれた・・・。

 もしここでセレシュが夜会に行けなくなれば、ルージュも気を遣って断る。

そうなったら台無しだ・・・。


 「・・・わかりました。オレが一緒に行きましょう」

こうするしかないな。

 大丈夫、夜会で使っても果実は二つ余る。

そのあとは本当に必要な時に使う・・・充分なはずだ。



 みんなを部屋に戻した。

・・・疲れたな。


 「ああ・・・ありがとうニルス君・・・」

「お化粧が落ちるよ」

「いいの、ニルス君から擦り付けてもいいからね」

ジェニーに持ち上げられて頬ずりされた。

やっと受け取って貰えて嬉しそうだ。


 「・・・シリウスに大変だったって伝えてほしい」

誰にも聞こえないように小声で伝えた。

 「ちゃんとニルス君からって言っておくよ。それと、夜会の時はわたしも給仕でいるからなんでも言いつけてね」

「じゃあ・・・元の姿で会えるわけか」

見せるのって十年ぶりくらいになるのかな?


 「ふふ・・・ニルス君からの申し付けだったらなんでもしてあげるからね」

「・・・どういう意味?」

「なんでもだよ。例えば、スカートの中見せてとか・・・ふふ、楽しみにしてるね。・・・では失礼いたしますー」

ジェニーは顔を赤くしてセレシュの家を出て行った。

何言ってんだよ・・・。



 「え・・・ニルス様が・・・」

みんなに決まったことを話した。

ルージュはちょっと膨れている。


 「そうでないとセレシュは夜会に行けないんだ」

「む・・・わたしが頼んでも使ってくれないですよね?」

「状況に寄るだろ・・・」

「ステラさんはいい、ティムさんもいい、セレシュもよくて・・・わたしはダメなんですね」

ルージュは何を怒ってるんだ・・・。

 「これはセレシュだけじゃない、ルージュのためでもある」

「わたしの・・・どういう意味ですか?」

「いつかわかる・・・約束しよう」

「わかりました・・・待ってます」

話せるのはここまでだ。

わかるのは十日後、それまでは色々思われるかもな・・・。


 「ニルスさん、ありがとうございます」

「ありがとうニルス、私たちじゃ口出せなかったのよ」

セレシュとエイミィさんも安心してくれたみたいだ。

 「あの状態は元戦士じゃないと無理ですから・・・」

その中でも一握り、昔から知っている人だけ・・・。


 「セレシュ、早速ドレスを見に行きなさい」

「うん。ニルスさん、本当にありがとうございます」

セレシュが頭を下げてくれた。

 「気にしなくていいよ。・・・早く仕立ててもらわないと間に合わないかもしれない。急ごう」

「セレシュ、いくらかかっても構わない。いいものを選んで来い」

ウォルターさんがとびきりの笑顔を見せてくれた。

あなたが行けばよかったのに・・・。


 「あれ・・・お父さんとお母さんは・・・来ないの?」

「私たちが行くと口出ししちゃうだろうし」

「ああ、当日まで楽しみにしておくよ」

ウォルターさんとエイミィさんは残るらしい。

たしかに親からあれこれ言われて決めるよりも、自分の感性で選びたいもんな。



 セレシュを連れて、四人で外に出た。

ルージュのドレス・・・早く見たいな・・・。


 「なんか夢みたい・・・夜会に行けるんだよ。綺麗なドレス・・・普段は履かない踵の高い靴・・・」

「セレシュはずっと言ってたもんね。でもなんでわたしたちが招待されたんだろ?」

「あ・・・見てルージュ、こちらのいずれかで仕立ててくださいだって」

「うん、夜会服を仕立てられるお店はそんなに無いみたいだね」

女の子二人は楽しそうに歩いている。

 「中央区だと・・・三軒だね。どのお店がいいかな?・・・ルージュが決めて」

「え・・・うーん・・・あ、ここにしよう」

「七色の・・・調?」

「うん、名前だけで決めたけど・・・いいよね?」

緊張はしているだろうけど、友達と一緒だからそこまででもないんだろう。


 「ニルスさん・・・本当に俺も行って大丈夫ですかね?」

ヴィクターは肩にいるオレに話しかけてきた。

不安が残ってるようじゃ困るな。

 「心配するな、ルージュも君を頼りにしている。だから行くことにしたんだよ」

「俺が一緒だから・・・」

「そう、頼んだよ」

「・・・はい!」

なにが心配だったんだろう?

夜会にいる男で、ヴィクターよりも強い奴なんていないのに・・・。



 「入って・・・いいのかな?」

「ルージュ・・・先に行ってよ。私よりも早く招待状貰ったし・・・ここがいいって決めたし・・・」

「え・・・ずるいよセレシュ・・・」

辿り着いた店は、いかにも高級な服を取り扱っている所だった。

祭りの最終日で相変わらず通りに人は多いけど、ここだけ切り離されてるって感じだ。

 相当な金持ちや身分の高い者しか入ることを許さないような雰囲気・・・。

こんなことが無ければ気にもしなかった店だな。


 「店の人にも話は通ってるはずだから入ればなんとかなる。誰でもいいから扉を開けて」

「うう・・・わかりました」

「ルージュ、俺が先に入るよ」

「いや・・・わたしが行く」

ルージュが覚悟を決めた顔で扉を開いた。

戦いに行く前じゃないんだぞ・・・。



 「ようこそ七色の調へ。本日はどういったご相談でしょうか」

店に入ると、すぐに女性が対応してくれた。

・・・香りのオーロラみたい。


 「えっと・・・あの・・・わたしたちの夜会服を・・・」

「夜会服・・・・ですね。承知しました」

品のある女性だな。

指先まで気を遣って動かしてるって感じだ。

 「ちなみに・・・十日後の夜会でよろしいでしょうか?」

「そう・・・です」

「招待状を拝見させていただけますか?決まりですので」

「あ・・・はい」「これです」

二人は鞄を開けた。

なんか妙だな、夜会服は招待状が無いと作ってもらえないのか?


 「・・・クライン様とグリーン様ですね」

「はい、そうです」

「お二人のお名前は仰せつかっておりました。七色の調を選んでいただきありがとうございます。すべてお任せください」

ああなるほど、やっぱり話を通しててくれたんだな。

 「本日、ご予定などはありますか?」

「いえ・・・なにも」

「ありがとうございます。申し遅れましたが、店主をさせていただいておりますシアン・バルコネットです。お二人の担当もさせていただきますので・・・では、さっそく寸法をいただきます」

「はい、よろしくお願いします」「ありがとうございます」

ルージュとセレシュが目を輝かせた。

ドレスなんて着る機会はそうそうないし、憧れもあったんだろう。



 採寸室に入った。

けっこう広い・・・。


 「クライン様・・・その髪の毛はなにかご事情があるのでしょうか?」

シアンさんがルージュの髪の毛を見つめた。

すごいな、触らずにわかったのか。


 「えっと・・・変装・・・ですね」

ルージュの目が泳いだ。

勘繰られるような言い方を・・・。

 「外してもよろしいでしょうか?」

「はい・・・」

ルージュは返事をしてしまった。

・・・危なっかしい子だ。


 「失礼します・・・やはりそうでしたか」

「な、なにがでしょう・・・」

「まあ・・・クラインというお名前で、もしやとは思っていましたので」

「あ・・・そうです・・・」

テーゼに住んでいるなら母さんの姿を見たことがある人間は多い。

 それにあの髪の毛は目立つ・・・あ、だから「変装」でいいのか。

勘繰るも何も、事情を知らない人ならそっちで考えるよな。


 「こちらの方が素敵ですよ。本来の髪の毛に合う色を選んだ方がよろしいのではないでしょうか?」

「え・・・いいのかな?」

ルージュは不安そうにこっちを見てきた。

シアンさんがいるからオレは声を出せない・・・。

 「その方がいいと思うよ。やっぱりそっちの方が綺麗だもん」

セレシュがやってくれた。

そう、それでいい。


 「・・・でも、大丈夫かな?」

ルージュは俯いてしまった。

 ヴィクターもいるし、オレも一緒に行くから心配は無い。

安心させてあげたい・・・。

 「ヴィクター、何かあれば守るから夜会はそうしろって伝えてくれ」

「・・・はい」

不便だ・・・知らない人の前では、誰かに頼らないと言葉も伝えられない。

 

 「ルージュ、何かあれば俺が守る。だから夜会はそっちで出てくれ」

「ヴィクター・・・うん、そうする」

ルージュはかわいくはにかんだ。

今みたいのは嬉しいはずだ。

 「ヴィクター、次からはオレが指示しなくても自分から言ってやるんだ。・・・わかったか?」

「・・・はい」

少しは手助けをした方がいい気がするけど、ステラから「見守れ」って言われてるからな・・・。


 「お客様もご一緒に夜会へ出席されるのですか?」

シアンさんがヴィクターを見つめた。

 「あ・・・そうです。招待状は無いんですけど、お許しは頂いています」

「そうでしたか・・・では男性の担当をお連れします。まあ、元々ここは女性専用の採寸室ですので」

「・・・すみません」

あれ・・・そういえばオレはどうしたらいいんだ?夜会服なんて持ってないぞ・・・。

 帰ったらステラに相談だ。

急がなければウォルターさんに殺されてしまう・・・。



 「ごめんねヴィクター、ずいぶん待ったでしょ?」

「いや、全然平気だよ。飲み物も出してもらってたしな」

夕方近くになって、やっとルージュたちの夜会服が決まった。

なんでこんなにかかるんだ・・・。


 「二人ともどんなのにしたんだ?」

「ナイショ」「私もまだ教えない」

「わかった・・・じゃあ楽しみにしてるよ」

オレはヴィクターにくっついていたおかげで、ルージュたちの選んだドレスを見られなかった。

 なぜヴィクターに乗ってしまったんだろう?

ルージュかセレシュについていれば一番に褒めてあげたのに・・・。


 「お二方ともお目が高いようで・・・」

シアンさんがヴィクターを見て微笑んだ。

 「どういう意味ですか?」

「才能のある芸術家の作品をお選びいただきました。お二人は見る目があるということですね」

オレは服の芸術はわからないけど、ルージュはそっちもわかるらしい。


 『ルージュ、この宝石の並びを見てなにか思い浮かばない?』

『そうですね・・・季節風・・・木枯らし?』

・・・オレの作品を理解できるんだから当然だな。


 「同じ師の元で修業をしていた方なのです。彼は自分で仕事を取るのが苦手だったので、私から依頼を出していました」

シアンさんが微笑んだ。

へー、父さんみたいな人ってことか。

 「でもその人、身体を壊してずっと療養中なんだって」

「そうですね。今は・・・ほぼベッドで寝たきりと聞いています。ですが、テーゼで一番の仕立屋だと私は思っています。彼の手がけた作品は今も人気があります。早く復帰して、新しいものを見せてほしいのですが・・・」

「病気か・・・気の毒ですね。それがなきゃたくさん作れた」

「どうでしょうね・・・仕事は遅かったのですよ」

シアンさんは懐かしそうな顔で話してくれた。


 芸術家はみんなそうだ。

いい作品は簡単に生まれないからな。

 まあ病気が治ればまた芸術を作れる。

父さんも生きていれば・・・きっとそうなったんだろう・・・。



 「では七日後にこちらをお持ちください」

世間話も終わり、三人に引換券が渡された。

・・・七日か、オレのを頼むなら明日か明後日までだな。


 「あの・・・すみません、代金は引き取りの時ですか?」

店を出ようとした時、セレシュが焦り出した。

そういえば支払いがまだだ、オレも忘れてたな。

 「いえ、代金はいただきません」

「え・・・」

「これ以上は申し上げられないのです」

・・・ふーん、なにも気にせずに来いってことか。

シリウスもやるじゃないか。


 「あの、それなら俺の分は・・・」

ヴィクターはどうなんだろう?

 「かかった金額は、すべてある方が負担いたします。なのでヴィクター様からもいただきません」

シアンさんは知っていそうだけど教えてはくれないだろう。

王族に逆らうことになるし、黙っていてこの店に悪いことは一つもない。


 「あ・・・待ってください」

ルージュが何かを思い出したように店の中を見回した。

 「あの・・・首飾りとか髪飾りも見たいのですが・・・」

「あ・・・私も見たいです」

たしかに必要なものだ。

でも、見た感じそれがあるようには見えない。


 「装飾品が無くとも、お二人が輝くドレスになっております。と言うよりも、七色の調の作品はすべてそうなっています。なので取り扱っていないのです」

シアンさんは堂々と言ってくれた。

 「そうなんですね・・・」

「申し訳ありません。どうしても必要な場合は、お客様でご用意いただくことになります」

なるほどね、作品に誇りがあるんだな。

まあ、芸術家はこうでないとダメだ。


 「では七日後、お待ちしております」

「はい、よろしくお願いします」「楽しみにしていますので」

とりあえず店を出た。

元に戻りたい。装飾品ならオレが作ってあげられるのに・・・。



 「たしかに、なにも無くてもいいとは思うけど・・・胸元とかちょっとね・・・」

「大胆な気がするし、欲しいよね・・・」

「それに・・・キラキラした髪飾りとか、やっぱりつけたいよね」

「うん・・・」

夕焼けの中、女の子二人は店で言えなかったことを話し始めた。

年頃だしな・・・。


 「大丈夫だ、いい店がある・・・」

本当はオレが作りたかった。

でも・・・果実は使えない・・・。

 「本当ですか?」

「ニルスさんのおすすめなら信用できますね」

「そう、信用できる人だから・・・楽しみにしてて・・・」

「な、なんで苦しそうなんですか・・・」

ユーゴさんに頼ろう。

小人の自分が忌々しい・・・。



 「踵の高い靴って緊張するよね・・・」

「同じくらいのを買って、夜会までに慣れておかないと・・・」

「でもさ・・・あの靴もドレスも、絶対高いよね?」

「そうだよね・・・いつも着てる服と肌触りが全然違かったし・・・」

女の子たちは不安が無くなって、気にしてはいけない疑問を話し出した。

あと十日・・・我慢しててくれ。


 「夜会に行けば色々わかるはずだ。今はそれよりも、髪飾りや指輪、首飾りのことを考えていればいい」

怪しんでいるみたいだけど好意はありがたく受け取った方がいい。

 「まあとりあえず明日だな。セレシュ、また迎えに行くから待っててくれ」

「はい、よろしくお願いします」

かなり時間を取られてしまった。

今日はセレシュを送って戻るか。


 そういえば寄付のことはどうなっただろう?

それに、オレの服のこともなんとかしないといけない・・・。

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