第百九十七話 反逆【ヴィクター】
闘士しか入れない区画にも観戦客のざわめきが聞こえてきた。
ここって、何人入れんだろ・・・。
緊張はそこまでない。
俺が負けたらルージュがいなくなる・・・そのつもりで来たからだ。
◆
「ねえねえヴィクター、ちょっと覗いてみてよ」
ルージュが入場券受付に通じる扉をそっと開いた。
どんな感じか・・・。
「うわ・・・やべー・・・」
「でしょ?」
扉の隙間からだけでもかなりの人数が見えた。
ごった返すってこんな感じなんだな・・・。
「組み合わせ発表まであとわずかです!一番人気は元軍団長の組ですよー!!」
賭け受付の人が叫んでいる。
この喧噪に飲まれないようにか。
「風神隊のティム・ラミナは殖の月の大会でティル・スプリングとして出ていた方です!参考になさってくださーい!!」
「あー?」
ティムさんが俺の肩を掴んできた。
いてー・・・同一人物だろ・・・。
「誰だ・・・誰が言った?新聞にも書いてなかったぞ・・・」
知らねー・・・。
「はっきりとは言えないけど・・・ミランダじゃないのか?」
ニルスさんが答えを出してくれた。
ああ・・・だろうな。
「あの女・・・」
「そんな気にするなよ、もう何も隠すことはない」
「ちっ・・・」
そうだよな、元家族に縛られることはない。
そして、今日で実力を見せつけてやればいいんだ。
◆
「始まるまで静かにしてろ。あと散らかすとうるせーから汚すなよ」
闘士たち十六組には、それぞれの控室が用意されていた。
割と広くてベッドもある。
戦士の宿舎として使われていたところらしい。
「緊張しないようにお喋りしてましょ。紅茶でも淹れましょうか」
「・・・追い出すぞ」
俺とティムさんとルージュとニルスさん、そして・・・ステラ様も特別に入れてもらえた。
たぶん、聖女証明を使ったんだろう・・・。
「一回戦はどこだろうな」
ニルスさんがテーブルに置いてあったお菓子を持ち上げた。
「おめーは補欠だろーが。黙って待っとけよ」
組み合わせの発表まで待っているしかない。
どうなるか・・・。
『おいヴィクター、お前くじ引いてこい』
『え・・・でも・・・』
『行けっつったんだよ』
『・・・はい』
俺がやってきたけど、文句言われないよな・・・。
「ルージュ、今日のニルスの服は素敵ね」
「えへへ、少しずつ作ってたんですよ。戦士の服ですね」
「どうなのニルス?」
「いい感じだ」
あとどのくらいで発表なんだろう?
待っている人たちが全員賭け終わるまで待つしかないのかな?
闘士と客は同時に組み合わせを知る決まりらしい。
俺たちは先にわかってもいいだろ・・・。
「一回戦でおっさんたちと当たったら面倒だな・・・」
「ちょっとティムさん、弱気なこと言わないでくださいよ。わたしたち優勝するんですよね?」
「体あったまってからの方がいいってことだよ」
たしかに最初は知らない奴らの方がいいな。
俺らよりも倍率の高いとことか・・・。
『軍団長殿はなんというか・・・鬼神じゃな』
父上から聞いたことがある。
戦士になる前は各地を旅して、ヤバそうな魔物を一人で狩っていたらしい。
『雷神や風神よりも強いってことですか?』
『さあな・・・。だが強いのは間違いない』
歴代で一番強いと言われた騎士が認めている男・・・。
俺も訓練場で挨拶したときは緊張した。
『・・・そのうちティムも追いつくじゃろ』
でも、父上はティムさんも認めていた。
それに三人だ、何とかなる。
あ・・・向こうも三人だった・・・。
◆
「よし、全員集まれ。色々決めよう」
ニルスさんがテーブルの真ん中に立った。
なに決めんだろ・・・。
「誰でもいい、疲れたら言え。すぐに交代してやる」
「ふふ、まだ言ってる。三人を信じてあげなさい」
「信じてはいる。でも、治癒じゃ疲労は取れないからな」
この人・・・出たいんだよな?
『元々三人で優勝するのが目標だろ?でも・・・万が一があるかもしれない。一応・・・一応書いてもらっただけだ。修業とは言っても、当日なにがあるかわからないからな。それに名前があれば控室とかにも入れるだろ?オレも一緒にいないといけない』
申込の時もなんかおかしかったし・・・。
『まあ・・・最悪オレが出るからなにも心配するな。無理そうだったら早めに言うことだな』
そういやあれって、煽ったんじゃなくて本気で言ってたんじゃねーのか?
冷静に考えるとそんな気がしてくる。
『神鳥の果実をオレに使わせないこと・・・これも目標にしよう』
自分で決めたから「出させてくれ」って素直に言えないだけなんじゃ・・・。
「ほんの少し関節がおかしいとかでもすぐに言え」
「うるせーんだよバーカ、おめーが出んのは次の殖の月だ」
ティムさんは拒否・・・。
「最後まで戦い抜く体力はあります。だからニルス様の出番はありません」
ルージュも・・・。
「く・・・ルージュまで・・・」
「申し訳ありませんが、これはわたしの戦いでもあります。後始末をニルス様にさせるわけにはいきません」
「・・・」
ニルスさんがここまで言うのは、出たいのとルージュを助けるため・・・どっちもだな。
スウェード家との賭け、絶対に負けるわけにはいかない。
たしかにニルスさんが出てくれるならなんとかなるだろう。
だからきのう、奴らとのやり取りをルルさんもミランダさんもステラ様も笑って見ていたんだ。
「ヴィクターはどうだ?厳しいと思ったらすぐに言ってくれ」
「諦めなさい、誰も譲る気は無いみたいよ」
ステラ様がニルスさんの体を持ち上げた。
この人はどっちの味方なんだろう?
俺たちに寄せてくれてるようには見えるけど、危なくなったらそっち側に付く気がする。
だって、朝ニルスさんの着替えを用意してるのを見た・・・。
「なら・・・交代の決まりを作ろう」
「うるせーな、黙って見てろよ」
「疲れた、辛い、これを口にしたらオレと交代だ!」
「・・・」
ティムさんが俺とルージュに視線をくれた。
「言うな」ってことだ。
ていうか・・・大会って俺たちの修行のためって話だったよな?
なんで堂々と「交代」とか言えんだよ・・・。
◆
「失礼いたします。じきに組み合わせが出されますが、その前に大会の決まり事をご説明させていただきます」
案内係の男が入ってきた。
もうじきか・・・。
「では静粛にお願いします。・・・まず一つ、盤上には封印の結界が張られますので魔法の使用は一切できません。治癒や支援は封じられませんが、使ったと同時に失格となります。ケガなどは、決着ののちに一流の治癒士たちが癒やしますのでご安心ください」
「知ってるよ、個人の時とおんなじだろ?」
「・・・この説明を受けることも決まり事です。聞かないのであれば失格、そして王への反逆罪となります」
「・・・早く言え」
反逆罪・・・そんなに厳しいのかよ。
「武器はいくら持ち込んでも構いません。試合場にも用意はあります。飛び道具は認めていますが、毒などは禁止です」
「・・・ヴィクター、交代に条件はあるのか聞け」
耳元でニルスさんの声がした。
いつの間に・・・。
「交代に条件はありますか?」
「はい、試合途中での交代は禁止となります。開始の前までであれば認めています。つづいて・・・」
「ちっ・・・」
舌打ちすんなよ・・・。
決まりなんだから仕方ねーだろ。
「闘技盤から下りた者は敗北を認めたものとします」
「落としても勝ちだろ?」
「そうです。お気を付けください」
落としても・・・。
「それと賞金・・・これはみなさんもご存じかと思いますが、優勝賞金は例年通り一千万エールとなります」
一千万か・・・俺はいくら貰えんのかな・・・。
「そういやアリシアって今までの賞金なにに使ってんだ?」
「ああ・・・アリシア様はいつも受け取っていません」
「あ?」
「私からはこれ以上話せませんので」
係の男は胸を張った。
気になるだろーが・・・。
「最後に・・・今まで例はありませんが、対戦相手の殺害は認められていませんのでお気を付けください。公開殺人・・・九千の観客数です。故意なら反逆罪として捕らえます」
「あくまで娯楽だろ?わかってるよ。それで終わりか?」
「はい、では失礼いたしました。組み合わせの発表をお待ちください」
男は部屋を出て行った。
最後にやべー話すんなよ・・・。
◆
「わたし・・・人殺しにはなりたくないよ・・・」
ルージュは話を聞いてからずっと不安な顔をしている。
誰だって嫌だろ・・・。
「俺も不安だよ。でも手は抜けないからな・・・」
反逆罪は絶対に嫌だ。
かなり重い罪で、処刑されるか一生外に出られないかの二つしかないらしい。
「いつまで心配してんだよ、治癒士たちが控えてるだろーが。よっぽどじゃなきゃ死者なんか出ねー」
「そうなんですか?でも、よっぽどと言うと・・・」
「首落としたり・・・まあ即死させるような攻撃だな。だから今まで誰も死んでね―んだよ」
なるほど、なら大丈夫だ。
戦場でも無いしな。
「あ・・・たしかに勝敗が決まったらすぐに駆け込んできますもんね」
ルージュも安心したみたいだ。
忘れてたのか・・・。
「つーかよ・・・おいニルス、アリシアは賞金どうしてんだ?」
「いや・・・オレも聞いてないよ」
「じゃあルージュ、隠すなよ?」
俺も気になっていた。
たぶんルージュなら知っているだろう。
「えっと、王立の孤児支援団体へ全額寄付しています。凪の月の方はスコットさんたちで分けるように言っていたみたいですけど、二人もお母さんと同じように寄付しています」
全額か・・・すげー。
「ああ・・・たしかにアリシアは戦士の時に相当稼いでるからな。何回功労者になってるんだろ・・・」
「ニルス様でもわからないんですね」
「・・・あんまり興味無かったからな。アリシアもそうだと思うよ」
「ああ・・・たしかに倉庫ん中に功労者の剣いっぱいあった。邪魔だっつーから商会の倉庫に移したんだ」
功労者って、たしか報奨金は二億・・・それを何度も・・・。
ルージュってお嬢様なんじゃないのか?
「ああ・・・そういやルルも寄付してるっつってたな」
「孤児院出身の方たちは、みんな無理のないくらいでそうしているみたいですよ。元戦士の人たちも協力してくれていると聞きました」
「実家に金か・・・俺には考えらんねーな」
ティムさんはそうだろう。
もしやるとしたら、どうかしちまった時だけだな。
◆
「ダメですよミランダ様、こちらの区画は闘士以外・・・」
「あとで王様に謝っとくからさ。うちのティムたちはどこよ?」
「組み合わせは私が伝えますので・・・」
扉の外から騒がしい声が聞こえてきた。
あの人、捕まんの恐くねーのか・・・。
「ミランダ―、こっちよ」
ステラ様がニコニコしながら扉を開いた。
大丈夫かよ・・・反逆罪とかになんねーよな?
「彼女を入れてあげて」
「しかし・・・」
「王には私の名前を出しなさい」
「・・・」
係の男は溜め息をついた。
認めるしかないって感じだ。
・・・王もステラ様には文句言えないんだな。
そういや、ここに入れてる時点でおかしいか・・・。
◆
「てめーだろ!勝手に名前バラしやがって!」
ミランダさんが部屋に入ると、ティムさんが怒鳴りつけた。
治まったと思ってたけど、まだ怒ってたんだな。
「そうよ、スウェード家の娘二人は闘技大会見に来てたんでしょ?あんたがどんくらい強いか教えてやりたかったからさ」
「勝手されんのムカつくんだよ」
「なんでもいいでしょ。風神隊は負けないんだからさ」
「・・・もういいや」
ティムさんの顔から怒りが引いた。
ここで無駄に体力を使うのがバカらしくなったんだろう。
「あ・・・それよりもさ、これが組み合わせよ。はい、お待ちかね―」
ミランダさんはテーブルに表を広げた。
早く見ないと。
「よかった・・・一回戦は知らない人たちですね」
「本当だ・・・まずはこれを突破だな」
少し気が楽になった。
できればあとに回したいのはふた組・・・スウェード家とべモンドさんたちだ。
「ティム、あんたくじ運いいんだね」
「ヴィクターに引かせたからな」
けど、次はどうなるか・・・。
えーと、あ・・・二回戦に上がったとしても知らない奴らだ。
これで勝ち上がれば勢いも付く、そのまま優勝まで・・・。
「あら・・・もしスウェード家が勝ち上がってきたら準決勝で当たるわね」
ステラ様が指で奴らをなぞっていった。
・・・たしかにそうらしい。
「べモンドさんたちはどこだ?できればその二組で潰し合ってくれた方がいい」
「残念ねニルス、軍団長さんたちとは決勝まで行かないと当たらないわ」
「つまりあっちが上がってきたら、優勝を目指すあんたたちと必ずぶつかるってこと」
「・・・上等だよ、今日でケリがつく」
みんな余裕な顔しやがって。
・・・ルージュはどうだろう?
「ヴィクター、あの人たちには絶対に勝とうね」
ルージュの目には闘志があった。
不安は無いみたいだな。
「そうだな、酒場で随分バカにされた。・・・勝つぞ」
お前が一緒にいれば俺はもっと強くなれる気がする。
それに、危険が迫れば絶対に守る。
「ティム、ニルス、あんたらミランダ隊だってこと忘れてないよね?」
ミランダさんが、ニルスさんをティムさんの頭に乗せた。
「まあね」
「忘れてねーよ・・・」
「じゃあ絶対優勝しなさい。これ隊長命令ね」
「・・・」「・・・」
ニルスさんとティムさんが歯を見せて同じように笑った。
あの・・・オレとルージュは・・・。
「じゃあ、あたし観戦席に戻るね。みんなで応援してあげるから」
「あ、待ってください」
ルージュがミランダさんを止めた。
まだいてほしいのかな?
「なに?」
「ハリスさんは来ていましたか?」
ああ・・・そっちか。
『あなたが出るのであれば時間を作りましょう』
来てんのかな?
「ああ・・・見てない。忙しくなったのかもね」
「そうですか・・・」
ルージュはちょっと寂しそうだ。
あの人、ルージュは気に入ってそうなんだけどな。
よっぽどの事情ってことか・・・。
◆
「続いて一回戦第二試合です!!東から、今まで個人でしか出場していなかったティム率いる風神隊が姿を現しましたーー!!!ティル・スプリングは偽名だったのかティム!!」
進行の人が俺たちを熱く紹介してくれた。
近くだとうるせーな・・・。
たしか風と気の魔法で響くようにしてんだっけ?
「おい、先月の売り上げ全部賭けたからな!!」「見ろ、あいつ顔出してんぞ!」「雷神が出ねーんだ、絶対勝てよ!」「早く靴と手袋外せバカ!!」「名前ほとんど同じじゃねーか!」
お客さんたちが歓声をぶつけてくれている。
けど、ほとんどはティムさんに向けてみたいだ。
「あんな女の子で大丈夫かよ・・・」「もう一人の男も見たことねーな」「あの子、今までで最年少らしいよ」「あいつらが出来上がるまでこっちは出ないようにしてたのか?」
俺たちの評価は・・・そんなもんだよな。
「大人気だな、ティム君・・・」
「うるせー・・・」
「応援してもらってるんだから喜べよ」
ニルスさんはティムさんの肩に乗っている。
あの姿だからバレないはずだ。
「ルージュ、たぶん落とされるとかはねーから置いてけよ」
「いえ、お母さんも一緒がいいのでこのまま行きます」
「あっそ・・・」
ルージュは聖戦の剣をずっと背負っている。
胎動の剣を手放してしまった時のためだ。
まあ、修行でも落としたことはないけどな・・・。
◆
「・・・俺はお前らが危なくなるまで動かねーからな。とりあえず二人でなんとかしてこい」
ティムさんが一回戦の相手を見つめた。
そういうのもありなのか。
「あいつらにやられるようなら、どっちかをニルスと入れ替えるからな」
「いいな・・・それいいな」
「二人で充分です!ヴィクター、一緒に戦おうね」
ルージュが胎動の剣を抜いた。
見た感じ、俺一人でも問題なさそうだけど・・・。
◆
「一回戦第二試合は風神隊の勝利です!!」
決着がついた。
「ティムは一歩も動かず、ルーンとヴィクターだけで決めてしまいましたー!!」
当然だ、初戦で負けてられるか。
「ありがとうございました。また戦いましょう」
ルージュが敵だった三人に頭を下げた。
「君みたいな女の子にやられるとは思わなかったよ・・・鍛え直してくるさ」
「楽しみにしています」
ルージュは戦ってくれた相手にしっかりと敬意を持っている。
だから向こうも悪い気はしてないみたいだ。
「君も若いのにすごいね」
「いえ・・・かなり鍛えられてきたので・・・」
「あたしたちもそうするよ。来年・・・また会えるといいね」
相手のお姉さんが俺の胸を撫でてきた。
こえー・・・。
「ヴィクター!」
ルージュが振り返って、俺に手の平を向けてくれた。
「ああ」
二人で打ち合った手から、言葉以上の歓喜が伝わってくる。
ルージュも俺のを感じてくれてるといいな。
「嘘だろ・・・あいつらに賭けてねーぞ」「ティムはどうせ無理だと思ってたのに・・・」「あの子らけっこう強いぜ」
観客も少しは俺たちを認めてくれたみたいだ。
◆
「素晴らしい戦いでしたよ」
入場口に戻ると、優しそうな顔の男の人が迎えてくれた。
・・・誰?
「寄るな変態野郎・・・」
ティムさんが一歩下がった。
知り合いか・・・。
「ごきげんようエディさん」
「ごきげんようルージュ様」
エディ・・・べモンドさんとこの補欠か。
「ルージュ、敵に挨拶なんかすんな」
「私は試合に出ません」
「なにしに来たよ・・・」
「あなたたちを讃えたくなったのです」
エディさんはティムさんだけを見つめた。
まだ一回戦なんだけど・・・。
「そういうのいらねー。つーかジーナのとこいろよ」
「ジーナ様は瞑想中です」
「あっそ・・・」
ティムさんは壁ギリギリまで距離を取った。
この二人なんかあったっぽいな。
「ふふ・・・ルージュ様、美しい動きでしたよ」
「あ・・・ありがとうございます」
「ヴィクター様もとてもお強いですね」
「どうも・・・」
エディさんは俺たちを見て微笑んでくれた。
絶対いい人だ・・・。
「行くぞお前ら。構うことねーよ」
「ティム様、応援していますよ」
「うるせー・・・」
なんでこんなに嫌ってんだろ?
聞きたいけど、殴られそうだからやめとこ。
◆
「ルージュもヴィクターもけっこうやるじゃん」
控室に戻るとミランダさんが褒めてくれた。
自由に出入りできるようになったんだな・・・。
「うん、きっと優勝できるよ」
ステラ様もいた。
・・・主に言われるとなんか嬉しい。
「当然だ。二人ともオレが仕込んだんだからな」
ニルスさんが俺の腕に乗った。
仕込む・・・。
「なんかその言い方はやらしい。実際にあんたが相手してあげたのって、ルージュのふた月くらいでしょ?」
「ちゃんと耳元で指示は出してるよ」
「心配しなくていいですよ。わたしはニルス様の弟子でもありますから。ヴィクターもそうだよね」
「まあ、そうだな」
ルージュがニルスさんを肩に乗せた。
精神的な支え、この人以上はいない。
けど・・・俺もそう思ってもらえるようになりたいな。
◆
「他の試合は見ないんですか?」
ルージュがティムさんのお腹をさすった。
俺もあれやってほしい・・・。
「いらねー」
ティムさんは戻ってからベッドで寝そべっている。
他の奴らの戦いは見ておかなくていいのか?
「俺は見ておいた方がいいと思います。分析とかしないんですか?」
「・・・ニルス、どう思う?」
「見なくても大丈夫だろ」
「だってよ・・・とりあえず休んどけ。次もお前らでいけそうなら二人でやらせる」
対策はいいのかよ?
そりゃあんたたちは相手の出方を見てから対応できるだろうけど、俺たちはまだその域に達してねーぞ。
「でも・・・わたしも見ておいた方がいいと思います・・・」
「見たけりゃ行ってきてもいい。けど・・・それじゃ修行になんねーよな」
「う・・・」
相手の力量がわからない不安に勝てってことか。
・・・切り替えよう。たしかに歴代の騎士はいつもそうだった。
俺もそうしなければならない。
「二人とも、そんなに気を張る必要は無い。・・・さて、疲れてる奴は正直に・・・」
ニルスさんが俺たちに微笑み、背負っている果実の袋に手をかけた。
「いねーよ」「いません」「平気です」
「無理・・・しなくていいからな・・・」
このまま勝ち進む、交代せずに最後まで戦うんだ。
そうすりゃ、ルージュにかっこいいとこ見せられるからな・・・。




