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Our Story  作者: NeRix
風の章 第三部
202/481

第百九十三話 脅し【ステラ】

 「カゲロウと離れて大丈夫なの?」

「あの子は何もしないよ。それにちょっとだけだから」

今日はミランダとお出かけだ。


 「あたしたちがいない間に敵が攻め込んでくるとかないかな?」

「ないない」

きっと楽しい日になるよね。


 「あたし功労者の時にしか行ってないんだけど・・・」

「じゃあ新鮮な気持ちで入れるね」

「はあ・・・わかったよ。おいしい飲み物と高いお菓子でも出してもらおっか」

「そうだね。みんなへのおみやげも用意してもらいましょ」

行先は・・・王城。


 平穏な毎日が続いていたせいか挨拶に行くのを忘れていた。

・・・さすがに王には目覚めたことを伝えないといけない。

それと、今回のことをどう考えているのかもね。



 「ニルスはずっとルージュたちについてるね」

ミランダがこっちを見てニコッと笑ってくれた。

私と一緒だから楽しい・・・そうだったらいいな。


 「ティムのことが心配なんだって」

「ステラが行かせてるんじゃないの?」

「お願いはしたけど、そうじゃなくても行ってたみたいだよ。・・・必ず優勝させてほしいっては伝えたけどね」

それがあるから、食事は気合を入れて作っている。


 『あそこまで言い切られてたら、オレも未練なくクライン家を飛び出してたと思う』

ニルスが、ティムと母親の再会を教えてくれた。

 『オレがジナスの人形に言われたのと同じ内容だった。実の息子に・・・正直嫌いな類いの人間だ』

話を聞いて私も許せなかった。

 私が作れない子ども・・・男だからというだけで扱いを変えていたらしい。聞く限りだけど、たぶん生まれた瞬間から・・・。


 『ニルス、ティムたちを必ず優勝させてほしい。特にスウェード家・・・当たったら圧倒的な差をつけて勝たせてあげて』

だから、その男に負けて悔しがる顔を見せてもらうことにした。

 どれくらいの力量かは知らないけど、ティムとヴィクターがいて負けるなんて考えられないしね。

それに・・・。

 『補欠・・・』

『一応だよ・・・』

いざとなればニルスが出るはずだ。



 「・・・ねえ、ハリスは何してるんだろ?ジェイスのこと報告に来ないよね」

ミランダが立ち止まった。

たしかに姿を見せない。


 風の月・・・もう半ばを越えた。

教団の設立記念日はとっくに過ぎている。

でも・・・私はそこまで心配していない。

 

 「あいつ大丈夫かな?捕まったりとか・・・」

「彼なら心配ないわ。輝石も持っているし、危険だって判断したらすぐに逃げられる力だもの」

顔を出さないのは気になるけど、自分の身は第一で考えているはずだ。

 「・・・例えばだけど、万が一輝石を外されて消滅していたとすればシロが気付く。なにも報せが無いなら生きてるってことね」

シロの所に行っているかはわからないけど、報告が無ければ気配を探るだろう。

だから今は大丈夫なのよね。


 「言われてみれば・・・そうだけど」

「そんな不安な顔しないで。ほら、明るく行きましょ」

ハリスは自分の存在を賭けてまで危険な橋を渡ったりはしない。

自分以上に大切な存在がいるんだから、彼女を残して消えるなんてありえないことだ。


 「ねえ、ニルスにはどんな感じで断られたの?」

話題を変えることにした。

重い感じはここまでにしよう。

 「え・・・なんの話?」

「夜・・・誘ったことあるんでしょ?」

「あー・・・」

ミランダがいやらしい笑みを浮かべた。


 『・・・寂しかったら慰めてあげることはできるって言われたことはあったよ』

『・・・慰めてもらったの?』

『いや、ない』

あれは嘘じゃないと思う。

 「どうだったのか知りたいの」

「ふーん・・・」

でも、誘ったミランダのお話も聞いてみたい。


 「じゃあ・・・教えなーい」

「教えてよ。あ・・・まさか・・・」

言わないんじゃなくて、言えないようなことが・・・。

 「どうだろうねー。ニルスが隠してるだけで、実はそういうコトがあったのかもしれない。ニルス・・・あたしのおっぱい好きだし」

「いじわる・・・」

私はミランダの胸をつついた。

大丈夫だから話してほしい・・・。


 「そうだったら苦しいの?」

「違うよ。仲間外れにしないでほしいの」

「ふーん・・・なんにも無かったよ」

ミランダは空を見上げた。

そっか・・・。



 「こんな感じでゆっくり手を這わせながら・・・あたしも・・・ニルスが近くにいないから寂しいんだ・・・って」

ミランダは私をニルスに見立てて、その時を実演してくれた。

外・・・昼間・・・なのにとっても色っぽい声だ。


 「全部・・・寂しさとか悲しみのせいにして・・・」

耳にかかる吐息だけで全身が熱くなる。

これを暗闇のベッドで・・・。

 「・・・ここで止められた」

「え・・・嘘?」

「ほんとだよ。・・・どうしても辛くなったら頼むよって」

「信じられない・・・」

ここまでされて抑えられるのか・・・。


 「あたし嘘言ってないからね。・・・ステっちゃんは愛されてるんだよ」

ミランダはちょっとだけ寂しそうに笑った。

 ニルス・・・どうして断ったの?

思っちゃいけないのに・・・。


 「けどそれでよかった。前にも言ったと思うけど、あたしはニルスと仲間でいたいからさ。女は・・・ステラに任せるよ」

「・・・うん、任せて」

「だから・・・もう何年も眠るとかダメだよ?」

「ありがとう」

私が男ならミランダを選ぶかもしれない・・・。



 「お待ちください」

「え・・・」

「来客や謁見のお話は申し付かっていません。どういったご用件ですか?」

お城の門を通り過ぎようとしたら、番兵さんに呼び止められた。

 ああそうか・・・普通は約束をしてからじゃないとダメだったわね。

二人で歩きたかったから転移は使わなかったけど、こういうのは面倒かも・・・。

 

 「王様に聖女が来たって伝えて」

ミランダが軽く言ってくれた。

 「聖女・・・。あ・・・あなたは英雄ミランダ・・・」

「王様に伝えてほしいんだけど」

「・・・」

番兵さんは難しい顔だ。

仕方ないわね、初めて使うけど・・・。

 

 「これでどうでしょうか?」

「聖女証明・・・」

番兵さんが服の内側から手帳のようなものを取り出した。

・・・照会かな?


 「たしかに・・・王へ伝え、案内の者を用意します」

「ありがとう」

「いえ・・・こうやって聖女様と言葉を交わせる・・・光栄なことです。私にとって、一生の思い出になるでしょう。・・・お待ちください」

「緊張しないで」

無理だったら転移で入ろうと思ってたけど、問題なかったわね。



 「英雄ミランダ様と聖女ステラ様ですね」

給仕服を着た女性が迎えに来てくれた。

こういう担当なのかな?


 「ご案内いたしますので」

「お願いね」

「はい、では行きましょう」

さすが王城の使用人だ。

動きの一つ一つに品があって美しい・・・エリィみたい。


 『ご・・・ごきげんよう・・・聖女様・・・』

緊張してても立ち居振る舞いはしっかりしてたな。

 『ティムと仲がいいって聞いているわ』

『は・・・はい・・・』

あんな子に好かれて、ティムは幸せ者ね。


 「絨毯の厚さが変わりますのでお気を付けください」

あれ?でもこの子は緊張してない感じだ。

まあ・・・この方がいいけど。



 「こちらでお待ちください」

通されたのは、以前にも来た狭い部屋だった。

あの時はニルスとシロ、そして軍団長さんと一緒だったな・・・。


 「ねえねえ、名前教えてよ。歳も近そうだよね」

ミランダは緩い顔で、案内してくれた使用人に話しかけた。

堅い感じは嫌なんだろう。


 「ジェニー・マドゥラーです。たしかに年齢は近いですね。・・・ふふ、ニルス君と同い年ですよ」

・・・なんですって。

 「え・・・ニルスのこと知ってんの?」

「はい、ニルス君とは同じアカデミーだったので。まあ・・・お友達・・・ですね」

ジェニーは堅い表情を崩して、かわいらしく微笑んだ。

へえ・・・「ニルス君」ね・・・。


 「あれ・・・あいつアカデミーに友達なんかいなかったって言ってたよ」

「ええ、そうです。寄ってこないでって雰囲気でしたね。だからみんな気を遣って避けていました」

それってアリシアのせいじゃない・・・。

まあ今は楽しそうだからいいけど。

 「ふーん・・・あれ、なんであたしたちとニルスの関係知ってんのよ?」

たしかにそうだ。ニルスは名前の公表をさせていないから、ジェニーが知っているのはおかしい。


 「わたし、シリウス王子のお世話係を担当していました。今でもたまにお手紙をいただきます・・・お友達のことがほとんどですね」

・・・あの子か。まあそれならニルスも許すはず。

 「・・・誰にも言ってない?」

「もちろんです。お手紙にも絶対に内緒って濃ーい字で書いてありましたので」

王子の命令って感じだし、逆らえるはずがないわね。

ああ・・・だから私を知っていて、緊張した様子が無かったのか。


 「シリウスってもうすぐ戻ってくんでしょ?うちで預かるって聞いてるけど」

ミランダはもう友達って話し方だ。

それより今の話・・・知らなかったんだけど・・・。

 「はい、今月の末にはお戻りになります。これはニルス君の妹さんには知られないようにお願いしますね」

「驚かそうってこと?」

「はい」

一緒に生活できるのは楽しみだけど、この状況でいいのかしら・・・。



 「ステラ様!お目覚めになられたのですね・・・」

王が部屋に入ってきた。

 「ステラ様・・・相変わらずお美しい」

「またお会いできたこの日・・・一生忘れません」

以前と同じで、臣下の二人も一緒だ。


 「・・・」

ジェニーはすぐに顔を引き締めて離れた。

もっとお話を聞きたかったけど、まずはこっちを優先しよう。


 「久しぶりね。一応報告が必要だと思ったから来てみたの」

「報せをいただければこちらから参りました・・・」

「色々忙しいでしょ?無理しなくていいわ」

「そうして当然なのです。・・・戦場での勝利、ステラ様がいなければ成しえなかったと報告を受けています」

何言ってるのかしら・・・。

戦場を終わらせたのはニルス・・・私は・・・大したことしてない。


 「来ちゃったから気にしないで。それより・・・今の状況は知っているわね?」

「・・・はい」

「その話もしにきたの」

「・・・」「・・・」「・・・」

三人の雰囲気が張り詰めた。

挨拶だけのはずがないでしょ・・・。


 「・・・ご苦労だった。退室して、仕事に戻りなさい」

「はい」

ジェニーが部屋から出ていった。

 「ミランダ様も・・・退室願いたいです」

「え・・・」

う・・・連れてきたけどダメなんだね・・・。

ツキヨが絡むからかな・・・。


 「ごめんねミランダ・・・待っていてちょうだい」

謝るしかない・・・夕食はミランダの好きな献立にしよう。

 「ステラ・・・わかったよ」

「王、彼女に部屋を用意してあげて。飲み物とお菓子もあるといいわね」

「そしたら話し相手も・・・今の子を付けてほしいです」

「承知しました」

これくらいはしてもらわないとね。

あーあ・・・私もそっちでお喋りしたかったな。



 部屋は四人だけになった。

これでなんでも話せる。


 「ツキヨはダメなのね?」

「そうです」

「厳しいのね」

「・・・ステラ様の助言で初代王が作った組織ですよ。掟は・・・あなたも一緒に作ったと記録にあります」

王が困った顔をした。

あれ?私が決めたんだっけ・・・。


 「ま、まあいいわ。それより今回のこと、どう解決をするつもりなのかしら?」

早口になってる気がする。

忘れてたなんて恥ずかしい・・・。


 「・・・まず、頭のみを捕らえたい。祈っているだけであれば・・・罪の無い者はそのままにするつもりです」

「ハリスが追っているわ」

「その男の存在は今まで知りませんでした。・・・今回のことでは頼りきりになってしまっています」

まあそうね。でも・・・ニルスが動かないような事件なら彼も協力してくれなかったでしょうけど。


 「ただ・・・頭がアリシアを襲った者であれば、こちらに渡していただくわよ。呪いを解かなければいけないの」

「我々はその前に知っていることを吐かせたい」

「諦めてちょうだい。・・・ハリスは私の言うことは聞くわ。つまり、あなたたちに渡さないこともできる」

「魔物の研究、動機、ジナスの情報がどこで漏れたか・・・繰り返さないために必要なのです」

王は真っ直ぐな目で私を見てきた。

ふーん・・・さすがに折れるわけないか。


 「わかったわ。あなたたちが先に調べていい」

「なるほど・・・試されたのですね」

「そうね、これくらいの脅しに屈しないか見たかったの。あなたがわかりましたって言っていたらお説教だったわ」

「民の幸福を優先する・・・代々受け継いでいますから」

これは憶えている。

できないなら「もう助言はしない」って脅したからね・・・。


 「でも急いでほしいの。シリウスの友達がずっと悲しいままになってしまうわ」

「ルージュですね・・・わかっています・・・」

王は切ない顔で頷いた。

・・・急いでくれそうだ。


 「お願いね。私は前と同じ家にいます。テッ・・・カケラワシから色々聞いてはいるけど、あなたからもなにかあれば報せをちょうだい」

「承知しました」

とりあえず王も解決には向かってくれている。

 信仰か・・・規制した方がいいんじゃないかしら?

・・・余計なことは言わないでおこう。「あなたが決めた」とか言われたら恥ずかしいし・・・。


 「そういえば・・・シリウスがもうじきこっちに来るんでしょう?うちで預かるって聞いたわ」

あとは明るい話でいいよね。

 「はい、こちらにある精霊学のアカデミーに通うためです。十五までは自由に過ごしてもらうつもりですよ」

「今戻して大丈夫なの?地方で待たせた方がいいんじゃない?」

「ふふ、あなたたちのそばにいた方が安全でしょう。ツキヨも常に付けていますし・・・」

なるほど・・・「守ってくれ」ってことね。

 まあ何の心配もいらない。

私がいるから本当に危険なら転移で遠くに逃げればいい。


 「うちに来るのはいつになるの?」

「闘技大会は共に観戦します。夜会にも少し顔を出してもらいたい・・・そののちですね」

「いつでも歓迎するわ」

「感謝します。・・・シリウスについては詳しい日程が決まり次第、使いを出します」

あの子、どうなってるのかな?

んー、けっこう楽しみ・・・。


 セレシュに教えたいな・・・。

手紙のやり取りをしてたみたいだけど、私とニルスよりも離れていた期間が長いのよね。

でも・・・楽しみにしていてもらおう。



 「えー、そんなに暗かったの?」

「ふふ、ずーっと座って地図を眺めてましたよ」

王との話も終わり、ミランダを迎えに来た。

 「あ、そうだ。美容水と石鹸、定期で買ってますよ」

「いいねー、これからも頼むよ」

こっちはずっと楽しかったみたいだ。


 「すぐに仲良くなるのね」

「あ、ステラ。こっちの方が面白かったよ」

「わたしも楽しませていただきました。・・・それではお仕事に戻りますので」

ジェニーはすぐに立ち上がった。

私も聞きたい・・・。

 「ジェニー、忙しいの?」

「まあ・・・そうですね」

それなら・・・忙しくない時にすればいいよね。


 「私もあなたと友達になりたいわ」

「聖女様と・・・」

「ステラでいいわ。いつでもいいから遊びに来てね」

「はい、ミランダさんからもお誘いいただきましたので・・・では近いうちにまた」

これでいい、アリシアも知らないアカデミーでのニルス・・・。

早く知りたいな。



 お城から出た。

あとはお買い物をして帰るだけだ。


 「シリウスの部屋は用意してあるの?」

「シロの部屋の隣だね。最初聞いた時は、僕の部屋をあげてって言ってたんだよ」

困った子・・・でもそれって「気付いて」ってことだったんじゃないのかな?


 「それと、ルージュたちには秘密・・・口滑らしたりしないでよ?」

「大丈夫よ」

「なんかね・・・けっこういい感じに育ってるらしいよ」

「ふふ、セレシュも驚くわね」

ああ、こういう何気ない会話がいい。

ミランダとは何を話していても楽しいな。


 「ルージュはヴィクターのこと好きだよね?ていうか両想い?」

「そうみたいね。見てればわかるわ」

あの子たちは見ていると面白い。

 「そろそろくっつけちゃう?あの子が寝たら、ヴィクターのベッドに運んであげたりとか」

「ふふ、邪魔しちゃダメ」

私たちが手を貸さなくてもいいと思う。

 

 ただ、ルージュはまだその気持ちの正体に気付いていない。

だから、ヴィクターが頑張らないといけないのよね。

そこだけは困ってたら教えてあげよう。

どうでもいい話 16


ジェニーが最後に出てきたのは24話です。

もう四ヶ月前・・・。

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