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Our Story  作者: NeRix
地の章 第一部
2/481

第一話 アリシア【アリシア】

 『アリシア、あなたの名前です』

優しい声が聞こえる。


 『あなたは最後の種、芽吹くことを信じています』

種・・・芽吹く・・・。


 『美しい魂と心、そして戦う力を授けました』

戦う力・・・。


 『私の愛も、その小さな身体にできる限り注いでいます』

愛・・・。


 『ですが・・・おそらく足りません。ごめんなさい・・・。出逢う人たちから教わってください』

私は光に包まれた。



 おかしな夢を見た。

なんだか不思議な朝だな。


 朝・・・。

アカデミーに行かなくてはいけない・・・。



 私たちの世界は二つに分かれています。

一つは私たち人間のいる世界、もう一つは魔族の世界です。


 私たちと魔族の間には境界があります。

文字通り見えない壁があり、ちょうど半分になっています。

 最初からというわけではありませんが、それがあるので互いの土地を行き来することもできません。


 なぜ境界があるのか、それは私たちと魔族が遥か昔からずっと争っていたからです。

 戦いはどんどん激化し、毎日多くの命が消えていきました。

当時の神様は悲しみしか生まない争いに大変怒り、大地をほんのわずかだけ残して海に沈めてしまいました。

 神様の力はすさまじく、人間も魔族も大地と一緒にほとんどが海に飲み込まれてしまったのです。

 そののちに神様は世界を分かつ境界を作りました。

互いの交流を無くすことで、同じことが無いようにしたのです。


 二つの種族は争うことをやめ、残された土地で静かに暮らすようになりました。

 人間も魔族も多くの仲間や大地を失くしてしまったため、戦うどころではなかったのです。


 長い時間が流れ、人間と魔族の数が増えてきた頃に大きな変化がありました。

 それは神様の代替わりです。

以前の神様は、新しい神様へこの世界を任せることにしました。今から三百年以上も前のことです。


 新しい神様は人間と魔族にこう伝えました。


 『互いに今の土地だけでは限界だろう。お前たちに大地を返していく』

世界中の者たちが聞いていて、そのすべてが喜びの声を上げました。

 繁栄のためには数をもっと増やさなければいけません。ただ、増えても土地が無かったからです。


 新しい神様はそのあとこう続けました。


 『私は戦いの神でもあり、強い者が好きだ。そこで、戦場というものを用意した。自信があり、戦いたい者だけで挑んでほしい。戦いは半年に一度、勝った方に土地を少しずつ返してやろう』

また大きな歓喜が起こりました。


 これが今も続いている戦場の始まりです。大地奪還軍もその時に結成されました。

 戦いは年に二回、殖の月と凪の月となっています。

最初は十名と少ない人数でしたが、神様がどんどん数を増やし、今では千対千の大規模な戦いになっています。

 もちろん、勝った方には本当に土地が戻ってきます。

今私たちが住んでいるこの大陸は、歴代の戦士たちが命がけで戦ってきたおかげなのです。

 

 頑張っている戦士たちのため、王様は大地奪還軍が勝った場合に褒賞を与えることを始めました。

 功労者となった者には多くの富が与えられます。そのために戦士になる者も多いです。


 大地奪還軍は、今日も戦場に向けて鍛錬を積んでいます。

すべての大地を取り戻すために励んでいる戦士たちに、いつも感謝の心を持ち続けましょう。



 「はい、よく読めましたアリシアさん。座ってください」

教官が私を見て微笑んだ。

周りの子たちからは拍手が聞こえてくる。


 「アリシアさんは、将来戦士になるのが夢でしたね。戦場の成り立ちはしっかり覚えておくのですよ?」

「はい」

「ただ・・・ケンカはやめましょうね」

教官の言葉で周りから笑いが起こった。

そんなこと・・・今言わなくていいのに。


 「暴れ牛に何言ったってムダだよ」

男の子の一人が私をからかってきた。

 「なんだと!」

「おい怒んなよ。孤児院のことはバカにしてないだろ」

「文句があるなら拳で来い!」

「こら!それをやめなさいと言っているのです。あなたも、ちゃんとアリシアと呼んであげなさい」

怒られた・・・。


 「アリシアさん、力を振るいたいのであれば戦士になるまで我慢することです」

「・・・はい」

いつも強く言われるのは私の方だけだ。

どうしてなんだろう・・・。



 「あたしはそのままでいいと思うよ」

帰り道で、友達のルルが笑って慰めてくれた。


 「アリシアが暴れたりするのは、ほとんどあたしたちのためだもんね」

「だって・・・孤児だからってバカにしてくるのは許せない」

「もう言ってくる子はいないよ」

私たちはみなしご、同じ孤児院で育てられている。

だから、みんな姉弟のようなものだ。


 『お前らって捨て子だろ』

『邪魔だったんじゃないの?』

アカデミーに通い始めた頃は、よくからかわれていた。


 「あたしもみんなも、いじめられなくなったのはアリシアのおかげだもんね」

ルルは言われるたびに泣いていたっけ・・・。

だから私はそれを見つけるたびに、そいつらのところへお返しに行っていた。


 「今じゃ年上の子もアリシアがいると静かになるよね」

そう、全員相手にして勝ってきた。

孤児だという理由でからかわれることは無くなったが、そのかわり「暴れ牛」なんて呼ばれるようになっている。


 「ねえ・・・なんでそんなに強いの?」

「鍛えているからだ。知ってるじゃないか」

「うん、見てるけど・・・。だって四人相手にしても勝ってたよね?」

「・・・弱かっただけだ」

ケンカは・・・正直好きだ。

おもいきりぶつかって、そして勝つと気持ちがいい。


 戦い方はなぜかわかる。

押さえ込まれたらどう抜けるか、囲まれたらどうやって突破するか。

本能?そういうものに身を任せている。



 「ちなみに・・・内緒で剣を買ったこと、セス院長気付いてるからね?」

孤児院に戻るとルルが恐ろしいことを教えてくれた。

聞きたくなかったな・・・。


 「・・・叱られるかな?」

「黙ってた方が叱られるよ。早いうちにこっちから話した方がいいと思うよ」

相談もしないで買ったのは、止められると思ったからだ。

でも、叱られるのはやだな。

 「ルル、一緒に来てほしい・・・」

「わかった。じゃあ、衣装棚に隠してる剣も持ってきてね」

取り上げられたらどうしよう・・・。



 「夜遅くに庭で振っていますね?」

「はい・・・」

二人でセス院長の部屋に来た。

本当に気付かれていたみたいだ。


 「お小遣い帳も妙でしたね。服や下着をたくさん買ったはずなのに、一着も増えていない・・・本当にこれで通ると思いましたか?」

剣は毎月貰えるお小遣いを貯めて買った。

 ただ、一緒に「お小遣い帳」を書いて出さなければいけない。今いくら持っているのか、なにに使ったのかをセス院長が確認するためだ。

 「本気で誤魔化せるつもりだったのであれば、私は相当甘く見られているようですね」

「あの・・・」

「剣を買ったことを責めてはいません。嘘をついていた・・・これが良くないのです」

「え・・・」

なんだ、初めから正直に言えばよかったのか。


 「戦士になりたい・・・あなたはずっと言っていましたね」

「だから必要だったんです」

「あなたのやりたいことを止める気はありません。ただ、他の子たちにケガをさせないようにしなさい」

「だから夜にやっていました」

「・・・」

セス院長は呆れ顔で私を見ている。

そんなに怒っていないみたいだし、走りに行きたいから早く終わらないかな。


 「来年で十二歳、訓練場に通うことができますね。・・・行くのですか?」

「はい!」

「・・・いいですか。戦場は子ども同士のケンカとは違います。死ぬこともあるのですよ?」

子ども同士のケンカではもの足りなくなっていた。

戦士になればもっと熱くなれると思う。


 「知っています。そうならないように鍛えています」

「わかりました・・・。剣は絶対に他の子たちが触らないようにしなさいね」

「はい」

「お話は以上です」

割とすぐに解放された。

これで後ろめたいことは何もない。



 「セス院長に心配かけちゃダメだよ?」

部屋に戻るとルルがベッドに寝転がった。

そんなつもりは無かったんだけどな。


 「まあ・・・どうせ千人には選ばれないでしょ。だからそこまで言われなかったんだよ」

「なんだと!」

「大声出さないで。だって戦士って本当に強いって聞くよ。それにお給金・・・でいいのかな?貰えるのは待機兵まで、それにもなれなかったらどうやって生活する気なのよ?」

「もっと鍛えるんだ。絶対に選ばれてみせる」

お金が貰えるようになったらこの孤児院にも恩返しをするつもりだ。

だから絶対に千人に選ばれてやる。


 「もしダメだったら、あたしと一緒に酒場とかで働こうよ」

「酒場か・・・」

「アリシアは美人だし、きっと看板娘とかになれるよ。それに・・・このプラチナの髪の毛、あたしも欲しいよ」

ルルが髪の毛に櫛を入れてくれた。

悪いが・・・そういうことは考えていない。


 「本当にダメだったらな」

「一切考えてないわね。まあいいや、じゃああたしが働くようになったら戦士の人たちいっぱい連れてきてね」

「わかった」

ルルは普通に働いて暮らすみたいだ。

いじめられなくなってからはずいぶん明るくなったし、きっと雇ってもらえるだろうな。

 

 「じゃあ私は走ってくる」

「何言ってるのよ。まだアカデミーで出された課題終わってないでしょ?」

「ああ・・・」

たしかに出されていた。

わけのわからない計算を解いてこいというものだ。

 「それに、かわいい弟や妹たちのも見てあげないとダメだよ?」

まだ外へは行けないのか・・・。



 「えーとね・・・。明の月、紬の月、種の月、殖の月、花の月、想の月、深の月、水の月、風の月、凪の月、昏の月・・・えと・・・宵の月!」

「よく言えたねー。これで明日の試験も大丈夫だよ」

ルルが今年アカデミーに入った子たちの相手をしてあげている。

私はまだ課題が終わっていない・・・。


 「季節でも覚えておいた方がいいよ。春が種、殖、花。夏が想、深、水。秋が風、凪、昏、冬が宵、明、紬ね」

「書いてほしい」

「いいよ。じゃあ今日は、これを何度も口で言って繰り返すの。そうすれば嫌でも覚えるから・・・ね、アリシア?」

「そうだな・・・」

忘れ去ってしまいたい記憶が顔を出した。


 『アリシアさん、ちゃんと覚えてこなかったのはあなただけですよ』

『殖と凪は覚えています』

『・・・いいですか、これを言えないと必ず恥をかきます。・・・みんなに笑われて怒っていましたね。恥ずかしかったからでしょう?』

一人だけ残されて教官に詰められた。

 『そして、このまま放っておくといつまでもからかわれます。明日までに覚えて来なさい。自分の尊厳を守れるのはあなただけです。・・・必死でやるのですよ?』

『・・・はい』

帰ってルルに相談すると、同じように紙に書いてくれた。

 何度も呪文のように唱えたな・・・。

覚えられはしたが、あんな思いはもう二度としたくない・・・。



 「じゃあ走ってくる」

課題はルルに見せてもらって終わらせた。

とりあえずできていればいいのだ。勉強など必要ない!


 「夕食までには戻ってね。それとちびっ子たちのお風呂、今日はアリシアが担当だからね」

「・・・わかってるよ」

私は外に飛び出した。

晩鐘までは走ろう。


 私は絶対に戦士になる。

考えるだけで、体中が熱くなってくるんだ。

相手は魔族、きっと血が滾る。

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