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Our Story  作者: NeRix
風の章 第三部
198/481

第百八十九話 相談【シロ】

 みんなの気配がテーゼに集まっている。

ニルスとルージュも合流して、固まって行動するみたいだ。


 僕も早くそっちに行きたいな・・・。



 「ねえシー君、ちょっとお話があるの。・・・入ってきて」

バニラの部屋に呼ばれた。

いつもはニコニコしながら手招きしてくれるのに、今日は真剣な顔をしてる・・・。


 「どうしたの?」

「うん・・・相談なんだけど・・・」

バニラは扉を閉めると大きく息を吸い込んだ。

 相談・・・なんか嫌なことでもあったのかな?

メピルもニコルさんも仲良くしてくれてるし、そっちではないと思うけど・・・。


 「わたしも・・・精霊になれないかな?」

「え・・・」

まったく予想してなかった話だった。

 「・・・」

バニラは僕の目をじっと見て答えを待っている。

どうしよう・・・いや、まずは理由を聞こう。


 「どうして精霊になりたいの?」

「だって・・・そうなればシー君とずっと一緒にいられるでしょ?最近ずっと考えてたの」

バニラは戦いに行く前のニルスみたいな目をしていた。

この子は人間だから・・・あれ?


 「ちょっと待って・・・でもバニラって恋人いるよね?その人は?」

疑問が浮かんだ。

 よく考えたらずっとキビナを離れてる。

そっちはどうするんだろう?


 「あ・・・話してなかったね。・・・ここに来る前にお別れを言ってきた」

「え・・・相手は・・・それでいいの?」

「必死な感じでやだとか愛してるからって言われたよ。でも・・・わたしの気持ちは最初からあなたに無い、元から決めていた人の所に行くって何度も伝えて別れてきた」

そこまで言わなくても・・・。

待てよ・・・その人からしたら僕がバニラを奪ったみたいじゃないか・・・。


 「それで話を戻すけど、わたしは精霊になれるの?」

「それは・・・」

今のバニラに誤魔化しとかは通用しないだろう。

それに嘘もつきたくない・・・。


 「結論から言うけど・・・なれるよ」

「よかった・・・どうすればいいの?」

「僕・・・君に嘘はつきたくないから教えてあげる・・・」

話せることだけ・・・。


 僕、イナズマ、オーゼ、チル・・・ジナス。

精霊は、女神様がなにも無い所から作り出す。

 『あなたたちの新しい仲間です。リラといって、彼女は人間から精霊になったの』

だけど僕の記憶には、それ以外の存在がいる。


 『人間から・・・そんなことできるんですか?』

『あなたたちにその力は渡していない。だから私にしかできません』

『なぜその人間を精霊にしたんですか?』

『流れてしまった直後・・・偶然見つけたの。愛のある命だったのですよ』

そう・・・できる。


 『あの・・・よろしくお願いします・・・。わたしも・・・王様と同じで気の精霊です・・・』

『僕はシロ、王様って呼ばなくてもいいよ。それに気脈はほとんど異常なんか無いんだ。割と自由にしてていいからね』

『・・・本当?』

『うん。このお城にいてもいいし、他の土地を見に行ってもいいよ』

そして今は・・・ハリスの家にいる・・・。


 「女神様がいいって言えば・・・精霊にしてもらえると思う」

まず事実を教えた。

これは直接聞いたから間違いない。


 「女神様・・・どうやって話せばいいの?」

「境界にいるけど・・・今はまだダメ」

「あ・・・うん、全部解決したらでいいよ。そうなったら連れていってほしい」

バニラの目はずっと真っ直ぐだ。

 この揺らがない感じが続けばいいけど、何年も経ってから変わったりしないかな?

「やっぱり人間に戻りたい」って、あとで思っても遅い・・・。



 「・・・やめた方がいいですね」

なんて話そうか考えていると、部屋の隅から声が聞こえた。

 「ハリスさん・・・」

いたのか・・・。

そして、バニラの願いを聞いてしまったみたいだ。


 「・・・シロ様、どこまで話したのですか?」

ハリスは機織り機の前の椅子に座った。

 「女神様しかできないってことだけ」

「・・・そうですか」

本当にそれだけだ。

僕は君とリラの過去は話していない。


 「ハリスさん、わたしはシー君とずっと一緒にいたいんです。このお城で笑い合ったり、一緒に猫になって寄り添ったり・・・旅に出たり」

「楽しいことだけを考えればそうでしょう。ただ、シロ様やチル様を見て誤解なさっていますね」

「誤解ってなんですか?」

「ここまで仲を深めているので薄まっているようですが。精霊と人間は別物です」

ハリスが説明してくれるみたいだ。

少し聞いていよう。


 「別だってわかってるから同じになりたいんです。精霊の役目だってしっかりやってみせます」

「・・・子どもは欲しいですか?」

ハリスの指がバニラのお腹に向けられた。

まあ・・・そこだよね・・・。

 「急に何を・・・そりゃ、できれば・・・ですけど」

「できなくなります。元々精霊に生殖はできませんが・・・その感情を捨てられなかった精霊は今、笑うことも話すこともできなくなってしまいました。まあ彼女の場合は、望んで精霊になったわけではありませんが・・・」

「彼女・・・その精霊をハリスさんは知っているみたいな言い方ですね」

「・・・だからやめた方がいいとお話しているのです。悲しいことになるかもしれません」

ハリスは身を持って知っている。

だから僕の言葉よりも響くはずだ。


 「情熱が溢れるのは若いからです。あと十年はお考えになってみてはどうですか?」

「十年・・・」

「期間は適当です。心が成熟し、色々な視点が持てるようになった時・・・それでもお気持ちが変わらないのであれば、女神に願ってみてもいいでしょう」

「・・・」

バニラの熱が、さっきよりも引いているように感じた。

事情は知らなくても、ハリスの切ない顔をずっと見ていたからだろう。

 

 「・・・シー君と一緒にいたい気持ちは変わらないと思います。ですが精霊になりたいという気持ちは、ハリスさんが言ったように考えてみようと思います」

「そうですね・・・まあ、望んでも女神が許すかどうかは別です」

それもある。

 女神様がバニラを精霊にしてくれるとは限らない。

まだ・・・考えてるみたいだしね。


 『女神様に精霊を作る力を貰えないか聞いてみたんだ』

戦場が終わって、女神様はみんなの所を回った。

 『俺一人よりも分散した方が地脈を見やすいからな』

イナズマはその時に頼んでみたらしい。


 『考えさせてほしいと言われた。おそらく今は渡さないと決めたのだろう・・・かわりにコトノハを作り出して置いていったからな』

『そうなんだ・・・妖精たちは頑張ってるよ』

『ああ、よく働く。これならもう精霊を作る力はいらない』

女神様が考えるってことは、かなり注意が必要な力なんだろう。


 『作らなくても、リラみたいに流れた命を精霊にするのがいいと思うんだけどな。そしたら優しいのを選べるよね』

『それも聞いてみたぞ。一緒に考えると言っていた・・・つまり、また増やすつもりではあるようだ。・・・境界が無くなったのちの話になるのだろうな』

『まあ・・・そうだよね』

『それと・・・命を精霊にするにしろ、作り出すにしろ、感情を与えない方がいいと考えているようだ。・・・ジナスのこともあったからな』

僕も聞いたことがある。


 『今後精霊を作る時にどうしようか考えている問題です。自我を与えるかどうか・・・シロたちはとてもいい子なのに・・・』

戦場の下でニルスを助けてもらった時、女神様本人も言っていた。

つまり、みんなジナスの分身のカゲロウみたいにするってことだ。

 揺れない感情で役目のことだけを優先する。

ただそれだと、バニラが精霊になったとしても一緒に笑ったりはできないかもしれない。


 『確定ではないが、位を設けるとも言っていた』

『ん?どういうこと?』

『俺たちが一番上、この先作られるであろう精霊は下だ。自分よりも上の者へは、許しが無ければ干渉できなくさせる。そして・・・』

そして力も少しずつ増すようにするみたいだ。

だからあとから出てきた精霊は、絶対に僕たちには勝てないし逆らえない。

 『なるほど・・・たしかに僕たちはジナスのようにはならない。万が一あいつみたいな奴が下に出てきても、止められるようにするってことだね』

『そういうことだな』

そんな気にならない話だったけど・・・。

バニラの望みが叶ったら、友達、仲間、恋人って感じではなくなってしまうのかな?



 「あの、その精霊さんと一度お話ししてみたいのですが・・・」

バニラはもうすっかり冷静になった。

落ち着いたから、そうなった精霊の話を聞きたいって思ったんだろう。


 「今は・・・できません。いつという約束もできないのです。・・・事情については話せません。シロ様も女神から口止めをされているはずです」

「そう・・・ですか」

バニラは僕を見てきた。

「それは本当?」って眼差しだ。


 「ごめん、人間には話せないんだ・・・」

「・・・わかった。ハリスさん、それならいつかは会わせていただけますか」

「そうですね。ニルス様が精霊銀を探し当てれば・・・その時は事情もお伝えしましょう」

え・・・いいのかな?

 「精霊銀・・・ニルスさんも関係しているんですか?」

「これ以上は話せませんが・・・ニルス様は私と彼女の希望です。なので、今回の件が早く解決するように祈っていてください」

「はい」

バニラは素直に頷いてくれた。

リラを解き放つ精霊銀・・・ニルスは次の旅で探すって言ってたな。


 『ツケがあるからね。五百年見つからなかった幻の金属・・・それだけでも惹かれる』

命の対価はステラが持ってくれたけど、ニルスは知らない。

だけど、ツケが無くても探していたはずだ。


 でも・・・ハリスは、できれば自分で見つけたいよね。


 「ハリス、君の探し物を最後に持っていたのは北部のおばあちゃんだったよ」

僕は最後に持っていた人の記憶を見つけていた。

次にハリスが来たら教えようと思ってたんだよね。


 「三十二年前だった」

色の変わる金属で記憶を探していたら見つかった。

 「まさか・・・場所がわかったのですか?」

ハリスの目の色が変わった。

だけど・・・。

 「ごめんね・・・わからないんだ。ただ、今は指輪になっている。そして、おばあちゃんが流れたあとにどうなったのかはわからない。そこから誰の記憶にも無いんだ。つまり・・・どこかで眠っているか、生きている人が持っているか・・・」

「指輪・・・それだけでも充分です」

「飾りも何も無い。内側には愛を贈るって彫ってあったよ」

「ふふ・・・」

ハリスが笑い出した。

おもしろくてじゃない・・・切ない笑みだ。


 「・・・とても貴重な情報です。・・・精霊がここまで協力的ならば、もっと早くに頼ればよかったですね」

「どうかな・・・ジナスがいる間は・・・追い返したと思うよ」

ニルスがいなければ僕はここでじっとしていただろう。

・・・ハリスが来ても協力はしなかったはずだ。


 「それとね、これは手がかりじゃないけど・・・その指輪は、おばあちゃんを愛してくれた人が贈ったものなんだよ」

「精霊銀は愛のある場所を好む・・・ですか」

憶えててくれたみたいだ。

それは君も持っているもの・・・。


 「愛・・・それならハリスさんの近くも好きなんじゃないですか?」

「バニラ様・・・。五百年・・・私の元には現れませんでしたよ」

「でも・・・友達の家族のために頑張っていますし、シー君やミランダさん・・・わたしにも優しいですよね?」

「・・・そんなことはありませんよ」

ハリスはまた切なく笑い、今度は手で目を隠してしまった。

 今まで愛が無かったわけじゃない。

先に愛のある人が見つけていただけ・・・。

次は君か、僕たちの周りにいる誰かだと思う・・・。



 「・・・長くなりましたが、簡単なお願いがあってここにきたのです」

ハリスが目から手を離すと、普段の澄ました顔になっていた。

バニラのことで忘れたけど、いつの間にかいたんだったな。


 「次の潜入が終わるまで、無闇に呼ばないでいただきたいのです」

「ああ・・・ジェイスだね?」

「・・・」

ハリスは頷いた。

 「ごめんね、ジェイスのことは流れた記憶には無かった。名前を変えているのかもしれない」

「自分の目で確かめます。なので気が散らないようにしたい。・・・私から報告に来るまではベルを鳴らさないでください」

「・・・わかった、そうするよ」

たしかに潜入中とか、敵を追っている時に呼ばれたら鬱陶しいかもな。

今までも思ってたのかも・・・。

 たまに来るのが遅い時もあった。

・・・手紙をお願いしようとした時だったな。


 「バニラ様・・・今はシロ様と楽しい時間を過ごすといいですよ」

「わかりました。今を・・・大切にしていきます。ハリスさん、お気を付けて」

「・・・」

ハリスは優しく微笑むと影の中に沈んだ。

僕も協力できればな・・・。



 「わたし、シー君のことが大好きなのは変わらないからね」

またバニラと二人きりになった。

でも、さっきとは違っていつもの明るい笑顔だ。


 「バニラ・・・あの・・・僕もずっと大好きだからね」

「ふふ、ありがとうシー君。そうだ・・・これ、メピルさんのために作ってるんだ。完成したらシー君から渡してね」

バニラがちょっと大人っぽい服を取り出した。

とりあえずは落ち着いたのかな?


 バニラはどのくらいで答えを出すんだろう?

君が精霊になってもならなくても、僕はずっと愛し続けるつもりだけどね。

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