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Our Story  作者: NeRix
風の章 第二部
175/481

第百六十七話 夢のよう【ニルス】

 明日から妹との旅が始まる。

長いのか短いのか・・・どうなるんだろうな。

本当は何も心配が無い状態で、兄妹としてがよかった。

 

 そしてスナフ・・・まだ行くつもりは無かったんだけどな・・・。



 「魔法を出してみて」

「わかった」

「限界まで強く」

「うん」

シロの指示に従って炎を出してみた。

今の体からしたらかなりの熱量だけど・・・。

 「うーん、みんなが同じ大きさなら強いね」

「そういうわけじゃないからな」

出せたのは、焚き火を起こす時くらいの炎だった。

こうなる前は、風呂を沸かすのに焚き木がいらないくらいだったのにな・・・。


 「でも、治癒は強いままだね」

「女神の力だから?」

「たぶん・・・まあ、小さいのは困るよね・・・」

シロはオレの身体を隅々まで調べてくれた。

 精霊と同じで、食事は別に摂らなくてもいいみたいだし、睡眠も必要ない。

わけのわからない身体になってしまったな・・・。


 「ニルス様、お召し物ができましたよー」

「早く着てみてください」

憂鬱になりそうなところで、ルージュとバニラが部屋に飛び込んできた。

やっと女給の服を着なくて済むのか・・・。



 「どうですかニルスさん、苦しい所はありますか?」

できあがった服は、今のオレに合うように作られていた。

何度も寸法を測りに来てたからな・・・。


 「いや、すごくいい。ありがとう」

「内側の生地は太陽蜘蛛を使ったんですよ」

「なるほど・・・色々安全だな」

作られた服は以前にルージュと話した時に着ていたものだ。

 バニラの手伝いもあっていい感じにできている。

そして、気持ちもたくさん込もっていた。


 「これでひと安心ですね。じゃあルージュちゃん、あと一着くらい一緒に作ってみようか。次は旅人に似合うものがいいよね」

「はい、ありがとうございます。バニラさんみたいに上手な人に教えてもらえて嬉しいです」

「ルージュちゃんも上手だよ」

「え・・・ありがとうございます」

ルージュはにっこり笑った。

次にできる服は、これよりも強い思いが込もっていそうだ。


 「今夜はメピルさんも私の部屋に呼んで、女の子三人でお喋りしようよ」

「楽しそうですね」

「お風呂も大きいからみんなで入ろうね」

「は・・・はい・・・」

バニラのおかげで、ルージュの憂鬱も薄まってくれるだろうな。



 「ルージュ、絶対に手を離しちゃダメだからね」

夜が明け、オレたちは岩場まで出てきた。

旅立ちだ・・・。


 「大丈夫かな・・・」

「手綱を離さなければね。まずはチルの所まで連れて行ってくれる。イナズマと一緒にいるみたいだよ」

シロが乗り物を用意してくれた。

とても大きな白鳥・・・。


 「ミランダが一緒だと無理だったな・・・」

「そうだね・・・前の旅も馬車にしたし・・・」

ああ・・・懐かしいな。

 『ドラゴンとか・・・鳥の人形で飛んで行った方が早く着く・・・どうする?』

シロがこっそり教えてくれたっけ・・・。


 「でも・・・本当に間に合わなさそうならこっちを使うつもりだったよ」

「間に合ったから気にしなくていいよ」

それに楽しかった。

だから馬車でよかったんだ。


 「ねえシロ、この子は・・・生きてるの?こんなの首に付けて苦しくない?」

「人形だから大丈夫だよ。片道だけだから、次はチルかイナズマに頼んでね」

なんにしても、これなら道を気にせずに行ける。

空の旅か・・・。


 「ニルスさん、なにも持ってないのも落ち着かないと思うので」

「きっと似合うと思ったの」

「・・・ああ、ありがとう」

バニラとメピルが、オレに縫い針を持たせてくれた。

剣のかわりか・・・。

 「鞘は水晶です。メピルさんが作ってくれたんですよ」

「どうニルス?」

「メピルが作ってくれたんなら心強いよ」

「えへへ・・・」

言えないけど、剣も水晶で作ってほしかったな・・・。


 「あの・・・ルージュちゃんに、お母さんに声をかけていったらって言ったんですけど・・・全部終わったらって」

バニラがオレを持ち上げた。

緩んでくれたと思っていたけど、まだ張り詰めているらしい。

 「したいようにさせてあげよう。あ・・・オレとあの子の関係は・・・」

「シー君から全部聞いてたので大丈夫ですよ。なにも教えていません」

バニラの指がオレの頭を撫でた。

 「私もそうしたよ」

「ごめんね、二人に嘘をつかせてしまった」

「話してないだけだから、嘘はついてないけどね」

メピルの指がオレの頬を撫でた。

そうだな・・・どっちかって言うと隠し事か。


 「ニルス、針に毒塗っておく?」

ニコルさんがニヤニヤしながら近づいてきた。

毒ね・・・。

 「アリシアさんに使われたようなのもあるよ。あの人じゃなきゃ後遺症が残るくらい強いけど」

「・・・遠慮しておきます」

間違ってルージュに刺さったらどうするんだよ・・・。



 「ニルス様、そろそろ行きましょう」

「そうだな」

オレはルージュの上着のポケットに入った。

・・・ちょうどいいな。


 「ルージュちゃん、あの生地は色が付いたらまたあげるね」

バニラがルージュに声をかけた。

 「ありがとうございます。楽しみにしていますので」

「次来た時も色々教えてあげるよ」

オレよりも優しい師匠だ。

裁縫だけをしてた方が危なくないんだけどな・・・。


 「じゃあ、飛ばすね」

「みなさん、お世話になりました。シロ・・・お母さんをお願いね」

「任せて。ルージュもニルスをよろしくね」

シロが人形に触れた。

たぶん、イナズマの場所を伝えたんだろう。


 「わわっ!羽を広げました」

「もっとぎゅっと、しっかり掴まっててね」

白鳥の人形が地面を蹴った。

 「シロ、また会おう。みんなも元気でね」

「うん、行ってらっしゃい・・・」

シロの声が遠ざかり、いつの間にか地面が遥か下に見えた。


 「すごいな・・・一度の羽ばたきでこんなに高く・・・」

「ニルス様!ポッケから顔を出さないでください!落ちたらどうしようもないです!」

ルージュは手綱をしっかりと握っている。

・・・心配させないようにするか。



 白鳥は西へと向かっている。

イナズマは火山にいるらしい。


 「ルージュ、そろそろ慣れたか?」

「なんとか・・・。掴んでれば平気です・・・」

「なら景色を見ておくといい」

「はい・・・」

見下ろす大地はどこまでも続いていて、遠く見えた彼方がすぐに通り過ぎていく。

 馬車とは比べ物にならないくらい速い。

風に乗って世界の果てまでだって行けそうだ。

 

 「ニルス様は・・・これ経験ありますか?」

「ない。でも、こんな旅もいいな」

「うう・・・わたしが必死に支えてるのに笑ってる・・・」

「オレの弟子はこれくらいで音を上げないはずだよ」

「む・・・当然です!」

もうサンウィッチ領に入った。

結局戻ってくるのか・・・。



 「来たか・・・」

「え・・・ルージュ?・・・一人?」

「シロから呼びかけで聞いていた」

「チル聞いてないんだけど・・・」

イナズマとチルは、父さんの墓の前にいた。

また花を咲かせてくれていたらしい。


 「あ、人形が・・・」

白鳥は降り立つと、すぐに煙となって消えた。

片道だけって言ってたからな。



 「そういった記憶は無いな・・・すまない」

「チルも知らない。ごめんね・・・」

元の身体に戻る方法はわからなかった。

ということは、オーゼもわからない可能性が高いな。


 「ルージュ、カクとは遊んだ?」

「うん、友達だよ。そうだ、行ってくるって挨拶をしてなかった」

「じゃあ呼んでみようよ」

チルとルージュは仲がいい。

バニラもそうだけど、同じ水晶の首飾りを付けている友達だからなんだろう。


 「やはりジナスなのだろうか・・・」

「他に思い当たることがないからな」

「・・・」

イナズマは深刻な顔をしている。

余計おかしくなったからか・・・。



 「きゅう!」

「わたしたちね、ここを離れることになったんだ」

ルージュがカクを抱き上げて顔をこすりつけた。

せっかく仲良くなったんだけどな。


 「見てカク、ニルス様がちっちゃくなっちゃって・・・元に戻してあげたいの」

ルージュはオレをカクの目の前に出した。

デカい・・・ちょっと恐いな。


 「・・・きゅ」

「カク・・・わかるのか?」

「きゅう」

「これなら自分でも勝てそうだって言ってるよ」

チルの通訳はありがたいけど、これは知りたくなかったな。

たしかに今はカクにも勝てそうにないけどさ・・・。

 「・・・じゃあ、これからしばらくはカクがこの森の王だ」

オレはカクの鼻に触れた。

どう思われていたとしても、いない間のことは頼んでおかないとな。


 「きゅう」

「知らない人間とか、危なそうな魔物が来たらみんなを連れて森の奥に逃げるんだよ。戦ってはダメだ、わかったな?」

「きゅ!」

「任せろって」

これでいい、カクならしっかりやってくれるだろう。

あとは・・・。


 「イナズマ、この辺りのことを頼んでいいか?」

「前に話していたおかしな奴らか・・・何かやりそうなら追い出そう」

「それでいい、害がありそうなら判断は任せる」

「引き受けた」

精霊も付いてくれるなら安心だ。

森の生き物たちは、オレたちが戻るまで平和に暮らせる。


 「ちなみに・・・きのう人間は来たか?」

「一人・・・」

来たのか・・・。

 「あれを見て帰っていったぞ」

イナズマが指さした先には、ハリスの作った「王家所有」の立て札があった。

・・・魔除けになるらしい。


 「お前の身体も女神様には頼らないと聞いたが・・・」

「どうしようもなくなれば頼るさ。境界で大変なんだろ?」

「まあ・・・そうだな。俺たちだけでなんとかできるのが一番いい。だが・・・頼めば来てはくれるだろう」

イナズマはちょっとだけ困った顔をした。

世界を元に戻す・・・二百年以上かかる大仕事って話だからな。


 「決断は早めにしろ。それで、次はどこに行くんだ?」

「オーゼの所だ」

「じゃあチルが人形出したげる。シロのより速いからねー」

「え・・・あれより?大丈夫かな・・・」

ルージュが手袋を外した。

 ・・・擦れて赤くなってる。

まだそこまで手の皮が厚くなってなかったか。


 「ルージュ、手を見せて。治癒はそのまま使えるんだ」

「大丈夫ですか?また苦しくなったり・・・」

「シロに視てもらったから大丈夫だよ」

オレはルージュの手に触れ、治癒をかけた。

小さいから片方ずつだな・・・。


 「あ・・・治りました。ありがとうございます」

今のオレにできるのはこれくらいか・・・。

 「ほんの少しでも傷ができたら言ってほしい。すぐに治す」

「小さいのなら自分でも大丈夫ですよ?それに放っておいても治りますし」

「綺麗なままでいてほしいんだ。必ず言うんだぞ?」

「あ・・・はい」

ルージュは口元を持ち上げて頷いた。

・・・かわいい。

 

 「もういい?作ったから乗ってみてよ」

チルが駆け寄ってきた。

どんな鳥か・・・。


 「鷹・・・」

「うん、とっても速いよ」

白鳥よりも凶暴そうな見た目だ。

 「どうニルス、チルえらい?」

「えらいよ、元に戻ったら頭も撫でてあげる」

「ふふふ・・・」

チルの口元が変な形に変わった。

この子もかわいい・・・。



 「きゃああああ!!!!!」

「口を閉じろ、舌を噛むぞ」

空を突き抜けるように飛び上がった鷹は、白鳥よりも力強い羽ばたきで風を味方につけた。

人形だけど、お前に「風神」の名前をやるよ・・・。



 「あ・・・ゆっくりになってきましたよ・・・」

「麻痺してるだけだ、これでも相当速い」

オーゼの川が見えた。

鷹は速度を落とし、上流を目指している。

 

 「アカデミーで教わりましたけど、こんなに大きいんですね・・・すごい・・・」

ルージュは川を追って、遥か彼方まで視線を伸ばした。

 「今君が感じている気持ち、それが旅人だ」

「・・・はい。・・・シロとも一緒がよかったです」

ルージュの手に力が入った。

 思い出してやりきれなくなったんだろう。

君は悪くないのに・・・。


 「少しでも辛い時は全部話してくれ。心はオレが支える」

「ニルス様・・・はい!」

この子はまだ未熟だ。

兄としても力になってあげないといけない。


 「でも、わたしもニルス様を支えますからね」

「ありがとう・・・オレは元に戻るためならなんだってする。それにはルージュの力も必要だ。・・・頼りにしているよ」

「時間があれば・・・ご指導お願いしますね」

できる限りはするけど、この状態じゃな・・・。


 ・・・そうだ、ヴィクターさんの所に行くなら、この子の気晴らしに少し鍛えてもらってもいいかもしれない。

代替わりしてるって話だし、新しいヴィクターはこの子と歳が近い。

・・・一緒に修業させればいいんじゃないか?



 「あら・・・」

オーゼは岸辺に座り、流れに触れていた。

周りには妖精が集まっている。


 「ニルス様、あれがオーゼさんですか?」

「そうだ、近寄ってくれ」

「イナズマから呼びかけで聞いていたわ」

降り立つと、オーゼもこっちに寄ってきた。

説明の手間は省けそうだな・・・。



 「ふーん・・・小さくなったって本当だったんだ・・・」

オーゼはオレの身体に指を這わせた。

この反応だと元に戻る方法は知らなそうだ。


 「ごめんなさい、私もわからないわ・・・」

「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」

「あなたには、女神様を解放してもらった恩がある。力になってはあげたいけど・・・そういえばこの子は?あなたと同じ髪の毛ね」

「ひゃ・・・」

ルージュの頬にオーゼの手が触れた。

待てよ・・・オレたちの事情は呼びかけで教えたのか?

 

 「この子はルージュ・・・オレの弟子だ」

「・・・弟子?ふーん・・・私はオーゼ。よろしくねルージュ」

「あ・・・ルージュ・クラインです・・・」

「うん、シロから聞いているわ」

大丈夫だったみたいだ。

オレの焦った姿を見たかったんだな・・・。


 「あなたの弟子ならかなり強そうね」

「まだふた月も鍛えてない」

「じゃあこれからってことね」

オーゼは精霊の中で一番落ち着いている。

余裕も見えるし、ハリスに近いのかもしれない。


 「あの・・・失礼かもしれませんがその格好は・・・」

ルージュが恥ずかしそうに目を逸らした。

 オーゼの姿は以前と変わらず、薄い布を纏っただけだ。

ミランダでさえ大事なところは隠すから、それ以上がいるとは思わなかったんだろう。

 「なにかしら?」

「透けてます・・・」

「そうね。女神様は綺麗って言ってくれたわ」

「たしかに綺麗ですけど・・・」

ルージュの顔がどんどん赤くなっていく。


 「恥ずかしくは・・・ないんですか?」

「ふふ・・・ルージュは、獣や鳥、虫や魚にも同じことを聞いているの?」

「う・・・すみません・・・なんでもないです」

「ニルス、ルージュってちょっと変わった子ね」

精霊・・・というかオーゼには人間の常識は通用しないみたいだ。

シロ、チル、イナズマはちゃんと体を隠しているけど彼女だけは違うからな。


 「それで・・・あと残っているのはどこ?」

「神鳥のシル、それと聖女の騎士・・・この二つだ」

「女神様が自由に動ければね・・・」

「なんとかするよ」

これは別に世界の話ではなくて、オレとアリシアたった二人のこと。

境界と比べたら小さい話だ。


 「・・・ちょっと心配ね。退屈だったし、私も神鳥の森まで付いて行きます」

オーゼがオレを見て微笑んだ。

一緒にってこと?


 「・・・いいのか?」

「ええ、役目はこの子たちにお願いするわ」

オーゼは振り返ると、近くにいる妖精たちに触れていった。

 「どうしようもなければ私を呼びなさい」

「はい、オーゼ様」「お気を付けて」

妖精たちが空へ舞い上がり、川の上流と下流に散っていった。


 「じゃあ行きましょう。シルとは一度も会ったことないの」

オーゼはオレをつまんで肩に乗せてくれた。

精霊が一緒なら、ルージュに危険は無いな。



 オーゼが加わって、神鳥の森へ向けて歩き出した。


 「ルージュ、あなたは女神様に似て美しいわ・・・」

オーゼはルージュにべったりとくっついている。

 「そんなこと・・・オーゼさんの方が綺麗です」

「あなたのすべてと比べないとわからないわね・・・」

なんか近くないか・・・。


 「あの・・・オーゼさん、ちょっと離れてほしいです・・・」

「ダメよ。ニルスがこんな状態なんだし、私があなたを守らないといけないんだから」

「オーゼ、あんまり変なことは・・・うわっ・・・」

「ニルス様!」

オレはオーゼの胸元に押し込められた。

・・・柔らかい。


 「男はこれが夢のように気持ちいいらしいの。ニルスも静かになったでしょ?間違いないことが証明されたわね・・・」

挟まれて口が開けないだけだ・・・。

変な記憶ばっかり集めてるらしいな。


 「えっと・・・男の人はおっぱいに弱いってことですか?」

「そうよ、色々教えてあげる・・・ふふ」

姿は見えなくなったけど、オーゼは妖しく笑っている。

ルージュがおかしなことを覚えたりしないだろうか・・・。

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