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Our Story  作者: NeRix
風の章 第二部
168/481

第百六十話 成長【ニルス】

 「さん・・・びゃく!・・・やったー」

ルージュが最後のひと振りを終えた。


 体力も、腕力が付くのも早いな・・・。

鍛え始めてからまだひと月だぞ・・・.


 「やりましたよニルス様!見てください、右でも左でも片手で持てます」

「そうだな・・・腕を見せてくれ」

「え・・・」

ルージュが一歩下がった。

恐怖が蘇ったか・・・。


 「また・・・折らないですか?」

「もうしない。鍛えてやってるだろ」

「・・・すみません」

「触るね・・・」

ルージュの腕は以前よりも少しだけ太くなっていた。

 でも、そこまでの力が付いているようには見えない。

まあ、ゴツゴツになられても困るしな・・・。


 それよりも・・・もう剣を教えないといけないのか。

オレはどうだったっけ?


 『まずは体力作りだ、母さんに付いてこれるようになったら剣を教えよう』

わりと早く持たせてもらった気がする。

ひと月・・・かかったかな?


 「ニルス様!」

オレの腕が引っ張られた。

 「約束です。剣を教えてください」

「ああ・・・」

まだ空は青い、どう教えるか・・・。


 『ニルス、もっと速く打ち込め。踏み込んだあとを考えていないからもたつくんだ』『まだダメだ。それでは戦場で通用しない』

・・・雷神は厳しかったな。

 教えるとしてもあそこまではしない。

とりあえず、目標は自分の身を守れるくらいか・・・。



 風呂焚き場から少し離れた。

周りに邪魔な物は無い方がいい。


 「まずは基本からだ。・・・剣を抜け」

「はい!」

ルージュは目を輝かせて胎動の剣に手をかけた。

 我慢していたのは知ってる。

でも言いつけをちゃんと守って、一度も鞘から抜くことは無かった。


 「ルージュには少し大きい、両手で持つんだ」

「はい」

「まっすぐに・・・」

オレはルージュの背中に回った。

構え方も教えないといけないな・・・。


 「・・・もう少し力を抜け」

「は・・・はい、そんなに密着しなくても・・・」

「アリシアもこうやって教えてくれた。言う通りにしろ」

「・・・はい」

真っ直ぐだ、軸もいい。

最初からわかってるような感じだ。


 「お母さんは背が高いですよね」

「気になるの?」

「同じ頃と比べると、わたしは頭一つ分小さいってルルさんから聞きました」

訓練場に出入りする前から鍛えてたらしいからな。

だから戦うための体になるのが早かっただけなんだろう。

 「気にしなくていい。女の子で言えば普通だ」

「ニルス様も高いです。わたしだって女神様と繋がりがあるのに・・・」

「ステラはアリシアより小さいだろ?」

「あ・・・そうですね」

この子はこのままでいいんだけどな・・・。


 「剣を抜いたらその構えが基本だ」

ルージュから離れた。

まずは剣の振り方と踏み込みだ。


 「まず見せる。構えは崩さないように」

「はい、ご指導お願いします」

「持ち上げて・・・振り下ろすと同時に・・・踏み込む」

オレが初めて剣を持った日、雷神から最初に教わったことだ。

まずはここから・・・。


 「わあすごい、靴跡がくっきりできてます」

「体重を剣に乗せるためだ。踏み込みが無ければ威力が落ちる」

「あ・・・だから森の中を走り回らせたってことですね?」

ルージュが嬉しそうに微笑んだ。

・・・かわいいな。


 「同じようにやってみろ」

「はい。持ち上げて・・・」

「そう、振り下ろすと同時に踏み込む」

「はっ!」

ルージュの動きは、初めてなのに綺麗だった。

見様見真似なのに、しっかり踏み込みもできている。


 ・・・母さん、少しだけ気持ちがわかったよ。

そりゃ教えてて楽しい。


 「今日はそれだけだ。オレがいいって言うまで続けること」

「はい」

まあ課題はまだある。

 できるからいいっていうわけじゃない。

順序をしっかり考えてやらなければ・・・。



 「ニルスさーん」

ルージュの動きを見ていると、馬車の音と声が聞こえた。

カゲウソさんか・・・。


 「あ・・・」

ルージュの手も止まった。

 「行商さんだ。君は続けてていいよ」

「いえ、あの・・・頼んでいたものが・・・」

「・・・わかった、一緒に行こう」

「ありがとうございます」

お菓子でも頼んでたのかな?


 

 「これはルージュさんのです。ちゃんと今のと同じ大きさで仕入れましたよ」

「あ・・・ありがとうございます。何組くらいでしょうか・・・」

「七・・・だったかな」

「助かります・・・」

ルージュは黒い布で包まれたものを受け取った。

お菓子・・・じゃないな。


 「何を頼んでたの?」

「・・・下着です。よく動くので・・・あの・・・擦れて薄くなってしまって・・・」

「・・・ニルスさん、今のはよくないですよ。ルージュさんも答えることなかったのに」

「・・・悪かったよ」

これじゃただの変態じゃないか・・・。


 「それと、新しい靴もあります。戦士用のを作ってもらいました」

「ありがとうございます」

「ふふ、こうやって普通に話せるようになってくれて嬉しいよ」

「すみません・・・男の人とは慣れるまで恥ずかしくて・・・」

「気にしないで。靴を履き替えて具合を見るといいよ。寸法通りだけど、最初は硬いと思う」

ルージュの靴は、そろそろ穴が空きそうだったから頼んでおいた。

旅人になるために用意していたのを履いていたけど、そんなにいい物ではなかったみたいだ。


 「あと・・・ニルスさん、頼まれてた宝石だったんですが、ちょっと面倒なことになりまして・・・中でいいですか?」

カゲウソさんは一瞬だけルージュを見た。

なにか情報があるらしい。


 「わかりました。ルージュ、その靴でまた剣を振っていてくれ。早く足に馴染ませないとな」

「はい」

ツキヨのことはこの子に話せない。

それにハリスが報告に来るまでは、そっちを考えないようにもさせなければ。



 「カケラワシとハルフクロウから報告です。どちらから聞きますか?」

カゲウソさんと向かい合って座った。

色々気になっていることは多いけど、まずは・・・。

 「カケラワシ」

テーゼはどうなっているかだ。


 「常にでは無いが、雷神の土地に一人忍ばせている。動きは無し。知人、友人への襲撃や怪しい者の接近も無し」

・・・動きが無い?

 「妙ですね」

「その通りです。娘がどこにもいない・・・なのに調べないのは変です」

ルージュはどっちでもよかったってことか?

それとも、まだ子どもだったからそこまで気にしていない?


 「教団内部で分裂が大きくなり、それどころではない状況なのかもしれません」

「分裂・・・」

「ハリスさんがそう言っていたとハルフクロウが・・・」

なるほど・・・そっちの報告も聞いてみよう。


 「教団の目的は以前報告した通りですが、内部では派閥があるようです。受け入れてもらっての独立を希望する和睦派、革命を起こして力ずくでと考えている強硬派・・・大きく分けてこの二つだと」

「アリシアを襲ったのはどっちですか?」

「・・・まだわかりません。ハリスさんはかなり頑張っていますけど、雷神についての話すら出ないらしいです」

「出ない・・・」

違和感が生まれた。

ハリスが追っていてなにも手がかりが無い・・・そんなことあるか?


 「ハルフクロウに伝えてほしいことがあります」

「なんでしょうか」

踊らされている・・・気がする。

 「教団は・・・今回関与していないかもしれません」

「まさか・・・」

「祈りの言葉は目くらましの可能性があります」

「まんまと嵌められたと?」

まだ憶測・・・繋がりが見えないし、進展も無いなら別な視点が必要だ。


 「いや、関与していないは言い過ぎたかもしれません。祈りの言葉を知っているからです。あくまで可能性の話、精霊と対峙してそこまで考える余裕があったのかも謎ですし」

「・・・わかりました、それを伝えてみます。私もタビガラスの意見は真実に近い・・・そう思いました」

カゲウソさんが頷いた。

 これで少しは動きが少し変わるかもしれない。

早くアリシアの前に引きずり出さないとな。



 話も終わり、外に出てきた。


 「ニルス様、とってもいい靴だと思います。・・・ちょっと重いですけどね」

ルージュは素振りを止めて、ニコニコしながら足踏みしてくれた。

・・・なんでこんなにかわいいんだ。


 「重いのは履いてる内に慣れるよ。毎日走ってるからすぐだと思う」

「え・・・じゃあ今も走ってきます・・・」

「あ、待て・・・」

ルージュは行ってしまった。

食材も一緒に見ようと思ったのに・・・。


 「手袋はあとひと月もかからないと思います。ニルスさんとルージュさんの名前を出したら、すぐ作ると言ってくれたそうです」

カゲウソさんが馬車の脇を開けた。

 「ありがとうございます」

フラニーさんに雲鹿革の手袋を頼んでいた。

今は作業用のもので鍛錬をさせているけどいずれ必要だろう。



 「はあ・・・はあ・・・いい感じです」

ルージュが戻ってきた。

今日は・・・ここまでにするか。


 「まだ明るいけど、今日は終わりにしよう」

「え・・・」

たまにはゆっくり話す午後があってもいい。

 「休息も必要だ。明日から今まで以上に疲れるからこれでいいんだよ」

「・・・わかりました」

ルージュはちょっとだけ「気に入らない」って顔をした。

機嫌を直してもらうには・・・。


 「それと・・・夜は卵のスープを作ろうか。三百回振れたご褒美だ」

「え・・・やったー、パンに燻製お肉もですよね?」

「そうだよ。野菜を切って水に付けておこう」

「楽しみですねー」

ルージュは体全部で喜んでくれた。

好きな献立はオレと一緒らしい。


 まだまだ子ども・・・でもその方がいい。

ちゃんとこれからの成長を見ていこう。



 「お裁縫をしていてもいいですか?」

野菜の準備が終わると、ルージュが裁縫箱を持ってきた。

ダメって言うわけないだろ・・・。


 「いちいち聞かなくていいよ。それに・・・見てみたいな」

「えへへ・・・じゃあ見せてあげます」

ルージュは箱の蓋を開けた。

ミランダとシロとオレで用意してあげた裁縫箱は、ずっと使ってくれてるらしい。


 「こういうのを作ってます」

「・・・随分と小さい服だ。妖精なら着れるかな」

箱には今まで作ったものと、それを着せる人形も入っていた。

 「お人形で遊ぶのが好きだったので」

「これは・・・女の子の服だな」

「そうです。こっちはミランダさんが着てたのを作ってみました」

見せられた服は、胸元が大胆に空いていた。

・・・ルージュが真似しなくてよかった。


 「・・・で、こっちがルルさんのお店の給仕さんです。これはお城のメイドさんですね。あ、お祭りで見た道化師の服もあります。これ難しかったんですよ」

全部女物・・・道化師も見た感じそうだ。

まあ、人形って大体は女の子が遊ぶものだからな。

 「よくできてる。上手だね」

「えへへー、お母さんも言ってくれました。じゃあ・・・ニルス様が今着てる服も作ってみますね」

「ありがとう、楽しみにしてるよ」

「はい、任せてください」

ルージュはオレの服と近い色の生地を取り出して作業を始めた。


 オレや父さんと同じ、何かを作るのが好きなんだろう。

あ・・・ならルージュにも・・・。


 「ルージュ、君に特別な魔法を教えてあげる」

「え・・・」

ルージュが手を止めて、こっちを見てくれた。

 「特別・・・どんな魔法ですか?」

「魂の魔法、前にちょっと教えたよね」

「あ・・・お父さんの・・・ニルス様も使えるんですね」

「そう、師匠から教えてもらったんだ。胎動の剣にも使ったから、触れた時になにか感じたと思うんだけど・・・」

「あ・・・」

ルージュは胸を押さえた。

感じないはずないからな。


 「使える人間は少なくてさ、今の所四人だけなんだ」

オレとステラ、それとフラニーさんにバニラだけだ。

 「お父さんのブローチにも思いが込められていると言っていましたね・・・」

「そうだよ。それと、八年前に手袋と襟巻きをアリシアから貰ったと思うんだけど、あれにはオレの思いが込もっている」

「あれも・・・」

ルージュは幸せそうに笑ってくれた。

本当は、自分で渡してこの顔を見たかったな。


 「もう小さくなりましたが大切にしています。あんな気持ちになれる魔法なら・・・教えてほしいです」

「いいよ・・・」

ルージュの手を握った。

これでいい・・・。


 「恨みとか憎しみ・・・そういう後ろ向きな思いは絶対に込めてはいけないよ。オレも師匠と約束したから、ルージュもそうしてほしい」

「はい」

「使うのは愛を込めたい時だけだ。約束できるね?」

「愛・・・はい、約束します」

この子も悪い使い方はしないだろう。

それに芸術もわかっているから、きっといいものを作れる。


 「じゃあ、続けていいよ。さっき焼き菓子を買ったんだ。紅茶も淹れてあげる」

「え・・・そんな・・・」

「今は修行中じゃない。それに、君がそうしているのを見ていたいんだ」

「え・・・はい」

できれば敬語もやめてほしいけど、今は仕方ないか。


 「ニルス様」も気にならなくなったけど、早く「お兄ちゃん」って呼んでもらえる日が来てほしい。



 妹は歌を口ずさみながら、生地を繋ぎ合わせている。

安らぐ・・・。


 「綺麗な声だね。何の歌?」

邪魔はしたくなかったけど、どうしても聞きたくなった。

お喋りもしたい・・・。


 「これは女神様を讃える讃美歌です。わたしの通っていたアカデミーには礼拝堂があって、毎朝歌っていたんですよ」

「讃美歌・・・触れたことなかったな」

「結婚式なんかでも歌われますよ。お友達のに出席とかありませんでしたか?」

「いや・・・無いな・・・」

何気ない会話だったのにえぐられるとは思わなかった。

友達・・・そんなにいないよ・・・。


 「・・・お菓子はまだある。もう少し食べようか」

「わあ、嬉しいです」

話題を変えよう。

オレの心が耐えられなくなる前に・・・。


 「ニルス様は甘いものが好きなんですね」

「昔からだよ。・・・変?」

「いえ、わたしも好きです・・・いたっ」

ルージュが縫い針で自分の指を刺してしまった。

話に気を取られ過ぎたせいか。


 「悪かった。すぐに治してあげよう」

「いえ・・・わたしもよそ見してたので・・・」

いいんだ、今は君のために使いたい・・・。


 「・・・ぐ!」

「ニルス様?」

「うう・・・」

ルージュの針傷を治した瞬間、わき腹が締め付けられたように痛みだした。

 なんだ・・・。

場所は憶えてる・・・ジナスにやられたところだ・・・。


 「す、すぐに横になった方が・・・」

「・・・平気だ・・・引いてきた」

じっとしていると、すぐに締め付けは薄れて楽になってきた。


 「なにか・・・病気とかですか?」

顔を上げると、ルージュが不安そうにオレを見つめていた。

 「いや・・・大丈夫だ。古傷ってやつだよ」

「無理はしないでください・・・」

「ありがとう。心配無いよ」

「明日は・・・わたし一人で鍛錬します」

優しい子だな。

でも本当に大丈夫だ。おかしな不安は吹き飛ばしてやらないと。


 「ルージュ、オレは君やアリシアと同じで女神と繋がる者だ。そうそう病気にはかからない」

「あ、そうでしたね。そういえばわたしも病気になったことないです」

「アリシアも無いだろ?」

「お母さんは・・・ふふ、雷神ですから」

ルージュはすぐ笑顔になってくれた。

よかった・・・。


 「夜にしっかり寝れば大丈夫だよ」

「じゃあ、今夜はわたしがぎゅっとしてあげます。弟子ですからね」

「ありがとう」

それなら、より元気になれそうだ。



 ルージュに剣を教えて五日が過ぎた。


 「はっ!」

踏み込みと共に、ルージュの剣が振り下ろされた。

まだまだ・・・かな。


 「形はできてるけど軽いな」

「なら、何度も当てればいいんです!」

「遅くても意味無いけどな」

オレも剣を抜いて相手をしている。

正直・・・仔猫がじゃれてきてるみたいで楽しい。


 「色々試してみていいよ」

「はい!」

突きや払いも問題無い。

 ・・・本当に吸収が早い。

あとは何度も繰り返し戦い、経験を積ませればもっと良くなるだろう。



 「本当に・・・もう大丈夫ですか?」

休憩で座っていると、ルージュがオレのわき腹を擦ってきた。

まだ気にしてたのか・・・。


 「心配無いって言っただろ」

魔法は今日までに何度か使ったけど異常は無かった。

だからもう安心だ。

 

 「それにこんなに動けるし」

「そうですよね。あ、そうだ、あの・・・ニルス様は風みたいだったってシロが言っていました。参考にしたいので、そういう動きを見せてほしいです」

ルージュがおやつを欲しがるような目でオレを見てきた。

 ・・・アリシアが女の子だけのアカデミーに入れた気持ちがわかる。

知らない男にこの顔を向けてほしくない。


 「そうだな・・・なら課題を出そう。できたら見せてやる」

「課題・・・やってみせますよ」

「じゃあ・・・」

オレは立ち上がって、ルージュの前で手のひらを広げた。

たぶんこれくらいなら・・・。

 「一度の手合わせで五回、オレに攻撃を当てること」

「えー・・・ニルス様に五回も?」

「泣き言か?」

「あ・・・違います!」

ルージュが顔を引き締めた。

ああ・・・かわいい・・・。



 お互いに剣を抜いて向き合った。

五回、どのくらいでできるかな。


 「あれ・・・でもこういうのって、普通は一回でも当てればじゃないんですか?」

口答えをされた。

・・・わかってないな。


 「どこの普通を言ってるんだ?ルージュの攻撃は一度じゃ通用しない。一撃当てて喜んでいる隙に反撃される」

事実はしっかり教えていく。

驕らないように。

 「・・・たしかにそう思います」

「戦場の雷神にも油断は無かったよ。必ず連撃だった」

「・・・」

ルージュが剣を構えた。

 「戦場の」を頭に付けたのは、今回のことがあったからだ。

この子も言葉の意味がわかったみたいだな。


 「・・・いきます!」

「それもいらない、いつでも来い」

「・・・」

ルージュが地面を蹴った。

すでに剣は振りかぶっている。

 「甘い、その間に次に繰り出す攻撃を用意しろ。流れるようにやるんだ」

次に繋がらない攻撃は弾く、そして反撃も入れていく。

 「きゃっ」

軽めに足を払うとルージュは尻もちをついた。

色んな動作が愛おしい・・・。


 「今、何をしたんですか?」

「剣を弾いたのと同時に足を払っただけだよ」

「気付きませんでした・・・こういうことですね?」

「そうだ、本当はこのあとに頭を突き刺す」

「・・・」

ルージュはすぐ立ち上がって距離を取った。

それでいい・・・。

 

 「あと・・・こういうのもありだ」

オレは足元の小石をルージュに蹴り飛ばした。

 「それくらいなら」

小石は胎動の剣に弾かれた。

目もいい・・・だからオレがすぐに踏み込んだのも気付いている。


 「わかりますよ、ニルス様!」

ルージュは間を置かず後ろに跳び、二撃目を余裕な顔で切り抜けてみせた。

でも、反撃まではできないか・・・。



 「なんでも使えってことですよね?」

また休憩を取った。

ルージュは、さっきのおさらいをしたいらしい。


 「そう・・・そしてどんな手も使っていい」

「どんな・・・たとえばだまし討ちとか、卑怯なことでもですか?」

「・・・敵はそれをしてきただろ?」

「・・・」

ルージュの目が鋭くなり、少し緩んでいた口元が引き締まった。

これは教えておいた方がいいな。

 「正々堂々戦いたいなら、闘技大会にでも出ればいい」

「・・・」

「相手にも事情があるかも・・・そういうのも要らない。向こうにそんな気持ちは無かったみたいだからな」

生き死にの戦いで卑怯なんて無い。そこに飛び込むと決めた妹に必要な心構えだ。

それに、緩い感じにし過ぎると、真面目にやれって思われるかもしれないからな。


 「鍛錬でも一緒だ。オレは本気でアリシアにぶつかっていったし、あの人もそうしてきた」

「はい、なにも遠慮はしません」

ルージュは拳を硬く握った。


 まあ、オレは本気じゃないけど・・・。

手もかなり抜いてるし、五回だったらすぐにできるだろう。


 戦いを教えはするけど、それは心の鍛錬の為だ。

敵を見つけても、妹に戦わせたりしない・・・。

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