第百六十話 成長【ニルス】
「さん・・・びゃく!・・・やったー」
ルージュが最後のひと振りを終えた。
体力も、腕力が付くのも早いな・・・。
鍛え始めてからまだひと月だぞ・・・.
「やりましたよニルス様!見てください、右でも左でも片手で持てます」
「そうだな・・・腕を見せてくれ」
「え・・・」
ルージュが一歩下がった。
恐怖が蘇ったか・・・。
「また・・・折らないですか?」
「もうしない。鍛えてやってるだろ」
「・・・すみません」
「触るね・・・」
ルージュの腕は以前よりも少しだけ太くなっていた。
でも、そこまでの力が付いているようには見えない。
まあ、ゴツゴツになられても困るしな・・・。
それよりも・・・もう剣を教えないといけないのか。
オレはどうだったっけ?
『まずは体力作りだ、母さんに付いてこれるようになったら剣を教えよう』
わりと早く持たせてもらった気がする。
ひと月・・・かかったかな?
「ニルス様!」
オレの腕が引っ張られた。
「約束です。剣を教えてください」
「ああ・・・」
まだ空は青い、どう教えるか・・・。
『ニルス、もっと速く打ち込め。踏み込んだあとを考えていないからもたつくんだ』『まだダメだ。それでは戦場で通用しない』
・・・雷神は厳しかったな。
教えるとしてもあそこまではしない。
とりあえず、目標は自分の身を守れるくらいか・・・。
◆
風呂焚き場から少し離れた。
周りに邪魔な物は無い方がいい。
「まずは基本からだ。・・・剣を抜け」
「はい!」
ルージュは目を輝かせて胎動の剣に手をかけた。
我慢していたのは知ってる。
でも言いつけをちゃんと守って、一度も鞘から抜くことは無かった。
「ルージュには少し大きい、両手で持つんだ」
「はい」
「まっすぐに・・・」
オレはルージュの背中に回った。
構え方も教えないといけないな・・・。
「・・・もう少し力を抜け」
「は・・・はい、そんなに密着しなくても・・・」
「アリシアもこうやって教えてくれた。言う通りにしろ」
「・・・はい」
真っ直ぐだ、軸もいい。
最初からわかってるような感じだ。
「お母さんは背が高いですよね」
「気になるの?」
「同じ頃と比べると、わたしは頭一つ分小さいってルルさんから聞きました」
訓練場に出入りする前から鍛えてたらしいからな。
だから戦うための体になるのが早かっただけなんだろう。
「気にしなくていい。女の子で言えば普通だ」
「ニルス様も高いです。わたしだって女神様と繋がりがあるのに・・・」
「ステラはアリシアより小さいだろ?」
「あ・・・そうですね」
この子はこのままでいいんだけどな・・・。
「剣を抜いたらその構えが基本だ」
ルージュから離れた。
まずは剣の振り方と踏み込みだ。
「まず見せる。構えは崩さないように」
「はい、ご指導お願いします」
「持ち上げて・・・振り下ろすと同時に・・・踏み込む」
オレが初めて剣を持った日、雷神から最初に教わったことだ。
まずはここから・・・。
「わあすごい、靴跡がくっきりできてます」
「体重を剣に乗せるためだ。踏み込みが無ければ威力が落ちる」
「あ・・・だから森の中を走り回らせたってことですね?」
ルージュが嬉しそうに微笑んだ。
・・・かわいいな。
「同じようにやってみろ」
「はい。持ち上げて・・・」
「そう、振り下ろすと同時に踏み込む」
「はっ!」
ルージュの動きは、初めてなのに綺麗だった。
見様見真似なのに、しっかり踏み込みもできている。
・・・母さん、少しだけ気持ちがわかったよ。
そりゃ教えてて楽しい。
「今日はそれだけだ。オレがいいって言うまで続けること」
「はい」
まあ課題はまだある。
できるからいいっていうわけじゃない。
順序をしっかり考えてやらなければ・・・。
◆
「ニルスさーん」
ルージュの動きを見ていると、馬車の音と声が聞こえた。
カゲウソさんか・・・。
「あ・・・」
ルージュの手も止まった。
「行商さんだ。君は続けてていいよ」
「いえ、あの・・・頼んでいたものが・・・」
「・・・わかった、一緒に行こう」
「ありがとうございます」
お菓子でも頼んでたのかな?
◆
「これはルージュさんのです。ちゃんと今のと同じ大きさで仕入れましたよ」
「あ・・・ありがとうございます。何組くらいでしょうか・・・」
「七・・・だったかな」
「助かります・・・」
ルージュは黒い布で包まれたものを受け取った。
お菓子・・・じゃないな。
「何を頼んでたの?」
「・・・下着です。よく動くので・・・あの・・・擦れて薄くなってしまって・・・」
「・・・ニルスさん、今のはよくないですよ。ルージュさんも答えることなかったのに」
「・・・悪かったよ」
これじゃただの変態じゃないか・・・。
「それと、新しい靴もあります。戦士用のを作ってもらいました」
「ありがとうございます」
「ふふ、こうやって普通に話せるようになってくれて嬉しいよ」
「すみません・・・男の人とは慣れるまで恥ずかしくて・・・」
「気にしないで。靴を履き替えて具合を見るといいよ。寸法通りだけど、最初は硬いと思う」
ルージュの靴は、そろそろ穴が空きそうだったから頼んでおいた。
旅人になるために用意していたのを履いていたけど、そんなにいい物ではなかったみたいだ。
「あと・・・ニルスさん、頼まれてた宝石だったんですが、ちょっと面倒なことになりまして・・・中でいいですか?」
カゲウソさんは一瞬だけルージュを見た。
なにか情報があるらしい。
「わかりました。ルージュ、その靴でまた剣を振っていてくれ。早く足に馴染ませないとな」
「はい」
ツキヨのことはこの子に話せない。
それにハリスが報告に来るまでは、そっちを考えないようにもさせなければ。
◆
「カケラワシとハルフクロウから報告です。どちらから聞きますか?」
カゲウソさんと向かい合って座った。
色々気になっていることは多いけど、まずは・・・。
「カケラワシ」
テーゼはどうなっているかだ。
「常にでは無いが、雷神の土地に一人忍ばせている。動きは無し。知人、友人への襲撃や怪しい者の接近も無し」
・・・動きが無い?
「妙ですね」
「その通りです。娘がどこにもいない・・・なのに調べないのは変です」
ルージュはどっちでもよかったってことか?
それとも、まだ子どもだったからそこまで気にしていない?
「教団内部で分裂が大きくなり、それどころではない状況なのかもしれません」
「分裂・・・」
「ハリスさんがそう言っていたとハルフクロウが・・・」
なるほど・・・そっちの報告も聞いてみよう。
「教団の目的は以前報告した通りですが、内部では派閥があるようです。受け入れてもらっての独立を希望する和睦派、革命を起こして力ずくでと考えている強硬派・・・大きく分けてこの二つだと」
「アリシアを襲ったのはどっちですか?」
「・・・まだわかりません。ハリスさんはかなり頑張っていますけど、雷神についての話すら出ないらしいです」
「出ない・・・」
違和感が生まれた。
ハリスが追っていてなにも手がかりが無い・・・そんなことあるか?
「ハルフクロウに伝えてほしいことがあります」
「なんでしょうか」
踊らされている・・・気がする。
「教団は・・・今回関与していないかもしれません」
「まさか・・・」
「祈りの言葉は目くらましの可能性があります」
「まんまと嵌められたと?」
まだ憶測・・・繋がりが見えないし、進展も無いなら別な視点が必要だ。
「いや、関与していないは言い過ぎたかもしれません。祈りの言葉を知っているからです。あくまで可能性の話、精霊と対峙してそこまで考える余裕があったのかも謎ですし」
「・・・わかりました、それを伝えてみます。私もタビガラスの意見は真実に近い・・・そう思いました」
カゲウソさんが頷いた。
これで少しは動きが少し変わるかもしれない。
早くアリシアの前に引きずり出さないとな。
◆
話も終わり、外に出てきた。
「ニルス様、とってもいい靴だと思います。・・・ちょっと重いですけどね」
ルージュは素振りを止めて、ニコニコしながら足踏みしてくれた。
・・・なんでこんなにかわいいんだ。
「重いのは履いてる内に慣れるよ。毎日走ってるからすぐだと思う」
「え・・・じゃあ今も走ってきます・・・」
「あ、待て・・・」
ルージュは行ってしまった。
食材も一緒に見ようと思ったのに・・・。
「手袋はあとひと月もかからないと思います。ニルスさんとルージュさんの名前を出したら、すぐ作ると言ってくれたそうです」
カゲウソさんが馬車の脇を開けた。
「ありがとうございます」
フラニーさんに雲鹿革の手袋を頼んでいた。
今は作業用のもので鍛錬をさせているけどいずれ必要だろう。
◆
「はあ・・・はあ・・・いい感じです」
ルージュが戻ってきた。
今日は・・・ここまでにするか。
「まだ明るいけど、今日は終わりにしよう」
「え・・・」
たまにはゆっくり話す午後があってもいい。
「休息も必要だ。明日から今まで以上に疲れるからこれでいいんだよ」
「・・・わかりました」
ルージュはちょっとだけ「気に入らない」って顔をした。
機嫌を直してもらうには・・・。
「それと・・・夜は卵のスープを作ろうか。三百回振れたご褒美だ」
「え・・・やったー、パンに燻製お肉もですよね?」
「そうだよ。野菜を切って水に付けておこう」
「楽しみですねー」
ルージュは体全部で喜んでくれた。
好きな献立はオレと一緒らしい。
まだまだ子ども・・・でもその方がいい。
ちゃんとこれからの成長を見ていこう。
◆
「お裁縫をしていてもいいですか?」
野菜の準備が終わると、ルージュが裁縫箱を持ってきた。
ダメって言うわけないだろ・・・。
「いちいち聞かなくていいよ。それに・・・見てみたいな」
「えへへ・・・じゃあ見せてあげます」
ルージュは箱の蓋を開けた。
ミランダとシロとオレで用意してあげた裁縫箱は、ずっと使ってくれてるらしい。
「こういうのを作ってます」
「・・・随分と小さい服だ。妖精なら着れるかな」
箱には今まで作ったものと、それを着せる人形も入っていた。
「お人形で遊ぶのが好きだったので」
「これは・・・女の子の服だな」
「そうです。こっちはミランダさんが着てたのを作ってみました」
見せられた服は、胸元が大胆に空いていた。
・・・ルージュが真似しなくてよかった。
「・・・で、こっちがルルさんのお店の給仕さんです。これはお城のメイドさんですね。あ、お祭りで見た道化師の服もあります。これ難しかったんですよ」
全部女物・・・道化師も見た感じそうだ。
まあ、人形って大体は女の子が遊ぶものだからな。
「よくできてる。上手だね」
「えへへー、お母さんも言ってくれました。じゃあ・・・ニルス様が今着てる服も作ってみますね」
「ありがとう、楽しみにしてるよ」
「はい、任せてください」
ルージュはオレの服と近い色の生地を取り出して作業を始めた。
オレや父さんと同じ、何かを作るのが好きなんだろう。
あ・・・ならルージュにも・・・。
「ルージュ、君に特別な魔法を教えてあげる」
「え・・・」
ルージュが手を止めて、こっちを見てくれた。
「特別・・・どんな魔法ですか?」
「魂の魔法、前にちょっと教えたよね」
「あ・・・お父さんの・・・ニルス様も使えるんですね」
「そう、師匠から教えてもらったんだ。胎動の剣にも使ったから、触れた時になにか感じたと思うんだけど・・・」
「あ・・・」
ルージュは胸を押さえた。
感じないはずないからな。
「使える人間は少なくてさ、今の所四人だけなんだ」
オレとステラ、それとフラニーさんにバニラだけだ。
「お父さんのブローチにも思いが込められていると言っていましたね・・・」
「そうだよ。それと、八年前に手袋と襟巻きをアリシアから貰ったと思うんだけど、あれにはオレの思いが込もっている」
「あれも・・・」
ルージュは幸せそうに笑ってくれた。
本当は、自分で渡してこの顔を見たかったな。
「もう小さくなりましたが大切にしています。あんな気持ちになれる魔法なら・・・教えてほしいです」
「いいよ・・・」
ルージュの手を握った。
これでいい・・・。
「恨みとか憎しみ・・・そういう後ろ向きな思いは絶対に込めてはいけないよ。オレも師匠と約束したから、ルージュもそうしてほしい」
「はい」
「使うのは愛を込めたい時だけだ。約束できるね?」
「愛・・・はい、約束します」
この子も悪い使い方はしないだろう。
それに芸術もわかっているから、きっといいものを作れる。
「じゃあ、続けていいよ。さっき焼き菓子を買ったんだ。紅茶も淹れてあげる」
「え・・・そんな・・・」
「今は修行中じゃない。それに、君がそうしているのを見ていたいんだ」
「え・・・はい」
できれば敬語もやめてほしいけど、今は仕方ないか。
「ニルス様」も気にならなくなったけど、早く「お兄ちゃん」って呼んでもらえる日が来てほしい。
◆
妹は歌を口ずさみながら、生地を繋ぎ合わせている。
安らぐ・・・。
「綺麗な声だね。何の歌?」
邪魔はしたくなかったけど、どうしても聞きたくなった。
お喋りもしたい・・・。
「これは女神様を讃える讃美歌です。わたしの通っていたアカデミーには礼拝堂があって、毎朝歌っていたんですよ」
「讃美歌・・・触れたことなかったな」
「結婚式なんかでも歌われますよ。お友達のに出席とかありませんでしたか?」
「いや・・・無いな・・・」
何気ない会話だったのにえぐられるとは思わなかった。
友達・・・そんなにいないよ・・・。
「・・・お菓子はまだある。もう少し食べようか」
「わあ、嬉しいです」
話題を変えよう。
オレの心が耐えられなくなる前に・・・。
「ニルス様は甘いものが好きなんですね」
「昔からだよ。・・・変?」
「いえ、わたしも好きです・・・いたっ」
ルージュが縫い針で自分の指を刺してしまった。
話に気を取られ過ぎたせいか。
「悪かった。すぐに治してあげよう」
「いえ・・・わたしもよそ見してたので・・・」
いいんだ、今は君のために使いたい・・・。
「・・・ぐ!」
「ニルス様?」
「うう・・・」
ルージュの針傷を治した瞬間、わき腹が締め付けられたように痛みだした。
なんだ・・・。
場所は憶えてる・・・ジナスにやられたところだ・・・。
「す、すぐに横になった方が・・・」
「・・・平気だ・・・引いてきた」
じっとしていると、すぐに締め付けは薄れて楽になってきた。
「なにか・・・病気とかですか?」
顔を上げると、ルージュが不安そうにオレを見つめていた。
「いや・・・大丈夫だ。古傷ってやつだよ」
「無理はしないでください・・・」
「ありがとう。心配無いよ」
「明日は・・・わたし一人で鍛錬します」
優しい子だな。
でも本当に大丈夫だ。おかしな不安は吹き飛ばしてやらないと。
「ルージュ、オレは君やアリシアと同じで女神と繋がる者だ。そうそう病気にはかからない」
「あ、そうでしたね。そういえばわたしも病気になったことないです」
「アリシアも無いだろ?」
「お母さんは・・・ふふ、雷神ですから」
ルージュはすぐ笑顔になってくれた。
よかった・・・。
「夜にしっかり寝れば大丈夫だよ」
「じゃあ、今夜はわたしがぎゅっとしてあげます。弟子ですからね」
「ありがとう」
それなら、より元気になれそうだ。
◆
ルージュに剣を教えて五日が過ぎた。
「はっ!」
踏み込みと共に、ルージュの剣が振り下ろされた。
まだまだ・・・かな。
「形はできてるけど軽いな」
「なら、何度も当てればいいんです!」
「遅くても意味無いけどな」
オレも剣を抜いて相手をしている。
正直・・・仔猫がじゃれてきてるみたいで楽しい。
「色々試してみていいよ」
「はい!」
突きや払いも問題無い。
・・・本当に吸収が早い。
あとは何度も繰り返し戦い、経験を積ませればもっと良くなるだろう。
◆
「本当に・・・もう大丈夫ですか?」
休憩で座っていると、ルージュがオレのわき腹を擦ってきた。
まだ気にしてたのか・・・。
「心配無いって言っただろ」
魔法は今日までに何度か使ったけど異常は無かった。
だからもう安心だ。
「それにこんなに動けるし」
「そうですよね。あ、そうだ、あの・・・ニルス様は風みたいだったってシロが言っていました。参考にしたいので、そういう動きを見せてほしいです」
ルージュがおやつを欲しがるような目でオレを見てきた。
・・・アリシアが女の子だけのアカデミーに入れた気持ちがわかる。
知らない男にこの顔を向けてほしくない。
「そうだな・・・なら課題を出そう。できたら見せてやる」
「課題・・・やってみせますよ」
「じゃあ・・・」
オレは立ち上がって、ルージュの前で手のひらを広げた。
たぶんこれくらいなら・・・。
「一度の手合わせで五回、オレに攻撃を当てること」
「えー・・・ニルス様に五回も?」
「泣き言か?」
「あ・・・違います!」
ルージュが顔を引き締めた。
ああ・・・かわいい・・・。
◆
お互いに剣を抜いて向き合った。
五回、どのくらいでできるかな。
「あれ・・・でもこういうのって、普通は一回でも当てればじゃないんですか?」
口答えをされた。
・・・わかってないな。
「どこの普通を言ってるんだ?ルージュの攻撃は一度じゃ通用しない。一撃当てて喜んでいる隙に反撃される」
事実はしっかり教えていく。
驕らないように。
「・・・たしかにそう思います」
「戦場の雷神にも油断は無かったよ。必ず連撃だった」
「・・・」
ルージュが剣を構えた。
「戦場の」を頭に付けたのは、今回のことがあったからだ。
この子も言葉の意味がわかったみたいだな。
「・・・いきます!」
「それもいらない、いつでも来い」
「・・・」
ルージュが地面を蹴った。
すでに剣は振りかぶっている。
「甘い、その間に次に繰り出す攻撃を用意しろ。流れるようにやるんだ」
次に繋がらない攻撃は弾く、そして反撃も入れていく。
「きゃっ」
軽めに足を払うとルージュは尻もちをついた。
色んな動作が愛おしい・・・。
「今、何をしたんですか?」
「剣を弾いたのと同時に足を払っただけだよ」
「気付きませんでした・・・こういうことですね?」
「そうだ、本当はこのあとに頭を突き刺す」
「・・・」
ルージュはすぐ立ち上がって距離を取った。
それでいい・・・。
「あと・・・こういうのもありだ」
オレは足元の小石をルージュに蹴り飛ばした。
「それくらいなら」
小石は胎動の剣に弾かれた。
目もいい・・・だからオレがすぐに踏み込んだのも気付いている。
「わかりますよ、ニルス様!」
ルージュは間を置かず後ろに跳び、二撃目を余裕な顔で切り抜けてみせた。
でも、反撃まではできないか・・・。
◆
「なんでも使えってことですよね?」
また休憩を取った。
ルージュは、さっきのおさらいをしたいらしい。
「そう・・・そしてどんな手も使っていい」
「どんな・・・たとえばだまし討ちとか、卑怯なことでもですか?」
「・・・敵はそれをしてきただろ?」
「・・・」
ルージュの目が鋭くなり、少し緩んでいた口元が引き締まった。
これは教えておいた方がいいな。
「正々堂々戦いたいなら、闘技大会にでも出ればいい」
「・・・」
「相手にも事情があるかも・・・そういうのも要らない。向こうにそんな気持ちは無かったみたいだからな」
生き死にの戦いで卑怯なんて無い。そこに飛び込むと決めた妹に必要な心構えだ。
それに、緩い感じにし過ぎると、真面目にやれって思われるかもしれないからな。
「鍛錬でも一緒だ。オレは本気でアリシアにぶつかっていったし、あの人もそうしてきた」
「はい、なにも遠慮はしません」
ルージュは拳を硬く握った。
まあ、オレは本気じゃないけど・・・。
手もかなり抜いてるし、五回だったらすぐにできるだろう。
戦いを教えはするけど、それは心の鍛錬の為だ。
敵を見つけても、妹に戦わせたりしない・・・。




