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Our Story  作者: NeRix
風の章 第二部
167/481

第百五十九話 潜入【ハリス】

 雷神を殺せることで気分が浮ついたのだろうか?


 『世界に導きの灯を・・・』

大きな手掛かり・・・これを元に探す。


 神の言霊・・・でしたね。

戦場の終結直後から急に姿を現した教団・・・。


 ニルス様の旅立ちの邪魔をするということは、私に対して剣を向けたのと同じだ。

なら、潰しても問題無い・・・。



 「明日からしばらくは、帰る時間が変わったり、夜に出ることが増えるかもしれません。寂しい思いをさせてしまいますが・・・お許しください」

私は、暖かい夕食が並べられたテーブルに着いた。

あなたは悲しい顔のままだ・・・。

 

 「友人の子どもたちが困っているのです。知ってしまった以上は協力しようと思います」

「・・・」

あなたは何も答えない。

答えることができない・・・。


 「リラさんに必要な精霊銀、彼らなら見つけられると思うのです。イナズマ様もシロ様も仰っていましたが、精霊銀は愛のある場所を好むらしいですよ。今は・・・どこにあるのでしょうね」

「・・・」

ほんの少しでも口元を持ち上げてくれないだろうか・・・。


 『これはあなたたちが招いたことです。越えてはならない境界・・・』

記憶の欠片・・・また出てきてしまった。


 『あなたたちを許すことはありませんが・・・救いは与えましょう・・・。精霊銀を探しなさい、リラを解き放つことができるものです』

消せばよかったものを・・・恩着せがましいことを・・・。


 『不死の身体と影を渡る力を授けます。・・・苦しみながら探しなさい。あなたたちへの罰です』

五百年以上の苦しみでは足りないということなのか?

自分は同じことをしたのに罰は無いのか?


 『心臓が止まると、わたしはどうなるんだろうね・・・』

感謝は・・・している。

 ただ・・・当たり前な幸福を渡したかっただけ・・・。

そうなることで誰に迷惑をかけた?


 「・・・すみませんリラさん、少しだけ昔を振り返ってしまいました。そうだ、今の問題が解決したらニルス様たちを紹介しますよ。騒がしいですが、愉快な方たちなんです」

「・・・」

微笑んだ・・・ように見えただけ・・・。



 夜が明けた。

さて、まずはどこから当たるか・・・。


 「ふ・・・早いですね」

ベルの音が聞こえた。

魔女はしっかり動いてくれているようだ。



 「潜入してほしい場所がある」

メルダ様は鋭い目をしていた。

しばらく見なかった顔だ。


 「教団関係で間違いないですね?」

「もちろんだ」

きのう、ミランダ様と別れたあとに、もう一度ここを訪れ手がかりを伝えた。

短い時間でどこまで調べていただけたのか。


 「確認ですが、その潜入は依頼ですか?それとも私が欲しい情報に繋がるものですか?」

「両方だ。つまり対価は払わない」

なるほど・・・さすがだ。


 「世界に導きの灯を・・・奴らが集会でのみ使い、外では絶対口にしない祈りの言葉だ。あんた、当たりついてただろ?あたしに頼らなくても問題なかったんじゃないか?」

「どうでもいい方たちだったので、そこまで踏み込んではいません。あなたたちは、王と幸福な世界とやらのために彼らのことを調べていたのでしょう?」

「どうでもいいか・・・今は違うんだろ?」

「そうです。邪魔ですね」

勝手に祈っているだけなら何もする気はなかった。

・・・自分に関わるとなると目障りで仕方がない。


 「あたしらにとってもそうだ。あんたの言った通り、王も気を揉んでる。雷神を襲ったのが奴らだとしたら・・・本格的に動くことになるな」

「それは知ったことではありません。あなた方で勝手にやればいい。ただ一つ、アリシア様に呪いをかけた者だけは我々に譲っていただく・・・それだけは忘れないでください」

他のことは構っていられない。

ツキヨでなんとかすればいい。


 「忘れてない。娘のことで感謝もあるしな」

「・・・あなたといる時よりも楽しいですよ」

「だろ?明るくて前向きだからね」

メルダ様の顔が緩んだ。

魔女に娘関連の嫌味は通用しないのか。


 「それと・・・あなたに了解を取らずに決めましたが、彼女には余計な動きをしないように指示しました」

「あんたはそうしてくれるって思ってたから言わなかったが・・・それでいい。ニルスもシロもそばにいれない。・・・あたしが言っても聞かないだろうからね」

育て方・・・奔放にし過ぎたせいです。

 「私の指示には、素直に従ってくれますよ。あなたの何倍も扱いやすい」

「あ?・・・抱いたのか?」

「私の好みではありません」

「あたしもあんたにはやりたくないよ。今の所・・・ニルスか、ヴェルミュレオ王子くらいか」

そして子煩悩、アリシア様と変わりませんね。


 「それと・・・カケラワシにも伝えました。昨夜のうちに王と南南西には周知が完了しているはずです」

「・・・助かるよ。なら娘たちの周りは大丈夫だな」

「魔女の娘までは面倒だと仰っていましたよ」

「口だけさ、テーゼの春風で情報仕入れさせてやってんだからな」

魔女の娼館「春風」は各地にある。

ツキヨの欲しい情報が一番集まる場所だ。 


 「ある程度頭のいい人間・・・まだ筆記試験をしているのですか?」

「姉妹店の秋風は別だよ。バカを雇わないのは情報仕入れる春風だけ、共通してるのは楽しめる女だけってとこだな」

春風は才女しか雇わない。

おそらく、ミランダ様は無理だろう・・・。


 「エスト様は、楽しんでは無理だと仰っていましたよ」

「・・・あいつは、頭は良かったが踏み込む度胸が無かった。けど、そっちでは役に立ってんだろ?」

「もう返しませんよ。商会に必要ですから」

「それでいいよ」

メルダ様は爪を削り出した。

娘のためか・・・。



 「ゴーシュの西・・・小さな宿場がある。二日後、集会に幹部が来るって話だ。なにかわかるかもね」

雑談も終わり、メルダ様の顔が仕事向きに戻った。

私からずらしたが、こういった話を聞きに来たのだ。


 「感謝します」

「報告は半日以内に・・・忘れないようにしな」

「もちろんですよ」

これからもお世話になりますからね。


 「それと・・・しばらく聞いていませんでしたが、精霊銀はどうですか?」

「無いね・・・誰かの家の奥にしまい込んであるか、もしくは人間で持っている者がもういないのか」

「・・・期待はしていませんでしたよ」

「悪いね・・・」

メルダ様は本当に申し訳なさそうな顔をした。

 「・・・ちゃんとやってはいるからな?」

そして、優しい声・・・。


 「忘れていなければ構いません」

「忘れない・・・手帳は毎日眺めてる」

メルダ様はいつも持ち歩く手帳に約束事を残している。

今まで何冊使ったのかはわからないが、私との約束が書かれたものは随分古い。


 「精霊銀が見つかれば、その色褪せたものは持ち歩かなくて済みますね」

「・・・古いのはもう一つある。果たせるかは、あたしの気持ちとは関係ない要因がいるものだ」

「そうでしたか・・・」

「暗い顔しないでくれ・・・見つけられずにすまない。・・・これは本心だ」

メルダ様は不安そうに微笑んだ。

 今の地位になれたことへの感謝があるのだろう。

協力はしたが、対価はきっちりもらっているので気にすることはない・・・。


 「魔女なのに義理堅いですね・・・」

「あんたがいなきゃヤバかったことが何度もあったからな」

「ああ・・・まだ今よりもお若い時ですね。ベルが鳴って駆け付けたら、ベッドに縛り付けられたあなたを裸の男たちが囲んでいた・・・そんなこともありました。二本目はやめておけと忠告したにも関わらず・・・」

たしか、どこかの領主が地下で女を飼っているという話の真偽を確かめるためだ。

使用人として潜入したが・・・薬を盛られた。


 「そう・・・若さと慢心が招いたことだ。護身用にベルを持って行っててよかったよ」

「助け出したあとは全裸のまま泣き喚いていましたね」

服を汚された記憶がある。

 「突っ込まれる寸前だったんだぞ・・・恐かったのさ」

「その割には、ずっと男たちを罵倒していましたね。どこまで気丈でいられるか興味が湧きまして・・・」

「・・・変態野郎」

愉快な思い出だ。


 「あの時、ミランダ様はまだ一歳・・・帰れなくなるとは思わなかったのですか?」

「だから急いだんだろうが。それで勘付かれた・・・」

「私が提示した対価を払えば早かったものを」

「若さと慢心・・・言っただろ?あれくらいできると思ったのさ。・・・もういいだろ、頑張ってくれよハリス君」

メルダ様は酒瓶を持たせてくれた。

「対価は無い」といったくせに・・・。



 深夜の鐘がなった。


 「では報告を・・・」

「ネモの町の入信者八名。合わせて五十二名」

「レードの街の入信者十一名。合わせて百四十名」

集会は宿場の外れにある空き家で行われていた。

私は隣の部屋で聞かせてもらっている。


 ハズレ・・・重要な話なら探知、防音、封印の結界は必須。

これはただの報告会だ。


 「人数が集まれば王も独立を拒めないでしょう。これからも励みなさい」

独立か・・・王が許すとは思えない。

 「土地はもう決まったのですか?」

「いくつか目星は付けてあります。開拓の進んでいない場所は多いですからね」

「早く実現したいです。周りを気にせずに祈れますし、神であるジナス様の寵愛も・・・」

一人が昂った声を出した。

 ・・・ジナスを知っている?

欲しい情報では無いが興味深い。


 「戦場はどうやって復活させるのでしょうか?魔族側も望んでいるのならば、そちらも進めたいです」

「我々にはまだ下りてこない話です。今は与えられた役目を全うしなさい」

・・・雷神の話がまったく出てこない。

この方たちも知らないのだろうか?


 ・・・なにが幹部か、末端もいい所だ。

この方たちはジナスの名を知ってはいるが、世界のすべてを知っているわけではない。


 目的ははっきりしたが、なぜその考えに至ったのかは謎のままだ。

最後まで聞く価値があるのか・・・。



 「では・・・またふた月後に・・・世界に導きの灯を」

終わりまでいたが、つまらない報告だけだった。

今日はもう遅い、メルダ様への報告は明日にしよう。



 「あ、いたいた。見っけ―」

潜入を終えた所に騒がしい子どもが現れた。

 「チル様・・・」

疲れているというのに・・・。


 「アリシアのこと聞いたよ」

「そうですか。人間同士のことなので、なんの心配もいりませんよ」

「ふーん、なら口出ししないけど。あんた精霊銀探さなくていいの?」

「そのための準備ですから」

アリシア様と私を心配して来てくれたのだろうか?


 「・・・なにかご用ですか?」

「チルの力が必要だったら貸してあげるって言いに来たの」

なるほど・・・。

 「大丈夫ですよ。ですが、そのお気持ちをいただいたので対価をお渡しします」

「わあ、お小遣い?」

「はい、なにかおいしいお菓子でも買ってください」

「しょうがないなあ・・・ふふ」

チル様は、お金をかわいらしい財布にしまい微笑んだ。

そうだ、一応・・・。


 「チル様、しばらくテーゼには近寄らないでください」

念のためだ。

未知の敵、精霊でも手に負えない可能性がある。


 「あー・・・イナズマにも言われた。黒煙とアリシアの呪いは危ないかもって」

「そうです。解決するまで商会のお手伝いはお休みですね」

「わかった。じゃあまたねー」

「はい、気を付けてください」

子どもか・・・少しだけ疲れが癒えた。


 協力は必要無い。

チル様の手を借りずとも一人でどうにかなる。



 「探知や防音も無いただの集まりでした。あの程度、ツキヨで事足りませんか?」

気分は乗らないが報告に来た。

私にとっては無駄足、嫌味の一つでも言いたくなる。


 「・・・あたしらも慎重に動いていたんだ。二本目ができるのは数が少ない、洗脳でもされて寝返られたら終わりだからな」

「私であっても捕らえられればその可能性はありますよ」

「あんたが捕まるわけないだろ。これからも期待してるよハリス君」

まあ・・・その通りではある。

輝石と影を渡る力、捕らえられるとしたら精霊たちと女神・・・それと単純に速いニルス様くらいか。


 『お前、使えそうだな。あたしに協力しろ』

この魔女に捕まった時は油断していただけだ・・・。

それにしても・・・昔と比べて随分と臆病になったらしい。

 「洗脳がそこまで恐いですか?」

「当然だろ。夫、妻、子ども・・・それで奪われた奴らもいる。数は多くないがたしかにいるんだ。ツキヨにだって家族があるんだぞ・・・」

長年追ってきた割に、大した情報が無いのはそういうことか。


 「彼らは土地を欲しがっています。渡して一か所に集めてはどうです?」

いずれにしろ収穫が無かったのも事実、だからからかいたくもなる。

 「そりゃ無理だ、独立を許すってことになる。もっと土地が欲しくなって、近くの村や町を襲ったらどうするよ?それを渡すとわけのわからない全能感が生まれる。あんたにはわからないかもしれないが、アカデミー入りたての子どもに自分の部屋を用意するのと一緒・・・つまり、調子に乗り出すのさ」

煽ったつもりだったが、真面目に答えられてしまった。


 全能感か。

魔女にわかる例えで言えば・・・。


 「そうですね・・・。クローチェのようになってしまう可能性はあります」

「クローチェ・・・そうだな。胸くそ悪い話はたくさんあったけど、あれ以上は無い・・・」

「まだあなたがツキヨに入る以前の話です。気にすることはないでしょう」

「あたしらは気にしないといけないのさ。あんなことが二度とあっちゃいけない」

メルダ様は拳を硬く握った。

 ツキヨに入った者は、その話を必ず聞かされる。

だが、ニルス様とシロ様にはそういう情報は教えていないらしい。


 『・・・なんていうか、残酷な世界って自分の子どもには見せたくないんだ』

テッド様とセイラ様も、ケルト様と同じような気持ちだったのかもしれない。旅に出るまでという話でもあったので、伝えなくてもいいと判断したのだろう。


 「まあ、忙しかったのはわかるよ・・・。戦場の勝敗で一喜一憂してた時代だ。今でこそ落ち着いてるけど、バカが多くて三本目の仕事がかなり多かったらしい。必然的に一本目と二本目もな・・・」

「本来であれば、通常の視察とは別にツキヨの抜き打ちがあるようですからね」

「ああ、手いっぱいで遅れたらしい。まあ・・・あたしだったらそれでもやらせるがな」

メルダ様はベルを手に取った。

そういう時の私か・・・。


 「三十年以上も前か・・・。ツキヨでもないあんたからクローチェの名前が出た時は、冷や汗で胸の下がかぶれたよ・・・責任取れ」

「ふ・・・おかしなことではありません。私はどこにでも行けますから」

「あたしはあんたを信頼しているけど・・・誰にも話してないだろうな?」

「はい、すべて闇に葬れてよかったですね」

メルダ様との約束があるから黙っているわけではない。


 『へー・・・地図から消えてるんだ・・・』

『隠したいのでしょう。それとも告発しますか?』

『いらないよ。ハリス・・・誰にも言わないでね?』

私はケルト様との約束を守っているのだ。


 「闇に葬ったわけじゃない、深く埋めてるだけさ。ああ・・・思い出すとダメだ・・・たしかにあたしが入る前の話だったけど、クローチェは救えたんだよ・・・」

メルダ様が爪を噛んだ。

火をつけてしまったか、面倒ですね・・・。


 「なんで関わってないあたしに罪悪感があるか教えてやろうか・・・。生き残りがいない、誰にも知られない話になってよかったって思う自分がいるからだ。本当に腹が立つ・・・」

生き残り・・・ケルト様が最後の一人だった。

もし、今もあなたがいたら王やツキヨはどう思うだろう?


 「あの村出身の奴には、不幸な山火事で全焼・・・そう伝えるしかなかったってさ・・・」

「落ち着いてください」

「あたしは・・・尊厳を踏みにじるような奴が大嫌いだ。まだそういう奴が多すぎる・・・」

冷静になるまであとどのくらいかかるか。

いや、待つよりも聞いて吐き出させてやればいい・・・。


 「そういう奴ですか・・・近頃だとどなたが気に障りましたか?」

「・・・ミランダがかわいがってるティムってのがいるだろ?」

メルダ様は、爪を噛むのをやめた。

しかし、目付きは鋭いままだ。


 「彼は素晴らしい青年ですよ。だからかわいがられているのです」

「スウェード家・・・お前知ってただろ?」

「名前を聞いてすぐにわかりました。そして、私も嫌いですね」

「あのメス共・・・なにかあれば全員潰してやろうと思ってる。闘技大会も偽名で出てるとか・・・かわいそうに・・・。あたしがもっと早く見つけてたら、引き取ってミランダの弟にしてやってた」

どうやら、色々調べたようですね。

娘の近くにいる人間・・・たしかに気になるでしょう。


 しかし、ツキヨの力でもケルト様の正体はわからなかったようだ。

まあ・・・メルダ様が調べ始めた時には、もうケルト様は流れていた。

あんな場所でひっそりと暮らしていた鍛冶屋が何者かなど、調べようがなかったのだろう。

 ただ、膨大な量ではあるが、死亡届に手を付けていれば行き当たった可能性はある。クローチェのものまで確認するかは別だが・・・。

全員山火事で死んだことになっているが、同じ名前を見ればこの魔女も勘付いたかもしれない。



 「私は集会で進行をしていた男を追います」

「ああ・・・頼むよ」

メルダ様は色々と吐き出して落ち着いた。

そろそろ帰ろう・・・。


 「一人で平気か?誰か付けてもいいぞ」

「必要ありません。余っているならミランダ様に付ければいいと思いますよ」

足手纏いはいらない、一人で充分だ。

 「聞いてみただけさ。なんにも心配しちゃいないよ」

メルダ様は余裕の笑みを浮かべた。

それでいい、長い付き合いなのでわかっている。


 「それと・・・これをシロに頼む」

「おや、もうお返事を書かれたのですね」

渡されたのは、封筒とネルズで売っている砂糖菓子の袋だった。

 「・・・珍しいことをなさりますね」

「そんなことは無い。ミランダがアカデミーの友達を連れてきた時は、おやつを作ってやったりもしてた」

「シロ様を見ていると思い出しますか?」

「それだけじゃない、美容水をあの子が塗ると張りが違うんだ。だからうちの女どもにも人気がある。また配達に戻ってほしいのさ」

あの見た目だ、かわいがられているのでしょう。

邪念もないから警戒もされない。


 「確実に届けます。メルダ様の愛が込められているとお伝えしますね」

「それは中に書いてあるよ」

「シロ様に浮気ですか?」

「・・・あたしに来る手紙は、気持ちの入っていない堅苦しいのばっかりだ。あの子のは暖かみがあったのさ・・・夢を見てた頃を思い出させてくれた」

メルダ様は優しい目で自分の手を見つめた。

若い頃・・・ミランダ様と似ていましたね。


 「では失礼いたします。情報があればお呼びください」

「殺しはまだダメだよ?」

「私の狙いは一人だけです。そしてその男は殺せない」

「言ってみただけだ。・・・頼りにしてるよハリス」

まるで部下への激励だ。

下に付いた憶えは無いのですが・・・親子ですね。


 ふた月・・・もう少しかかるかもしれない。

あの男から、より上の者へ近づく。

おそらく今回のことは下っ端がやったことではない。


 それとあの黒煙・・・。

力の謎も突き止めなければ・・・。

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