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Our Story  作者: NeRix
水の章 第四部
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第百四十八話 目障り【ミランダ】

 一瞬で景色が変わった。

まず見えたのは、とても綺麗な川と草原・・・。


 なんだっけ、命の・・・洗い場?

なんかちょっとだけ恐い場所だ。


 たぶん、綺麗過ぎるからだと思う。

あたしたち人間が触れてはいけないし、踏み込んでもいけない・・・そんな場所。

 

 ・・・違う!ゆっくり見てる暇は無い。

ジナスはどこ・・・。



 「不意打ちは失敗か・・・」

ニルスが冷たい声を出した。

・・・たぶんそうだ。


 シロが追った気配、ここで間違いは・・・。


 「・・・よく辿り着けたな」

無かったみたいだ。

すぐ後ろ・・・。

 「シロ!」

声が終わる前にニルスが動いていた。

 「任せて!」

あたしが振り返った時、シロの作った大きなつららが、ニルスよりも速く飛んでいくのが見えた。

 覚悟して来たのに、出遅れたのはあたしだけか・・・。

精霊の目と耳も貰ってたのに情けない・・・。


 「急ぐな。お前たちは獣ではないだろう?」

つららがジナスの前で砕け、ニルスの剣は何も無い所を斬った。

シロが精霊封印使ってるはずなのに・・・。

 「ミランダ、結界を張れ!!集中は切らすな!自分の身を最優先で考えろ!」

言う通りだ・・・寝惚けてんじゃない!戦いに来たんだ!


 もうあいつの気配で体が震えたりしない。

あたしは全部乗り越えてきたんだ!

 

 「もう少し余韻に浸りたかったんだがな」

ジナスが高い所からあたしたちを見下ろした。


 「あの女・・・引っ張り出してきたのか?たしかにあれがいれば治癒隊は必要無い。・・・おかげでいい戦いが見れた」

「・・・」

「・・・」

ニルスもシロも答えない。

 「転移が使えると読んではいたが、運んだのはお前たちだけか・・・」

「・・・」

「・・・」

二人は相手の出方を見ている。

 ステラの支援と治癒はここまで届かない。

だから奇襲ですぐに決めたかったのに・・・。


 「まあいい・・・本当に楽しかったぞ」

「え・・・」

「なに・・・」

ニルスとシロが目を見開いた。

なんだあれ・・・。


 「どうした?」

ジナスの声が急に高くなった。

声だけじゃなくて、姿も・・・。

 「・・・油断を誘っているのか?」

「油断?・・・お前たち、なにをした?」

ジナスも自分の変化に気付いた。

あいつの意図していないこと?


 「なにかしてるのはお前の方だろ?」

「・・・」

「言っておくぞ。どんな姿であっても、オレたちは惑わされない」

「・・・」

ジナスは男の子の姿になっている。

シロと同じくらいか・・・。


 「ジナス・・・それがお前の本当の姿か?」

シロが低い声を出した。

・・・本当の?

 「・・・女神以外に見られるのは初めてだな」

「なるほど・・・」

「まあいい・・・どうやら私が気を抜いていたからこうなったようだ」

ジナスの声と姿が元?に戻った。

 話の流れからすると、シロの精霊封印が効いてるってことだよね?

たしかに全部の力は奪えないみたいだけど、弱くさせるのはできるみたいだ。


 「さて・・・聞きたいことが増えたな」

ジナスが地面に下りた。

 「・・・答えると思うか?」

ニルスが一年前と同じように切っ先を向けた。


 「答えやすいように聞いてやる。まずは・・・理解はできそうも無いが大事なことだ。・・・何をしに来た?」

「わかりやすく教えてやる。お前を消しに来た」

「・・・」

ジナスは表情を変えない。

相変わらず何を考えてるのか読めない奴・・・。


 「けど、オレの要求を飲むなら見逃してやってもいいぞ。・・・女神を解放しろ」

「ふふふ・・・私に得の無い交渉だな。・・・今の状況も気に入らない。お前を消すことになってしまったからな」

「・・・消えるのはお前だ」

ニルスの脚に力が入った。


 「・・・私はお前を愛している。母親と違っておかしな力は使わず、純粋に肉体だけで戦っている・・・だから惹かれる。また会いたいとは思っていたが、できれば消したくはない・・・駒として生きる気は無いのか?」

ジナスは突然ニルスへの愛を語り出した。

なにこいつ・・・。

 「・・・」

「・・・」

ニルスとシロも「は?」って顔してる。


 「・・・気持ちわりーこと言ってんじゃねーよ」

ニルスの口調が粗っぽくなった。

・・・珍しい、戦場で上がった熱がまだ残ってるって感じだ。


 『ティム・・・お前がいてよかった。この苦しみを分かち合おう・・・』

『触んな!気持ちわりーこと言ってんじゃねーよ!!』

ていうか、あのやり取りが残ってたのかな?

けっこうあいつにも染められてんのね・・・。


 「けど・・・オレもお前の顔をもう一度だけ見たいと思っていた。・・・そして、もう二度と見たくないから消えろ」

「そうか残念だ。・・・お前のような戦士が現れることはもう無いかもしれない」

「戦場はもう終わりだ。そんな心配はいらない」

胎動の剣の切っ先はずっとジナスに向いている。

いつ飛び込むか・・・あたしはもう準備ができている。


 「・・・シロ、氷を出していたな。私の結界内でなぜ使える?」

ジナスがシロを睨んだ。

まあ・・・気になるよね・・・。


 「それと・・・脆弱だがこれは精霊封印だな。いつから持っていた?」

「教えるわけないだろ!!」

「お前もおかしな自信を付けてきたな」

「話すことは何も無い!僕はお前と戦いに来た!!」

シロが言い返したのと同時にニルスが斬りかかった。

 結界はすでに張っている。

あたしがいる限り、二人に痛い思いはさせない。



 「・・・速さが増している。よっぽど鍛えたんだなニルス」

「・・・」

ニルスは結界を気にせずに攻めている。


 最初は切り裂かれたら立てなくなるほどだった。

でも今は違う、まだまだ耐えれる。


 「母親に鍛えられただけだ。もう・・・迷いは無い!!」

「当たらなければ意味は無いぞ?・・・カゲロウにも言われていたな」

ジナスは余裕だ。

ニルスの剣はまだ一度も当たっていない。


 「分身なんか出さずにお前が出ろ」

「私は見るのが好きなんだ」

「そういうの・・・一番嫌いなんだよ!」

でも、ニルスも余裕だ。

 あたしを信頼してくれているから・・・。

結界を確かめる素振りが無いのはそういうことよね。


 「いい気迫だ。一年前とは見違えたぞ・・・あの程度で崩れた時はがっかりしたが、生かしておいてよかった」

「・・・そういえば腕は治ったんだな」

「ああ、少し時間はかかったがな」

「トカゲかお前は・・・」

ニルスの姿が追い切れなくなりそうなくらい速くなってる。

でも・・・まだ全力じゃない。


 「・・・そろそろ躱しきれないな」

突然ジナスの姿が消えた。

 ・・・転移か。

精霊封印があるから遠くには飛べないはずよね・・・。

 「右!!」

シロが叫んだ。

 そうか、この子は気配を探れる。

どこに移動しようとすぐにわかるんだ。


 「ふー・・・」

ニルスが溜め息と同時に消えた。

あたしとシロも続かなければ・・・。

 

 ニルスはあたしの四、五歩を一歩で越えていく。

速すぎる・・・さっきまでのは全力じゃないってわかってたけど、ここまで差があるのか・・・。


 「ミランダ、僕は先に行く。結界は追いついたらでいい!」

シロも飛ぶ速さを上げた。

すぐにニルスと並んで、氷塊を自分の周りに作っている。

 「すぐ追いつく!ニルスが攻撃を当てる隙を作るのよ!」

あんなに走ったのに・・・。



 「いいだろう、やってみろ」

ジナスの手に、いつの間にか大きな剣が現れていた。

早く追いつかなきゃ・・・。


 「シロ、オレに構うな!全部ぶつけろ!」

ニルスが十歩の距離を跳び、その勢いのまま胎動の剣を振り上げた。

 「わかった!!」

「いい連携だ・・・決まればな」

「決まるさ・・・」

ニルスは剣が当たる前に素早く引き、かわりに足を出して受け止めようとしたジナスを蹴った。

 「ふふ、足場にされたわけか・・・」

ジナスの体は揺らがない。

だからこそニルスはおもいきり蹴ることができて、その力で高く後ろに跳べた。

 「消えてしまえ!!!」

そこにシロの作った無数の氷塊が間を置かずに飛び込んでいき、冷気の煙がジナスを包んでいく。


 でも・・・まだ気を抜けない。

 


 「きわどかったな・・・よくやる・・・」

あたしが二人に追いついた時、煙の中から声が聞こえた。

そりゃそうだよね・・・。


 「シロ、なにもためらうな!オレごと撃ち抜くつもりでいい!」

ニルスはシロじゃなくて、あたしを見て言った。

わかってるよ、この距離ならあたしの結界でニルスを守れる。

 でも悔しい・・・もっと速く走れていたらニルスが斬りつけて決まっていたかもしれない。

自分への怒りで戦意が上がっていく・・・。


 「精霊封印と魔法封印がまったく効いていないな。・・・人形を出しても無駄になりそうだ」

「やってみればいい。すべて凍らせる!」

シロの手がジナスへ向けられた。

周りには、さっきの倍以上のつららや氷の塊が浮かんでいる。


 「戦場で使わなかったのはなぜだ?千の人形・・・カゲロウでさえも一瞬で終わっていただろう」

「すべてこの戦いのためだ!!」

小さな背中なのに、ニルスにも負けないくらいの力強さを感じさせてくれる。

ジナスに対しての恐怖は、すべて吹き飛んでるみたいね。

 

 「覚悟ができているのならばすぐに終わらせよう・・・」

ジナスが、今度は高速で飛んでずっと後ろに下がった。

また追いかけなきゃいけないのか・・・。


 「え・・・」

一歩踏み込むと同時に、あたしたちの周りに影ができた。

なに?・・・暗い。

何かが上に・・・。


 「それは命でできている。・・・結界で防いでも心を削るぞ」

見上げると、とてつもなく大きな水晶の塊が浮かんでいた。

戦場で見た巨人の何倍もある・・・。

 「お前たちごときの守護では耐えられないな・・・」

それがジナスの声と一緒に割れ、数えきれないほどの刃の雨になって降り注いできた。


 「痛みを感じるのは一瞬だろう・・・慈悲の心だ」

範囲が広すぎる。

躱すのは無理だけど・・・。


 「終わったと思われている。すぐに動くぞ!」

「当然だね。ミランダはそんなに弱くない!」

だよね。

守りは全部あたしだ!

 「当然よ!!」

かなり甘く見られてるみたいでムカついた。

大丈夫・・・なんだって引き受けるよ。


 自分の守りは問題無い。

動く二人から目を離さずに、常に覆う結界を!



 刃の雨が、一番背の高いニルスに突き刺さろうとしている。

あたしが一瞬でも気を抜いたら終わり・・・そんな緊張感の中なのに、今までで一番強い結界を張れた。

 その証拠に、水晶の刃はニルスに当たる前に弾かれて、高い音と一緒に砕けていく。


 けど・・・キツイ・・・。

本当に心を削られているんだ。

この土砂降りはいつ止むんだろう・・・。


 「丈夫な傘だ・・・助かるよ」

少し前を走るニルスの声が聞こえた。

ああ・・・これで心を保てそうだ。

 あんたはあたしが欲しい言葉をくれるね。

ステラには悪いけど・・・帰ったら抱かせてやってもいい・・・。


 「背を向けた・・・抜けてくるとは思っていないはずだ。見え辛いだろうけどまっすぐ走って!!」

シロの力強い声も、心を支えてくれた。

もうすぐか、絶対に守り切る!


 「・・・気付かれた!」

「構わない!」

シロの大声でニルスの足の動きが変わった。

あたしにはまだ見えないけど、ジナスの姿を捉えたんだ。


 「斬り崩す・・・」

割れる水晶に負けないくらい大きな踏み込む音が聞こえた。

もう斬り込んだんだ。



 「まさか・・・越えてきたのか・・・」

初めて驚くジナスを見れた。

 ・・・いい顔すんじゃん。

あたしも雨を抜けた。

まだ後ろでは土砂降りが続いているけど、心を削られることはもう無い。


 「仲間の血と傷・・・報いは受けてもらう!!!」

狙ったのかはわからないけど、ニルスの剣はあたしの傷痕と同じ場所を一直線に斬りつけた。

 そこへシロの出した大量のつららが飛び込んでいく。

これをさっきやれてれば・・・。


 でも、これで終わりなのかな?

・・・あの雨で・・・結界を保つのが辛い・・・。


 「鬱陶しい奴らだ!!」

つららがすべて粉々になって、薄煙の中から怒りに満ちた声が聞こえた。

まだ・・・張り続けなければいけない・・・。


 「どうした?神もそんな顔ができるんだな」

「私にも感情はある。・・・当然怒りもな」

ニルスたちの背後に、透明な刃が現れた。

あたしがいる限り、あんなので二人を死なせはしない!


 「・・・それはオレたちにもある!!」

二人の背中を狙う刃は、あたしの守護に阻まれて止まった。

 「お前が消した精霊たちにもだ!!」

ニルスたちは攻撃しか考えていない。

あたしは結界を保ち続ければいい・・・。


 「お前はここで終わりだ!!」

「ぐ・・・触れるな!!」

ジナスの胸に胎動の剣が突き刺さった。

 ニルスの体には傷一つ無い・・・いい気味だ。

このまま押して・・・終わらせて・・・。


 「いつまでも調子に乗るなよ・・・」

「待て!!」

ジナスの姿が消えた。


 まさか・・・またあれ?

あたしはすぐに真上を見た。

・・・なにも無い。


 「こっちだ・・・」

「後ろに下がっただけだ!追うぞ!!」

ニルスが走り出した。

そんなに遠くも無い。


 「かなり消耗しているはずだ。一気にやってしまおう!」

「ミランダ!!」

「いけるよ!!」

力が抜けそうな足を一度叩いた。

 大丈夫だ・・・まだ結界は張れるし走れる!

守るために付いてきたんだ!自分だけ辛いなんて言えない!



 少し遅れたけど、大きく息を吸い込んで二人を追いかけた。

一人ずつ集中して張れる距離・・・離される。


 「結界は追いついたらでいい!」

「すぐ追いつく!!」

二人との差が開いていく。

もうすぐニルスは間合いに入るってのに・・・。


 「お前の結界か・・・」

真後ろから、とても怒っている声が聞こえた

暗闇で肩を掴まれたみたいな寒気が全身に駆け巡っている・・・。

 「前に出ない者は好かない・・・」

なんで・・・あたしに・・・。


 「あの時・・・お前だけは殺しておくべきだったな」

あたしの足が固まってしまった。

 冷たい・・・凍ってる?動けない・・・。

じゃあ・・・あそこにいるのは何?


 自分の状況がうまく整理できない。

いや・・・整理したくないんだ・・・答えに辿り着きたくない・・・。


 「後悔・・・この感情は初めてかもしれない。お前ごときに与えられるとはな・・・よく顔を見せろよ」

あたしの守護が粉々に砕けて、大きな手に首を掴まれた。

振り向かされて、すぐ目の前にいたのはジナス・・・。


 「・・・記憶が読めないな。私の知らない力が働いているらしい」

ジナスの手は、今まで触れた誰よりも冷たかった。

 「どんな術か言ってみろ。あの女の力か?」

輝石のおかげか・・・。

女神様のこと、聖女のこと、ニルスのこと、情報は守れている・・・。


 「話す気は・・・無さそうだ」

ニルスたちは遠すぎる。あたしだけでこいつを遠ざけるのは無理だ。

もう睨むことしかできない。

けど・・・。


 『ジナスが青ざめるくらいになってみせる。あの時殺しておけばって思わせてやるんだから』

青ざめてはいないけど、思わせてやることはできた。

だから・・・この状況でもあたしの勝ちだ・・・。


 「ミランダ!」

気付いたニルスがこっちに向かってきてくれている。

 けど・・・あたしはいい。

あんたの負担にはならない・・・構わないで・・・。


 「足手纏いだと思っていたが、一番目障りなのはお前だったな・・・」

とても長い時間に感じた。

あたしの体にジナスの剣が入り込んでくる・・・。

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