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Our Story  作者: NeRix
地の章 第一部
11/481

第十話 刻まれた言葉【アリシア】

 ケルトは、私のために自分の命を使ってくれた。

それが惜しくないと思えるほど私が好きなのだと言う。


 私もケルトが好きだ。

よくわからなかった感情の答えは、あなたへの想い・・・。

これが恋・・・認めて受け入れた時、戦いとは違った熱が生まれた。


 私の心を焦がすもの、心地よくて自然と口元が上がる。

この感情が生まれた時から気付いていれば、もっと幸福な時間を多く取れたのに・・・。



 「あの・・・テーゼに帰ろうと思うんだ」

ケルトの鼓動を感じながら打ち明けた。

 本当はこのまま一緒にいた方がいいのかもしれない。

でも・・・私は戦いたいんだ。あなたが作ってくれた剣で・・・。


 「・・・うん、わかってるよ。ここに来た目的だもんね」

「最初は・・・作ってくれるなら誰でもいいと思っていた」

「そうなんだ・・・」

「でも、今は違う。あなたでよかった」

心からの言葉だ。

あなたは信じてくれるかな?


 「どうして僕でよかったって思うの?」

「・・・思うものは思うんだ」

「そういうの、ちゃんと言葉にしてほしいな」

こういうの、なんだか苦手だ。


 「ふふ、仕方ないなあ。・・・アリシア、愛しているよ」

私の体が抱きしめられた。

 愛・・・とても暖かい。

だから返さなければ・・・。

 「あ・・・えっと・・・わ、私もケルトを・・・あ、あい・・・」

言葉にするのは恥ずかしい。

伝えたいんだけどな・・・。


 「大丈夫だよアリシア、君はそういう人だからね」

ケルトは私を理解してくれている。

気持ちを言葉に出すこともできない私を笑って許して・・・甘やかしてくれる。


 「かわりに・・・唇がほしいな」

「わかった・・・それなら・・・」

とても幸福な時間だ。

 男なら誰だっていいわけじゃない。

私にはケルトしかいない・・・。


 私の一番欲しかったものは、あなたがいなければ手に入らなかった。

この気持ちも一緒に貰ったからあなたでなければダメなんだ。



 「間違いなく届けますね。もしくは・・・宿場まで私が送ってもいいですよ」

行商に手紙を預けた。

内容は「迎えに来てほしい」とだけ・・・。


 「いや・・・少しでも長くここにいたいから・・・」

「そうですか。じゃあ次回からは、また十日に一度でよさそうですね」

「それでいいと思う」

一人分の食事が減る。

元に戻るだけだ・・・。


 『しっかりと食べてください。今日から毎朝食べる習慣をつけていただきます』

そういえば、私がいなくなったら食べなくなるのかな?

 すぐに来れる距離なら毎日作ってあげたい。

・・・いや、できるんじゃないか?聞いてみよう。

 


 ケルトは風呂焚き場で燃える炎を見ていた。

よし、さっそく話そう。


 「ケルト、一緒にテーゼに来ないか?」

こうすればいい・・・というか来てほしい。

 「ふふ、寂しいんだ?」

ケルトはすぐに振り返ってくれた。

なんだかいじわるな顔だ。


 「そういうわけじゃ・・・ただ、食事も掃除も洗濯も・・・私がいなくなったら大変だと思って・・・」

「今までそうだったからね。それに・・・僕、あんまり人の多い場所に行きたくないんだ。・・・ここが好きだから」

「私と一緒は・・・嫌なのか?」

「そうじゃないよ、僕の気持ちとは別な理由もあるんだ。・・・だから一緒には行けない」

ケルトは寂しそうに笑った。


 「どういうことだ?」

「精霊との契約・・・僕はこの森を出ることができない。ここの風景が好きだから別にいいと思ってたんだけどね」

「契約・・・そういう条件もあったのか・・・」

「うん。だから戦場に出たい君と暮らすのは難しい・・・」

確かめなくても、顔を見れば真実だとわかった。

仕方ないことだったのか・・・離れるのは辛い・・・。


 「じゃあ・・・会いに来る・・・」

「嬉しいけど・・・君のやりたいことを優先していいよ」

ケルトは私を抱きしめてくれた。

 

 寂しさが私の体に伝わってくる。

あなたも同じものを感じてくれているんだろうな・・・。



 便りを出してから二日が過ぎた。


 「お姉ちゃーん、迎えに来たよー」

テッドさんの馬車が到着した。

ああ・・・今日で離れるのか。


 「見送るよ。でも、出る前に・・・」

「ん・・・」

ケルトが口づけをくれた。

もう少しだけ・・・。



 二人で外に出た。

変に見られたりしないように振る舞わなければ・・・。


 「しっかりと送り届けてくださいね」

「行商から話を聞いたが・・・本当に普通の男だな」

ケルトとテッドさんが話し始めた。

 「え・・・あの人なんて言ってたんですか?」

「普通の人間・・・そのまんまだよ」

普通なのかな?私にとっては特別だが・・・。


 「こんにちは!」

「ふふ、こんにちは」

「セイラ・ローズウッドです!」

「かわいい名前だね。僕はケルト・ホープだよ」

ケルトはセイラの頭を撫でてあげた。

私も欲しい・・・。


 「アリシア、荷物を積んでくれ」

「あ・・・はい」

自分で呼んだけど・・・二、三日あとにしてもよかったな。



 「ケルト・・・ありがとう」

馬車に乗り込み、お礼を伝えた。

 別れの言葉は絶対口にしない。

ここでの生活が消えてしまう気がしたから・・・。


 「ケルト!!必ずまた来る!!!」

私は走り出した馬車から顔を出し、手を振るケルトへ大声で伝えた。

 「うん、待ってるよ!!」

「約束だ!!」

あなたの姿が見えなくなるまでこうしていよう。


 必ず・・・必ずまた来るよケルト。



 「壊れない武器は手に入ったのか?」

「ええ、世界一の剣です」

帰りはとても心が軽かった。

 馬車に揺られながら、できあがった私の剣を見ているだけで時間が過ぎていく。


 寂しくないのは、これを持っているとあなたを感じるからだ・・・。


 「お姉ちゃん、なんか恋してるみたい」

「そ、そんなことないさ」

「あの男と仲良くなってたみたいだしな」

「た、たしかに仲良くはなりましたが・・・」

セイラたちのからかいはあまり気にならない。

この剣を持っている限り、ケルトはそばにいるのだ。

 

 「まあ、男と女がひと月も一緒に住んでたんだ。どうにかなってるかもしれないとは思ってたよ」

「あ・・・わかった。恋人だ!」

「そ、そういうんじゃ・・・」

まったく気にならない・・・。



 日が暮れて、馬車が停まった。


 「その剣試してみたのか?」

テッドさんが火を起こしながら聞いてきた。

そういえば・・・なにもしていない。

 「まだですね・・・」

「壊れないかどうかはまだわからないわけか」

「私はケルトを信用しています」

「じゃあ・・・あれとか」

テッドさんは近くにあった岩を指さした。

・・・やってみるか。



 「すごーい!!」

気合を込めて剣を振ると、岩を斬ることができた。

 「・・・」

テッドさんも目を丸くしている。


 「・・・刃こぼれは?」

「えっと・・・ありません」

刃は美しいままだ。

ああ・・・体が熱くなってきた。


 「お前とその剣は相手にしたくないな」

「お世辞はいりません。テッドさんの底、まだ私には見えない」

「ふーん・・・事実だから教えてやるが、小娘のお前にはまだまだ遠いぞ」

きっとそうなんだろう。

いつか・・・自信が付いたら挑んでみようか。



 テーゼに帰ってきた。

なんだか色んな香りがして、知らない街に来たって感じがする。

「雷神の隠し子」の噂も、私がいない間に薄れてくれてたらいいな。


 「またうちを使ってね」

「ああ、必ずそうするよ」

「仕事が入ってる時もある。すぐに出るってのができない時もあるからな?」

「早めに伝えるようにします。ありがとうございました」

馬車は孤児院の前で停まった。

みんな元気でやってただろうか・・・。

 


 「ただいま」

洗濯物を干しているルルを見つけた。

他の子たちはアカデミーに行ってるみたいだ。


 「え・・・アリシア!やっと帰ってきた。ひと月以上もなんて聞いてないよ!」

「えっと・・・ごめん」

ルルはもっと早く帰ってくるものと思っていたらしい。

でも、目的のものは手に入った。


 「せめて手紙くらいよこしなさいよ」

「ま、まあ落ち着いてくれ。・・・これが探していた剣だ」

私は腰の剣を外した。

お説教なんかよりも、早くこっちを見てほしい。

 「なに誤魔化してんのよ」

「と、とっても綺麗なんだ」

「もう・・・たしかに綺麗ね」

ルルは怒った顔をやめてくれた。

この剣にはそういう力もあるのかな?


 「ねえ、これいくらかかったの?」

「え・・・」

「お金よ。とっても高価なものに見える。飾りには宝石も付いてるし」

「お金・・・」

・・・払ってない、忘れていた。

 「あんたまさか・・・」

ルルは呆れた顔で私を見ている。

どうしよう、戻るわけにもいかないし・・・。


 「ん・・・アリシア、これはどういうことかしら?」

ルルは鍔の裏を指さした。


 『愛するアリシアへ』

そこには、鼓動が高鳴るような言葉が彫られていた。

刃しか見ていなかったから気付かなかったが、ケルトが入れたのは間違いない。


 「説明してもらわないといけないわねー」

「違う、それはケルトがやったんだ」

「・・・ケルト?だからそれを説明しなさいって言ってるのよ」

・・・参ったな。どう話せばいいのか・・・。



 「ふーん、つまりアリシアもケルトさんのことが好きなのね?」

ルルにケルトのことを話した。

もちろん出逢いから・・・。


 「えっと・・・うん」

「ふっふっふ・・・アリシアからこんな話を聞けるとは思わなかった。アカデミーとか街の男の子は恐がって近付いてこなかったからね。それにあなたのやりたいことをやらせてくれるなんていい人そう」

「ああ、ケルトはいい人だった」

「歳上か・・・。素敵だね」

正直に話したが、ルルはケルトとのことを喜んでくれた。

まあ・・・夜のことなんかは言えないが・・・。


 「じゃあ、この剣はケルトさんからの贈り物ってことね?」

「わからない、私の喜ぶ顔が見たいと言っていた」

「代金がそれってことよ、わかった?」

本当にいいのだろうか・・・。

 あなたの命を貰ったのに、私は何もしてやれていないな。

よし、また会いに行くときに色々考えてみよう。



 「本当に作ってくれたのか・・・。たしかに・・・ケルトの装飾だ」

ユーゴさんにもお礼を言いに来た。

でも・・・ずっとテーブルに置いた剣を見ている・・・。


 「わかるんですね」

「ああ、いい腕だ・・・ん?愛する・・・アリシアへ・・・」

忘れてた・・・。

 「・・・そうなったのか?」

「ええ、まあ・・・」

「なに赤くなってんだよ。・・・役に立ててよかった。まあ、またなんかあったら来いよ」

「はい、ありがとうございました」

そうは言われても、もう特に用は無さそうだ。

 でもなにかお礼がしたいな。

そうだ・・・全部王の奢りだけど、今度ルルを連れてきてあげよう。


 「そういや、あいつ俺の手紙読んでなんか言ってたか?」

「えーと、嬉しいと・・・」

「・・・そう」

他にも言ってた気がするけど、よく憶えていない。

 「あの・・・会いに行けばいいのではないですか?」

「別にいいよ。元気でやってんならそれでいい」

「そうですか・・・」

今までも居場所を知っていて行かなかったんだから、私にはわからない色々な感情があるんだろう。

ケルトが森を出れるなら連れてきてあげたかったな・・・。


 

 「おお、戻ったか」

「はい、馬車の件ではありがとうございました」

次の日に訓練場へ行くとウォルターさんに捕まった。

というより、早く会いたかった。


 「で・・・その剣か?」

「はい、聖戦の剣アリ・・・聖戦の剣といいます」

全部は恥ずかしくて言えない・・・。


 「見せてくれよ」

「あんまり誰かに触らせたくは・・・」

「少しくらいいいだろ」

「すぐ返してくださいね・・・」

この人には恩がある。

だから少しだけ・・・。

 「え・・・おい!」

「どうしました?」

「なんだこれ・・・」

ウォルターさんは剣を支えきれずに膝を付いた。


 『この剣は特別なんだ。君以外には使えない、打ち込んだ僕の思いが拒むようになる』

あ・・・あれか。

魂の魔法・・・ちゃんとかかっているみたいだ。


 「おい、どうなってる?」

「その剣は私しか使えないと聞きました。特別な魔法がこもっているんです」

「へー・・・」

なんだか幸福だ。

ケルトは私だけの・・・。


 「まあ仕方ねーな。じゃあ試してみようぜ・・・鍛錬を怠ってないかも確認しないとな」

「はい、ぜひ!」

体温が上がってきた。

ウォルターさんなら存分に振るえる。


 

 間合いを取って向かい合った。

さて、まずは・・・。


 「へえ、構えに隙が無くなったな。テッドさんに習ったか?」

「はい」

突きの極意を試してみようと思った。


 「いいですか?」

「来いよ」

槍と剣では間合いに差がある・・・が、私には考えがあった。

 「動くな!!!」

私は叫び、距離を詰めた。

これも鍛えたんだ。


 「ぐ・・・」

思った通り、ウォルターさんは間合いを詰められても動けていない。

私は余裕を持って喉元に剣を当てた。

 「アリシア・・・反則だ」

「戦いにそんなものはありませんよ」

すごい力だ。

 誰だって圧倒できそうな・・・いや、ダメだ。

驕りは捨てろ。絶対に油断はしない。


 

 「アリシアー!戻ってきたのねー!!」

ジーナさんが私の叫びを聞いて駆け付けてきた。

あんまり会いたくなかったな・・・。



 「なるほど、精霊とどこかで契約してる可能性があるわけか」

三人で座り込み、わかっていることを教えた。


 「はい、ケルト・・・この剣を打った人がそうなんじゃないかと」

「魔法とも違うよね。そんな精霊いるのかな?」

まったく身に覚えがないということは、やはり赤ん坊の頃なのだろうか?

 たしか孤児院を出る時に、セス院長がわかっている限りを教えてくれるって話だったな。


 「まあ、これ以上は考えてもわかんないね。それよりさ・・・次の戦場でアリシアは遊撃隊になりそうよ。べモンドに頼みこんだからね。絶対にあたしの隊」

「わかりました」

私は前線ならどこでもいい。

鍛錬を積み、次の戦場に備えよう。



 戻ってからひと月が過ぎた。


 「はあ・・・」

なんだか最近体の調子がおかしい。

私はどうしてしまったのだろう・・・。

 嗅覚が強くなったような・・・今までより匂いに敏感になっている。

たまに吐き気もあって集中できない。

・・・まさか病気なのか?


 「アリシア、近頃食欲が無いみたいだけどなにかあったの?」

ルルに気付かれてしまった。

誰にも見せないようにしていたのに・・・。


 「ルル・・・わからないんだ。でも体は動くから心配いらないよ」

「セス院長に相談した?」

「・・・心配はかけられない」

それに報奨金もある。

なにかあれば自分で治療を受けに行けばいい。


 「あのね・・・あなたの様子がおかしいのは院長も気付いてる。たぶん言えないだろうからってあたしが頼まれたの」

「そうか・・・」

知られていたのか。

もうアカデミーも終わっている私に気を配ることは無いのに・・・。


 「今日は訓練場じゃなくて、私とお医者さんに行ってみましょ」

「・・・わかった」

面倒だと思って避けていたが、今日行くしかないんだな。



 「命を授かっていますね」

医者は、笑顔で私とルルに告げた。

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