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Our Story  作者: NeRix
水の章 第三部
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第百三話 圧倒【ミランダ】

 戦士の人たちはみんな強い、さすが何年も鍛えてきただけはある。

単純に「どっちが強い?」みたいな勝負だったら、あたしが一番弱いのは間違いないんだろうな。


 じゃあ逆に一番は・・・やっぱりニルスかアリシア様?

きのう、おとといって二人が戦ってる姿を見たけど、あれに勝てる奴っているのかってくらい強い。


 今日も決着はつかないのかな?

もっとできることあればいいんだけど・・・。



 「イライザ殿は恐ろしいのう・・・」

訓練場までの道、おじいちゃんが呟いた。

 イライザさんか・・・たしかに強い人だ。

でも、恐くはないよね。


 「あの人は優しいですよ。怒らせるようなことでもしたんじゃないですか?」

ニルスもあたしと同じだ。

 「そうだよ。あたしあの人の言う通りに鍛えたら、おへそが縦割れになったんだよ」

「・・・構えを見てやると言って胸を揉んだ。すぐ腕を取られたが、アリシア殿よりも力があったぞ・・・」

「まあ・・・あの人は鍛えてますから」

「いい女ではあるが母親を思い出す・・・。苦手じゃ・・・」

おじいちゃんが身震いした。

なるほど、単純に強い弱いだけじゃなくて相性ってのもあるのか。


 「母親ね・・・ん?ていうかさ、おじいちゃんのお父さんってどんな人だったの?」

「・・・厳しい母上とは対照的じゃったな。真夏に・・・氷菓子を買ってくれて、よく一緒に食べた・・・」

おじいちゃんは、立ち止まって空を見上げた。

こういう姿はちょっと好き・・・。

 「お父さんは、おじいちゃんみたいに女の尻追っかけたりしてなかったの?」

「無かったのう・・・殺されるからな」

「お母さんはそんなヤバかったんだ?」

「大人になってから聞いたが、ベッドでは母上が常に上だったらしい。押さえ付けられて、なにもさせてもらえなかったと言っていた・・・」

ああ・・・そういうのが好きな女ね・・・。


 「兄弟は?そんな感じだったらいっぱいいるの?」

「いや、儂だけじゃ。偶然なのか、そうなっているのかわからんが、騎士の家系は一子しか授からん・・・」

へー・・・なんか怖い。

 「あの、朝からそういう話は・・・イライザさんは許してくれたんですよね?」

「そうじゃな・・・。儂の目の奥の恐怖がわかったのか、触りたいならいいぞとまで言われた」

「あはは、でもできないんだ?」

「他にもお気に入りがいるからいいんじゃよ」

おじいちゃんはいやらしく笑った。

奥さん連れてきてやりたいな・・・あ、そうだ。


 「ねえねえ、奥さんとはどこで出逢ったの?三十三も離れてんのはどういうことよ?」

気になったけど忘れてたことだ。

今日から話すまで聞いてやろ。

 「別にいいじゃろ・・・」

「気になるじゃん。仲間に隠し事する気?」

「儂は・・・スナフにいた未婚の女はほとんど抱いた。・・・いい男じゃったからな」

おじいちゃんが歩き出した。

教えてくれるっぽい・・・。


 「適当に種を蒔き、授かった女と一緒になろうとしていた」

「あ、わかった。誰もおじいちゃんの子どもできなかったんでしょ?」

「どれだけ注いでもダメじゃった。・・・母上からも、お前おかしいぞと言われておったよ。もう孤児を引き取って鍛えておけとまで・・・」

そりゃそうだ。

 「騎士の血は途絶えるが、意志を繋ぐことが大事じゃと・・・」

「でもそうしなかったんだね」

「わかっているから好きにさせろと大ゲンカした。それでもことあるごとに言われた。そして・・・四十七の時、ナツメと出逢った」

えっと・・・三十三歳差だから・・・。


 「奥さんが十四の時?どんな感じだったの?」

「挑戦しに来たんじゃ」

「え・・・奥さんけっこう強いの?」

「いや、目的は最初から儂だったようでな。相手も子どももいないことまで調べてから来たと・・・」

おじいちゃんは嬉しそうな顔で溜めた。

気になる・・・。


 「剣も新しく、構えもぎこちない・・・挑戦者は無視できんからとりあえず戦ってやった」

「そんで?勝ったんでしょ?」

「軽く転ばせて終わりじゃ。起こしてやろうと手を貸したら、そのまま抱きついてきた。そして・・・そばに置いてほしいと・・・」

おじいちゃんは照れ笑いを浮かべた。

 「ナツメは、騎士の妻になるのが夢だったらしい」

「歳の差は気にしなかったんだ?」

「儂は気にしたが、母上はナツメを気に入って家に置いた。ナツメも気にしていなかった。まあ・・・よく尽くしてくれて・・・好きになった。・・・ここまでじゃ」

「ふーん・・・なんかいい話じゃん」

教えてくれたことが嬉しい。

仲間ってことだもんね。


 「それでも子どもはなかなかできなかったんですね・・・」

ニルスはまだ聞きたいみたいだ。

「そういう話は・・・」とか言ったくせに・・・。

 「・・・こればかりは仕方ない。だが、最近答えが出た」

「どういうことですか?」

「天・・・運命のようなもの・・・。それが息子には戦わせたくなかったんだろう。俺で終わらせろ・・・そういうことだ」

おじいちゃんはいつもの喋り方をやめた。

・・・こっちの方がかっこいいじゃん。


 「そうですね・・・なんとかしましょう」

「・・・ニルス殿には期待している」

うん、なんとかしよう。

よーし、今日も頑張るぞ。



 「おい!戦士ってのはこんなもんかよ!もっと強いの出せ!!」

訓錬場に入ると、あたしよりも二つか三つ年下っぽい男が騒いでいた。


 ・・・なんだあいつ。

周りには三人の戦士が倒れている。

・・・殴り込み?

 

 「次の奴出てこいよ!ここは腰抜けしかいねーのか!!」

勝手な熱吹いてるけど、倒れてるのは治癒隊の待機兵の人たちだ。

 戦場に出る人はそんなのにかまっているほど暇じゃない。

みんな自分の隊で組んで打ち合っている。


 「アリシアは・・・まだ来てないのか」

ニルスも特に気にしてないっぽいな。

 「そのようじゃな。ニルス殿は勝てるまで他の鍛錬はいらん。瞑想で心を鎮めていればいい」

「はい」

「ミランダ殿も、スコットたちが来るまで一緒じゃな」

「はーい」

まあ、ニルスが構う必要もないか。

あれの相手する時間あるんなら、アリシア様のことを考えててほしいしね。



 「戦士は臆病者しかいねーって言いふらすぞ!!早く次の奴出せ!!」

男はあたしたちが瞑想に入ってもずっと騒いでいた。

うるさいな・・・。


 「ニルス、あいつ帰んないね。気が散る」

「・・・集中すればなにも聞こえないよ」

「あんたも集中できてないんじゃん」

「・・・これからだよ」

ニルスの声はちょっとだけ怒っていた。

たぶん「臆病者」が気に障ったんだ。


 「あ・・・また誰か行ったよ」

「瞑想してなよ・・・」

ニルスはずっと目を閉じたままだ。

あたしは気になるからあっちの方見てよ・・・。



 「ニルスくーん、おはよう」

ウォルターさんが来た。

 「なんですか・・・」

ニルスは肩を叩かれて、また集中が途切れたみたいだ。

 「なんですかじゃなくて、おはようって言ってるだろニルスくーん」

変な喋り方・・・。

たぶん、なんか企んでる。


  「・・・おはようございます。瞑想中です」

「ちゃんと挨拶できて偉いぞ。・・・アリシアが来るまで暇なんだろ?あいつなんとかしてこい」

ウォルターさんの声が低くなった。

これは・・・命令だ。

 「・・・いやです。ああいうのに構いたくない」

ニルスはあっさり拒否した。

 たしかに面倒だよね。

ていうか誰も相手にしなけりゃ飽きて帰るんじゃないかな。



 「お前で五人目だな。おい、こいつが負けたら一番強い奴出せよ!雷神・・・雷神出せ!!」

また新しい人が相手をしに行った。

 ・・・本当にアリシア様が出てきたらどうなるんだろ?

あたしにはあいつがどれくらい強いのかはわからないけど、さすがに無理でしょ・・・。


 「な?一番強い奴出せってさ。あいつが負けたら行ってこいよ」

ウォルターさんがニルスの頭を撫でた。

動くまで言いそうだな・・・。

 「・・・アリシアのことですよ」

「そうだよ、雷神っても言ってるじゃん」

ニルスはその気無いみたいだし、あたしは煽らないようにしよ。


 「じゃあ、風神はあいつに勝てそうか?」

「・・・」

ニルスは戦っている男を少し見た。

 「・・・オレじゃ勝てません」

「あっそ、じゃあ負けてこい」

「ニルス殿は謙虚じゃな」

「え・・・ニルスじゃ勝てないの?」

どっちだ・・・。ウォルターさんとおじいちゃんの余裕な感じからすれば、ニルスはたぶん勝てるってことよね?


 「はあ・・・放っておけばそのうち帰るでしょう。行きたくありません」

「ダメだ、うるさくてかなわん。黙らせてこい」

「なんでオレが・・・ウォルターさんが行けばいい」

たしかにそうだ。

別にニルスじゃなくてもいい。


 「出戻りのニルス君は新人と同じ扱いなんだよ。・・・上の命令は聞かないとダメだろ?」

「・・・」

ニルスは本当に嫌そうな顔で立ち上がった。


 「次だ!雷神連れてこい!!」

新たに挑んだ戦士が負けた。

男は余計調子づいてる。


 「・・・帰らせればいいんですね?」

「その通りだ」

「・・・」

ニルスは歩き出した。

かわいそうに・・・。


 「爺さん、ミランダ、近くで見ようぜ。どっちが勝つか、今夜の酒代賭けるか?」

ウォルターさんは悪そうな顔になった。

まあ・・・そういうことだよね。

 「儂はニルス殿に」

「あたしも」

おじいちゃんも乗ってきたな。

楽しんでるんだ・・・。


 「全員ニルスじゃ賭けになんねえな」

「ニルスとアリシア様ではやんないの?」

「まだ気を遣わないとダメだろ。・・・仲直りしたらだな」

やる気なんだ・・・。そっか、今はまだ周りで「どっちが勝つ?」みたいな話は抑えてるってことね。



 「誰だよ・・・雷神は女って聞いたぞ」

「・・・」

二人が向かい合った。


 「あーあ・・・」「行かせたの誰だよ?」「放っておいたら帰ったのに・・・」「ニルスに一万エール」

訓練場にいた戦士たちも打ち合うのをやめて集まってきている。

みんな気になるのか・・・。


 「あ?・・・おい」

「・・・」

ニルスは男を無視して、倒れた戦士を起こしてあげた。

 「大丈夫ですか?」

「ニルス・・・悪いな、黙らそうとしたんだけどよ」

「立てますか?医務室に連れて行きますよ」

「平気だ・・・大きなケガは無いから自分で治せる。下がって見てるよ」

戦士はすぐに立ち上がった。

あれ・・・攻撃はそんなに重くないのかな?


 「・・・無視すんなよ」

男はニルスの背中に剣を向けた。

 「・・・」

こっちで見えるニルスの顔はかなり不機嫌そうだ。

・・・あたしが初めて話しかけた時に近いな。


 「・・・楽しんだだろ?もう帰れ」

「嫌だね」

男は言いながら斬りかかった。

うわ・・・はや・・・。

 「へー・・・やるじゃん」

「・・・」

ニルスは軽く躱して距離を取った。

あれくらいは見えてるってことか。


 「・・・なんか言えよ」

「・・・思ったよりは速いな。歳はいくつ?」

「十五だ!!」

やっぱり年下だったか、ていうか成人したばっかじゃん。

 「ふふ、まあ・・・十五にしてはだけど・・・」

「・・・」

男は顔を引きつらせた。

・・・あいつ挑発に弱すぎ、まだ子どもね。


 「避けてばっかいねーで早く剣抜けよ。本気でやってやる」

「必要ない・・・」

「舐めんな!!」

「遅いんだよ・・・」

ニルスは、男が剣を振り上げたと同時にわき腹を蹴った。

 大きな石が地面に叩きつけられたみたいな音・・・。

あんなの絶対受けたくない。


 「うう・・・ぐ・・・うああ・・・」

男は遠くまで吹き飛び、立ち上がれずに苦しんでいる。

久しぶりに見たけど、悶絶ってああいうのを言うんだよね・・・。

 たしかメルダが、迷惑な客の股を蹴り上げた時もあんな感じだったかな?

あたしの記憶ではあそこまでひどくは無かったけど・・・。


 「ミランダ、あいつが踏み込んだ跡って見たことあるか?」

ウォルターさんがニルスを指さした。

 「何度もあるし、最近は毎日見てる。・・・地面が変なえぐれ方するよね。あ・・・ステラの屋敷の石畳も壊してた」

「俺は・・・あいつの蹴り受けるなら、斬られた方がマシだ」

「ああ・・・あたしもかな」

「儂も受けたがそう思う。・・・あの若造では耐えきれまい。まあ、最後まで見てやろう・・・」

あたしたちが話している間に、ニルスはゆっくりと男に近付いていった。

追いかけるか・・・。



 「自惚れ過ぎだ。見切れてるんだよ、お前の動きはすべて・・・」

「はあ・・・はあ・・・許さねえ・・・」

男は意識を保っていた。

・・・あたしなら気絶してるな。


 「許さないか・・・なら立ち上がってこい」

「てめー・・・ぶっ殺してやる・・・」

「お前の殺すは軽すぎる。どうやるのか教えてくれ」

「すぐに・・・ぐ・・・」

ニルスは容赦なく倒れている男の腹に踏み込んだ。

またあの音・・・さっきより鈍い。


 「はらわたがつぶれたようじゃな」

おじいちゃんは冷静な顔で恐いことを言った。

 「・・・やりすぎじゃないの?」

男の口からは血が溢れている。

死んじゃうかも・・・。

 「治癒隊もいるしあれでいい、半端じゃダメだ」

「その通りじゃ、一人で来た・・・ああなる覚悟もあったじゃろ」

ウォルターさんもおじいちゃんも手厳しいな。

戦いで生きてきた人はそういう考え方をするのか。

 

 「お前みたいな奴でも治癒はしてくれるはずだ。治ったら自分の足でここを出て行け」

「ぐ・・・」

「・・・」

ニルスがあたしたちに振り返った。

冷たい目・・・。



 「おい、あいつ医務室に運んでやれ」

ウォルターさんが近くにいた戦士に声をかけて、男は運ばれた。

やっと気を失ったみたいだ。


 「・・・アリシアが来るまで瞑想に戻ります」

「ご苦労さん、これからああいうのは全部ニルスに任せるからな」

「・・・好きにすればいい」

ニルスは座って目を閉じた。

耳障りなのがいなくなったからか、周りの空気からイライラが無くなっている。


 「おいミランダ、爺さん、あいつの様子見に行こうぜ」

「え・・・なんで?」

「からかいに行くんだよ」

悪趣味・・・セレシュはいい子なのに。

 「今の気分を聞いておいてもいいじゃろ」

おじいちゃんは行くみたいだ。

・・・たしかにおもしろそうだよね。



 「・・・誰がやったんですか?」

「風神」

「同じくらいの奴にやらせればいいのに・・・。もう終わってるんで、外にでも運んで寝かせといてください」

医務室に着くと、男のケガはもう治っていた。

 さすがに戦士の人は違うな。

ティララさんもだけど、あたしの治癒よりずっとずっと上だ


 「外まで運んであげんの?」

「そんなわけねーだろ。・・・おい、起きろ」

「うう・・・」

男は顔を叩かれて瞼を震わせた。

からかいに来たけど、なんかかわいそうになってきたな。


 「なんだ・・・お前ら・・・」

男はあたしたちを鋭い目で睨んできた。

結界出しとこ・・・。

 「いやー、あれだけいきがってたのに負けた奴の顔を見に来たんだよ」

「・・・」

男は俯いて顔を赤くした。


 「・・・負け無しだった。魔物とか・・・他の街の力自慢とも戦って勝ってきた・・・」

「それで戦士の街に来たというわけじゃな?」

「そうだ・・・次で戦場が終わるって聞いた。その前に雷神と戦うためだ・・・」

「雷神ね・・・」

おじいちゃんとウォルターさんはニヤニヤしながら聞いている。

何考えてんだろ?


 「お前名前は?」

「・・・ティム」

「あはは、負けたら素直になるんだなティム君」

ウォルターさんは本当に楽しそうだ。

ニルスにもこんなことしてたのかな?


 「あいつは・・・なんだ?雷神は熊みてーな女だって聞いた」

熊か・・・本物を見たらどう思うんだろ?

 「お前が言ってた一番強い奴だ。圧倒されて当たり前だな」

「・・・」

ティムは起き上がってベッドに座った。

力の差はわかったはずだから、素直に出てくんだろうな。


 「ここに残らしてもらう・・・あいつに勝つまでは出て行かねー」

ティムが剣を握った。

なに勝手なこと言ってんのよ・・・。

 「男らしくないよ。負けたんだから出て行きな」

「俺の勝手だろ」

「はあ?剣も抜かせられなかったくせに」

「・・・」

黙らせてやった。

本当のことだし、今はニルスの邪魔をしてほしくない。


 「・・・いや、残っていい。ていうかお前戦士になれよ、軍団長様にも言っといてやる」

「そうじゃな、鍛えてやる」

あ?

 「ちょっと二人ともダメだよ。ニルスの邪魔しないで!」

「邪魔はしねー・・・見て盗む」

バカだ・・・どうせ相手にされないのに。


 「ニルスの状況わかってんでしょ?余計なことしないでほしいんだけど」

「いや、これ真面目な話なんだよ。・・・戦士が足りない、各隊からの選出は済んだが辞退者も出てる」

「だからって・・・待機の人たちを鍛えればいいでしょ?それに英雄になりたいって志願に来てる人もいっぱいいるじゃん」

「使えるかは別だ。相手が悪かったけど、こいつはすぐに前線で戦える実力はある。次・・・負けらんないんだろ?」

ウォルターさんの目は真剣だ。

 たしかにニルスが相手だったし、どんくらいなのかあたしにはわからなかった。

集まってきた人たちよりは上ってことか・・・。


 「・・・で、どうするティムくん?残るんなら最後の戦場には出てもらう。死にたくなかったら今出てけ」

「やる」

ティムの目に迷いは無かった。

たちの悪い女かっての・・・。


 「よーし、お前は今から戦士な。早速戻ろうぜ」

「・・・あいつと俺はどのくらい離れてる?」

「そうだな・・・爺さん」

「うむ・・・貸せ」

おじいちゃんはティムの剣を抜いて振り上げた。

 「ジジイ、勝手に・・・」

「当てんから目を閉じるなよ」

「・・・」

剣はティムの顔に当たる前に止まった。

おじいちゃんも速いな・・・。


 「お前を負かしたあの男は、ここからでも難なく勝てる・・・返す」

「・・・」

「距離で言えば、大陸の端から端くらいか。遠すぎて見えなかったじゃろ?」

「・・・上等だ!もっとあいつを見たい、早く行くぞ」

ティムは少しだけ口元を持ち上げた。

 なんかおじいちゃんと戦う前のニルスと似たような顔してる。

実力差は・・・まだまだみたいだけど。



 「お・・・始めてるな。仲良くやってるよ」

鍛錬場に戻るとニルスとアリシア様が向き合っていた。

・・・ステラとは話してきたのかな?


 「あの女はなんだ?あいつとおんなじ髪・・・姉ちゃんか?」

「ははは、あれが雷神様だよ」

「は?熊じゃねーじゃん」

「見てりゃわかる」

ニルスは隙を見て、さっきと同じ蹴りを放った。

間違いなく決まったはずだけど、アリシア様は怯まずに反撃に出ている。


 「やべー女だ・・・化け物かよ。魔物でもあんなのいなかった・・・」

「当然でしょ。あんたはあれで倒れたよね」

「うるせー女だ・・・俺は引きずらねーんだよ。・・・もっと近くで見る」

ティムが前に出た。

 スコットさんたちも来てる。

あたしも同じ方向に用があるんだけどな。

付いてこ・・・。


◆ 


 「もっと来い!!!!」

ティムが座り込もうとした時、アリシア様が叫んだ。

 女神様から与えられた力、ニルスに向けられたものなのにあたしの体も動かなくなった。

 「・・・」

ティムも中腰のまま固まってる。


 「どうしたニルス!以前は耐えただろう!」

「・・・」

ニルスは体当たりをまともに受けてしまったけど、踏みとどまって押し返した。

あれができる人間はどのくらいいるんだろう?


 「・・・もう俺に構うな。どっか行ってろ」

「一緒に走る?」

「・・・行け」

ティムは座り込んで二人の動きをじっと見ている。

 本当に盗む気なんだ・・・。

こいつじゃまだ無理そうだし、勝手にさせとくか。



 「来たねミランダ、早速走り込みから行きましょ。守護を私とスコットに張ったまま訓練場を十周」

「シロは他の戦士の手伝いを昼までやるみたいだ。それまでは三人で始めてよう」

ティララさんとスコットさんが背中を叩いてくれた。

こういうの気合入るな・・・。

 「はい、今日もよろしくお願いします」

「きのうよりも速く、長くよ」

「まだきつく感じるだろうけど、乗り越えていこうぜ」

二人とも優しい、未熟なあたしをしっかりと支えてくれてる。


 「ミランダがもっと成長すれば、アリシア隊で出てほしいんだよね」

「え・・・あたしが・・・」

「本当はニルス君も欲しい。正直、あの子がいればかなり安心感がある。・・・アリシア様はたまに無茶言うのよ。それに全部応えられるのはニルス君だけだった」

ティララさんは昔を懐かしむような顔をしている。

・・・そんなこと今言っていいのかな?


 「まあステラ様の死守は外せないからね。不死だって言っても、邪魔が入れば戦士たちの治癒が止まる。・・・責任重大よ」

「重圧は感じます・・・」

一人で守るわけじゃないけど、ステラが落ちたら大変だ。

 ニルスとステラには結界を張りっぱなしでいいけど、おじいちゃんとシロはそうもいかない。

もし敵が来たらあたしがしっかりしないとダメだよね。


 「そんなに構えなくてもニルスがいれば大丈夫だろ」

「スコットさんもかなり信用してますね」

「うまく言えないけど・・・なんとかしてくれるんだ。だから安心感がある」

わかる気がする。

頼りになるんだよね。



 走り込みから戻ってきた。

ニルスたちは・・・まだやってる。


 「踏み込むのが早い、それでは私でなくても見切れる」「そこで反撃に出るなら突きの方がいい」「相手の体格と武器の間合い・・・お前ならすぐに見極められるはずだ」「必ず連撃とは教えたが、敵の反撃の気配を見逃すな」

なんだか今日はアリシア様の声がよく聞こえるな。

きのうまでは、ただぶつかってだけだったのに・・・


 「・・・はい、アリシア隊長」

ニルスもちゃんと返事してる。

 ・・・いい、会話できんじゃん。

やっぱり強さは認めてるからなんだろうな。



 「あ、シロ。アリシア様、けっこうやり方変えたね」

ちょうど休憩に入ったから聞いてみた。

この子はステラとの話を一緒に聞いていたから、なにか知っているはずだ。


 「うん、ステラも仲直りに協力してくれたから」

「え・・・本当に?」

あのステラが・・・。

 「あれはステラからの助言なんだ。アリシアは戦いのことだったら教えてあげられる。それで距離を近付ければいいって」

アリシア様は普通に話すのも恥ずかしがってたけど、あれなら大丈夫みたいだ。

ニルスも強くなりたいから真面目に聞いて答えてるし・・・これもルルさんに報告だな。


 でも、ステラはどんな気持ちでそれを決めたんだろうな。

ニルスの幸福・・・そういうのを一番に考えたんだろうけど、本意ではなかったはずよね・・・。


 ・・・あたしも慰めてもらったし、色々溜め込んでそうだったら全部聞いてあげることにしよう。

そういう時に支え合うのも仲間だもんね。

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