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Our Story  作者: NeRix
地の章 第一部
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第九話 聖戦の剣【ケルト】

 「あ・・・少し・・・失礼します!もうお休みになってください!」

アリシアは外へ飛び出していった。

ふふ、喜んでくれたんだね。


 『・・・なんか僕の顔を見なくなってきてない?』

『そ、そんなことはありません。忙しいだけです』

すぐに頬を赤くして、とてもかわいい人だ。

今まで戦うことしか考えてこなかったんだろうな。


 不愛想な所もあるけど、僕にとってはとても魅力的な女性に見える。

・・・いや、まだ十三だったか。

 少女・・・ではあるけど、ここまで美しい女性を見たのは初めてだった。

だから、本当は一目惚れだったんだ。

そうでなければ、精霊鉱を見せたりしない。


 『・・・お嬢さんには悪いけど、気が乗らないんだよね』

でも、いじわるしたくなってしまった。

 ちょっと困った顔が見たくなっただけ。

でも君は・・・。

 『ならば、しばらく私をここに置いていただけないでしょうか!仕事や身の回りのことをさせてほしいのです!』

あれは僕に対する情熱では無かったけど、それでも嬉しかった。

どっちにしろ、なにか理由を付けて留まってもらおうと思ってたけどね。


 『私はどうしても壊れない武器が欲しいです!』

まっすぐな人だ。

 剣ができあがったらどんな顔をしてくれるんだろう。

できれば僕に笑顔を向けてほしい。


 だから仕事を急いだ。

納期は半年も先だったけど、彼女がいたことでその気になった。

 本当はすぐに作ってあげてもよかったけど、それだといいものはできない。

想いの強さを大きくする時間も必要だったからな。


 アリシア・・・僕の命を君に渡そう。



 「あれ・・・もう無くなってたか・・・」

お酒が切れていた。

ああそうだ・・・最近はアリシアが用意してくれてたから気にしてなかったんだ。

 行商さんが来るまでおあずけか・・・次は何日後だっけ?

たしか、使う量が増えたから十日に一度じゃなくなったって聞いた気がする。

・・・これもアリシアがやってくれてたからわかんなくなっちゃったな。


 「まあ、酔えなくてもいいか・・・」

お酒が無くても気分がいい。

君のために、君が喜ぶものを作ってあげられるからなんだろう。

 できれば完成までは一緒に工房にいてほしいな。

よし、明日の朝話してみよう。

その時に想いも・・・。



 「ふー・・・大事な日の前って緊張するな」

もう風呂には入ったけど、外の水場まで出て顔を洗った。

冷たくて気持ちも引き締まってくる。


 「あれ・・・」

足元にアリシアの服が落ちていた。

 「・・・なんでここにあるんだ?」

今日着ていたものだ。


 ・・・ここで体を流した?

顔が火照ってたし、お風呂じゃダメだったのかな?

それくらい嬉しくて興奮しちゃったってところか。

 ん・・・いい匂いだ。

外に出て行ってから姿が見えないけど、部屋に戻ってるのかな?



 「待てよ・・・怒られるかも・・・」

服を届けに彼女の部屋の前まで来た。

 別にすぐ渡すだけなんだけど、服の中には下着もあったから変に思われるかもしれない。


 「あ・・・違う。洗濯するんだから籠に入れておいてあげればいいんだ」

気付けてよかった。

なにも考えずに渡していたら嫌われてたかもしれない。

 いや、なにか意味があって・・・そんなわけないか。

もういい、籠に入れたら部屋に戻ろう。



 自分の部屋に入った。

真っ暗だけど、慣れているから明かりが無くてもわかる。


 「ふふ、今日も太陽の匂いがする・・・」

アリシアが来てからベッドはいつも綺麗だ。

 毎日シーツを洗ってくれてるから気持ちよく眠れる。

孤児院で生活してるから家事は得意なんだろう。


 さーて、今日もアリシアのこと考えて寝よ・・・。


 「え・・・なに・・・」

ベッドに入ろうとした時、いつもと違う感触があった。

 なにか・・・いる?

僕は指先だけに光の魔法をかけて、そーっとベッドをめくった。


 「・・・なにしてるの?」

「・・・」

そこには、両手で顔を隠したアリシアがいた。

・・・混乱しそうだ。いや、冷静に話しかけよう。

 「アリシア・・・ここは僕の部屋で、君がいるのは僕のベッドだよ?」

「・・・」

部屋を間違った可能性も・・・違う。

彼女は、服も下着も身に付けていない・・・。


 「ケルト・・・」

アリシアの手が顔から離れて、僕の指先を閉じ込めた。

小さな光が無くなり、部屋が暗闇に染まる。


 「ケルト・・・体が熱いんだ。瞑想をしてもおさまらない。剣を振っても、水を浴びても、服を・・・脱いでも」

アリシアの腕が僕に絡みついてきた。

たしかに熱い、それにすごい力だ・・・。

 「アリシア・・・」

これ・・・逃げられないな。

でも、望んでいたことでもある・・・。


 「触って確かめてほしい・・・まるであなたが打つ鉄・・・」

「たしかに・・・熱いね」

「鉄は・・・熱いうちにと言っていた・・・」

そうだね。

僕も・・・負けない熱さで・・・。


 「あなたも・・・熱い」

「うん、任せてアリシア」

顔が見たいな。

きっと今の君は、とても美しいんだろう・・・。



 瞼に光が射しこんだ。

外はちょっとだけ強い風が吹いているみたいで、森の木々がざわめいている。

 ああ・・・陽が昇るのか。

・・・とても幸福な夜だったな。


 見た目は大人に近いけど、成人前の少女・・・。

ふふ、冷静に考えても後悔とか罪悪感は無い。

 若さ、本能・・・そういうのに身を任せた自覚はある。でも、とても幸せだったからだ。


 「ん・・・」

隣から艶めかしい声が聞こえた。

僕の手は、すぐに美しい髪を撫でにいく。


 「おはようアリシア、もう熱は冷めた?」

「え・・・あの・・・はい・・・冷ましてもらいましたので・・・」

そう言う割には、また顔が赤くなっている。

・・・なんて愛おしい人なんだろう。


 「あの・・・昨晩は・・・申し訳ありませんでした」

「あはは、なんで謝るの?」

「・・・失礼しました。すぐに朝食を作ります」

アリシアは素早く毛布を体に巻きつけて、大急ぎで部屋を出て行った。

あんなに焦って・・・かわいいな。


 唇・・・欲しかったんだけど・・・。



 いつも通りに朝食を済ませた。

それでも昨晩のことを思い出すと、とても特別なことに思える。


 「今日は精霊鉱を工房へ運ぶのを手伝ってもらいたい。そのあとは僕の助手かな」

さっそく話を切り出した。

一緒に作るんだ。

 「はい、私の剣ですから」

アリシアは嬉しそうに三つある精霊鉱の一つを持ち上げた。


 「・・・とても重いですね」

「加工すればかなり軽くなるんだってさ」

「軽く・・・大丈夫なのですか?」

「大丈夫、君の望む壊れない剣にすることができる」

アリシアの為なら作れる。

それくらい強い思いも込めるんだ。


 「そうだ・・・頼んだ私が聞くのもおかしいですが、なぜ剣を作る気になったのですか?」

いい質問なんだけど、順番が逆になってしまったな。

 「愛だよ。君の喜ぶ顔がどうしても見たくなったんだ」

「あ・・・あの・・・私は・・・」

アリシアはまた顔を赤くした。

でもそれが一番大事なんだ。説明してあげよう。


 「魂の魔法・・・そういうものがあるんだ」

「魂・・・」

「作る物に気持ち・・・思いを込められる。それは、強ければ強いほどいいものになるんだ」

だから君への気持ちを大きくさせる時間が必要だった。

 「功労者の剣から感じた不思議なものはそれですか?」

「その通り、おめでとうって気持ちを込めた。しかも君が受け取ったものにだけ。・・・なんとなく気まぐれだったんだけどね」

アリシアの剣はあれとは違う。本当に強い思いを打ち込むつもりだ。

 そして、想いも込めて他人が使うことを拒むようにしよう。

そうすれば、僕の作った剣が彼女を傷付けることはない。


 「あなたは・・・いつから私を・・・」

「君と出逢った時からだよ。だから本当にいいものを作ってあげたいと思ったんだ」

「・・・」

「思いが弱いと、精霊鉱の力を引き出せない。君への強い愛情が必要だったから時間を貰った」

騙してたわけじゃないし、怒らないよね?


 「そういうことは・・・初めから・・・」

「うーん・・・君の色んな反応が見たかったのもある。・・・僕の気持ちは伝わったと思うけど、アリシアの気持ちも聞きたいな」

「私は・・・ケルトを・・・あの・・・」

「ふふ、受け取ったから大丈夫だよ」

アリシアは気持ちを言葉にするのが苦手みたいだ。

でも顔を見ればわかる。


 「それと、君が使っているベッドを僕の部屋に置こうと思う。あとで一緒に運ぼう」

そして、もっと喜ぶことを・・・。

 「え・・・」

「今日からは同じ部屋で寝たい。二人で一つだと狭いでしょ?だからくっつけちゃおう」

「私も・・・そうしたい。あなたの声や寝息を聞いて眠りたい・・・です」

断られないことはわかっていた。

そして、精霊鉱を持っている今なら・・・。


 「え・・・ん・・・」

アリシアの唇を塞いだ。

これも拒まれない。

 「毎朝、毎晩・・・こういうことをしたいな」

「・・・はい」

「もっと愛を大きくしたいんだ」

だからこそ、隠し事はしたくない。


 「とりあえず工房まで行こうか」

向こうに着いたらすべて話そう。



 二人で工房に入った。

あとは伝えるだけ・・・。


 「座って。加工に入る前に聞いてほしいことがあるんだ」

「はい・・・」

アリシアは素直に従ってくれた。

話すことにためらいはない。なにを言われても作ると決めたからだ。


 「・・・この精霊鉱は、僕の命なんだ」

「・・・はい。それくらい大事なものだということはわかっています」

「そうじゃない、これ自体が僕の命なんだ。三つある精霊鉱、すべてを打ったとしたら僕は死ぬ」

「え・・・」

アリシアは戸惑っている。

説明が回りくどかったかな?


 「精霊鉱は命を元にして、精霊と契約することで作り出せるものなんだ。一つの命から三つ、覚悟があって認められた者だけが与えられる。だから貴重で、僕にしか加工できないんだ」

「バカな・・・それでは頼めない!私はケルトに死んでほしくない!」

「心配ないよ。君の剣を打ってもまだ二つ残る」

「本当に・・・大丈夫なのですか・・・」

アリシアの手が僕の腕を掴んだ。

嘘をつく必要がないんだけど・・・。


 「アリシア、これを使いたいってこんなに強く思ったのは初めてなんだ。君を・・・愛してしまったからだろうね。そして完成まで一緒にいてほしい」

「あ・・・はい」

「手伝ってほしいんだ。しっかりと押さえててね」

「はい」

彼女は笑顔を見せて頷いてくれた。

見たかったもの・・・完成したら、もっといい顔をしてくれるんだろうな。



 「アリシア、少し休憩をしたい。水が欲しいな・・・」

「用意します。・・・飲んでください」

アリシアが僕にグラスをくれた。

暑いな・・・。


 精霊との契約で手に入れたのは精霊鉱だけではない。工房の鍛冶場もそうだ。

 精霊鉱は生半可な熱では加工できない。

ここまで温度を上げるのは久しぶりだった。

 それでも長い時間がかかる。

こんなに熱い炉に入れても、溶け出すのは表面だけだ。

 叩き、また炉に入れて、少しずつ形ができていくもの・・・。

まあ・・・夜は休むけどね。


 「ふー・・・ありがとう。それと丁寧な言葉遣いはやめて、楽な話し方をしてほしいな」

「・・・努力します」

「無理にとは言わないけど・・・。少しだけ外の空気を吸ってくるよ」

しんどいな、体は持つだろうか。

弟子の一人でも取っておくべきだったかな。信用できる人に限るけど・・・。



 外はとても涼しい、もう昏の月になるし冬の空って感じだ。

寒い時は・・・彼女を抱いて眠ればいいな。


 ・・・だいぶ楽になった、そろそろ戻ろう。



 「ニルスは妹のルージュと一緒に、お父さんとお母さんを探す旅に出ました。平原の風は、二人の背中を優しく押し・・・」

工房に戻るとアリシアが本を読んでいた。

音読はいつもなのかな?


 「失礼だけど、読書なんかしない人だと思ってたよ」

「普段はしないさ。あったから読んでいたんだ。孤児院の子どもたちに読み聞かせもしていたよ」

なるほど、声に出すのはそのせいか。

そして楽な話し方・・・すぐにできるんだな。


 「それは兄妹の話でね。子どもの頃からとても好きな物語なんだ。さあ、続きにかかろう」

「はい」

アリシアはすぐに本を閉じた。


 大丈夫だ。

きっと世界一の剣を作れる。そうじゃなければ君に見合わない。



 「壊れない武器は、もし敵に奪われたらどうなる?」

アリシアはよく話しかけてくれる。

それが癒やしになっていた。


 「この剣は特別なんだ。君以外には使えない、打ち込んだ僕の思いが拒むようになる」

「そうなのか、それなら安心だ」

他に使えるとしたら・・・僕くらいかな。


 「ケルトの思いも一緒なら・・・心強いな」

「必ず応えるよ」

「ありがとう」

君の笑顔は僕の全身に力をくれる。

今日はまだまだできる・・・。



 「はあ・・・ここまでにする・・・」

昼が過ぎた頃、集中が途切れた。

 今日はこれ以上やってはダメだ。

気持ちが強い時にだけやりたい。


 「大丈夫かケルト・・・家までおぶってやる」

「うーん・・・情けないけど、お願いしたいな。精霊鉱を炉に入れておいてほしい・・・」

「わかった。炉はどうなる?消えてしまっては意味が無い」

「大丈夫・・・精霊の特別製なんだ。僕の心と繋がっているらしい、だから消えてって思うまでそのまま」

鍛冶屋はみんな欲しがるだろうな。


 「じゃあ、帰ったら元気が出るものを作ろう。明日は行商が来る日だから残った食材を全部使う」

「・・・一緒にお風呂も入りたい」

「・・・せ、洗濯が先だ!」

やった・・・。


 「それと・・・今夜も・・・体が熱くなったら・・・」

「熱くなったら?」

「・・・」

「ふふ、愛を大きくしようか」

「・・・うん」

もっと・・・もっと思いを打ち込むために・・・。



 何日・・・何度も叩いた。

彼女の剣に僕の心と愛をすべて・・・。


 「よし・・・見てアリシア、とても美しい刃だ。・・・持ってみて」

生涯で最高の出来だと思う剣が完成した。

たぶん・・・たぶんだけど、これ以上は打てないって思えるほど。


 「ああ、美しい剣だ。すごい・・・すぐ手に馴染む、そして本当に軽い・・・」

「君のためだけに作ったものだからね」

「だが・・・私にこんな装飾は似合わないのではないか?」

アリシアは剣を彩る細工を見て困った顔をした。

 そんなことは無いんだけどな。プラチナの髪の毛、整った顔・・・戦場の乙女にふさわしい。


 「宝石の並びも、入れた模様もちゃんと意味があるんだよ」

「どんな意味だ?」

「うーん・・・風と恋、凛と咲く花って感じかな」

「・・・よくわからない」

ふふ、芸術家ではないからな。


 「感じてもらえればいいよ。雷神の隠し子に似合うようにしたんだ。絶対に壊れはしないけど、大切にしてほしい」

「もちろん大切にする。ケルトの命ともいえる剣だ。あなたが一緒に戦ってくれる・・・」

「剣から僕を感じるってこと?」

「うん・・・この剣からもケルトを感じる」

アリシアは幸福な笑顔で剣を抱いた。


 ああ、この顔が見たくて打ったんだ。

だから僕も幸せだよ。


 「それとね・・・」

僕は自信作には名前を付けている。

 「文字通り僕の命だけど、ちゃんと名前を付けたんだよ」

「どんな名前だ?」

この剣の名前は・・・。


 「聖戦の剣アリシアだ。君のための剣だからね」

「聖戦の剣・・・私の名前・・・気に入った。・・・ケルト?」

「はあ・・・はあ・・・。大丈夫、疲れただけだよ・・・」

少しだけ息苦しい、一つ使ってしまったからかな?


 でも・・・全然惜しくはない。

僕と君の愛が形になったからだ。

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