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悪役令嬢 お守りします!  作者: ワナリ
第一話『プロローグ? バトル? そして結婚?』
3/10

【03】エンゲージ


「――はあ⁉︎ 結婚って……、アンタいきなり、なに言ってんのよ⁉︎」

 

 初対面の相手に――、しかも真っ暗闇の異常空間で、突然、同性から結婚を申し込まれた私は面食らってしまう。

 

「アハハッ。そうかそうか。いきなり驚かせちゃってごめんねー。エンゲージっていうのはさ――いわゆる契約って事だよ」

 

 目の前にいる黒い女が、そう言って笑う。

 いや、女の子に向かって結婚を口走りながら、アハハで済ますなよ。

 だけど――『契約』って?

 

「君はセーラのせいでこの世界に――、彼女が構築した『物語の世界』に転生させられたんだろ?」

 

「――――⁉︎」

 

 女が、私の転生の事情を知っている事に息を呑む。

 

「あ、アンタ、何者なの?」

 

「フフン。アタシは悪魔さ」

 

 私の当然の質問に、女はニヤリと笑う。

 次の瞬間、女の体を覆っていた薄いベールの様な闇が取り払われた。

 

「悪魔……?」

 

 驚く私の目に、セーラとはまた違った神々しい――まるで女神の様な存在が出現する。

 

「そう、アタシは堕天した女神――。それを人は悪魔って呼ぶけどね」

 

 女はそう言うと、背中に生えた漆黒の翼を広げる。

 

「ねえ、アタシと一緒にセーラのやつをぶっ倒さない? 君も、あのアズって子を守りたいんだろ?」

 

「――――! お前がアズと契約した悪魔か⁉︎」

 

 アズの事を持ち出され、私はまずそこを確認する。

 ストーリーでは、アズは母親の胎内にいる時点で、悪魔に見そめられエンゲージ――すなわち結婚という名の『契約』をした事になっている。

 それなら、こいつを倒せばアズは解放される事になるはずだ。

 

「ああ、アタシを倒そうなんて思わない方がいいよー」

 

「――っ!」

 

 心中を見透かされ、私は動揺する。

 

「だってアタシは、セーラの物語をちょっと書きかえただけ――。つまり介入しただけの存在だからね」

 

「そ、それってどういう事よ?」

 

「そうだなー。まあ簡単に言えば、君がピッチに転生して物語に入り込んだ様に、アタシも強引に悪魔のキャストに成り代わっただけ、って言えば分かるかな?」

 

「えーっと……、つまり……物語が始まる以前の、基礎設定は変えられないって事?」

 

「察しがいいねー。そう、仮にアタシが消えたところで、アズの悪魔契約と――、即死魔法の力は消えないって事さ」

 

 女の説明に、ラノベ好きだった私は、瞬時にある結論にたどり着く――。

 

「それなら――、過去は変えられなくても、未来は書きかえられるって事だよね⁉︎」

 

「ブラボー! やっぱり君は素晴らしいよ、ピッチ!」

 

 女は宙に浮いた状態で、パチパチと手を叩く。

 悪魔に褒められても、なんか複雑な心境だ……。

 

「さあアタシと契約――」

 

 と女が口にした瞬間、

 

 ――パキパキ! パリーン!

 

 という轟音と共に、暗闇の中でガラスを割ったかの様な光が差し込んでくる。

 

「ちょっとアクア、なに私の作った物語に入り込んでるのよ!」

 

 まばゆい光を纏いながら、こちらに飛んでくるのは――、なんと私をぬっコロして転生させた元凶、女神セーラだった。

 

「ヤッバ、意外と早く見つかっちゃったな。聖女の足止め工作をしてるから、しばらく大丈夫だと思っていたのに」

 

 アクアと呼ばれた悪魔が、半笑いでそう言った。

 それにしても、ストーリー的には駆けつけてくるはずだった主人公聖女が、いまだに来なかったのは、セーラのやつが足止めしていやがったとは……。

 

「セーラ、お前、セコいマネすんなよ!」

 

「プゲラッ。セーラ、人間にセコいって言われてやんのー」

 

 私の怒りに、アクアが便乗して爆笑する。

 

「うるさい、うるさい、うるさい! どうしてアクアはそうやって、いつも『お姉ちゃん』の邪魔をするのー!」

 

 ――お、お姉ちゃん⁉︎

 

 わめき散らすセーラの聞き捨てならない発言に、私は愕然とする。

 セーラとアクアが姉妹――。つまりこれは姉妹ゲンカなのか?

 

「さあ、時間がない。ピッチ、早く契約しよう」

 

 困惑する私に、アクアが決断を迫ってくる。

 いやいや、私、姉妹ゲンカの片棒担いで、女神と悪魔の代理戦争に参戦とか嫌なんですけどー!

 全身で拒絶姿勢を示す私に、

 

「アズを――、救いたくないのかい?」

 

 アクアの言葉は、まさに悪魔の囁きだった。

 そうだ、私の目的はアズを守る事だ。

 このままでは私は倒れ、アズはディルレインに即死魔法を使ってしまう――。

 

「どうすれば、いいの⁉︎」

 

 覚悟を決めた私に、

 

「いいかい、アズの事を想うんだ。アズはアタシという存在と契約している。その契約に君を加えて『二重契約』の形にする。つまり君たちは、アタシという仲人を通して一つになる。それが――エンゲージさ!」

 

 アクアが契約の手順を説明してくる。

 そして私は自分の心と向き合う――。

 

 アズ――、アズ――、アズ――。そうよ、あの物語を読んでから、私の心はいつもアズでいっぱいだった。

 アズ、あなたを救う――。誰でもない、私の手で!

 

「さあ今、アクアの名のもとに、誓いの儀を執り行わん――」

 

 アクアが詠唱を始める。

 

「ピッチよ――。その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも――、アズを愛し、アズを敬い、アズを慰め、アズを助け、その命ある限り――、いや、永遠(とわ)にアズを守る事を誓うか――⁉︎」

 

「誓います!」

 

 私は即答する。

 

「よかろう! ピッチ――、我の契約者アズとの婚姻を認めよう! ――エンゲージ!」

 

 ――ガラーン! ゴローン!

 

 アクアの宣言と同時に、鐘の音が聞こえてきた。

 同時に私の体に、周囲を覆い尽くす闇が入り込んでくる。

 そして、力がみなぎるのと同時に、意識が遠のいていく――。

 

「な、なんて事を……!」

 

「ウフフフフッ」

 

 私が最後に聞いたのは、セーラとアクアのそんな声だった。

 

「――――⁉︎」

 

 私が意識を取り戻すと、景色が学院に戻っている。

 辺りを覆いつくしていた闇も消えているし、リーゼやヴィヴィーたち、生徒の姿も――それにアズだけでなく、ディルレインの姿も元通りだ。

 

「絶対に許さない。アズは私が守る……って。アハハッ、いいねえ。君は女だてらに、その魔女のナイトか何かのつもりかい?」

 

 意識が途切れる前に、アズを侮辱した事に憤った私の発言を、ディルレインが茶化してくる。

 時間は確かに繋がっている――。私は槍で殴られた衝撃で、何か幻覚でも見ていたのだろうか?

 さっきまでの闇の世界が信じられなくなった私が、ふと目を下ろすと、

 

「――――⁉︎」

 

 視線の先に映る左手に――。その薬指に指輪がはめられている事に驚愕する。

 ――こ、これは⁉︎

 物語の挿絵で、アズが悪魔契約の証としてはめられていた指輪と、まったく同じものだ。

 黒い――。鈍く輝きながら、それは本当に闇の様に真っ黒だった。

 

 ――これが契約の証? アズとエンゲージした結婚指輪なの?

 そう考えれば、すべての辻褄が合う。

 それなら私が、アクアという悪魔と契約したのも幻覚なんかじゃなくて、本当の事――。

 

 ――力が欲しいかい?

 アクアはそう言っていた。

 エンゲージは、そのための代償だったはずだ。

 ――それなら!

 

「ディルレイン、私はお前を倒す!」

 

 私はもう一度、デュアルフレイマーの力で、炎のグローブを構築する。

 

「な、なんだと⁉︎」

 

 ディルレインが動揺の声を上げる。

 同時に私自身も驚いていた。

 なぜなら炎の勢いが、さっきまでと段違いのものになっていたからだ。

 火力だけじゃない。炎の色もそれまでの赤黄色のものから、赤黒いものに変貌していた。

 それに私の赤い髪からも、火花が散っているのが分かる。

 

 これが契約の――、悪魔の力なの?

 だが、すぐにそんな事はどうでもよくなった。

 ディルレインを倒せるなら――、アズを守れるならそれでいいんだ!

 

「うおおおおーっ!」

 

 また拳を振りかぶって、私は特攻する。

 私には、これしかない。だがスピードが以前とは、段違いだった。

 

「うおっ⁉︎」

 

 ディルレインが、私の拳を槍で受け止める。

 さっきまでは軽々と身を翻していたのに、その姿は明らかに余裕がなくなっていた。

 

「きえええーいっ」

 

 今度は上段蹴りを放つ。

 これもさっきは片手で止められたが、ディルレインはそれをかわすのに、無様に尻もちをついていた。

 しかも炎を纏った私の脚がかすっていたらしく、美しい金の髪が少し焼け焦げていた。

 

「貴様、もう許さんぞ! 僕を本気で怒らせたな!」

 

 ディルレインは立ち上がると、体勢を立て直し、槍を私に向けて構え直す。

 明らかな殺気がみなぎっている――。間違いなく私を突き殺す気だ。

 だけど、さっきのセリフって、あれ死亡フラグなんだけど……。

 もう私には、そんな事を考える余裕さえあった。

 

「究極奥義――、サウザンドアロー!」

 

 ディルレインが、叫びながら槍を繰り出してくる。

 おやおや、初回でいきなり究極奥義ですか。それに槍なのにアローって、ちょっとネーミングセンスなさすぎじゃないですか?

 槍の連続突きをかわしながら、私はそんな事を考えていた。

 

「なぜだ⁉︎ なぜ当たらない⁉︎」

 

 ディルレインが、狼狽えている。

 いや、そう言われても、ほんとに今の私には、槍がスローモーションに見えるんですよ……。

 なるほど、アクアと契約した力は、本物の様だ。

 

 それはそうとして、さて、どうしたものか――。

 引き続き、槍の連続突きをかわしながら、私は考える。

 ここでディルレインを殺すのは簡単そうだが、殺してしまっては、それはそれでアズに迷惑をかけてしまうに違いない。

 うーん。それなら――、適切な『手打ち』といこうじゃないか。

 

「クソーッ、悪魔の手先め!」

 

 ――すまん。それはもう否定できない。

 ディルレインの非難を受け止めらながら、私はつま先で、その足を払っていた。

 

 ――ズデン!

 

 予想以上のオーバーアクションで、ディルレインが空中を回転すると、腹ばいにすっ転んだ。

 おや、ほんとこの力すごいな。こりゃうまく調整しないと、本当に死んでしまうな――。

 私は思案しながら、すでに地面に突っ伏し、『死に体』となったディルレインの体を両脚でまたぐ。

 

「な、なにを……?」

 

 ディルレインが恐怖におののいている。

 彼だけでなく、見守る一同も何が起こるのかと、息を呑んでいるのが分かる。

 いやいや、これはケジメですよ。

 だって、まだ試合は終わっていない――。

 ディレインは私に、『技あり』を食らわせ続けたが、まだ『一本』には至っていない。

 それにまだ相手は無傷ですよ――。ならこれは『死体蹴り』じゃないからね!

 

「この一撃は――、アズを侮辱したお返しだーっ!」

 

 ――ドゴッ!

 

 鈍い音と共に、私の真下に打ち落とした正拳突きが、ディルレインの背中をヒットする。

 だいぶ加減はした。一応、こいつ最強だし、ヒーラーいれば大丈夫でしょ?

 様子をうかがうと、ディルレインは白目をむいて気絶している。

 よし呼吸はしている。後の事は――知らん。

 

「おおおおっ!」

 

 周囲から喚声が上がる。少なくとも歓声ではない事は、なんとなく分かる。

 いざとなったら、アズを連れて全力で逃げるか――。

 そんな事を考えながら、その場を離れようとすると、

 

「うっ――!」

 

 突然襲ってきた全身の疲労感に、片膝をついてしまう。

 これはディルレインの槍によるものではない。アクアからもらった力に、体がついてきていない反動だ。

 なまじ格闘技をやっていただけに、その辺の事はよく分かる。

 うーん、もっと体鍛えなくちゃなー。

 なんて思っていると、

 

「ピッチ――」

 

 という声と共に、体がフワリと持ち上げられる。

 

「えっ⁉︎」

 

 動揺する私の顔のそばに、アズの顔があった。

 なんと私はアズに、お姫様抱っこをされていたのだ。

 

「こんな傷だらけになって……。ごめんなさい、私のために」

 

 アズはそう言いながら、私に頬ずりしてくる。

 あー、柔らかーい。それにほんとに、いい匂い……。

 って、待て待て待て! なんでこうなってるんだ⁉︎

 

「ピッチ、私を守るって言ってくれて、ありがとう。それに――、あなたの気持ちにずっと気付いてあげられなくて、ごめんなさい」

 

 アズが熱い目で、私を見てくる。

 そして私の左手にはめられた指輪に気付くと、

 

「それは……、私とお揃い!」

 

 驚くと同時に、何かを決意した顔付きになる。

 その時のアズは、まるで王子様の様だった。

 

「ピッチ――、結婚しましょう」

 

 はい――?

 いやいやいや、確かにアズとはエンゲージしたけど、それってアクアを通した、悪魔で――じゃない、あくまで『契約』って意味ででしょ?

 いったいどういう事だ……。訳が分からないぞ。

 

「け、結婚って、アズ様は大司教家の御令嬢。ピッチは私たちと同じ、みなしご上がりの従者ですよ」

 

「そ、そうです……。み、身分が釣り合いません……」

 

 リーゼとヴィヴィーが、いいツッコミを入れてきた。

 そうだよ。気持ちは嬉しいけど、ちょっと冷静になろうよアズ。

 それに原作だと、あなた、ちゃんと理知的な判断ができるキャラだったじゃないの。

 

「身分の差? そんなの関係ないわ!」

 

「「「――――⁉︎」」」

 

 アズの言葉に、三人揃って絶句する。

 

「大丈夫よ、ピッチ。私は次女だから、説得すれば、お父様もきっと許してくれる――。だから何も心配しないで――、丈夫な赤ちゃんを産んでね」

 

 そう言って、アズは頬を赤く染める。

 いやいやいや、どうしたー! アズちゃん、こんな頭イタイ子でしたっけー⁉︎

 私が呆然としていると、

 

「ちょっと待ったーっ!」

 

 という声が、飛び込んでくる。

 私がお姫様抱っこされたまま、そちらに目を移すと、白一色の衣装に美しい銀髪を束ねた美少女が、肩で息をしながら仁王立ちしていた。

 

「ファティア……」

 

 アズがその名を口にする。

 やっとお出ましか――。そうだよ、こいつが『白き聖女と黒き魔女』の主人公――聖女ことファティアなんだよ!

 いくら女神セーラの足止め工作があったとはいえ、お前が大遅刻したせいで、こちとら一戦交えただけでなく、なんかすごい展開になっちゃってるんだよ!

 さあ、主人公らしく、この場をまとめてもらおうじゃないのさ――。

 

 私が、やっと登場した収拾役にホッとしていると、ファティアは今度は何やら、怒りにワナワナと肩を震わせている。

 何か嫌な予感がする――。何かこう、バトルとは別物のとんでもないものだ。

 

「アズ――! 私という者がありながら、その女と結婚するなんて……。絶対に許さないんだからね!」

 

 はい――?

 ファティアの言葉に、また私は耳を疑った。

 いやいやいや、これって今度は修羅場展開ですか⁉︎



お読みいただき、ありがとうございます。


なるべくコンスタントに更新を目指しておりますので、面白いと思っていただけたら、ブクマしてお待ちいただけると嬉しいです。


感想、ご意見もお待ちしております。

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