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悪役令嬢 お守りします!  作者: ワナリ
第三話『魔法学院』

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【01】赤いヴァーラの花


 怒涛の異世界転生の翌日、私はアズと一緒に学院へと登校する――。


 昨晩、知恵熱を出したアズも全快した様子で、その足取りも軽い。

 もちろん私たちのそばには、侍女仲間のリーゼとヴィヴィーも一緒にいる。


 私ことピッチ、そしてリーゼとヴィヴィーは、アズの侍女であるが、物語中では悪役令嬢の取り巻きモブ――すなわち学友としての配役で描かれている。

 だから学院に登校するという事は――、いわば『メインフィールド』に向かっていると言ってもいいのだ!


 心なしか胸が躍ってくる――。昨日はいきなりディルレインとのバトルだったので、今日は平穏な学院ライフを送りたいと、心密かに願う。

 だが――、


「――――!」


 いきなり校門の前で、そのディルレインと遭遇する。

 ――マジか……。

 偶然なのかもしれないが、その間の悪さに私は絶句してしまう。


 見ればディルレインの傍らには、お付きなのか護衛なのか、近衛騎士らしき屈強な男が二人ほど見送りについている。

 やはりディルレインは王太子なのだと、あらためて認識する。


 オリバースタイン王立魔法学院――。

 私たちが通うこの学院の名前も、ディルレインの父が王である、オリバースタイン王国から取っている。

 経緯は向こうに非があるとはいえ、その第一王子を昨日、半殺しにしたのだから、私はちょっと、いたたまれなくなる。


 どう対応するべきか?

 ――おはようございます。とりあえず生きててなによりです。

 いやいやいや、本音とはいえ、これではさらにケンカ売ってるだろ。

 かといって、今さら普通に挨拶するなんて不可能だ……。


 よし、ここは無視だ! どうせアズが大司教の娘として、当たり障りのない挨拶をするんだろうから、私はそれに合わせて適当に会釈でもしていよう。

 そんな事を思案していると、


「――コホン。ピッチ――」


 なんとディルレインの方から、私に声をかけてきた。

 順番からいっても、主人であるアズを差し置いて、侍女である私に声をかけてくるのはおかしいだろ――?。


 となると、これはアレだ――。昨日のリベンジをしてこようってか?

 そうか、いい度胸だ。それなら、たとえ屈強な騎士がいようと、今の私ならまとめて返り討ちにしてやる――。


 って、いやいやいや、それじゃダメだ! 今日こそは、平穏な学院ライフを送ると、さっき決めたばかりじゃないか。

 ハア……、しゃーない。ここはアズのためにも、なるべく事を穏便に済ますか……。

 私は渋々決断すると、それを即実行に移す。


「えーっと、ディルレイン様、昨日は――」


 そう言って、心ならずも謝ろうとした私だったが、


「昨日は――、すまなかったな」


 なんとディルレインの方が、先手を打って謝ってきた。


 ――はい? これは何かの作戦か? 私を油断させようとしているのか?

 困惑しきりの私に、


「これは……、私の気持ちだ」


 ディルレインが、一輪の花を差し出してくる。

 次の瞬間、周囲の生徒たちがドッと湧き立つ。


 ――ん、なんだ? なんの変哲もないただの花に、なぜみんなこんなに騒ぐんだ?

 よく見ると、なんだかディルレインのお付きの騎士もひどく慌てている。


「はあ……」


 私が何も考えずに、その花を受け取ろうとすると、


「ダメ――! ピッチ!」


 突然、アズが突き刺す様な声で、それを止めにかかる。


「アズ――?」


「ディルレイン殿下、ピッチは私の侍女です。それに彼女と私は、婚姻の誓いを結びました――。これがその証です」


 アズは呆然とする私の左手を掴むと、それをディルレインに向けて、見せつける様に突き出す。


「そ、それは――『黒き魔女』の指輪⁉︎」


 うろたえるディルレインが、迂闊にもまた『黒き魔女』というNGワードを口走る。


 ――おいお前、昨日それでアズを怒らせて、結果私にボコられたんだろ――。ちょっとは学習しろよ……。

 私が苦々しく思っていると、


「そう。私と同じ『黒き魔女』の指輪よ――。だからピッチは……、もう私の伴侶なの」


 なんとアズは怒るどころか、ディルレインの言葉に乗っかりながら、勝ち誇った様な素ぶりを見せるではないか。


 おいおいアズちゃん、なんかおかしいぞ?

 私が首をひねっていると、ディルレインはディルレインで、アズの発言に唖然としている。


 まあこれは無理もないだろう。なぜなら昨日、アズが私との結婚を宣言した時、ディルレインは私の一撃で気絶していたのだ。

 だから、いきなりの『私たち結婚しました』発言に、このリアクションは当然といえる。

 だがディルレインの反応は驚くというより、何やら落胆している様に私には見えた。


「そういう事ですので、失礼します――。殿下」


 そう言うとアズは、私の手を掴んだままその場を去ろうとする。

 それに向かって、


「分かった。今日のところは身を引こう。だが――、私はあきらめないぞ」


 ディルレインが捨て台詞を残して、やはりその場を去っていく。


 なんだこの展開? 訳分からんぞ?

 困惑しながら、アズに引っ張られたまま校舎に向かうが、掴まれた手がひどく痛い事に気付く。

 それは何やらアズらしくない、ひどく乱暴な振る舞いだった。

 だから私は、


「ねえアズ、痛いって」


 と、振り向きもせずズンズン歩くアズの背中に向かって、そう呼びかける。

 それにようやくアズが振り返ると、


「――――⁉︎」


 その表情が怒っている事に、私はひどく動揺する。


「アズ……?」


「ピッチ! あなた少し迂闊よ!」


 アズはそう言って私を叱りつけると、掴んだ手をようやく離し、一人で校舎に入ってしまう。


「…………アズ?」


 呆然とする私に、後ろからついてきたリーゼとヴィヴィーが、両側から囲い込んでくる。

 その表情がいずれも険しい事に、私はさらに困惑する。


「えっ、いったいなんなの?」


 思わず口走る私に、


「なんなのじゃないよ、ピッチ……」


「そ、そうだよ。あ、赤いヴァーラの花を受け取ろうとするなんて」


 リーゼとヴィヴィーが、私を責める様な口調でそう言ってくる。


「赤いヴァーラ? あの花の事?」


 この異世界で初めて聞く花の名前に、私が首をかしげていると、


「ちょっとピッチ、知らない訳ないでしょ!」


 リーゼがさらに険しい表情で、呆れた様に詰問してくる。


「いや、ほんとに分からないんだ。赤いヴァーラの花って、いったいなんなのさ?」


 私の真剣な表情に、リーゼとヴィヴィーが顔を見合わせる。

 そして意を決した様に口を開いたヴィヴィーの言葉に、私は愕然とする事になる。


「いい、ピッチ? あ、赤いヴァーラの花を贈るっていうのは――、ぷ、プロポーズの意味なんだよ……」


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