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悪役令嬢 お守りします!  作者: ワナリ
第一話『プロローグ? バトル? そして結婚?』
1/10

【01】女神と口喧嘩


 ちょっとテンプレな話になるが、ごめん。

 どうやら私は――異世界に転生したらしい。

 あっ、待って待って、「またか」とか言わずに話を聞いて。

 

 私は……女神とケンカしてしまったんだよ。

 原因となったのは、とあるライトノベルだ。

 ――『白き聖女と黒き魔女』

 まあベタなタイトルだが、ベストセラーになっているという事で、ラノベ好きの私としては当然チェックした。

 

 正直な感想は、超面白かったのだが、同時に超ムカつきもした。

 こいつはいわゆる恋愛ファンタジーで、聖女が悪役令嬢の魔女を、三人のイケメン勇者と一緒に倒して、めでたしめでたしなんだが――。

 全然めでたくないんだよ! 私的には!

 

 だって悪役令嬢が、生まれながらに悪魔と契約してるからって、人畜無害な人生送っているのに、聖女チームに巧妙に追い詰められて、抹殺されちゃうんだよ⁉︎

 疑わしきは罰せずじゃないの? グレーは問答無用で黒判定なの?


 まあ聖女と悪役令嬢が親友で、そんな二人が運命に翻弄された上で、戦わなければならないという要素が、乙女ばかりでなく多くの読者の心を射抜いたのだが――。

 だ、け、ど、私は納得いかねー!

 

 だって私は、この手の話が大嫌いなんだ――。

 なぜなら私も、ちょっと人より優れていたせいで、十八年のこれまでの人生を、ずっとハブられ続けてきたからだ。


 数少ない友人によれば、能力の見せ方が奥ゆかしくないという事だが――。

 でも、なんで元々バカでもないのに、バカのフリしなくちゃならないのよ……。

 まっ、女子校なんて、そんなものなのかもだけど、この『白き聖女と黒き魔女』の悪役令嬢――アズも、生まれながらに背負った異能力のせいで、魔法学院でハブられちゃうのよ。

 

 でもアズちゃん、いい子なのよ。

 私と違って、陰湿ないじめにグーパンでやり返したりしなくて、憤慨する取り巻きたちを抑えて、ただ黙ってずっと受け流しちゃうのよ。

 泣いたわ! マジで全私が泣いたわ!

 なのに、なのに、主人公の聖女の奴、そんな幼なじみの友だちを、イケメン勇者たちにそそのかされて、結局、ぬっコロしちゃうのよ!

 友情よりもイケメンですか――⁉︎ ビッチか? ビッチなんですかお前は⁉︎

 

 …………。ごめん、ちょっと取り乱した。

 でも私は、その結末が本当に悲しかった。

 

 ――誰かアズを守ってあげられなかったの?

 

 私はそこにこだわった。

 アズの取り巻きの三人衆も、モブだけあって、すぐにぶっ倒された。

 だがしかし、問題はそこじゃない!

 社会が――、世の中が――、異能力を持ったというだけの少女を、なぜ守ってあげられなかったのか――⁉︎ 私だったらアズを守ってあげられたのに……。

 

 心からムカついたから、一気読みした後、私は叫んだわよ。

 

「なんじゃこの結末はー! 作者出てこいやー!」

 

 ってね。

 

 そしたら出てきたのよ――、作者が。

 

「あーら、人間風情が――私の綴った物語にご不満なのかしら?」

 

 突然、部屋の天井が時空のねじれを起こすと、そこから出てきた女が、いきなり私にそう言ってきた。

 

「えっ? えっ? えーっ⁉︎」

 

 驚く私が腰を抜かしながら女を見ると、その背中に光り輝く羽がついているじゃないか。

 

「な、なに、天使?」

 

「んー、惜しいかな。わ、た、し、は、女神よ」

 

 私の言葉に、自称女神の女はテヘペロスマイルで、そう言ってきた。いや全然、女神の重みを感じないんですけど……。

 呆れてジト目になる私に気付いたのか、自称女神が要件を告げてきた。

 

「で、私の物語のどこに、あなたはご不満なのかしら?」

 

「――――⁉︎」

 

 最初は何を言っているのか分からなかった。

 だがすぐに理解した。こいつが作者なのか? と。

 だから私はおもむろに、そのペンネームを叫んだ――。

 

「お前が――、聖羅(せいら)かー⁉︎」

 

「はい。私が女神『セーラ』でっす!」

 

 私の脊髄反射レベルの怒号に、セーラを名乗る女神は笑顔で即答してきやがった。

 

「お、お前、女神のくせに人間界でラノベなんて書いてんのかよ⁉︎」

 

「私の趣味――、そして布教ですかね?」

 

「布教?」

 

 私の疑問に、

 

「ええ。悪は尊き正義によって、必ず倒されるのです――。だから神を崇めなさないってね」

 

 セーラは笑顔の中に、冷たい眼差しでそう言ってきた。

 

「――――! ! !」

 

 その瞬間、私はブチ切れた。

 

「ちょっと待て! なんでアズが悪なんだ⁉︎ お前、何様だよ!」

 

「はいー? 神様ですけど――」

 

 セーラはあっさりそう答えてから、

 

「あなた女の子のクセに、ゲスな言葉使いをするのね。それにアズに肩入れするあたり、あなたも悪なのですかぁ?」

 

 アズの事だけでなく、私の事も『悪』と断罪してきやがった。

 

 もう私は、自分を抑える事ができなかった。

 

「取り消せ! 今、言った事を取り消せ! アズは――悪なんかじゃない! もちろん私もだ!」

 

「フン、あのアズって娘は生まれながらに悪魔と契約していたのよ。それが悪じゃなくて、なんなのかしら?」

 

「だけどアズはそんな自分の運命を受け入れながら、けっして世界を滅ぼそうとはしていなかったじゃないか⁉︎ お前、作者ならそれくらい分かってんだろ⁉︎」

 

「いいえ、アズはいずれ世界を滅ぼす――。作者の私が言うんだから、間違いないわ。だってアズは――、自分の運命を呪っていたのだから」

 

「――――⁉︎」

 

 作者しか知らない、裏設定に私は愕然とした。

 それと同時に、新たな怒りも湧き上がっていた。

 

「――なら、それなら……!」

 

「はいー?」

 

「なんで……なんで、そんなアズを守ってやらなかったんだよ⁉︎」

 

 私は声のかぎりに叫んでいた。

 

「守る? 悪を?」

 

「アズは悪じゃない!」

 

「いいえ、悪です!」

 

「違う、誰かが守ってやれば、アズだって悪にはならなかった!」

 

 もはや押し問答だった。

 

「はー、もの分かりの悪い脳筋女ですねー」

 

「うっさい、脳筋言うな! このバカ女神!」

 

「…………! バカぁ?」

 

 その瞬間、セーラの顔色が変わった。

 どうやら私は、地雷を踏んでしまったらしい。

 

「いいでしょう……」

 

 そう口にしたセーラの目に、殺気を感じた私はヤバイと感じた。

 

「じゃあアズを守ってあげればいいじゃない――、あなたがね!」

 

 逆上の叫びと共に、セーラが手を振りおろすと――、ものすごい大きさの光の玉が、私に向けて飛んできた。

 次の瞬間――、私の十八年の人生は、あっさりと幕を閉じた。

 

 ――うわー、やっとボッチのJK生活を抜け出して、来月から女子大生――華のJDデビューしようと思ってたのに……。

 

 薄れゆく意識の中で、私はそんな事を考えていた。

 

 だが――、

 

 ――ん? あれ、私は死んでない?

 

 やがて私は覚醒すると、自分が五体満足である事に気付く。

 

 ――何か……、悪い夢でも見ていたのだろうか?

 

 もしそうなら良かったが、すぐに私は自分が置かれた状況に違和感を感じる。

 

 ――どこだ⁉︎ ここは⁉︎

 

 目に映る光景が――、自分の部屋じゃない。

 

「なんじゃ、こりゃあああ!」

 

 思わず絶叫する。

 だって、私は自分の部屋にいたはずなのに、なんか学校の中庭みたいな所にいるんだよ。

 しかもただの学校じゃない――。

 校舎はまるで西洋の宮殿みたいだし、生徒たちの制服も、まるでファンタジー世界のそれだった。

 

 ――いや待て、ファンタジー世界⁉︎

 

 思い当たるフシのある私は、ある発想に行きつく。

 

 ――こ、これはまさか⁉︎

 

 そのまさかが、次の瞬間、現実となる。

 

「どうしたの、ピッチ? 突然、大きな声を出して――」

 

 私を振り返る黒髪の美少女――。

 それは間違いなく、『白き聖女と黒き魔女』の悪役令嬢――アズだった。

 

「あ……、アズ?」

 

 動揺する私の両サイドから、

 

「なに、アズ様を呼び捨てにしてるのよ! ピッチ」

 

「そ、そうだよ、失礼だよ。ピッチ」

 

 アズを呼び捨てにした不敬を、非難する声が浴びせられる。

 

 左を見ると独特な髪の流れのツリ目少女が、右を見ると小柄でオドオドした眼鏡の少女が、真ん中にいる私を、サンドイッチ状態で見つめていた。

 

 ――こ、この二人は……! アズの取り巻き三人衆の、リーゼとヴィヴィーだ!

 

 アズもリーゼもヴィヴィーも、挿絵とまったく同じ顔をしているから間違いない。

 という事はだ――。

 私は恐る恐る、校舎のガラス窓に映る自分の姿を見る。

 

 長身の背中に、赤髪のポニーテールを垂らしたルックス――。

 そこいにたのは、アズの護衛と侍女を兼ねる、取り巻き三人衆の残りの一人――ピッチだった。

 

 ――こ、これは……。

 

 私は自分の運命を理解した――。

 どうやら私は、悪役令嬢の取り巻きモブに転生させられたらしい。


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