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「それに、わたくしの話を否定するだなんていい度胸だわ!!貴方の主はもうそこで死んでいますのよ!?」


 ……わわわっ、言いすぎだよう。ベアちゃん、頭にすぐ血が上る癖、せっかく良い所にお嫁さんに行くんだから治さなきゃ。

 

 ファニーは急に怒りだしてしまった親友を心のなかだけで宥めた。けれどもその声は現実には反映されない。このままでは、ベアトリクスが彼女の髪色さながら真っ赤になって怒り出してしまうかもしれない。


 今度こそ、魔法をといてパンパカパーンとよみがえろうかと考えた直後に、食い気味にシャーリーが彼女に言い返すようにして発言した。


「ただ否定しているのではございません。ベアトリクス様、ただ、わたくしは、より根深い動機のある人を知っているだけでございます」


 いつもはまったく主張をしない彼女がここまで自分の意見をいう姿にファニーは面食らって、ベアトリクスも親友を長年支えていた主張の少ない使い勝手のいい使用人が、貴族相手にここまで食い下がるのを見て、少し勢いをそがれて、恨めしそうにシャーリーを見る。


「その方は……」


 シャーリーは言いづらそうに、言い淀んで、それでも決意を決めたとばかりに、ぱっとファニーの斜め隣にいた、セオドアに視線を向けた。


「セオドア様です」


 今まで蚊帳の外で、まったく何の発言もせずにいたセオドアは、急に自身の名前を出されて、我関せずを貫くことが出来なくなりシャーリーの事を見上げた。


「わたくし……わたくしは、知ってしまったんです。ある夜、奥様と旦那様の部屋の給仕を手伝いに臨時で入った時の事です。そこにはセオドア様がいて、奥様たちに甘えるように、言っていました。主様を……ファニー様を殺害してしまおうと」


 ……ななな、え、なんっ、え??本当に!?どゆこと!!???


 真剣な声で言うシャーリーに、セオドアと隣にいるプリシラまでなぜか青くなって、周りの人間の反応を伺った。


 それはまさしく、悪事がばれた時のような反応で、咄嗟にガタンと二人そろって席を立った。


 双子らしくシンクロしていても、まったく微笑ましくない状況だ。


「ファニー様は皆さまご存じの通り、とても変わった方です。これまでも貴族様の重鎮を驚かせて、お怒りを買ったり、神聖な聖女の集まりで場を凍り付かせるようなことを言ったりと問題も多くありました」


 ……あわわわわ、それは、そっそれはだね!!だってほら貴族のご老人ってみんなむすっとして人生謳歌してなさそうだったから、花を出す手品を見せただけじゃない!!おじいちゃんの頭の上にお花をさかせただけなの!!


 それに、聖女の集まりの件は、ただただ、普通にお布施で豪華な食事を食べて優雅にお茶を飲むのはどうかと思って、横領じゃないの?って言ったら、皆にキレられたのだ。私は悪くないっ!!


 そう頭の中でやってしまったことについて弁解をするが、シャーリーの発言に皆は、羞恥の事実だと言わんばかりに頷いて、彼女は続けて言った。


「ですから、嫁ぎ先で何か問題を起こす前に、ファニー様を女神さまの御許に向かわせてしまおうと……それに、上手くやれば責任をアシュバートン侯爵家になすりつけて、慰謝料を取ることもできるはずだと、セオドア様が奥様や旦那様に提案しておられました」


 シャーリーは心苦しそうに、立ち上がってうろたえるプリシラとセオドアに訴えかけるように言った。


「ですから今回の事を仕込んだのは、セオドア様ではありませんか?」


 言われたセオドアは、すぐには否定せずにプリシラの事をばっと見た。それから、また皆の方へと視線を向ける。しかし、この反応では事実なのだろうかと疑いの目を向けられて、彼はより一層顔を青くした。


 その反応をみてファニーも今の話だけでも、即座に否定しないということは、きっと事実なのだろうと、理解して、ええー……と心の中で声を漏らした。


 ……確かに、私は、ちょっと……本当に少しばかり問題を起こすけれども何もそんなことまでしなくてもいいじゃない。ええ??それに普通に悲しいよ??セオ君、酷くない??酷いというか、殺しちゃおうぜって、両親に言ってたって事??


 いや~たしかに、あの人たちはお金大好きだけどさ……な~んか引っかかるな。


 セオ君は分かってると思うけれども、メルヴィル伯爵夫妻は事なかれ主義なのだ。出来るだけ、自分たちに面倒事がかからないようにしたいだけの人そんな人たちが、リスクを取るとは思えない。


 それに、その性質は一番、セオ君がわかっていると思う、だからその話には妙な違和感があった。


 しかし、反応的には心当たりあり、という顔だ。しかし、彼が次に何を言うのかによって、話も変わってくるか、とそのセオドアの反応にファニーも集中した。


 魔法をといて、このありもしない殺人劇の犯人捜しを止めることなんて忘れて、血のりがカピカピに渇いて、食後のチャイが冷めていく中、死体然としたままファニーは行く末を見守った。







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