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ワールド・パラドックス  作者: ぱんちぱーま
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夢のまた夢

 深い深い水の中から、やっと抜け出せる感覚。鎖から解き放たれたような解放感で胸が熱くなる。このまま空も飛んで自由に世界を見て回れるんじゃないか、そんな全能感に心は支配される。

 ーーほら、耳を澄ませば遠くから、俺の誕生を祝福する声が聞こえるだろう?きっと俺は選ばれたんだ。ヒーローや主人公なら、この祝福の声に応えてあげないといけない。


 微かに感じる青い光に希望を抱き、赤く染まる闘志に…胸が……熱い?


 熱い熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、


 直後、身体全体に痛みが走る。指を本で切った時の様な鋭い痛みもあれば、金属バットで頭を思い切り殴られる様な鈍い痛みもある。その他様々な痛みに襲われる。平和な現代の日本で生きている者には決して味わうことのない痛み。


 何分、いや何時間この痛みと闘っていたのだろうか。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚が機能していない俺にその答えを見つける事は出来ない。段々と痛みが治り、次第にごつごつとした手触りを感じる。

 

 この痛みの原因を確認しないといけない。と、本能が叫んでいる。せめてもうこんな痛みに襲われないようにと、願いながら、重い重い瞼を、こじ開ける。


○ー○ー○ー○

 

 上崎 柚月上崎(かみさき)柚月(ゆづき)は日本生まれ日本育ちの高校2年生。育ち盛り真っ只中の16歳。

 朝日が見える時間まで友達と遊び、ちゃんと彼女との時間も作る好青年……と、言うわけでは全然無く、高校1年生の終わり頃から学校を休む頻度が少しずつ増えていき、高校2年生に入ってからは最初の1ヶ月で完全に不登校になってしまっている少年である。


 彼が不登校になった事に、いじめや人間関係といった、他人からの刺激は関係ない。

 ただ、教室の密閉された空間や、クラスメイトの見えないけれど壁がある雰囲気に押し潰されそうな圧迫感を感じ、「自由」が制限される事が気持ちが悪かった。


 クラスメイトは親しげに話してくれるのに、自分はそれに応えられないと言う、申し訳なさの中で日々過ごしていた。

 それでもなんとか現状を変えようと、高一の終わりにカウンセラーに相談をすると、「クラスメイトとの関係は、電車の中で偶然一緒になったような関係だから、気を張る必要はないよ」と、慰めてくれた。だが、電車の中で囚われていると、より、「自由」の制限を意識させられ逆効果となってしまった。


 そうして不自由に晒されながら出来上がったのが、「引きこもり」の上崎柚月である。


 今日もいつも通りダラダラと過ごして、日課である、筋トレと読書をした後に布団に入ったはず。何も変わらない自由であるはずの生活をしていたのに。


 ーーあぁ、綺麗だな


 目の前が薄い青一色で染まっている。よく見ると目の端に何やら動く物がある。痛みで感覚が麻痺しているのか、しばらく何が起こっているのか、理解が出来なかった。情報が一気に流れて脳の処理が追いつかなかったからなのかもしれない。


 ぼーっと目の前を見ていると、急に、俺を覗き込む顔が現れる。


 「大丈夫?」


 心配してくれている女性と目が合う。その女性を一言で表すなら、クールなお姉さん系の美少女だろう。どこか高貴で上品なオーラにも纏われている。赤を基調とした上着に、黒くピッチリしたズボンで凛々しさも感じる事が出来る。背中に大きな荷物を背負っていた。


 「ん、なんで?」


 急に人の顔を覗いて大丈夫?とはどう言う事なんだよ!

 ただぼーっとしてただけでなんて言い草なんだ——


 あっ……


 その時自分に何があったのかを、思い出した。

 今日まで感じた事の無い痛み、全身に起こった確かな痛み。

 魂に張り付いて離れない痛みを。


 辺りの安全を確認する為、すぐさま、体を起こす。

 震えが止まらない体を、大きく動かし、キョロキョロと見回すが一先ずは痛みの原因となりそうなものは無い。この女性はあれだけの痛みを、与える力など無いだろうから、痛みの原因では無いだろう。まて、あれだけの痛みだったのに


 「もう一度聞くけど、大丈夫?」


 「大丈夫じゃ無いかもしんない。全身怪我してるなこれ」


 「おかしな事言うわね。怪我どころか瘡蓋の一つも無いじゃないの」


 そう言って目の前の女性は笑う。


 そうなんだよ。そこが不思議なんだよな。あれだけの痛みに襲われたはずなのに体にはなんの変化もない。てか笑った顔可愛いすぎだろ。


 ふと辺りを見回すと、石造りの家が並んでいる。道路にも、少し荒い石のタイルが敷き詰められている。

 道路真ん中には、馬車が通るのか、開けていて道路の端には、木と布で出来ていて、花が飾り付けられている、簡易的なテントがある。テントの前に品物が沢山置かれている事から、商店街なのではないか、と推測をする。

 そして通行人の姿に尻尾や、ケモノの耳が付いているのを確認して、地球じゃない所に来てしまったのかと少し落胆する。ここで歩いているんだから、これがこの世界の普通なんだろうなとは思うが。

 

 「心配してくれてありがとう。一つ聞きたいんだけど、ここはどこか分かる?」

 

 「ここはね、王都エルサロードのアサバナと言う所。ていうか、知らない所で彷徨うのは危ないわよ?」


 「気づいたらここに来てたって感じでさ。ほんと右も左も分かんない」


 身振り手振りの激しい俺の話に、怪訝そうな表情を浮かべながら、うなづいている。


 王都に居るらしいが、話を聞くに、王国の王都イコール日本の東京、こんな感じの認識で十分だと思う。

 いつも人で賑わっているらしいが、今週は特に人通りが多いとのこと。なんでも、明日、国の創立記念日で、お祭りがあるそうだ。今日は準備と前夜祭で、明日が本番だと。


 「あなた本当に何も知らないのね。どうやって過ごすつもりなの?」


 「やっぱり俺、思うんすよ!ヒーローは常に行き当たりばったりであるべきだ、と」


 「呆れた。それってその場しのぎっていうのよ」


 「そうとも言えるけど!」


 せっかく格好付けて言ったセリフなのに、バッサリと切り捨てられてしまった。でも、そうは言われても、食・住の確保が出来ていない為、その場しのぎをしないと生きていけないのだ。


 今の俺の一番の目標は、何故あんな痛みに襲われたのかを、見つける事。原因が分からないと対策のしようが無くなるから。

 その次に衣食住だ。これの解決には、お金を稼ぐしか方法が無いので、今すぐにでも行動したいかな。

 この女性にはお世話になったが、この辺りで話を切り上げる事にしよう。


 「今日は本当にありがとう!ちょっとの間だけだったけど話が出来て楽しかったよ。それじゃあ」


 --さよなら。

 

 と言いかけたところで、


 「きゃー!ひったくりよ!」


 少し離れた店の方から声があがる。

 白い上着を羽織る女性が、尻もちをつき、その場から、ネコミミで体格のいい男性が一目散に走り去っている。おそらく、そのネコミミの男性が犯人なんだろう。


 「ヒーローなら助けにいかねぇとな!」


 考えるより先に動く足は、もうその方向に向いていて新たな一歩を踏み出している。


 「ねぇ!まって!まだ聞きたい事が残ってるの!」


 「それはまた後で答える!今はこっちが優先だ!」


 「分かったわ!とりあえず、あの男性を追いましょうか!」


 そうして2人で男性を捕まえる事に決めた。

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