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最後のあがき

 窓際で本を読んでいると、突然父がやってきた。私の部屋までやってくるとただ一言「着替えて、屋敷まで来い」そういった。

 暑い日差しの中、重苦しいドレスを着て、日傘をさして本棟の方へ舗装された道を歩いていく。屋敷に来るのは舞踏会に行ったきりだったけれども、特に変わったところはなかった。


 連れていかれたのは少し広い、話をするような部屋であり、その部屋のソファにエリザエータと義母が座っていた。父もソファに座ったのだが、私の席は無い。

 もちろん立ったままである。


「最近ディーデリヒ公爵と仲よくしているそうだな」


 最近新聞で読んだ。騎士団団長として、戦いで高い指揮力を発揮し、いままでは侯爵だったのだけれども、高く国に貢献したとノアは公爵の爵位を貰ったらしい。


「…はい」

「その公爵はお前に気があるのか?」

「ないと思います。気まぐれかと」


 勢いよくエリザベータが立ち上がり、私を指さしてきた。


「嘘よ!きっとあの公爵に体を売ったんだわ!あの破廉恥な舞踏会にも顔を出してらしいんだもの!そこでいろんな男に会ったのよ!」

「もうこの子が悪いことは分かったから」


 今度は何をしようとしているのだろうか。エリザベータに何かさせようとしているのではないのかしら。


「それで、結婚でも考えているわけじゃないでしょうね」

「考えていません」


 ティーカップが皿とぶつかる音だけがしている。とても重苦しい雰囲気、すぐに殴られるかもしれない。紅茶をかけられるかもしれない。


「じゃあ、エリザベータをディーデリヒ様と結婚させましょう。あの人はまだ結婚してらっしゃらないんでしょう?エリザベータは器量も良いし、ヴァイオリンも弾けるし、他の令嬢より何倍も頭が良い。きっとあちらの親御さんもきにいってくださるわ」

「そうだと思います」

「帰っていい。聞きたいことはすべて聞いた」

「わかりました」


 だが、突然義母が私のことを呼び止めた。


「その子には、もう二度と男と遊べないように、顔に火傷でもおわせておきましょう」

「…」


 一瞬この義母が何を言っているのか分からなかった。でも義母は私の母の恨みを、私にぶつけていて、私がいなくなった方が良いと思っていて。

 走り出して逃げようとしたとき父が一言言った。


「それはダメだ」

「なぜですか?」

「犯罪であるからだ。伯爵夫人がそのような野蛮なことをしてどうする」


 でも義母の目は本物であった。まえに殴られた傷が痛む。頭を押さえながら、とにかく玄関へと走った。

 これ以上顔に傷をつけられてたまるか。私の私が神様からもらい受けた唯一の武器を失って溜まるか。これ以上私の人生を狂わされてたまるか!全部全部母親のせいなのに、私が償うなんておかしいでしょ!

 別荘に行ったら、絶対に見つかる。どこかに行かないとわかっているけれども、どこかなんて想像もつかない。

 ドレスの裾が長く、踏み転び、ヒールを脱ぎ捨てて、ドレスの裾を持ち上げてとにかく走った。

 誰にも見つからないところ、私が自由になれる場所。誰にも恨まれないで、誰にも特別扱いされないで、普通に生きられて、普通に愛されて、普通に生きられる場所。


 足に何か刺さり、痛くて木のの下にへたり込んだ。

 ああ、駄目だ。帰らないと私の生きる場所なんてない。誰かが助けてくれるわけでもないし、誰かが私のことを愛してくれるわけでもない。


 でも、その時ふとノアのことが思い浮かんだ。思い出すだけで涙が零れ落ちてくる。

 思い出せば彼だけだった。私と普通に接してくれたのは。綺麗なんて言葉使わず、美しいなんて言葉も言わない。恨むこともしないし、他の人と同じように接してくれる。


 なんでいつも来なくていい時に来なくて、来てほしい時に来ないのよ。


「助けてよ…もう一回」

「君、大丈夫かい?」


 目線を上げると、そこにはノアが所属している騎士の人間が、馬にまたがって、私を見降ろしていた。男は私を見るなり、目を丸くした。でもすぐに視線をそらした。


「ど、どうしたんですか?」

「ノア・ディーデリヒ様はいらっしゃいませんか?会えないのなら、ミーナがここで待っているとお伝えください」


 涙がボロボロ零れ落ちてくる。きっとこの人は私を変な人間としか思っていない。裸足で、銀髪で、泥だらけ。


「ごめんなさい。何でもないんです…家出してきただけ…」

「そうかい。足を怪我してるみたいだし、家まで送っていくよ」


 この人と同じ馬には乗りたくない。でも乗らないと。

 手を伸ばしてその人の手を握ろうとしたとき、激しい音で馬がこちらまで走ってくる音が聞こえてきた。


「ミーナ?やっぱりミーナじゃないの。ここで何してるわけ」

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