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桃娘

 目の前に座っているのは商業で成功した、大金持ちの商人。私の彼の間に置かれているテーブルに置かれているのは金貨が入った袋、手で持てるほどの宝箱。

 その宝箱を手に取り、ふたを開けてみると、まぶしいほどの宝石と、アクセサリーが入っていた。


「これ、どうかな」

「とても嬉しいです。ありがとうございます」


 作り笑顔を張り付けて、でっぷりと太った中年のオジサンに向かって笑いかける。指には大量の指輪、歯には金歯が光っている。


「それにしても本当に美しいね。できるものなら君を身請けしたいものだ」

「まだ十六ですから」


 この人は妻も、成人した子供もいる。


「舞踏会の花形と呼ばれたホワイトトパーズの娘に会えるなんて。夢のようだ。昔の彼女にほんとうにそっくりだなぁ。婚約者はいるのかな」

「おりませんわ。父は私のことが嫌いなみたいですし」

「私が立候補しても良いかなぁ。お金ならいくらでも出すよ」

「候補に入れておきます」


 また一人私の将来の身請け候補ができた。母が世界に名をとどろかす超美形な娼婦だったために、その娘である私は問答無用で娼婦のような仕事をしている。本当は伯爵令嬢というはずなのに。貴族娼婦とはこのことか。


「また会いに来ても良いかな」

「もちろんです」

「ああ、それと、舞踏会が行われるんだ。よかったら来てくれ。君が来てくれたら盛り上がるだろうしな。なに、かるい舞踏会だ。食って踊って、あとは帰るだけ」


 男は私に舞踏会の招待状を渡して帰っていった。そして男が帰ったすぐ、私が住んでいる別荘に、腹違いの妹がやってきた。妹は可愛らしい容姿をしているはずだけれども、甘えたがりでわがままなところがある。この家に生まれた末の子だからかもしれない。


 宝石を欲しがり、ドレスを欲しがり、家具を欲しがり、アクセサリーを欲しがる。物欲が無い私に対して、妹のエリザベータは物欲にまみれている。


「ミーナ、また何か頂いたの?」


 私が十歳の時この屋敷にやってきたから、妹は私のことをわざわざお姉さまなんて呼ばない。男からもらった舞踏会の手紙をお尻の下に隠して、小説を読む。


「ええ」

「高級品ばかりね」


 この家に来るなり、宝石やアクセサリーを漁りだした。

 

「これ貰っていくわ」

「そう」


 同意もなく、さっきもらった宝石箱を使用人に渡しカバンの中に詰めていく。そして持ってきたカバンに物が入りきらなくなるまでもっていく。


 これは生活させてもらっている謝礼金として徴収しているというのが、エリザベータの言い訳。

 どうせ、私は十八になるまでしかここに住まわせてもらえない。物欲があるわけでもないし、もらって言ってもかまわない。


「でもミーナは感謝した方が良いわよね。別荘に一人で住んで、美人だから、男がいくらでも寄ってくるんだもの。本当顔が良くてよかったわよね。まあ、良いのは顔だけだけど」


 高笑いしながら、私をさげすみ高級品を持って、家から出ていく。


「あ、そうそう。ビランティーっていう仮面舞踏会があるんですって、行ってきたら?」

「そうなの」


 エリザベータは嫌な笑みを浮かべている。


「じゃあね。舞踏会での感想聞かせて」


 ビランティーと呼ばれる教会のような建物で執り行われる舞踏会は裏で有名だ。その仮面舞踏会は名ばかりで、お金持ちと美人な娼婦たちによる乱交パーティー。お金持ちは美人と遊べて、娼婦たちはお金持ちから、大金を受け取ることが出来る。

 私は下町の貧乏な娼婦でもないのだから、そんなところに行くはずがない。ただ会うだけで金を貰えるなら、体を売る必要なんてない。

 だって私は、顔だけなら、容姿だけなら、誰にも負けない自信があるから。でも顔だけ。顔しか取り柄がない。伯爵の実娘といっても、所詮、母は娼婦だから。


 手元には男からもらった舞踏会の手紙。


「行ってみようかしら」


 どうしたって一人で生きることが出来ない女なのだ。私は。顔を舞踏会で広げておけば、もっとお金が稼げるかもしれない。

 稼いだお金はほとんど持っていかれるけれども、地下に少し隠してあるし、男がいなくても生きていけるようにしないと。


 何度も読んだ分厚い文豪の本を棚から取り出し、膝の上で広げる。


 母親が娼婦じゃなかったら、私の顔がこんなに良く無かったら、もっと普通に生きられたのに。教会で勉強して、農民でも、市民でも、商人でも、誰でもいいから人を好きになって、幸せに暮らす。


 誰か私と本気で自由恋愛をしてくれる方は居ないのかしら。





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