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銀河戦國史 (漂泊の星団と貴賤の騒擾)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第6話 側近貴族の警戒

 王家と同じ惑星の衛星軌道上を、同じように周回しているいくつものリング状建造物に、貴族たちが住まっている。

 国中に散らばるそれぞれの所領を離れ、王の傍に居を構えている。


 王だけではなく、貴族同士でも、互いの動向は気になるから、こうやって多くの貴族がそれぞれの姿を監視できるポジションから離れようとしない。


 自分を差し置いて、他の貴族が王の関心を買っていないか。

 王国の富を、我がものとする企てをしていないか。

 所領や貿易における権限を、人知れず強化してはいないか。

 逆に自分が、他を出し抜くチャンスは転がっていないものか。

 そんなのを血眼になって探り合っている。


 一方で、互いに協力し合わなければならない事情も、皆がよく分かっている。

 二百年も歴史をさかのぼれば、それぞれの家門が星団内に散在していて、各自が所領としている宙域において孤立し、野蛮な航宙民族を相手に悲劇的な戦いを繰り広げていた時代もあった。


 直接それを記憶している者など、もはやいない。歴史上の知識にすぎなくなってしまった。

 だが今でも、先祖代々熱烈に伝承されて来たその時代の光景を、全ての貴族が色濃く心に宿している。


 航宙民族対策だけでなく、天体からの資源採取においても、あらゆる生産活動においても、貴族同士の協力体制は欠かせない。孤立しては、王国の中では富も繁栄も手にできない。

 安定的に豊かな暮らしを維持するためには、全ての貴族が互いに手を取り合わなければならない。


 出し抜かれないように見張りつつ、出し抜く隙を伺いつつ、それでも協力体制を崩さないようにも努める。

 同じ惑星の、同じ衛星軌道を周回している貴族達の、微妙な力のバランスに基づいた連環がそこにはあった。


 王の側近貴族達は、王の顔色と、全ての貴族の顔色と、両方を伺いながら暮らしている。

 顔色を伺うだけで、気の休まる暇もない日々だ。忙殺されていると言って良い。

 顔色を伺うのに終始するだけで毎日が、そして生涯までもが、終わってしまいそうな有様だ。


「顔色が悪いな」

 王のでも貴族のでもなかった。「やはり、忘れられぬのか、あのことは」

「はい、ご主人様」

 うなだれる執事の肩に、側近貴族が手を置いた。


「お前には本当に、辛い仕事ばかりさせて、済まなく思っているのだ。許してくれ」

「とんでもございません。ご主人様一族の繁栄あってこそ、わたしの一家も、安定した暮らしを送れるのです。その為ならば、あのくらいのことは」


「そうは言っても、余りに尊い血脈を持つ命を、お前には手にかけさせてしまったからな。

 我が王とは血を分けた兄である北の王、それと、我が王の血を受け継いだ2人の王子。それらを暗殺して平気でいろなどとは、言えるはずもない。

 婚姻を結ぶ直前に絶縁され、王都から去って行ったとは言え、我が分王国を継承する資格を有している幼き身に刃を突き立てた苦しみは、察するに余りある。

 本当に、ご苦労であった。そして、済まない」

 貴族の眉間に刻まれた皺が、成された行為の重さを表していた。


「そのお言葉だけで、私には十分で御座います、ご主人様」

「うむ。お前の働きによって、あの星系の我が分王国への奪還は、成し遂げられた。

 戦争では、侵攻を企てた我が分王国の宇宙艦隊が押し返されてしまい、北の分王国に有利な展開となってしまっていたからな。

 あの戦況では、敵方の総大将を暗殺するくらいしか、所領奪還の目的を遂げる方法はなかった。

 お前が、あちらの領民を使って暗殺を成功させてくれたことは、我が一門を窮地から救う大手柄であった」


「有難うございます」

 青ざめた顔のまま、執事は言う。「あの星系は、どんなことをしても取り戻さなくてはなりませんから、私も命を投げ打つ覚悟で仕事に当たりました。

 北の軍が前進基地を置いた惑星軌道上の集落に、手の者を忍び込ませて領民を抱きこみ、王の座上しているシャトルに天体を衝突させるのは、難しい課題ではありましたが、何とか果たすことができました。

 無事大任を遂行し終えて、安堵しております。

 未だ、正式にご主人さまの手もとに戻ったわけではありませんが、とにかくあの星系は今、我が分王国の支配下には置かれているのですから、まずは一安心と言えましょう」


「そうだな。あとは身内ともいえる貴族同士での折衝の中で、あの星系の帰属をこちらに呼び寄せれば良いのだからな。

 日常的な利権闘争の範囲内といえる仕事だから、何とかできるだろう」

「はい。ご主人様の権限と手腕をもってすれば、いずれは必ずや、あの星系を再び所領として治下に置くことができるでしょう。

 今あの星系を領有している貴族の下で、管理官や使用人として働いている者の中にも、ご主人様の御一門と関わりの深い者はいるはずですし」


「そちらの件はともかく、あの王の幼子2人の暗殺は、我らには何のメリットも無い、極めつけの汚れ仕事になってしまった。

 お前自身で十数光年にも及ぶ超光速の旅をした上に、その手で幼き肌に刃を突き立てて来たわけだから、心労もひときわなものがあっただろうな」

 生々しい想像を巡らせているのであろう表情を、貴族は見せた。


「ですが、あのプサイディア王妃の依頼を、断るわけには行きますまい。

 所領奪還を実現させてくれた恩義もありますし、何より、我らが実行したいくつもの暗殺の証拠を、あの女には握られております。もはや、逆らえません。」

「その通りだ。主犯は全て、あの王妃なのだがな。

 全ての罪を我らになすりつけて、自分は知らん顔を極めこんでしまえる立場ではあるからな、今となっては。

 全く、恐ろしいほどに狡賢い女だ」


「こうなると、我らにとっての最大の脅威は、あのプサイディア王妃ということになりましょうか。

 所領を正式に我らの帰属とするためにも、今後もあの女の協力は必要でしょうし、影響力の広がって行く勢いも、目覚ましいものがあります」

「そうだな。この上に、あの女が、我が王の子でも身ごもったりすれば、その権勢は誰にも止められぬものとなるだろうな。

 遠征より戻った王を毎晩ベッドに引きずり込めば、そうなる日も遠くはないだろう」


「それは、恐ろしい展開でございます」

 執事の顔に現れた危機感には、切迫の色が濃い。「もう我々は、あの女に死ねと言われれば死ぬしかない程に、全く何ひとつ逆らえない立場となってしまいます。

 あの女の野望のために、徹底的に汚れ仕事を押し付けられた挙句に、都合次第で切り捨ててしまわれても不思議ではありません。生殺与奪を握られている、とも言い得る状況です」

「そういう事だな。いつの間にやら、そんな状態にさせられてしまっているな。

 あの女をどうにか排除する方法を、我らは真剣に検討しておかねばならんな。と言って、もうしばらくは、あの女の協力が必要だから、すぐには手も足も出せぬ。

 良いタイミングで排除できればいいのだが、そんな都合のいい手があるものなのかどうか、頭が痛いな。」


「そうですね。ですが、私も手を尽くして、検討だけはしてみる所存でおります。

 あの女を、こちらの都合の良いタイミングで排除する方法を。ご主人さま御一族と私の一家が、生き残るか死に絶えるかの岐路にあるわけですからな」

「ああ、よろしく頼むよ」

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2021/12/25  です。

 

 話題になっている所領とやらが、結局どういう状態になっているのか、分かりづらいでしょうか?


 北の分王国のものになってしまっていたのを、南の分王国が武力で奪い返しましたが、物語に登場して来る貴族たちに所有権が戻って来るまでには至っていない、という中途半端な状態です。


 南の分王国が国として取り返しても、その国には沢山の貴族がいて、誰のものになるのか、もしくは国王直轄となるのかは、まだ流動的なわけです。


 しかし登場している貴族は、国内での駆け引きに関しては自信を持っています。王国内で持っている権限や人脈や声望などで、どうにでもできると考えているので、とりあえず南の分王国に戻って来た時点で、一安心しているのだとご理解ください。


 一時は西の王国という、星団外の国に持って行かれていて、それがこの貴族にとっては、最も厳しい状況だったわけです。分王国内や星団内に持っている権限も人脈も声望も、全く使えないのですから。


 完全には手元に戻っていないが、権限や人脈や声望でどうにでもできる位置には、彼らの大切な所領は戻って来た、そんな微妙な状況を、何とか理解してやってください。

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