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銀河戦國史 (漂泊の星団と貴賤の騒擾)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第4話 庶民の不安――後半

「そう、上手いこといくかなー?」


「いかんやろなー。いかんやろけど、いって欲しいなー」


「ええ、そうか?わしにしたら、南の分王国に戻るのも悪くないけどな。前の領主はんかて、そんなに酷かったわけでもないやん」


「そら、お前は、あの領主はんに、えこひいきしてもらってたもんな」


「そうや、お前、何であんなに、ひいきされててんな。

 割り振られた仕事は楽そうやったし、もらってる報酬はめっちゃ多かったし、わしらと差つけられ過ぎやったんとちゃうか?」


「そうやねん、こいつ、領主から派遣されてる管理官のおっさんに、嫁はんの乳触らせて機嫌とっとったからな」


「そんなこと、しとったんかいなー」


「うわー、嫌やねえ、わたしそんな旦那、絶対いらんわー」


「誰がやねん、阿呆っ!そんなことしてるかー。ふざけんなや、お前。

 それに、わしの割り振られた仕事、全然、楽とちゃうかってんぞ」


「ええ、うそや。小惑星を、ガキーンってかち割って、ポロポロポロって、資源を取り出すだけの作業やろ?

 シャトル動かせられるヤツやったら、誰でもできることやんけ。

 そんなんで、わしらの倍くらい報酬もろてたやん、お前」


「だけ、とか言うな。かち割って取り出すだけ、なんてもんやないんやからな。めっちゃ難しいねんぞ、お前、あれ。

 割れ方の予測とか間違ったら、破片にぶつかって死んでまうことかって、あんねんで。せっかくかち割っても、ロクな資源見つからんこともあるし、大変やってんからな」


「それがそんなに大変なんやったら、戻りたいなんか言いだすわけないやん」


「そうや、楽やったから、戻りたいんやろ、お前は」


「ちゃうわ。難しい仕事を長年かけて覚えて、色々と工夫も重ねて、どうにか上手くいくようにして来たんやで、わしは。

 それで人より多目の報酬もらえるようになってたから、前の領主はんのところに戻る方が、わしにとっては、ええかなって思ってるだけやんけ」


「長年とか、工夫とか、みんなやってるやんけ。

 他の仕事割り振られてるヤツらかって、みんなそれぞれに難しいことやってるんやで。

 人工彗星に追いついてやなあ、それがぶわーって掻き集めた資源を、チュチュチュって抜き取ったり、ややこしい形の生産設備にやなあ、めっちゃ苦労して資源を、ズボォって突っ込んだりってしてんねんで。

 みーんな難しい仕事をやなあ、長年かけて覚えたり工夫して上手くいくようにしたり、してるんやで。

 それやのに、何でお前だけ」


「ちゃうちゃうちゃう、ちゃうねんて、他のんとは。

 わしの前にあの仕事した連中は、だれも長続きせんかってんで。

 危ないから嫌やいうて逃げたヤツもおるし、全然資源採れへんから辞めさせられたヤツもおるし。

 それがやな、わしの番になって、やっと長続きしたし、成果も上がるようになってんで。

 報酬多いのも、当たり前やろ」


「うそや。信用でけへんわ、そんなん。絶対、嫁はんの乳触らせてるんやわ、お前」


「あのなあ、ちゃう言うてるやろ。

 だいだいやなあ、そんなええ乳してへんわ、うちの嫁」


「ああ、確かにねえ。わたしら着替えの時に見てても、あんま何とも思わんもんねえ」


「知らんがな、そんなん。女同士でどう思うかなんか、関係あるかいな。

 あのエロい管理官には、大好物やってんて、知らんけど」


「知らんのやったら、勝手なこと言うなや。

 もうこのさいやから、はっきり言うとくけど、うちの嫁の乳はやな、どこの誰にも負けへんくらい貧相やねんで」


「なんの自慢やねん」


「自慢じゃ。自慢したるわ。

 嫁がええ乳してへんことにかんしては、絶対的な自信があんねんからな! 」


「そうか? ほんまにそうなんか? 絶対やな? 絶対ええ乳してへんねんな。

 ほんじゃ、まず、それを、わしらみんなで確かめるところから始めよか」


「なんでやねん。なんでそんなもん、確かめられな、あかんねん。

 そんなもん恥ずかしすぎて、嫁はん泣いてまうわ。っていうか、仕事が大変かどうかの話やろ。何で乳の話になってんねん」


「お前が言いだしたんやろ、ええ乳と違う、とかって。せやったら、どんなんなんか、わしらにも分かるようにせえよ、お前の嫁の乳」


「いや、もうええやろう、乳の話は。お前ら、ええ加減にしてくれ。

 それより、ほんまに大変なんか、小惑星かち割る仕事って?」


「絶対、大変ちゃうわ、あんなん。生産設備のメンテの方が、大変やわ」


「どこがやねん。あんなもん、楽勝やんけ。

 わしもやったことあるけど、すぐできたわ。

 お前ら誰も、小惑星の資源採取なんか、やったことないやろ」


「やらせてくれへんかってんもん、管理官のおっさん。

 やってみたいって頼んだことあってんけど、あかんとか言いよんねん」


「それはお前、シャトルの操縦、下手やもん。壊されたらかなわんから、触らせんの嫌やったんやろ。わしも嫌や、あれをお前に触られんの」


「なんでやねん。わしのどこが、シャトルの操縦下手やねん。ふざけんなや、お前」


「下手やんけ、お前。このあいだ一緒に乗ったとき、酔うかと思ったで、お前の操縦で」


「あん時はやなあ、たまたま調子悪かっただけやんけ。普通にやったら・・」


「調子悪くても、あんなんならへんわ、わしは。病気でフラフラん時でも、あれやったら、わしの方がはるかに上手く操縦できるで」


「そんなことあるか。一回やらせてみろや。ちゃんとやったるから」


「嫌や、あのシャトルは、お前には触らせられへんわ」


「なんやんねん、それ。一回くらい、試させろや。

 今ポケットに、シャトルを動かすためのカードキー、持ってんねんやろ?貸してみろや」


「嫌や、阿呆! 」


「なんでやねん、ええやんけ、貸せや、ウォっ! 」


「ああっ、阿呆っ!無理矢理取ろうとすんなやっ、うわっ! 」


「こらこら、暴れんなや、お前ら、狭いんやから」


「せやかて、こいつが・・・・貸せって、くそっ! 」


「あかんちゅうねん、えャァっ! 」


「ぶわっ、危なあ。静かにしとけや、お前ら」


「でけへんわ、うりゃっ! 」


「やめろって、どわっ! 」


「ういっ! 」


「むおっ! 」


「おりゃぁっ! 」


「あちょうっ! 」


「ぎゃあっ! 」


「こら、おっさん。どさくさに紛れて、人の嫁はんのケツ触んな、ボケぇっ!」


「何してんねん、お前ら。全然話、変わってもうてるやんけ。次の領主はんがどうなるかって、話やろ」


「そうや。お前一人だけ、前の領主がええって言うたって、みんなは嫌やねんからな」


「ほんまや。わしなんか、もう二度と会うこともないと思って、結構、ボロカスに言うてもうたからな、前の領主が派遣して来てた管理官のおっさんに向かって。

 もとに戻るとかなってもうたら、絶対仕返しされるわー。嫌やー。怖いわー」


「そら、自業自得やろ。わしは気に入られてるから、全然問題無いし」


「せやから、自分だけよかったらええとか、そういう考え方、やめろや」


「自分だけとは、言うてへんやん。前の領主に気に入ってもらえるように、しっかり仕事してた人間は、もとに戻っても何も怖くないっちゅう話やん。

 別の領主のとこいっても、そういう人間は、そっちでも気に入ってもらえるはずやし。

 わしも、どこに行っても気に入ってもらえる自信あるから、他所に行くんやったら行くで、それでもええねんで。

 西の王国みたいなとこ以外やったら、どこへでも行ったるわ」


「戻るのは問題ないとしても、戦争に巻きこまれるのんは困るやろ、お前かって。

 南の分王国が取り戻そうとするってことは、武力侵攻になるかも知れんねんで」


「それは、そうや。どう考えても災難やな、戦争は。

 そうなった場合に、避難できるような準備だけは、しっかりしとかなあかんな。大事な設備とかはどっかに隠して、わしらも安全なとこ見つけて、そこに逃げ込んで戦争をやり過ごさんとな」


「そうなったら、避難先で食いもん食い尽くす前に、戦争終わってくれんと困るな。わしら全員、飢え死にするもんな」


「嫌やねえ、それ。居心地悪い避難先で、お腹すかせながら死んでいくなんて、わたし耐えられへんわー」


「それはもう、祈るしかないで。阿呆の王さんの始める戦争やもん、どうなるか分からんで」


「そうやな。早く終わるんを期待しながら、避難先でじっと待ってるしかないな、戦争が始まってしもうたら。

 それで南の分王国が勝てば、前の領主のとこに戻される可能性が高まるし、北の分王国が勝てば、ええ感じの領主さんとこにいける可能性がでてくるわけやな」


「うわー、北の分王国がんばってー」


「わしは、どっちでもええけど。絶対、どっちでも気に入ってもらえるし」


「要領ええもんな、お前」


「要領ちゃうっちゅうねん、努力と工夫やねん。

 わしは常に努力と工夫をしてるから、どこに行っても大丈夫やねん。

 お前みたいなズボラなヤツは、どこに行っても領主に嫌われんねん。ちょっとは己を反省せえや」


「そんなん言うなや。要領のええお前が領主に口きいてくれて、みんなが嫌われへんようにしてくれたら、ええんとちゃうんか」


「ふざけんなや。何を甘ったれとんねん。自分で努力して、嫌われんようにせえ」


「そんなん言うたかって、前の領主んとこでは、もうどうしようもないわ。管理官にボロカス言うてもうたもん。

 次に優しい領主んとこに行けることを、祈るしかないわ」


「祈り多いな、お前。でも、そうやな、やっぱりそれしかないわな。

 南の分王国には戦争なんかせんと静かにしといてもらって、わしらはこのまま、北の分王国にしっぽり収まるんが、何よりやで」


「戦争に関しては、起こらへんのんが一番やわな、確かに。行先は、わしはどこでも、全然構わへんねんけどな」


「嫌なヤツっちゃな。自分は要領ええからって」


「しゃーないやん。わしは努力とか工夫とかやることで、どこに行っても気に入られんねんから。要領とか、関係ないで。努力やで」


「絶対、違うわ。絶対、嫁の乳触らせて機嫌とってるんやわ、お前。そんなんで気に入られやがって。

 せめて、わしにも触らせろや」


「阿呆か。絶対嫌じゃ、ボケぇっ! 」


「お前ら、あのなあ・・。何でまた、乳の話に戻んねん」

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2021/12/11 です。


 小惑星を「かち割って」資源を採取するというくだりは、完全に小惑星探査機「はやぶさ」を意識した記述です。

「はやぶさ」は、わずかな塵を研究資料として採取してきましたが、ここでは、暮らしに必要な資源を調達しています。

 

 ですが、小惑星に衝撃を与えて物質を飛び散らせて採取するという方法は、同じです。こちらの資源採取の場合は、そこから必要な元素をより分けて大量に採取することになります。


 このシリーズの設定では、必要な元素を宇宙で獲得することに、人々が苦労したり工夫を凝らしたりしていることになっています。

 人体には22もの必須元素があるそうですし、宇宙生活に必要な道具には、レアアースと呼ばれる金属をはじめ、相当多くの元素が必要になるはずです。


 これらを宇宙で獲得することが、実際にどれくらい難しいことなのか、作者には分かりません。地球くらいに色んな元素のある天体が、宇宙にどれくらいあるのかも。


 ですが、素人なりの勝手な想像で、地球ほどに様々な元素を含む天体は、珍しいのではないかと思っています。

 各元素が、どういう経緯で誕生したのかなどに想像を巡らせると、こんなに多様な元素が一つの天体に含まれるなど、滅多にないのではないかと。


 例えば、金や白金は中性子星どうしの衝突で誕生したとする説があるなど、レアな天体現象が起きないと誕生しない元素というものが、沢山あるように思えます。

 それらが一つの天体に、こんなに多様に含まれるなんてことが、それほどあちこちで見られるなんて、無いのではないかと。


 仮に多くの元素が色々な天体に有ったとしても、重い元素は重力の中心付近に偏在していて、人類には利用し難いかもしれません。

 作中でも説明したように、宇宙空間で暮らすのが普通になっている人には、重力に逆らってそれらを持ち上げてくるのは、無理があるのではないか。


 こういった、作者の勝手な想像を土台にして、このシリーズは成り立っています。勝手な想像ですが、根も葉も無い妄想ではないつもりです。作者なりに、現代の科学的知見から予測される未来宇宙の姿を、描いているつもりなのです。


 ご興味の無い方には退屈な記述なのかもしれませんが、こういった未来宇宙の想像図を示すことは、このシリーズのメインテーマになっています。できれば、少しでも多くの方に、こういった想像に興味を持って頂きたいと願っています。

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