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銀河戦國史 (漂泊の星団と貴賤の騒擾)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第1話 王妃の野望

 起立する尖塔群が、天井ぎりぎりにまでそびえ立っている。

 宇宙を漂うリング状の建造物の天井といったら、床からせいぜい50m程の高さしかないのだが、その高さを目いっぱい使って尖塔を林立させ、栄華と権勢を見せびらかしている。


 少なからぬ血で手を穢し、権謀術数を巡らせ、手段を選ばずどんな卑劣なことでもやってのけることで、ようやく手に入れられた地位と名誉を象徴するものだから、見せびらかさずにはいられない。

 どうだこれでもかと高い所から見下ろして、訪れるものにアピールしたくて仕方がない。


 南の分王国の首都とされた星系の、第2惑星の衛星軌道上には、内部に尖塔の並んだ城砦の造り込まれているリング状宇宙建造物が周回していて、権力者の自己顕示欲を満足させる住居を成している。


 回転による遠心力を疑似重力としているから、リングの外側を指す方向が下となり、そちら側の外壁は、中にいる人間には床と認識される。

 反対にリングの内側の外壁が、天井と見なされるわけだ。


 その天井に届きそうな尖塔群の下には、煉瓦造りの城壁があり、いかめしい彫像で飾られた門があり、訪れるものを折に触れて威圧する。

 今この瞬間には訪れる者もなく、誰も肝を冷やされてはいないが、誰かが来れば必ずそうならずにはおかない、そんな城砦だった。


「おーっほっほっほっほ・・・・・・」

 女の高笑いが轟く。


 威圧的な城砦にお似合いの、全ての人を侮蔑し見下したような声が、部屋の主であるプサイディアの口から漏れたのだ。


 金色に輝くフレームを持つシャンデリアや窓が、広々とした空間に彩をそえている。

 城砦の一角を占めるそんな部屋で、プサイディアが行きつ戻りつしている。

 躍るかのような足取りで、豊満な身体を包むドレスの裾を、時折、大輪の花のようにふわっと広げて身を翻したりしながら。


 燃え上がりそうに、爛々と輝く瞳。溢れ出る欲望が燃料となり、灼熱した狂喜によって引火するかの如くだ。

 笑声満ちる部屋の隅にある壮麗なカーテンが、彼女の放つ熱波に、戦慄したように揺れた。


「王妃よ」

 プサイディアはつぶやいた。「とうとう、王妃の座に登りつめたわ。この分王国の最高権力者を、ベッドの中から思いのままに操縦できるポストを、遂にわたしは、手に入れたのだわ」


 口に出して呟いたものを数倍した、数々の想いが、彼女のふくよかな胸の内には湧きあがっていた。

 さっくりと切れ込んだドレスからこぼれ落ちそうなそれから、様々な想いもこぼれ落ちそうになっている。


(我が王の許嫁(いいなずけ)の召使いとなって城砦に潜り込み、王に近寄るのは簡単だったわ。そして許嫁の目を盗んで王を誘惑するのは、もっと簡単だった。

 家柄にどれだけ品位があったとしても、あんな醜い顔と貧相な身体の女は、このわたしの卓越した美貌と飽満な肉体の前では、見る影も無くなるのが当然だったわ。

 許嫁の目を盗んで王の情欲を我が内側に引き入れるのに、3日とかからなかったのよね)


 窓に写った自身のシルエットを、プサイディアは見た。惚れ惚れとする。

 自分で見てさえ、むらむらとした熱いものがこみ上げる。

 輝く白い肌と、それが描く滑らかでありながらも力強い曲線。吸い込まれそうなまでに深く刻まれた、胸の中央にある峡谷。


(卑しい最下層の庶民に生まれたといっても、こんなにも官能的なボディーラインを与えられ、使いこなせるわたしには、高貴な女を蹴落とすなど造作もなかった。

 身分の差など、このわたしには何の意味もないわよね。

 ぼろ雑巾のように捨てられたあの許嫁は、身分が高貴であった分だけ、哀れで無様で良い気味だったわ)


 窓から離れた視線は、踊るように歩きまわる彼女の体につられて、室内のあちらこちらに向けられた。

 目につくのは、豪華な装飾品ばかりだ。彼女の手にした富や権力の強大さを、目につく全てが声高に宣してくれている。


(許嫁を捨てた直後に、突然、西の王国の王女に我が王が求婚した時には、さすがに驚いたけれどもね。

 兄である北の分王国の王が手に入れた妃に、猛烈に魅惑されてしまい、兄が羨ましくなったのね、我が王は。

 だからといって、兄の妻の姉にすかさず求婚するとは、何て恥知らずなことをしたものかしら。面影の似た姉を娶ることで、兄への羨望を癒そうだなんて)


 躍るプサイディアの眼に、微かな憎しみの焔が立った。容姿で彼女に張り合ってみせた女への憎悪で、狂い死にしそうな日もあったのだ。


(あれは、計算違いだったわ。あんな女が現れるなんて。

 この星団の外側の、ずっと遠くにある遊離星系に置かれた西の王国の王都から、十光年以上もの超光速移動を果たして、はるばるやって来るなんて。

 もともとは航宙民族の築いた、下賤な王国の王女のくせに、美貌でこのわたしに対抗して王の寵愛を横取りするなんて。わたしの行く手を、阻むなんて。

 けれど、あの女――西の王国の王女ロワナも、どうにか始末することができたのよね。

 我が王の側近貴族どもをそそのかして、暗殺の毒牙にかけてやったわ)


 瞳の中で刃に変じた憎しみの焔が、鋭利な光彩を閃かせる。


(我が王の耳に、あの女にまつわる醜悪な噂を、有ること無いこと取り混ぜてたっぷり吹聴してやったら、王はあの女を遠ざけるようになった。

 人目につかない場所に謹慎させられてしまったロワナだったから、側近どもに刺殺させても、真相は隠蔽できたわ。

 首都星系の中とはいっても、最外殻軌道にある第5惑星ともなれば、何が起きても誰も気付かないものね。

 このわたしに美貌で対抗した生意気な女には、そんな寂しい星系外縁での血まみれの惨殺こそが、ふさわしかったのよ)


 ふんっ、と鼻からこぼれた息は、誰かを嘲ったらしい。


(あの側近どもだって、こき使うのは簡単だったわ。

 祖先から代々受け継いだものだの何だのと言って、辺境に所領として持っていた星系を取り戻すのに必死だったもの。

 この分王国の首都星系からは遥かに離れた、宇宙の彼方にあるデブリみたいな星系なのにね)


 冷ややかな嘲笑をまとった眼差しが、プサイディアの美貌を尚一層冴えわたらせる。


(我が王がロワナの親族に、娘を嫁に差し出した謝礼として与えた所領が、あの側近どもの大切な星系だったのよね。

 ロワナが死んで結婚が白紙になれば、西の王国に渡ってしまった所領も、戻って来るはずだと教えてやったら、目の色を変えて話に乗って来てわ。

 そしてとうとう、その手を血で染める所業までやらかしたのよね、あの連中は。他愛もないわ)


 プサイディアは、再び窓に写る自分に見惚れた。

 絶対的な武器であるその肉体と、それを優しく包み込む上質なドレスに、うっとりだ。


 周囲に見えるのは、贅を尽くした金銀の装飾。彼女の肉体が、王の情欲と共に奪い盗った王家の財宝たち。

 見れば見る程、王妃の座を手にした喜びと興奮が止まらない。


(ロワナを屠った後に、王がすぐさま私にプロポーズしてくれて、私は、王妃の座を射止めたのよ。

 王を通じてこの分王国の全てを、ベッドの中から、意のまま自在に操縦できる立場をね)


 窓に写る、彼女の最大の武器とそれが仕留めた戦利品に、プサイディアはいつまでも陶酔し続けていた。


(最高権力者の肉体に、最高の快楽を与え得る者こそが、この国の最高位に君臨して全てを統べるのよ。

 王ではなく、王を操れる者こそが、王国の本当の主なのよ。

 許嫁から寝取り、次の求婚相手をも暗殺してその座を手に入れたわたしは、王を最高の快楽で篭絡できる武器を持っているこのわたしは、王を越える存在となったのだわ。

 そう、神ね・・・いえ、女神ね。私はこの分王国の、女神となったのよ)


 窓の中で、反り返らせた胸板から誇らしげに高らかと聳え立つ2つの膨らみを、プサイディアは凝視した。

 心地よい優越感が、充足された支配欲が、2つの膨らみの中にぎっしり詰まっていることを実感しながら。


 ドアがノックされる音が聞えた。寝室で待つ王のもとへ、案内するために召使いがやって来たのだ。

(さあ、今宵も一仕事ね)

 プサイディアの顔が引き締まる。


(王妃としての、わたしの最重要任務よ。

 これを首尾よくこなせば、わたしはこの国の全てを、意のままにできる。女神として、この国に君臨できる。

 あの王に、最高の快楽を与えさえすればね。

 このわたしの絶対的な武器に仕込まれた、百戦錬磨の手練手管を炸裂させて、今宵も王に至福を味わわせるわよ。

 それ以外には、何もしなくて良いのだから。何もしなくても、何もかもがわたしのものになる。

 王の耳に吹き込むだけで、全ての願いが叶えられるのよ)


 反らせた胸を一層大きく反り返らせ、殊更にその膨らみを見せ付けるようにして、プサイディアは歩きだした。

 ベッドの中で繰り出すべき手練手管と、その後王にささやくべき言葉を、脳裏で反芻しながら。


(まずは、北の分王国との戦争を、勃発させなければね。

 東の分王国の王が下した裁定で、割譲させられてしまったわが分王国の所領を、武力侵攻によって奪還させなくては。

 どれだけの数の庶民が、殺されようが住む場所を焼き払われて路頭に迷う苦難を味わおうが、そんなものに構ってはいられないわ。必ずやり遂げなくてはね。

 なんせあの側近たちが、血で手を染めてまで取りかえそうとした星系なのだからね)


 軽快なリズムの足取りで、2つの膨らみを躍動させながら歩くプサイディア。

 その視線が、忌々しい記憶に突き刺さる。


(ロワナは暗殺されたのだと見抜いた、あの女が騒いだせいで、東の分王国の王が首を突っ込んで来ちゃったのよね。

 ロワナの妹であり北の分王国の王妃にもなっているエシャヴェリーナが、姉を暗殺で奪われた恨みを込めた抗議の声なんかあげてくれたおかげで。

 そして、所領の割譲で手を打つように、なんていう裁定を下されてしまい、側近どもの大切な星系を北に取り上げられちゃったわ。

 あれを取り戻してあげないと、側近どもがどんな暴挙に出るか、分かったものじゃない。

 だから今夜は、最高の快楽を味わわせた後の王の耳に、武力侵攻による所領奪還を吹き込まなくては。

 それが、今宵のわたしのお務め、というわけね。)


 決意の眼差しになるプサイディア。

 その眼の奥には、目的の達成への揺るぎない確信が閃いている。


(分王国が保有する宇宙艦隊の増強は、これまでのベッドの中でのささやきによって、既に成し遂げられているのよね。

 だから武力侵攻も、問題なく実現させられるはずだわ)


 絶対的な武器と揺るぎない自信を携え、王妃は王の寝室へと足を向けた。野望の灯を、メラメラと内側に燃え上がらせた2つの膨らみを揺らしながら。


(1つの分王国だけなんかで、終わらせないわよ。いずれは3つの分王国の全てを、この星団の全宙域を、わたしの支配下に置いて見せるのだからね。この美貌と肉体という絶対的な武器で、権力者をベッドの中から操ることでね)

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、2021/11/20  です。

 

 現代では世間一般にスペースコロニーと呼ばれているドーナッツ状の宇宙建造物の中に、尖塔が林立するレンガ造りの城砦が作り込まれている風景を、読者様に鮮明に思い描いて頂けていたら良いなと、心から願って止みません。


 未来的な宇宙建造物の中に、中世ヨーロッパのような建物が建っている。

 そんな景色を想像した上で、興味深いと思って頂けていないようなら、作者の表現力の乏しさは致命的なレベルになってしまいます。


 そして星系が首都だったり所領だったり、星団が王国になっていて分裂してしまっている、ということにも、独特の世界観を感じとって頂けていないなら、この話はありふれた王宮暗闘劇に過ぎなくなります。


 地球上で繰り広げられた歴史が、宇宙を舞台にして繰り返される。そんな物語には、歴史小説の重厚感と未来宇宙小説のわくわく感が、更には2つが化学反応することで新たな独特の味わいもが、出るのじゃないか。


 そんな推測から「銀河戦國史」という実験を始めた作者の感性が、的を射ていたのか外れていたのか、悶々と思い悩む日々です。

 歴史や宇宙についての知識もまだまだ浅いので、現段階で結論は出ないと思うので、悶々としながらでも書き続けるしかないと思っています。


 一人でも多くの方に見守って頂けることを、願っています。

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