第17話 庶民の予感
「プサイディアのねえさん、死んでもうたんか。
せっかく戦争の方は、南の分王国の優勢で進んでて、これでもう東に引っ張りこまれる心配もないわーって思ってたのに、どうなるか分からんくなってもうたやん、これで」
「まあそれでも、北の分王国かって、前の王さんが死なはった後は、弱ったままやからな。
東と同盟を結んでるとかいうたところで、そうそう勝たれへん気もするけどな。」
「でも、どう転ぶか分からんで、戦争は。ちょっとしたはずみで、わしらんとこが東の所領になってまう可能性は、まだまだたっぷり残ってるで」
「嫌やわー。かなわんわ、東なんか。あのいかつい管理官の顔は、二度と拝みたくないもんやわー」
「北の分王国に行ける可能性も、南の分王国で前の領主のとこに戻される可能性も、十分にあるわけやろ。
どうなるか分からんいうんが、一番なんぎやで。きっついわー」
「領主次第で、わしらが作らなあかんもんとか、オペレートさせられる設備とか、役割分担とか、変わってくるもんな。
そういうところがはっきり決まらんと、落ち着いて暮らされへんわな」
「わしはとりあえず、東にさえならんかったらええけどな。それを祈るだけやわ」
「さすがに東の方は、嫁の乳触らすだけでは機嫌とれそうにないもんな」
「しつこいなー、お前。触らしとらんって、何べん言うたらええんや」
「なんべんも言わんでも、いっぺんわしに触らしてくれたら、もう言わんねんけどな」
「阿呆か。それかて、絶対嫌やって、なんべんも言うとるやろ」
「とにかく今は、南の分王国に戦争で勝ってもらうことを、祈るしかないな」
「なんとかしてくれるやろ。プサイディアねえさんがおらんくなったくらいで、そんな弱くもならんやろ」
「いやいや、あのねえさんおらんと、どないもならんのんとちゃうかな」
「そうなんか? そんなに重要なんか、たった一人の女が?
いうたかって、所詮は貧民出の女にすぎひんねんで」
「いやぁ、でも、やっぱり、重要なんちゃうか? 」
「そら、そうやろ。ええ女やったもんなー。
前にこの近くに、国境視察とかで来はった時も、大盛況やったもんな。
ねえさんの姿をひと目見たいっちゅう一心だけで、何光年も先の国境にまで出かけて行ったヤツとかおったしな」
「そんなヤツおったんか。見れたんか、それで? 」
「見れたらしいで、ちょっとだけやったらしいけど。
実物目の前にしたら、更にええ女やったらしいで。ちょっと見ただけでも、衝撃的やったって言うてたで。
ボディーラインなんか、もう・・・・もう・・・・もう、なんか、めっちゃ・・・・むっちゃ・・・・めっちゃ、なんていうか、あの・・あれが、ごっつい、もう・・・・もう、なんか、もう・・・・・・」
「なんでお前が言葉に詰まってんねん、阿呆。聞いた話を伝えてるだけやろ」
「でもわざわざ、その為だけに国境まで行くとは、すごいヤツおんねんな」
「いや、分かるなあ、わしには。
実はやな、わしも行ってみたんやもん、国境に。馴染みの星間商人に、品物を渡しに行ったついでやってんけどな。
忘れられへんわー、あん時の思い出は」
「でも、お前の場合は、かなり異常やで。
ねえさんが帰ってから10日間も過ぎてから行っんやろ、税関とかやってる国境の宇宙建造物に?
なんぼねえさんがええ女いうたかって、帰ってもうてから10日も経ってる場所には、何も残ってるわけないやん」
「ええ!? 10日後? 10日後に行ったことを、そんなに思い出にしてんの、お前。
意味分からんわー」
「阿呆やなお前ら、そんなことないねんで。
10日前とはいえやな、確かにねえさんがおった場所なんやから、そこはやな、イマジネーションの力をもってしてやな、空気を介してのねえさんの肌との間接的な触れ合いをやな・・・・・・」
「何の話をしとんねん、お前ら。よう、こんな時に、そんな話をしてられんなあ」
「ほんまやわ。それだけ人望のあったプサイディアねえさんが死んでもうてんから、やっぱり南の分王国には痛手なんやわ。
わたしらが南に残れる可能性も、だいぶん小さくなったと思っとかな、あかんのんとちがう? 」
「でも、南が負けたら、北に行くことになる可能性もあるんやろ、わしらんところが。
それやったら、やっぱりそっちのほうが良いわけやんか」
「そうかあ? 絶対に東にだけは行きたくないっていうこと思ったら、わしは南を応援したい気分になるけどな」
「わしは、南の領主に派遣された管理官にボロカスに言うてもうたから、北に行ける可能性に賭けるけどな」
「いやいや、わしは、やっぱり南に残って、前の領主のもとで働きたいな。いちばん分かってくれてるもん、わしらのところのこと」
「お前の嫁の、乳の触り心地を、やろ? 」
「ええ加減にせえよ、お前。いつまでも勝手なことばっかり、言い続けやがって」
「せやかて、納得でけへんもん、お前ばっかりひいきされるのん。
前の領主のとこやったら、特にそうなるのんが目に見えてるもん」
「せやからそれは、わしの長年の努力と工夫の成果やねんから、文句言うなよ」
「言うわ。わしもひいきしてもらえるように、お前がなんとかせえや」
「嫌じゃボケぇ!知らんわ阿呆! 」
「何やと、今日こそシャトルのカードキー奪って、この不公平な現状を打破したるからな」
「盗られてたまるかぁ! 」
「よこせや、うぃっ! 」
「やるかぁ、だぁっ! 」
「また始めよった、コイツら。暴れるなって」
「嫌や、今日こそっ、そいやぁっ! 」
「あぅっ!諦めろや、いいっ! 」
「ちょっと、なんでこっちに来んの。あっちで暴れてよ」
「せやかて、コイツが、どあっ! 」
「ちゃうやろ、お前が、ずおっ! 」
「きいぃっ! 」
「ぶわぉっ! 」
「ていっ! 」
「そいっ! 」
「ぎゃあっ! 」
「こらっ、おっさん、どさくさに紛れて人の嫁はんのケツ触んな、ボケっ! 」
「ほんまに、いい加減にしとけよ、お前ら」
「そうやわ。東のものにされてしまう可能性があるうちから、南の領主のことでケンカしてて、どうすんのよ。
そうなった場合にどうするかとか、考える方が先と違うの? 」
「考えたかって、どうしようもないやろ。東に決まってもうたら、もう観念して諦めるしかないやろ」
「諦めて、どうすんの? 奴隷みたいに悲惨な扱いされて、黙ってんの? 」
「それはやな、しばらく東のところで働いてみた後で、考えることやろ? どうなるのかは、結局分からんのやから」
「そうや、結局は、分からんことだらけなんや、今のわしらは。
どこの所領にされるのかも、どんな扱いされるのかも、ちっとも分からん状況がずっと続いてんねん」
「詰まるところ、それが最大のなんぎやな。分かりかけるたびに、分からんくなるもんな。
プサイディアねえさんが王妃になったり、阿呆の王さんが暗殺されたり、ねえさんが追放されてもうたり、返り咲いてみせたり、突然病気で死んでもうたり、色々起こりすぎやで。
ほんで、色んなことが起こるたびに、決まりかけてたことが、また分からんくなってもうてるもんな」
「そうや。こうなったらもう、とりあえず何でもいいから、はっきりとした落ち着き先が決まって欲しいわ」
「でも、東は嫌や」
「南も嫌や」
「わしは南でもええけど、北の方がベストや」
「いや、北以外ではどこも、悪夢やろ」
「でも、南が負けたら、東になる可能性が出てくんねんで」
「南が勝ったら、北の可能性がなくなるやん」
「どうなるんやろ? 」
「どうしたらいいんやろ? 」
「どこのもんになってまうんやろ? 」
「どんな暮らしになるんやろ? 」
「不安やわー」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は 2022/3/12 です。
今回は本当に、会話文だけで構成された回でした。いわゆる「地の文」とかナレーションとかいうものが、完全に欠落しています。
小説の書き方的な本の一つに、会話文ばかりが登場するのは小説じゃないとか、ある一定頻度で「地の文」やナレーションが出て来ないものは読むに堪えない、とか書いてあるのを見て、こういうことをやってみようと思い立ちました。
やったらダメと言われるとやりたくなる、ただのあまのじゃくな性格であることは否定しませんが、こういうのを色々試して行かないと、新しくて独創的な、自分ならではの魅力なんてのは生み出せない、という考えもあって、失敗を承知でやっています。
こんな試みは、百個二百個やって1つ成功すれば万歳、という類だと思うので、今回のことが失敗だとしても悔いるつもりはありません。
ですが、今回のを失敗だとは、思っていないかったりもします。書いている時はノリノリで、滅茶苦茶楽しんで書いていました。
何度か読み返してみると、その時の気分で、物凄くつまらなく思える時と、それなりに面白いと思える時があり、自分なりの評価は定まっていません。
これからも、色々と試したいと思っています。面白い作品にするための工夫ですが、笑いをとるという意味の面白さでは無くて、未来の宇宙とか戦争中とかいう非日常の中に日常をねじ込むことで、センスオブワンダーに属する面白さが生まれないか、というのがテーマです。
こんな独りよがりな試みに、付き合ってくださる方がおられることを、心より切望しています。




