第14話 庶民の祈願
あちらの国の宇宙艦隊が駐屯したり、こちらの国の貴族が領有を宣言したりと、惑星状星雲の一角で暮らしを営む人々には、穏やかならぬ日々が続いた。
住民の目には、壮絶な出来事の連続であり、巨大な勢力による重圧を意識せずにはいられない。
だが、惑星状星雲の全体を視野に収められる者の目には、いかなる些細な変化も検知できないだろう。宇宙はあまりに大きく、人はあまりに小さい。
小さい人は、それでも生存を諦めない。無力な個々人が寄って集って、生存への知恵を絞りあうのだ。
球を成しての話し合いは、その日も白熱の様相を見せていた。
「それにしても、いかついおっさんやったなー、あの東の分王国の領主に派遣された、管理官とかいうヤツ。
わし、キモが縮み上がったでえ、あのおっさんに面と向かった時は」
「わしも、とうとう終わりが来たなーてっ思たで、あのいかつい顔見た時はなあ。
噂でしか知らんかったけど、やっぱ東の分王国って、まだ半分くらい野蛮な航宙民族のまんまなんやな。
こんな国にわしらのとこが分捕られてしまうやなんて、世も末やなーって嘆いてもうたわ」
「あの領主んところで働かされる毎日なんか想像したら、背筋さむーなるな。
事態がコロッとひっくり返ってくれて、ほんま命拾いやわー」
「それにしても、ラッキーやったなあ。
こっちの分王国ではプサイディアねえさんが復活して、軍隊もえらい威勢ようなたし、あっちの分王国では、エシャヴェリーナねえさんの息子やった新国王が急死してまいよって、国中が大混乱になりよるし。
おかげでわしらんところは、軍隊に進駐して来られるっちゅう一時的な災難はあったものの、あっさり南の分王国に戻れたんやもんなあ。
あのいかつい東の管理官のおっさんとも、一回顔見ただけで、はいさいならーやで」
「でも、もうわたしは勘弁して欲しいわ。
あっちこっちから宇宙艦隊とかが来るたびに逃げ出して、あんな遊離惑星の環っかなんていう、窮屈なところに隠れたりやね、半分野蛮人みたいな領主に派遣された管理官に乗りこんで来られて、恐々の体で出迎えてたりやで。
こんなん繰りかえしてたら、神経すり減ってヘロヘロんなってまうわ」
「そんなん言うても、北の分王国も、このまま黙ってるとは思われへんで。あのエシャヴェリーナねえさんのこっちゃから、絶対また盛りかえして来よるで。
そんでやな、北と東は同盟結んどるからやな、わしらのところは、いつまた東に分捕られるか、分からんいうこっちゃで」
「そんなー。嫌なこと言わんといて。もう、元の領主のところでもいいから、南の分王国で落ち着きたいわ」
「せやな。あの領主はんやったら、コイツの嫁の乳触らしといたら、どうにか丸め込めるもんな」
「・・・・・・まあ、扱い方に慣れてるっちゅうのは、確かやな」
「うわっ、否定せえへんかった。ついに認めたな、嫁の乳で機嫌とってたんを」
「ちゃうわ、阿呆。もう否定すんのも、面倒臭なっただけやわ。
どっちにしても、東の領主はさすがに、わしにも手にあまるわ。
小惑星をかち割る仕事の意義も分からん領主では、わしの腕前も豚に真珠っちゅうもんやで」
「そうか。お前の嫁の乳の味を、分かってくれへんかったんか」
「何を聞いてたんや。小惑星をかち割る意義や」
「まあとにかく、あのいかついおっさんの話では、南の分王国で使ってた設備は、全部使ったらいかんちゅうことになって、東から送られて来るけったいな型式のヤツを、使わさせられるハメになってたんやな。
今までの実績なんか、全部チャラやったで、そうなってたら。
航宙民族上がりの国やから、技術の系列も完成品の評価基準もみんな、北や南の場合とは全然ちゃうんやなあ」
「そういうことやな。こうなったらむしろ、実績の低かったわしの方が、あっちでは上手くいってたんちゃうかな? 」
「それは無いわ。お前はどこ行っても、へなちょこやわ」
「なんやねん、それ。そんなん言うなや。ゼロからのスタートやったら、わしにかてチャンスあるやろ? 」
「ほんなら、今からでも東の領主んとこ、駆けこんでみるか? 」
「絶対嫌や、殺されてまうわ、あんなとこ」
「どないやねん。まあ、要するに、結局、南でやって来たわしらには、東での暮らしは耐えられへんっちゅうことやねんて、きっと」
「まあ、せやな。南か北やな、やっぱり」
「そう言うても、東に分捕られる可能性は、未だに残ってるんやろ?なんぎやわー。どえらいなんぎなことやで、それ」
「プサイディアねえさんに、しっかりしてもらうしかないな。
あのねえさん、今や摂政やろ。小さい息子さんを王に仕立てて、その後見人やってはるんやろ。
阿呆の王さん暗殺されて、へこまされてた思ったのに、しぶといわなー」
「あの息子さんて、プサイディア姉さんが宇宙の片隅の真っ暗なところで、阿呆の王さんの子種だけをよみがえらせて身籠ったらしいなんて、噂されてるんやろ。あれって、ほんまなんかな」
「そんな訳あるかい。子種だけよみがえらせるって、どんなんなやんねん。それこそ鬼女ちゅうもんやで。
前々から子種を冷凍しとって、手元に置いてあったっていうんやったら、あり得るはなしやけどな。
でもまあ、阿呆の王さんが死なはる直前に仕込まれとって、追放先で身籠ってるのに気づいたちゅうんが、一番素直な解釈やろうな」
「いずれにしても、計算高いし、悪運もめちゃ強い姉さんやで。
あの分やったら、南の分王国もしばらくは安泰ちゃうか? 」
「いやいや、北の分王国の、エシャヴェリーナねえさんも、おんなじくらい、しぶといんやで。安心はでけへんわ」
「でも、第一志望は北の分王国やろ?ほんなら、エシャヴェリーナねえさんにがんばってもらって、北に分捕ってもらうのが一番とちゃうんかいな? 」
「せやから、北と東が同盟しとるから、南から分捕られてしもいうたら最後、うちらんとこがどっちのもんにさせられるかは、分からんねんて。
プサイディアねえさんにがんばってもらうんが、今の感じでは一番やろね」
「がんばってくれるやろ。だってやな、この前送られて来た新王就任セレモニーの映像に、ちらっと映っとったプサイディアねえさん、めちゃくちゃ色っぽかったで」
「そうそう、俺も見たで、あれ。凄かったわー。
久しぶりに見たけど、衰えてへんわー。膨らむところは膨らんだままやし、へこむところはへこんだままやねんで。
旦那を暗殺されて王宮追放されて、へこまされたはずやのに、膨らむとこがあんなに膨らんでんねんで。
子供産んで王位に就けて、権力めちゃ膨れてるはずやのに、へこむとこがあんなにへこんでるし。
へこんでも膨れて、膨れてもへこんで、へこんだ後でもへこんでて、膨れてる最中に膨れたままで・・・・・・」
「話をごちゃ混ぜにすんなや。わけ分らんくなるわ、阿呆」
「とにかく、あの色気を気見せつけられたら、この分王国も安泰やと思えてくるわ。みんなメロメロやもん。デレデレやもん。兵士とか、必死で戦いよるで、あのねえさんのためやったら。
なんぼ北と東が同盟組んでも、負ける気せえへんわ。
それくらいの色気やったわ、あの映像のプサイディアねえさん」
「ほんまやなー。わしもあの映像は、いつまでたっても頭から離れへんわー」
「でもお前の場合は、だいぶん異常やで。あんな映像を、百分の1でスロー再生するんなんか、聞いたことないもん」
「ええ?何それ?百分の1?そんなに遅くして見てんのん、お前?
それは無いわー。そんなんやったら、静止画でええやん。百分の1になんかしてもうたら、動画の意味、完全に消えてもうてるがな。
動いてんのを実感できる瞬間なんか、数秒に1回やん。1回動きを実感したら、そっから数秒間もたっぷりと待ち続けんと、次の機会はけえへんやん。
そこに、どんな興奮があるっちゅうねん」
「阿呆やな、お前ら。
その数秒に1回実感できる動きからやな、イマジネーションの力をもってしてやな、頭の中であれを揺らしてみたり、あそこを回してみたりして・・・・・・」
「何の話をしてんねん、お前ら。そんな場合ちゃうやろ。よう、そんな話をしてられんな、こんな時に」
「ほんまやわ。うちらが南の分王国に残れるかどうかっていう、運命がかかってんのに」
「とにかくあのプサイディアねえさんが、色気でも権力でも悪知恵でも、何でも使って、うちらのとこが南に残れるようにして欲しいわ」
「せやな。それで、そうなるもんと仮定したらやな、やっぱりあの、管理官にボロカスに言うてもうた元領主のとこに、戻されてまう可能性も高いわけやな。
困ったで、それはそれで。どうしたもんやろか」
「そらはもう、コイツから、小惑星かち割るやり方教わって、できるようになるしかないわ」
「なるほどな。あれさえできれば、わしらもひいきしてもらえるんやもんな」
「でけへんいうてるやん、お前らには。何年も努力と工夫を重ねんと、できることちゃうんやから。
あれさえできれば、ひいきしてもらえるっちゅうんも、安易すぎる発想やし」
「うるさい。つべこべ言うてんんと、教えろや、やりかた」
「そうや。今すぐシャトルに乗りこんで、教えてもらおう」
「嫌じゃ、教えるか。教えたって、でけへんから、時間の無駄やし」
「ええやんけ。来いや、お前。うりゃぁっ! 」
「いったぁ、引っ張んなや、お前。嫌や言うてるやろ、だぁっ! 」
「逃げんなや、こら、とぅっ! 」
「ああっ、だからお前ら、また・・・・・・あばれんなっちゅうねん、狭いとこで」
「せやかてアイツが、よし、お前、そっち行って捕まえろっ! 」
「おっしゃ、でいっ! 」
「捕まるか、あちょっ! 」
「うわっ、おしかったのに、でりゃっ! 」
「よし、挟み打ちや、それっ! 」
「痛あっ!ちょうっ、あっちでやれや、わしを巻き込むな」
「お前がどけや、ううぅっ! 」
「ぶわっ、やばかった、捕まる寸前」
「もうちょっとや、しゃぁっ! 」
「うぃっ! 」
「ぐおっ! 」
「てやぁっ! 」
「ずおぅっ! 」
「ぎゃあっ! 」
「こらっ、おっさん、どさくさに紛れて人の嫁はんのケツ触んな、ボケぇ! 」
「いい加減にしとけよ、お前ら」
「そうやわ。もとの領主のとこに戻るって、まだ決まったわけでもないうちから、そんなんでモメてて何になんのよ」
「わしも同感やわ。南の分王国に残るにしたって、前とは違う領主もあり得るからな。
どこの国もバタバタしとおるから、わしらの身の振り先がどうなるんかも、いっこも分からん感じやな。なんぎやわー」
「とにかく、東だけは嫌やな。そうならんことを、ひたすら祈ろう。今はそれしかないわ。
絶対に、東の分王国のもんにならんようにって、それだけでいいから、それ以外何にも望まんから、ほんまにそれだけええんやから、何とかしてって、心んなかで唱えつづけよう」
「西の王国はええんか? 」
「そっちも絶対嫌や」
「いきなり覆っとるやないか」
「西と東は嫌、北か南・・・・北が1番で南が2番・・・・いや、北が1番で南の前の領主以外が2番で3番目が・・・・・・」
「長いわ!そんな長ったらしい願いごとなんか、かなう気せえへんわ」
「せやかて、それが本心なんやから、しゃあないやん」
「まあ、そうか、せやあ。ほな、その長ったらしい願いごとを、とりあえず唱えとこか、心んなかで、何回も」
「うん、うん、わたしもそうするわ、みんなで一緒に願いを唱えとこ」
「ようし、分かった、そうしよう。で、何やったっけ? 」
「忘れた」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/2/19 です。
胤という字と、種という字が作中に混在してしまっています。本来一つの作品では、使う漢字は統一すべきで、作者もそうするつもりではいたのですが、どちらにしようか迷い続けた結果、うっかり混在のまま投稿してしまいました。
子種という場合は「種」の字の方がしっくり来て、単独の場合では「胤」の方が味がでる、という感覚でいたのですが、それも的外れだったかもしれません。
しかも、子種の時は「種」で、単独の時は「胤」というのも貫徹できておらず、一か所「子胤」と書いてしまっている個所があります。投稿してしまってから気づきました。
迷った挙句に初歩的なミスをしたまま投稿してしまっている状態で、恥じ入るばかりです。
ですが、一度投稿したものは修正しないことにしているので、「子胤」のままで置いておこうと思いますし、以降も「子種」と「胤」を併用することにします。読む上で、それほど支障になるとも思えないし。
まだまだ初歩的ミスの多い作者ですが、少しずつ改善して行こうと思っているので、長い目で見て頂けると嬉しいです。




