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銀河戦國史 (漂泊の星団と貴賤の騒擾)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第10話 庶民の願望――前半

 国破れて山河在り、なんて言われた時代もあったが、王が暗殺されても、王国の一部の風景を成している惑星状星雲の外観には、わずかの変化も見られはしない。

 今は南の分王国の領有とされている宙域ではあるが、それは人の頭の中だけでの決め事だ。

 しょせん領有なんてものは、幻想でしかない。持ち主が死のうが代わろうが、そんなことでは何も変わらない。


 遠巻きに見る外観に変化はなくても、そこで暮らす領民たちの気持ちには、波風の立たないはずはない。所有や領有は、人の頭の中では大問題なのだ。

 無重力の中での、球を成して顔を付き合わせる領民集会が、今日もまた繰り広げられている。


「また、領主はん変わるかもしれへんねやてー。

 今の領主はんが派遣して来てる管理官ときたら、早くも逃げる準備してはるからなあ」


「ほんまに、ころころかわるねえ。でもまあ、無理もないわな。阿呆の王さん殺されてしもうて、プサイディア王妃さんも真っ暗な宇宙のどっかに、追い払われてしまわはって、国の中は大混乱やもんね。

 今、どっかに攻めてこられても、王国の軍隊はあてにでけへんもんね。

 領主はんだけでは、他所の国から侵略された場合の防衛は荷が重いから、逃げる準備するしかあれへんわよね」


「この分やと、早晩うちらんところは、北か東の分王国に武力併合されてまうんやろうな」


「それやったら、北やで、北。絶対、北がええわ。

 北の分王国に併合されて、ええ感じの領主はんとこで、ぬくぬくと暮らしたいわー」


「いやー、今回の感じでは、東の分王国っちゅう可能性も高いでー」


「ええ、そうなん。東って、どんな感じなん。あたし、あんまりよう知らんけど、北よりは良くないん? 」


「良くないどころか、めちゃくちゃ悪いらしいで。

 西の王国ほどのことはないやろうけど、東も、もともとは野蛮な航宙民族やった連中が中心やからな。

 少数の航宙民族と、大多数のこの星団に土着やったヤツらが、3百年くらい前に創った国の成れの果てっちゅう話やけど、国の中枢は、航宙民族の方が占めてたそうやからな。

 うちらの王国に併合された後に、王家の兄弟による分割で分王国になってから長いけど、一領主単位でもと航宙民族なんてのとは違って、分王国が丸ごと、もと航宙民族中心やったっていうからには、野蛮な部分の残り具合も色濃いやろうな」


「そうそう、平和に暮らしてきてた領民を、無理矢理兵隊にとって戦場に連れて行ったりなんかも、するとか聞いたで、わしは」


「ええーっ。嫌やー。戦場なんか、行きたないわー。怖いわー。そんなところに領有されるんやったら、今のままの方が、マシやわー」


「今のままの可能性も、けっこう高いねんで。

 プサイディアねえさんも、どう見ても、転んでもただでは起きひん人やから、復活して来て分王国を、立て直してしまわはるかもしれへんし」


「というても、今の領主はんのところも、たいがいやけどな。えこひいきしまくってるし」


「えこひいきとは、ちゃうやん。働きぶりに応じて、待遇にメリハリつけてるだけやん」


「それは、お前がひいきしてもらってる側やから、そんな風に思うんやん。最初の報酬からして、わしらより遥かに、たんまりもらいやがって」


「せやから、何回も言わすなや。

 小惑星かち割る仕事は、特別やねんって。お前も、このまえ少しだけ試させたった時に、すっかり懲りたはずやろ」


「い・・いやあ、まあ・・あれは、さすがに、わしにはでけへん仕事やなって、思い知ったけど・・それでもやな、ここまで差つけるか」


「長年の努力と工夫で付いた差や、あきらめろ。

 あれができるから、わしはどこに行っても、領主はんに好かれんねん」


「そんなん、ひどいわー。わしかって、生産設備のメンテの仕事、がんばってんのに。

 苦労してんねんで、わしもわしなりに。できるヤツが他にもいっぱいおるんかも知れんけど、そんな差つけることないやんか」


「あのなあ、ひがんでばっかりおるけど、お前かって、まだ恵まれてる方なんやで」


「そうや。わしらなんか、今の領主に見たこともない食料生産設備のオペレートやらされて、四苦八苦してんねんからな。

 分からんことだらけやのに、ちょっとでも品質わるいもん作ってもうたら、めっちゃ怒られてペナルティーまで課されるし、大変やねんで」


「そうや、お前は領主はんから、あんまり仕事でけへんヤツって思われてるから、前からやってる仕事ばっかり回って来て、楽させてもらってる方やん。

 そこへ行くとわしらなんか、なまじ今までの作業実績が良かったせいで、とんだ貧乏くじ引かされてるわ。

 それで、報酬に差つけてもらえるんやったらええけど、前と同じ仕事やってるヤツと、大して変われへんもんな。

 報酬に差をつけてもらわれへんのんやったら、前までと同じ仕事ばっかり、やらしといてほしいわ」


「そうやで。自分より大変な思いしてるヤツもおるんやから、ちょっと待遇に差がついてるからって、文句ばっかり言うてたらいかんで」


「なんやねん、お前ら、寄って集って、わしばっかり。

 仕事がどうのこうのいうたって、結局わしのもろてる報酬、めっちゃ低い方やん。

 一人だけめっちゃええ報酬もろてるヤツに頭にくんのん、当たり前のことやん」


「せやから、報酬増やして欲しかったら、努力とか工夫とかして、人のでけへん仕事できるようになるとか、人よりええ実績上げて見せるとか、するしかないねんて。

 他人のことひがんどっても、何もええことなんか起きひんねんからな」


「なんやねんそれ。お前が領主はんに口きいて、わしの報酬増やしてもらえるように、してくれたらええやんけ。

 気に入られてるんやから、できるやろ、それくらい。

 わしに努力せえ言う前に、お前がわしの報酬を増やす努力してくれや」


「なんでやねん。努力せえへんお前の報酬を増やす努力を、わしがするなんか、あり得るかあ。

 自分の報酬増やすんは、自分で努力するしかないねん。

 つべこべ言うてんと、努力するか低い報酬で我慢するか、どっちか選べ」


「なんやねん、冷たいのう、お前。

 努力努力言うばっかりで、仲間であるわしのために、何にもしてくれへんのんか。

 もうええわ、もう頼まんわ。何もしてくれんでええわ。

 ええかわりに、せめて、お前の嫁の乳触らせろ。何もしてくれへんねんやったら、それくらいええやろ」


「なんでそうなんねん。どういう理屈でそんな要求が出てくんねん。

 絶対、触らせるかあ。指一本触らさせるか」


「ええやんけ。いままで散々、管理官に触らせて来たんやから、今さらわしが触っても、何とも無いやろ、あんな貧相な乳」


「貧相言うな。お前が言うな。わしが言う分にはええけど、お前に言われとうないわ。触りたがってるくせに、貧相とか言うんなんか、支離滅裂やしな。

 それからなあ、管理官にも触らせてへんっちゅうとんねん。何べん言わせんねん」


「貧相は貧相やろ。触らせてるに決まってるし。

 せやなかったら、わしとお前の報酬の差は、説明がつかへんわ」


「お前、ええかげんにしとけよ。いつまでも言うてやがったら、張り飛ばすぞ」


「まあまあ、落ち着けや、お前ら。そう熱くならんと、とりあえずはやなあ、ほんまに貧相なんかどうかを、みんなで確かめるところから始めようや」


「なんやねん、それ。なんで乳が貧相かどうかを確認するんが、最優先課題になっとんねん。

 お前も、たいがいにしとけよ。確かめさせるわけ無いねんからな、そんなもん」


「それを確かめな、先に進まれへんやろ。貧相かどうか、分からんままでは」


「進めるやろ。貧相かどうかは、わしが分かってればいいねん。

 亭主のわしが貧相って判断してねんから、それだけで・・・」


「あのなあ、お前らなあ。乳の話をするために集まってんのんと、ちゃうねんぞ」

「そうや、わしの報酬が少なすぎるって・・・」


「それも違うわ。次の領主はんがどうなるかと、それに向けて、わしらがどうするかの話やろ」


「そうや。領主が北の分王国の貴族はんに決まるんやったら、まあなんも準備せんでもええやろし、今の領主のままになるんやったら、今やってる仕事に精を出すだけやけど、東の分王国にもらわれて行くハメになったら、一大事やぞ。

 あんまりひどい領主やったらやな、場合によっては、みんなで力合わせて、反抗せなあかんかもしれへんからな」

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/1/22  です。


 東の分王国が航宙民族中心の国、っていうのも、分かりにくいかなと思えて来たので、例の如く後書きで補足説明させて頂きます。


 星団に土着の(昔から住んでいる)定住民のところに、航宙民族がやって来て、その航宙民族の長が王位について定住民たちを束ねるという形で、ある王国(旧王国とします)が誕生しました。


 その王国は、星団全体を統一した別の王国(星団王国とします)に、吸収合併されてしまいました。ですが、せっかく統一された星団王国は、始祖王の死後に3兄弟によって分割されます。


 その際に、3兄弟の長男は、旧王国に一致する範囲を自分のものとします。これが、東の分王国と呼ばれるようになったわけです。


 このように、土着民を束ねて王国をつくった航宙民族もありますが、航宙民族だけである一定の範囲を自分のものとした結果、今では王国内の領主貴族としての立場を得ている、という一族もあります。

「一領主単位でもと航宙民族」と本文に言及されているのは、こういう一族です。


 領主は、直接領民を指導して、そこで採取される資源や生産されるものを、全て我がものとして手に入れます。

 領民は、そこから報酬として分け前を得るわけで、自分が作ったものを自分の所有とはできない立場です。現実世界における、現在のサラリーマンと同じ立場でしょうか。


 国王は、領民を直接指導はせず、領主貴族の収穫の一部を、租税という形で徴収したりしています。

 その一方で王は、直轄領を持っている場合もあり、自身でも一領主であったりするのですが、他の領主が支配している領民に直接指導したり、それらから収穫物を領主と通さずに徴収したりは、できない立場です。


 同じ航宙民族出身でも、東の分王国の王家となった一族と、どれかの王国内で領主貴族となっている一族では、その後の立場や生活が大きく異なってくるわけです。


 こんな詳細な裏設定を念頭に、この物語は書かれています。そんな裏設定は必要なのか? との感想もあろうかと思いますが、史実を下敷きにした物語ですので、本文に現れない裏設定が沢山あるのは、仕方がないのです。


 ですが、上記の内容が、下敷きにした史実と、ぴったり一致しているわけではありません。地球上で起こったことを未来の宇宙に移植した時点で、ずいぶんと変化していますし、作者が間違って認識している歴史上の事実もあるでしょう。


 こんな物語を読んで、なんとなくでも宇宙や歴史に興味を持ってくれる人がいたら良いな、というのが、作者の身の程をわきまえない念願となっています。

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