第9話 側近貴族の対策
王の死は、王宮と同じ軌道を巡っている宇宙建造物の住民達をも、上を下への混乱に陥れていた。
貴族達の権力基盤は、生活基盤は、全て王との個人的な繋がりの上に保たれて来たものだ。
王が死ねば、所領も財産も肩書きも、どうなってしまうか分からないのだ。
それぞれの建造物の間を、貴族の使者たちを乗せたシャトルが飛び回る。時には貴族自身も乗せて、飛び回る。
互いの顔色が気にかかるのだ。
王が亡き者となった今、それぞれの貴族の動き方如何で、王国の未来が変わって来る。
明確な意思決定の仕組みが消え失せているから、どんな動きがどんな結果に繋がるか、誰にも読み切れない。
誰が何を考え、どう動こうとしているか、皆が皆の顔色を、どうしようも無いくらいに気にかけている。
貴族同士での顔色の伺い合いが、王都の置かれた星系の第2惑星を周回する軌道上に、壮絶な規模と切迫感でもって繰り広げられていた。
「顔色が悪いな」
貴族達の、ではなかった。「やはり悪い方に転びそうか? 」
「はい、ご主人様。やっと我が分王国に取り戻せた例の所領ですが、我らの手元に帰って来る前に、またどこかへ知行権が移ってしまいそうです」
「そのようだな。北の分王国になるか、東のそれになるか、はたまた西の王国がこの星団に首を突っ込んで来るか、それは分からんが、王の死で混乱している我が分王国の隙を、突いて来る勢力が、無いはずはないからな」
憂慮の色も濃厚に、貴族は言葉を漏らした。
「ええ。西の王国といえば、数百年前には盗賊としてこの星団内を荒らし回り、あの辺りの潤沢な収穫からの略奪で命脈を繋いでいた時期もあった。航宙民族の末裔です。
北の分王国の幾つかの貴族も、あの星系を中継点とした星間貿易のうまみを、数世代に渡って実感してきております。
あの星系に触手を伸ばそうとする勢力など、常に絶えることはありません」
「うむ。我が祖先が、王家との親密な関係を築くことで、所領としての保有を周囲に認めさせたのだし、代々の我が一門の当主たちも、開発や防衛においては王家の後ろ盾を得て来た」
「はい。あの所領を維持するには、南の分王国の王家の武力や権威は欠かせません。
王を暗殺されてしまうなど、痛恨の極みであります」
「それにしても、いつのまにあのエシャヴェリーナは、これほどまでの権勢を回復していたのだ。
あの女の住まいからは何十光年も離れている我が王宮内に、暗殺を成功させるほどの人脈を張り巡らせていたとなると、並大抵ではない。
夫を殺され王宮を追われたところから、どうやってあの女は」
「それですが、東の分王国の王が、彼女の色香に魅惑されてしまい、完全な虜にさせられてしまっているようでございます。
そして東の王が北の分王国に働きかけ、そこの貴族どもに、エシャヴェリーナの子による王位継承を認めさせたそうです。もちろん、先王の胤になる王子です」
「まだ幼い我が子を王位に就けたとなれば、エシャヴェリーナには摂政としての絶大な権力が、転がり込むわけか。
1人の男をベッドの中から操るだけで、それだけのことをなし遂げるとは、やはり恐ろしいな、あの女は。まるで、魔女のようだな」
「全くです。そして、それと同じような魔力を、プサイディア元王妃も持っております。
恐らくは、類似した手管で彼女も、王宮への復活を遂げて来るでしょう」
「今の我らには、それに期待するしかないな。
弱みを握られすぎて、一時は激しい警戒心を、あの女に対して抱いたものだった。
だが、こういう状況になってしまっては、あの女の復活に期待するしか、我らの所領を守り抜く術は思いつかぬ」
「その通りです。ですから我々も、あの女の復活に向けた動きは、素早く察知し、それを後押しする行動をタイムリーに起こさなくてはなりません。
超光速交通網や星間通信を管轄している部門を始めとして、王宮内の各方面への目配りを、これまで以上に密にしておく必要があります」
「また、あの女に、協力させられるハメになるのか。それで弱みを握られ、困惑させられていた記憶が、今も生々しいのにな。
結局、またあの女を当てにし、あの女に権力と弱みを握られた状態に戻るしか、我らの既得権益を守り抜く術は無いということか」
「それが、あの女の恐ろしいところですな。
しかし、王宮への復活を助けてやれば、こちらもあちらに恩を売ることができます。以前のような関係とは、少しは違うものになるでしょう。
とにかく今は、あの女の復活に、我らが一門の命運を託すしかありません」
「そうだな。それしか、あるまいな。不本意では、あるのだがな」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/1/15 です。
西の王国とか東の分王国とか、ちょっとややこしいかもしれないので、改めてここでおさらいしておきます。
少し前まで1つの王困を成していた星団を、今は3兄弟が分割支配していて、北と東と南に別れて分王国と呼ばれています。物語に登場する人物たちは全員、南の分王国に所属しています。
その南と所領を巡って争ったり、王妃どうしがライバル関係にあるのが北の分王国です。
東は、争いには参加しませんが、3兄弟の長男である王が北と南の争いに首を突っ込んでいます。北と南の王妃の、身体だけが目当てかもしれません。
西の王国は、上記3つの勢力とは全く別系統です。星団の外にあるし、かつて星団全域を支配した王国から分かれた訳ではありません。
昔は星団内での略奪を繰り広げ荒らしまわった、盗賊団みたいだった人々が、星団の外に王国をつくりました。
最近では、ある程度は丸くなったものか、星団内の分王国と婚姻関係を結んだりしています。
けど、今でも星団内の分王国は、西の王国を脅威や不信感なしに見ることはできないようです。野蛮な奴らと蔑む気持ちも、根強いみたいです。
上記を踏まえて、今後の展開を読み進めて頂きたいです。西の王国から嫁いで来た北の王妃エシャヴェリーナが、主要登場人物の1人であるプサイディアの夫王を暗殺したことで、人々に変化や動揺が波及しているという状況です。
相変わらず、後書きでの補足が必要な稚拙な表現力を、心底恥じております。




