お墓参り
椿と蕾は、山道を歩いていた。山に入りある程度歩いた所に、母親のお墓がある。
山道には木々が生えており、木漏れ日を背景に小鳥の囀りが聞こえる。
蕾はわらべうたを歌いながら、椿と一緒に歩いていた。
「お姉たん、鳥さんの鳴き声が聞こえるね」
無邪気に蕾は言った。
「ふふ、そうね。鳴き声が心地良いわね」
木の枝にとまる小鳥を見上げながら、椿は言った。
母親の墓石が見えてきた。周囲の墓は、苔が生えており薄汚れていた。
椿は桶に汲んだ水を墓石にかけ、花を供えた。
線香に火をつけ、墓石の前に置いた。
椿は目を瞑り、両手を合わせた。それを見た蕾も、真似をして手を合わせた。
(お母さん…蕾は立派に成長しています。心配しないでね?)
死んだ母親も、蕾のことがきっと気がかりだろう。そう心の中で呟いた。
「お姉たん、蕾ね、蕾は元気だよってお母たんに言ったよ?」
「…そう。お母さんもきっと安心してるわね」
優しく微笑むと、椿は蕾の頭を撫でた。
夕暮れ時、二人は家に着いた。
家の中は薄暗く、おばあちゃんは横になっている。
「おばあちゃん、ただいま。お墓参りに行ってきたよ」
おばあちゃんは返事をしない。
「…おばあちゃん?」
横たわるおばあちゃんに寄っていくと、椿はおばあちゃんの体を揺さぶった。
おばあちゃんの肌は、冷たくなっている。
(…嘘でしょ?…まさか)
椿はおばあちゃんの胸に耳を当てた。…心臓の音が聞こえない。
(嘘…おばあちゃんが…おばあちゃんが…)
椿は呆然とした。ぺたりと、その場に座り込んだ。
蕾は不思議そうに姉を見つめている。
(おばあちゃんが、死んだ…)