第15話 安らぎの食卓
料理の内訳はこのような感じだ。
魚介類の入ったトマト煮のシーフードスープに、香ばしく焼いた白身魚、白いご飯に、彩り豊かな野菜炒め、そして果物をくりぬいて中にゼリーを流し込んで冷やしたデザート。
観察すると、かなり本格的なものだった。
この世界での料理は現実のそれとはかなり異なり、素材もこの世界に住むモンスターが落としたものとなるが、専用の器具で調理された完成品は、ほとんどがどこかで目にしたような物ばかりだった。
全く未知の物を作り出す手間暇や技術は、さすがにまだ無かったらしく、味も完成品にならってどこかで味わった物ばかりとなる。
だが、そんなものでもこの世界では贅沢品の部類だろう。
調理や裁縫などは、専門の用具によってこなされ、数々の品々が生み出されるのだが、錬金術レベルと連動していてて、レベルが低いとどうしても良い物にならないのだ。
その点、アルンの錬金術レベルはこのメンバーの中で一番高い。
目の前に並んだ食事の数々ができるのも、当然の事だった。
ウィーダ「いつものことながら、さすがだよな。こればっかりは素直に誉めずにはいられないぜ」
アルン「あんたから誉められたってね……。ユウ様ぁ、どうですかぁ」
感想を求められたユウは素直に思った事を口にする。
ユウ「ここまでとは思わなかった」
誰もやれとは言ってないが、アルンに秘められたやる気に何かが火をつけでもしたらしい。
この世界で食事をとっても、現実に何ら影響する事がないので普段、アルンに料理を作ってもらう機会などなかった。だが彼女は、前々からもっとやりたいと思っていたのかもしれない。
ユウ達は普段、未踏場所や秘境などの攻略に時間を費やしているが、女子ならそれも当然かと思い直した。
機会があるなら、アルンのしたい事に今度付き合ってやった方がいいかもしれない。
アルン「はい、たんと食べちゃってください! ユウ様の為にすっごく、頑張ってご飯作っちゃいましたぁ。お口に合うかどうかは分かりませんけど。どうぞ!」
ユウ「助かる」
仮想の世界で、仮想の体を得て活動するユウ達の感じる味覚は、そんなに再現性が高くはない。
現実の体に反映されるわけではないので、食事からの栄養補給も必要ではないのだが、こんな偽の世界でも本物の空腹感と同じ物を感じてしまうらしく、定期的に食事をとって紛らわせる必要があった。
ウィーダ「よしじゃあ、いただきます」
ユウ「……いただきます」
アルン「いただきますぅ」
三者三様に手を合わせて、現実世界で食べたならば確実に太るだろう時間帯に夕食を胃の中に収めていく。
美味しかった。
昼ごはんも現実で食べたし、時間はそんなに経過したわけではなかったが、精神的なものがさようしたのかもしれない。
偽物のデータを摂取してるとは思えない、不思議な満足感があった。