9.
泣きそうになりながらも必死でゲーム内で調合したことのあるアイテムを思い出す。
確かチュートリアルとして一番最初に調合するのは回復薬だったはず。まずは薬草を探してみようかな。
シャローズは回復薬に必要な薬草を探すためにたくさん薬草が置いてあるテーブルの前へ移動する。
……困った。全然わからない!
回復薬に必要な薬草はもちろん、その他の素材もゲームのイラストでしか見たことがない。そのために現物だとどれがどれだか全然見分けがつかないのである。
薬草を手にとって眺めてみてはテーブルに戻す、また別の薬草を手にとり眺めてテーブルに戻すというのを何度も繰り返す。そんなシャローズを見兼ねて祖父が声をかけた。
「ふむ、回復薬でも作ってみるか? それなら、そこの左端にある濃い緑でギザギザの薬草と水を錬金釜に入れてみろ」
祖父に言われた通りに薬草を手に取り錬金釜の前に立つ。錬金釜は人が1人入ることができてしまいそうなほど大きい。そこへ持ってきた薬草を入れてみる。それから錬金釜へ水を入れる。
ゲーム内ではコマンドを選択していくだけだったので素材を入れた後はどうしたらいいのかがわからない。シャローズはまた悩み始めた。
釜だしどこかに火をつけないといけないのかしら?
しかし錬金釜は普通に床の上に置いてあり、火をつける場所はなさそうだ。
「そこの棒でゆっくりしっかりかき混ぜてみたら良い」
再び見兼ねた祖父が壁に立てかけてある棒を指しながら教えてくれた。
木でできた棒の一番端には赤い宝石が付いており、棒というより杖と言った方がしっくりくる。
シャローズはその棒……杖を手に取り、錬金釜の中に入れてみる。杖はシャローズの身長とほぼ同じくらいの長さだったので大きな錬金釜で使うにはちょうど良い。
杖を使いかき混ぜていると釜の中からもくもくと黒い煙がでてきた。
……やばい予感がする。アニメとか漫画だったら爆発するやつじゃないの、これ。どどどどうしよう!?
錬金釜の前でパニックになっていたら、ボンッ!と音がして錬金釜の中で何かが爆発した。
「きゃっ!」
「シャローズ様!?」
ティアーナが心配して駆け寄ってきてくれる。幸い、音は大きかったものの釜の中のものが外に飛び散るということはかったので誰も怪我をせずに済んだ。
シャローズが錬金釜の中を覗き込むと中には黒いどろっとしたモノがあるだけだ。確実に回復薬ではないだろう。こんな見た目の回復薬なんて見たことがない。
「失敗しちゃった……」
私には錬金術の才能はなかったのかな……。悪役令嬢には無理なのかな……。
「ほうほう」
シャローズが落ち込む中、なぜだか祖父は嬉しそうにしている。
失敗して喜ぶなんて……おじいさまのばか……。うう……涙が出てきた。
「シャローズ、弟子にしてやってもいいぞ」
「……へっ?」
驚きすぎて変な声が出た。
でし?デシ、デシニシテヤル?弟子にしてやる!?!?
「え!? な、なんで?! ……な、なぜでしょうか?」
つい素で喋ってしまった。無理やり言い直してみたが祖父は苦笑している。
「さっきの黒い煙は錬金失敗の煙だ。失敗すると爆発する。成功なら黒い煙ではなく、白い煙が出てくる」
祖父は説明しながら実際に調合をするところを見せてくれる。
「白い煙が出てきてからも更に混ぜていると釜の中がほのかに光出す。光出したら混ぜるのをやめ、棒を錬金釜から取り出す」
それからしばらくすると煙が収まった。
出来上がったのかしら?
「待て待て、焦るんじゃない。もうすぐだ」
釜の中を覗き込もうとしたら祖父に止められる。
ーーポン
ウズウズとしながら待っていると、シャローズの時の爆発とは違うポップコーンが弾けたような軽い音が聞こえた。
「よし、釜の中を覗いて良いぞ」
シャローズが錬金釜の中を覗き込むとそこには瓶に入った回復薬ができていた。
す、すごい。本当に回復薬ができている!
……あれ? でもさっきまでこの中に入っていたのは薬草と水だけよね? なんで瓶があるのかしら。
ティアーナも気になっていたのだろう、祖父に許可をもらいシャローズと同じように錬金釜の中を覗き込む。するとティアーナが子供みたいにキラキラした笑顔になった。ティアーナのこんな笑顔はよく一緒にいるシャローズでさえなかなか見ることができない。SSRぐらいのレアリティじゃないだろうか。
「わあ、これが錬金術なんですね! しかし瓶は一体どこから……?」
やっぱり瓶が気になるよね! 私もめちゃくちゃ気になるよ!
「回復薬が液体だから勝手に作られただけだろう。そういうものだからそこは深く考えない方が良い」
て、てきとう……。気にはなるけどこれ以上突っ込んでも教えてくれなそうだし、おじいさまの言う通り深く考えないようにしとこう。
それよりもなぜ私は失敗したのに弟子してくれるのかの方を教えてもらわなきゃ。
「おじいさま、私はおじいさまみたいに全然できていませんでした。しかしなぜそれでも弟子にしてくださるのですか?」
ああ、と笑いながら祖父は優しく教えてくれる。
「シャロは確かに失敗していた。だがしかし錬金術を扱う素質はあったからだ」
「素質、ですか?」
「そうだ。素質がなければどれだけかき混ぜても最初の煙すら出ない。調合失敗は初めてだから仕方ないだろう」
じゃあ悪役令嬢な私でも錬金術を扱えるってこと……!
「おじいさまありがとうございます! シャローズ・カロリア頑張ります。これからよろしくお願いいたします!」
晴れてシャローズは国で1番と腕が良いと言われている天才錬金術師ベルモント・カロリアの弟子となったのだった。