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8.

 まだお昼にもなっていない時間だったので屋敷には帰らず、そのまま祖父の馬車にティアーナと一緒に乗せてもらい、アトリエへと向かうことになった。


「それにしても、シャロがこんなお転婆な事をするとは……」


 アトリエへと向かう馬車の中で祖父しみじみと呟いた。


「この前たくさん眠ってしまったことで色々思うことがあったのです」


 以前のシャローズ・カロリアであれば庭で運動することもなかっただろう。屋敷の厨房にこっそりと入り込みお菓子を作ろうとすることもなかった。使用人に優しくするなんてこともなかった。使用人に八つ当たりしたり理不尽に怒ったりしない日なんてなかった。今回のように誰にも目的を告げずこっそりと祖父の元へ来たりしなかった。


 しかし今ここにいるシャローズ・カロリアは前世の乙女ゲームに出てきた悪役令嬢シャローズ・カロリアを知っている。そういったことを知っているだけで、考え方や行動は変わるもんだ。


 屋敷でおとなしくしていた期間はそれはもう家族だけでなく屋敷の使用人にまで驚かれまくっていた。それはもうたくさん。

 あれは本物のお嬢様ではない、偽物だ。お嬢様は死んでいてあれはお嬢様の見た目をした幽霊かもしれない。などと使用人が話しているのを聞いた日は今までのことを悔やみ、そして使用人たちからの信頼の無さに泣きそうになったものだ。


 はあ。今までのシャローズってほんとお子ちゃまだったものね。


 今までのことを思い出し、過去のことを反省していた。すると馬車の窓の外を見ていた祖父が何かに気付き大きな声を出した。


「お!」


「っ!?」


「シャロ、もうすぐ着くぞ!」


 祖父に言われて窓の外を見てみる。ゲームで何度も見たことがあるアトリエが見えてきた。

 祖父のアトリエは赤い屋根のレンガ作りの小さなお家だ。RPGのゲームに出てくる道具屋や武器屋のような見た目でおしゃれで可愛い。


 小さな門の前で馬車を降り、祖父を先頭に庭を見ながら玄関の扉に向かう。


 庭には花がたくさん咲いているエリアや草だらけのエリアなどがある。観賞用の庭というよりか錬金術の素材として育てているのだろう。


「うわっ」


 奥の方には毒々しい色や見た目の花が咲いているエリアもある。


「奥のは毒の効果を持つものが多いから素手で触れないようにな」


 祖父が私の目線に気づき注意を受けた。

 言われなくても素手で触れませんよ。なんなら出来るだけ近寄りたくないです。怖いもん。


「屋敷で見ることがない植物だらけですね。少し興味があります」


 意外にもティアーナが祖父のアトリエの庭に興味津々だ。じっくりと見ている。

 ティアーナは部屋に花をよく飾ってくれてはいたが、植物にそんな興味があると思わなかった。


 祖父が先頭を歩き進み庭を抜けた。そして玄関扉の取っ手に手をかけ、何か言い難そうにしながら私たちの方を振り向いた。


「その……物が散らかっているから気をつけるようにな」


 そういうと祖父はゆっくりと扉を開きアトリエの中へと入っていく。


「お邪魔します」


 シャローズとティアーナも祖父に続いてアトリへの中へと入った。


「すごい……」

「ひどい……」


 きったねえな!!!って私たちが言わなかったことを褒めて欲しい。


 床にはたくさんの本が積まれている。机の上には変な色の液体が入った瓶やらビーカー、フラスコ。いたるところにぐちゃぐちゃに何かが書かれたメモ用紙が乱雑に置かれている。

 棚は綺麗に置かれているように見えるが一度片付けたあとただ触れていないだけだろう。埃が見える。


「その辺に置いてあるものは適当にどけて座ってくれていいぞ」


 2つあるソファを指で差しながらそう言われたがソファの上にもいろんなものが乱雑に置かれているからなかなか座れそうにない。というか座りたくない。汚そうだし。


「だ、大丈夫です」


「ふむ、そうか」


 ティアーナは小さくため息を吐き、首を横に振っている。

 ティアーナをこんなに呆れさせるなんてすごいですよ、おじいさま。これが私ならめちゃくちゃ怒られていますよ。


 ここに長くいると体調を崩してしまいそうだ。なのでぱっぱとやらなきゃいけないことを済ませてしまおうと、お茶を入れるためにキッチンへ向かおうとしている祖父を引き止めた。

 

「おじいさま! お茶は大丈夫です」


「ん? でもせっかくだし……」


「私が代わりにお茶を入れてまいりますわ。ですのでお二人はゆっくりしていてください」


 さすが私のできる侍女、ティアーナ。祖父の代わりにお茶を入れに行ってくれた。


「おじいさま、私は何を作れば良いのでしょうか?」


「ああ、そうだな……」


 おじいさまはぐるりと見回してからニコッと笑うと言った。


「なんでも良いぞ!」


 ……え? 私の聞き間違いかな。錬金術を学んだことが一度もないのになんでも良いと言った気がする。


「このアトリエになるものなら自由に使って良い。錬金釜はその奥にあるやつを使って構わない。好きなように調合してみてくれ」


 ど、どうしよう!?!? 聞き間違いじゃなかった。おじいさまのバカー!!!

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