5.
翌日からシャローズは体力回復のために、毎日しっかりとご飯を食べ、庭で散歩したり軽い運動をしたりして過ごした。
すぐさま祖父のもとへ行きたかったが、両親やティアーナはシャローズの体調がほぼ回復しても、まだ心配だ不安だとなかなか外出の許可をだしてくれなかった。
そして目覚めてから1ヶ月経とうという頃、やっと外出の許可が降りたのである。
「ティアーナ!ティアーナ!」
さっそくティアーナを部屋に呼び、明日街へ買い物へ行こうと思っていることを伝える。
「今回は貴族街の方じゃなくて、庶民街の方へ行きたいの」
ティアーナは可愛らしい目をパチクリとさせた。
「貴族街じゃないのですね。珍しいですね」
「たまにはそっちで気軽にお出かけしたいの。だから明日は質素で動きやすい服で行くわ」
準備しておきますねと言いティアーナは退室した。
なぜ庶民街の方に行きたいか深く追求されなくてよかった。もし聞かれても祖父に会いに行くためということはまだ伝えることができない。ティアーナは必ず両親たちに伝えるだろうからだ。
じゃあ、私はどうやって祖父に会いに行くこうとしているのか。ふっふっふ。そんなの簡単だ。
祖父は庶民街に買い物へ行くことがよくあるらしい。貴族が庶民が多く住む庶民街へ買い物に行くことはあまり多くない。街へ行くとしたら貴族街がほとんどだ。それに比べて祖父が庶民街へ行く頻度はとても多く、街に住んでいる人たちとも仲が良いそうだ。ゲーム情報だが。
だから、街の中をうろうろしていれば偶然祖父と出会えたり、情報を手に入れたりできるのではないだろうかと考えたのだ。
会えなかった時は、迷子になったりふりでもしておじいさまのアトリエに直接行っちゃおうかな。
そのようなことを考えながら明日の外出の準備をした。
そして翌朝。さっそくシャローズとティアーナは街へ向かった。
どこで祖父と出会えるかはわからないので街の中を歩いて探すため、街の入り口で馬車から降ろしてもらった。
錬金術師といえばお薬か魔道具よね!そのどちらかに関するお店にいたりしないかな。
安直な考えだが、特に手がかりがないので魔道具店へと向かってみることにした。
「ねえ、ティアーナ。このあたりに魔道具店ってあるかしら」
魔道具店へ向かおうと思ったものの、普段は貴族街のお店か馬車で直接行きたいお店へ行くため庶民街のことはあまり詳しくない。
「それでしたらこの道をもう少しまっすぐ進むとこの街で有名な魔道具店がございますよ」
「ありがとう。それならまずはそこへ行ってみようと思うわ」
「分かりました。ご案内致しますね。シャローズ様は何か魔道具をお探しなのですか?」
「特にこれといってほしいものはないのだけれど、どのような物が売っているのか気になったの」
祖父と会う為というのが本当の目的ではあるが、この理由も間違ってはいない。
この世界の魔道具は、魔物除けや毒無効化のような魔道具らしい魔道具から、電化製品のようなものなど様々である。せっかくなので、どのような物があるか自分の目で見てみたかった。
『ニャーニャー』
ティアーナに案内され店に向かって歩いている途中、私に向かって鳴く黒猫が現れた。
か、可愛い。撫でまわしたい……!
撫でたいけどティアーナに怒られそうだよね、どうしようかなと1人ソワソワしてしまう。
シャローズがソワソワしている間も黒猫は可愛く『ニャーニャー』と鳴いている。我慢ができずにしゃがみ込み撫でてあげようとした。すると、黒猫は私の手を上手くかわし、付いて来いと言うように目配せしてからゆっくりと歩き出した。
「シャローズ様!?」
ティアーナの制止する声が聞こえたが、黒猫がなぜだか気になってしまいついていく。ティアーナは黒猫についていくだけなら危険はないと思ったのだろう。それからは制止せず、一緒についてきてくれた。
それから2、3分ぐらい歩いたところであるお店の扉の前で黒猫は歩くのをやめた。
そのお店は紫色の屋根で、外観はぱっと見あまり綺麗ではなく、窓にはカーテンがかかっているため外からは中が見えない。お店の看板はなく怪しい雰囲気が漂っている。扉の取っ手には木の板がかけられており、そこには消えかけの文字で『OPEN』と書かれていた。
「このお店に入ればいいのかしら?」
『ニャー!』
そうだ、と返事するように黒猫が鳴いた。
「シャローズ様、何だか怪しいと思います。このお店には入らない方が良いのではないでしょうか」
私も同意見だ。しかし、ここまで黒猫についてきてしまったし、何だかこのお店がどのようなお店なのか気になる。
「お店に一歩だけ入って、何かやばそうだと持ったらすぐに出て扉を閉めて逃げましょう」
好奇心に負けて、ティアーナの返事を待たずに扉を開ける。
「しゃ、シャローズ様!?」
ーーカランカラン
ティアーナが驚いた声を上げるのと同時に、扉についていた鐘が鳴り、店の人に来客を知らせる。
「いらっしゃいませ」
店員だと思われるおじさんが綺麗なお辞儀をし出迎えてくれた。