4.
ティアーナが部屋から出て扉を閉めたのを確認してから、私が乙女ゲームについて覚えてることを紙に書き出してみる。
まずはこの乙女ゲーム、"バーナード王国物語 〜世界を滅ぼす魔物から王国を守れ〜"のストーリーについて。
舞台は今いるこの国、バーナード王国。
そして、物語が動き出すのは、1年後、悪役令嬢である私やヒロインが11歳となる年だ。
シャローズの祖父は偉大な錬金術師。街から少し離れたところにアトリエがあり、そこで普段は薬や魔道具を錬金したり、研究をしたりしている。
ある日、祖父は急ぎで調合しなければならない依頼があったが、その為の材料が足りなくなり慌てて街へ材料を買いに行った。その帰り、街のはずれで倒れているヒロインを偶然見つけ、助けてあげたのがゲームのストーリーの始まりだ。
そのままヒロインはシャローズの祖父の世話になり、錬金術師へと成長していく。
時が立ち、シャローズたちが17歳の時、世界を滅ぼすほどの力を持つと歴史書に書かれている魔物が突如王国に現れる。
攻略キャラと錬金術師であるヒロインが協力しなければこの魔物を封印することができないのである。
魔物が現れる頃にはヒロインは錬金術師としての才能を開花させており、ヒロインならば魔物を封印できるのではないかと噂にる。その噂を聞いた王はヒロインを呼び出し、魔物の封印に協力してもらえるよう頼んだ。
それからヒロインは王宮で攻略キャラと出会い、どうやって封印するかを調べていく。そうやって一緒に作戦を考えていく中で、攻略キャラとヒロインは愛を育んでいくのだ。
ヒロインは攻略キャラが魔物を封印するために使う特別な武器や魔道具を錬金術で作り出した。それを攻略キャラが使うことで魔物を封印することができた。
最後は国を救った英雄として讃えられ、攻略キャラと一緒に幸せに暮らすのでした。
これがこの乙女ゲーム"バーナード王国物語 〜世界を滅ぼす魔物から王国を守れ〜"、略してバナ国物語のストーリーである。
ゲーム内のシャローズは祖父が錬金術師であることは知らないまま死んでしまう。今の私はゲームのおかげでそのことを知っているが、本当は知り得るはずがない。というのも両親が錬金術はなぜか危険なものだと思っており、祖父が錬金術師であることを秘密にされている。なんなら屋敷にある図書室にも錬金術に興味を持たせないようにと錬金術に関する本がない。ゲームや漫画は悪だとしてそれらを禁じられている子供みたいだ。
さて、これからどうやって私の死亡フラグをへし折っていこう。
現時点ではヒロインと攻略キャラたちは出会っていないはずである。
それならこのままヒロインが攻略キャラたちに出会わなければ良いのではないだろうか。そうしたらヒロインたちの恋を邪魔することは絶対にない。
別にヒロインたちの恋の邪魔をする気はない。しかし、ゲームの強制力で邪魔をしていなくても邪魔をしたと思われてしまうかもしれない。それならそれくらいしておいた方が安心できるだろう。
でもヒロインと攻略キャラが出会わなかったら、魔物を倒すことが出来なくなってしまうのではないだろうか。そうなったら死ぬのは自分だけじゃない。国中の人が死んでしまう。それだけは何がなんでも回避しなければならない。……というか、ヒロインと攻略キャラが出会わないようにするってどうやるんだ。
「うーん、どうしたらいいかな」
ヒロインがいないと魔物と戦うための武器や封印する道具が作れない。なんとかして封印道具だけでも作ってもらいたい。
どうすればいいか思案していると閃いてしまった。
「……そっか!自分で作っちゃえばいいんだ!」
錬金術のやり方は全くわからない。けれども錬金術についてはどうにかして祖父に教えてもらえばいいだけの話だ。
武器や封印道具のレシピはゲーム内で武器の素材集めをさせられたから覚えている。錬金術さえ使えるようになればなんとかなるのではないのだろうか。
そして、武器だけ作って攻略キャラに渡したら、私はすぐ家に引っ込んでおけばいい。あとは攻略キャラたちが魔物を封印して、ヒロインとくっつくはずである。
名案!そうと決まればおじいさまに会いに行かなきゃ。
両親は私が祖父が錬金術師ということもアトリエがあることも知らないと思っているけど、ゲームをプレイ済みだからどこにアトリエがあるかも分かっている。
今はまだずっと眠っていたせいでシャローズには祖父に会いに行けるほどの体力がない。はやく行きたくてうずうずするが今は我慢だ。
「すぐに歩き回れるくらいの体力つけちゃうんだから!頑張るわよー!」
ーーチリンチリン。
ベルを鳴らして、ティアーナを呼ぶ。
「シャローズ様、いかがされましたか?」
「ティアーナ!今から庭へ散歩に行くわよ!」
ティアーナに元気いっぱいに宣言する。しかしティアーナは私の言葉を聞いた途端、わなわなと震えだした。
「今日はまだ起きたばかりなのですから庭への散歩はダメです!今日はお部屋でおとなしくしていてくださいませ!」
シャローズ様がまた倒れられたらと不安なんです……と涙目になりながら切実そうに訴えられた。
う……心配かけたばかりだもんね……。ほんと申し訳ない……。
「心配かけてしまってごめんなさい……。明日、もし天気が良ければ散歩に付き合ってもらえないかしら?」
「はい、シャローズ様」
ティアーナはふわりと笑いうなずいてくれた。
「ありがとう!ティアーナ!」
こうやって心配してくれる人がいる。その人のためにも絶対死ねない、生きてやるとシャローズは新たに決意した。