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  作者: あさとわ
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第二話


4月8日、今日は高校の入学式。新しい制服に身を包み、私は玄関の鏡の前に立つ。

「あんまり似合ってないな」

ボソッと呟き玄関を出た。


新しい教室に入るとすぐに、いかにも女子という感じの子が私の元にやってきた。

「ねぇ、名前なんて言うの?」

「大谷桃花(とうか)って言います」

「私は葉山朱里(あかり)、桃花ちゃんよろしくね」

そう言って葉山さんは人懐っこい笑みを浮かべた。なんだか葉山さんって可愛い人だな。私とはまるで正反対の人だと思った。

「ねぇねぇ桃花ちゃんって、家どの辺?」

「今井市です」

「えっ、あそこって高級マンションとか立ち並んでるあたりだよね!?桃花ちゃん家ってお金持ちなんだ」

葉山さんは目をキラキラさせて頷いている。

「そう…なんですかね……」

「でも今井市だったら私の家と反対方向だね」

そう言うと葉山さんはしょんぼりした顔になった。でもすぐに笑顔になって

「じゃあ今日の帰り駅まで一緒に帰ろ!」

「うん」

私は少しだけ笑顔を作って頷いた。





帰り、葉山さんと一緒に駅まで歩いていると、彼女が急に立ち止まった。

「どうしたの?」

私が声をかけると

「あの人超かっこいい……」

そう言う彼女の目線の先を追うと、数人の男子高生が楽しそうにはしゃいでいた。そして私はその中には見た事のある顔が───

「緑……さん?」

大人の人だと思ってたけど、高校生だったの?

しかもあの制服って───

私の思考が追いつくまでに

「あの制服、同じ学校じゃん!」

葉山さんは嬉しそうに私を見る。

「そ、そうみたいだね」

「ちょっと話しかけに行こ!」

彼女はそう言って私の手をとり彼らの元へ向かった。



彼らに追いつくとすぐに、

「あの!」

唐突に話しかけられた彼らはびっくりしたように振り返ったが、私たちを見ると嬉しそうに口を開いた。

「えっ、どうしたの?二人ともめっちゃ可愛いんですけど。」

「誰かこの子達と知り合い?」

すると私に気づいた緑さんは目をまん丸にして、

「大谷さん?」

「先日はどうも……」

私は軽く頭を下げる。

すると、緑さんの隣にいた茶髪の男の人が

「雪斗、知り合いなの?」

「道に迷ってたから案内しただけだけど……」

緑さんがそう答えると納得したように頷く。

すると、また唐突に葉山さんは、

「あの、さっき一目惚れしてしまいました。良かったらお名前と連絡先教えて貰えませんか」

どうやらその相手は緑さんではなく、隣の茶髪の人の方らしい。

「本当に!? 全然にいいよ!」

「本当ですか!ありがとうございます!」

葉山さんは嬉しそうに彼と連絡先を交換している。彼女の行動力には感心しかないな。まだ出会ってからほんの数時間しか経ってないのに、なんだか尊敬する。そんな事を考えていると、

「大谷さんのお友達、なんかすごいな」

緑さんも私と同じことを考えていたようだった。

「私も今日出会ったばっかりなんですけど、なんかもう尊敬します」

「面白い友達だな」

そう言って緑さんは微笑んだ。




その後、茶髪の男の人の提案で私達は一緒に駅まで向かうことになった。

 元から明るかった葉山さんはさっきからより一層はしゃいでいる気がする。楽しそうに話している姿を見ていると、そんなふうにできない自分が不思議に思えてきた。




駅に着いて、反対方向の葉山さんや緑さん以外の他の男の人たちとはそこで別れた。

「こっち方面、緑さんだけなんですね」

「こっち方面から来るやつ少ないからな」

そうなんだ。それは知らなかった。

「緑さん、高校生だったんですね」

「あぁ、そういえば言ってなかったな。今年から二年」

「びっくりしましたよ」

「俺だってうちの学校の制服着ててびびったわ」

まだあんまり話したことは無いけど、緑さんと話してるとあんまり緊張しないんだよな。つい油断して、話さなくていい事まで話してしまう。この間みたいに。



しばらくして電車がやってきた。割と空いていたので、二人並んで座席に座る。

「なぁ大谷さん」

彼は前を向いたまま私に話しかける。

「私年下なんで、さん付けしなくてもいいですよ」

すると緑さんは少し考えて

「じゃあ、大谷で」

「分かりました」

私が答えると、緑さんは私の方を見る

「俺さ、この間大谷が言ってたこと考えてみたんだけど」

この間私が言ったこととは、初めて会った日に私が、自分の感情がわからないと言ったことだろう。

「俺に何かできる事があったら、いつでも相談しろよ」

 自分の感情が分からないなんて、あんな意味不明な事、気にしてくれてだんだ。

緑さんはさらに続ける。

「役には立たないかもしれねぇけど、話くらいならいつでも聞くから」

 自分のことを心配してくれる人なんていないと思ってた。なんだか心臓の奥が温かい感じがするような、しないような。

「緑さん、ありがとうございます」

そう言って私はお辞儀をした。

その後幸斗さんは、いつでも連絡して来い、と言って連絡先を交換してくれた。



最寄り駅につき、緑さんの乗った車両を見送ると、家までの道を歩き出した。



家に着いても、当たり前だけど誰もいない。一人暮らしをする以前からも、それは同じことだった。





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