ショッピングモール
【前回までのあらすじ】
和樹たちは水着を買いにショッピングモールへ行く約束をした
香織たちと水着を買いにショッピングモールへ行く約束をした日の朝。
朝に弱い性格から普段は時間ギリギリに起きている俺だが、今日はなぜかいつもよりも早く目が覚めたので、どうせなら、と髪をいつもより入念にセットしていた。
「あら、どうしたの急に? 髪なんか整え始めて。何人かと出かけるって言っていたけど、好きな子でもいるの?」
「……母さん」
察しがいい。
香織と付き合っていることは翠と大地、そして夜叉神さんにしかまだ話していない。いずれは話さなくてはならないが、香織に無許可で話すのも気が引ける。これがもし、家絡みの付き合いなどがなにもなければ「彼女ができた」と素直に話せるのだが……。
「で? どうなのよ?」
「近いよ、母さん…………そうだよ、好きな子ができたんだ」
「まぁっ!」
嘘は言っていない、正確にはもう付き合っている、になるが。
「何だ何だ、大きな声出して」
母さんの嬉々とした声につられて、父さんまできた。
「和希が好きな子ができたんですって!」
「ほお、そうなのか」
父さんは俺を見る。
俺の心情を大方察してくれたのか、父さんは母さんにバレない程度に苦笑した。
「まあまあ、和希にも色々あるんだろうし問い詰めるのは良くないよ。それに、和希は今日ゴミを捨てるんじゃなかったのか? 早くしないとゴミ屋さんが来てしまう」
「やっべ、そうだった! ありがとう父さん」
もちろんそんな予定はない、父さんが気を利かせてくれたのだろう。母さんは父さんには弱いので、あっさりと俺を開放してくれた。
父さんと母さんの間をすり抜け、そそくさと自室へ戻る。
「ん?」
ちょうど部屋に戻ったタイミングでズボンのポケットに入れていたスマホが震える。確認すると父さんからのメッセージだった。
『がんばれよ』
たったそれだけ書かれていた。
その文面を見て、本気で自分のことを考えてくれている父さんと母さんに嘘をついていることに少し背徳感を覚えた。
今日香織に相談してみよう、そう決心して、まだゴミが3割ほどしか入っていないゴミ袋を縛った。
◇ ◇ ◇
家が隣同士なのだから、と言う事で約束のショッピングモールには香織と一緒に行くことになった。
約束の時間に家を出て、香織の家の前で待っていること数分、香織が急ぎ足で出てきた。
「おはよう和くん! ごめんね、遅れちゃって」
「おはよ、そんなに待っていないから大丈夫」
香織は急いで疲れたのか両手をうちわの様にパタパタして顔をあおいだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、ちょっとお化粧に時間取られちゃっただけだから」
へにゃりと笑う香織の耳には、いつかの四つ葉のクローバー型イヤリングが付いていた。
「そのイヤリング」
「これ? 前に和くんに買ってもらったやつ。私のお気に入りなんだあ」
香織は髪を耳にかけてイヤリングを見せてきた。
「えへへ、どうかな?」
「すごく似合ってると思う、かわいい」
素直に感想を言うと、香織は目を数回パチパチさせたあと、カアッと赤くなった顔を隠すように手でおおった。
「もう……ばかっ」
「本当に似合ってるって」
「そういうところだよ〜〜っ!」
香織は隠した手の間からチラリと瞳をのぞかせた。
「そういう和くんも今日は髪がいつもよりも整ってるね」
「ん、これか? 少し早く起きたからいつもよりちょっと時間かけてセットしてみた」
俺はワックス特有のツヤツヤした髪をいじくりながら上目で見た。
香織は手の間からマジマジと俺を見た。
「そっちの方がかっこいいから、いつもそっちがいいな」
香織に褒められたことで少しだけ耳が赤くなったことを実感して「……おう」としか答えられたかった俺のことを見て、香織は「ふふふ」と笑った。
「……なんだよ」
「なんでもないよー。それより、翠ちゃんと大地くんとの約束の時間に遅れちゃうから早く行こう!」
「遅れたのは香織だけどな」
「ごめんってばー」
「冗談だって。今からでも電車には間に合うだろうし大丈夫だろ」
ある程度遅れることは考慮して香織と時間を決めたから、これくらいの遅れはなんてことはないはずだ。
それから二人は数十分、他愛のない話をしながら移動して目的のショッピングモールに来ていた。
今日から夏休みの人が多いのか、モール内は人でごった返していた。
「すごい人だな」
「そうだね、翠ちゃんたち見つけられるかな?」
一応、翠達との集合場所は決めてある。しかし、そこはモール内でも多くの人が待ち合わせ場所としているようで、探すのに少し苦労しそうだ。
「もう少し人がいないところを集合場所にするべきだったな」
「そうかもね。とりあえず探してみよっか」
「そうだな」
俺は香織から視線を外しながら、恥ずかしくあるも香織の手を取った。
「……!?!?」
「あーほら、離れたりしたら大変だろ? いやなら離すけど」
俺は手の力を緩めようとすると、香織がギュッと握り返してきた。
「いやじゃない」
香織は消え入りそうな声で恥ずかしそうに、けれど、嬉しそうな声でへにゃりと笑い俺を見上げた。
誤字・用法の誤りなどありましたら気軽に報告してくれると嬉しいです。




