カラオケ Part2
「それじゃあ誰から歌うー?」
俺と香織とのハプニングはすっかり覚えていないのか、翠はすぐにカラオケモードへとチェンジした。
「そうだな……、俺は夜叉神さんがいいいと思う」
「あっ私もちーちゃんに歌ってほしい!」
ビシッと手を上げる香織。
「僕も賛成、千華ちゃんの歌声は気になるから」
「そういうわけだからちーちゃんが一番最初でもいいー? もしも恥ずかしいなら私が一緒に歌うから」
まさか自分が一番最初に歌うことを予想していなかった夜叉神さんは、少し考えたあとに……、
「翠ちゃんが一緒に歌ってくれるなら」
「やった! じゃあちーちゃん。歌いたい曲とかある?」
翠が曲を選択するためのタブレットを夜叉神さんにわたす。
「歌いたい曲ですか? そうですね……」
夜叉神さんはしばらくタブレットの前で可愛らしく「ん〜」とうなっている。
「歌いたい曲が思いつかないの?」
「いえ、その……」
「その?」
「どうやって曲を調べたらいいのかわからなくて?」
どうやら、歌いたい曲は決まっているが調べ方がわからないだけのようだ。
「ちょっと貸して?」
夜叉神さんの向かいの席に座っている香織が、タブレットを受け取る。
「なんて曲?」
「『思いの詩』と言う名前なんですが」
「『思いの詩』っと、いい題名だね」
「はい。小さい頃にお母さんに子守唄代わりによく歌ってもらっていて、今でも一番好きな歌です」
そういえば、俺も小さい頃に母さんに子守唄を歌ってもらっていた。
何度も聞いていたせいか、数年間聞いていない今でも結構はっきり歌えたりする。
曲名までは知らないが、あの歌は結構好きだ。
「あった『思いの詩』」
香織は夜叉神さんに曲選択の方法を教える。
「そういえば、翠は夜叉神さんと一緒に歌うけどこの曲知っているのか?」
「むふふー、もちろん! この前ちーちゃんに教えてもらってはまっちゃったからー」
「ふーん、大地は知っていたか?」
「知っていたよ。僕も小さい頃に何回か聞いたことがあるから」
どうやらこの五人の中で、知らないのは俺と香織だけのようだ。
家に帰った調べてみようと心のメモしておこう。
「よしっできた!」
「じゃあちーちゃん一緒に楽しんで歌おー」
「はい」
翠は元気よく、夜叉神さんは少し恥ずかしそうにマイクを手に取った。
◇ ◇ ◇
「「〜♪」」
「すごいうまかったよ二人とも!」
「えへへ〜ありがとう、かおりん」
「あ、ありがとうございます」
夜叉神さんは歌うのが上手かった。いや、きれいだった。
まるでそこに歌手がいるのではないかと錯覚する程に上手かった。
「ちーちゃんすっごく上手だったよー」
「本当ですか?」
「本当だって、ねぇ和希、大地?」
「うん、すごかった。一瞬動きが止まっちゃったぐらいだから」
「僕もこんなにきれいな歌声を聞いたのは初めてだよ」
「皆さん……ありがとうございます!」
俺たちの素直な称賛に夜叉神さんは目をうるうるさせていた。
「さて、じゃあ次は僕が歌う番かな?」
大地は夜叉神さんからタブレットを受け取ると、なれた手付きで曲を選択した。
「随分となれているな」
「翠とよくカラオケには行くからね。流石に覚えたよ」
「そんなによく来るのか?」
「日曜日の夕方にいきなり電話がかかってきてそのままカラオケで夕飯を食べたことが何度かね」
カラオケはドリンクバーはもちろんだが、頼めばそれなりの料理が出てくる。
ポテトや唐揚げは王道だが、ピザや寿司などを頼める店もある。
さらに最近はワイファイを完備してある店が増えてきているからネットが使い放題だ。
そんなわけで、カラオケは高校生のたまり場と化している。
ちょうど今も翠がメニューを片手に、部屋に備え付けの電話で何かを注文をしている。
「なあ大地、翠のやつ何を頼んでいると思う?」
「さあね、でも嫌な予感がするよ」
「同感だ」
カラオケにメニューとして存在しているものだから変な料理は出てこないだろうが、なぜだか心配になる。
「次は大地が歌うのー?」
注文し終えたのか翠が電話をもとの位置に戻す。
「うん、次は僕が歌うよ」
「そっか、じゃあ大地がちょうど歌い終わったあとに料理来るからみんなで食べよー」
「翠ちゃん何頼んだの?」
「それは来てからのお楽しみー」
香織は翠の楽しそうな顔を見て、何か企んでいるのを察したらしい。露骨に苦笑いをしている。
「大地、少しでも長い曲に変えてくれ」
「ごめん、僕もそうしたいけどそれは無理みたい」
スピーカーから歌が流れ始める。
どうやら少しでも時間稼ぎをすることはできなかったらしい。
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