望み
嗚呼、なんて憎たらしいんだろう。
声を出すことも恋人に触れることも出来ない。
死ぬ前の私は、死んだら当然のように天国に行けるものだと思っていた。なのに、気づいたら霊的なものになっていた。
霊になるのは怨念やらなんやら、現世に縛られた人間だと聞いたことがあったが、確かにそうかもしれない。現に私も縛られているのだから。
私が縛られてるもの、それは、一つしかないだろう。
私の恋人だ。
彼は、私のことをとてつもなく愛していて、
「唯一無二の存在だよ。君がいないと生きていけない。君以外を愛せない。」なんて、歯が浮くようなセリフを本気で言っていた。
私が死んだあとの彼は、世界中の不幸が1度に襲ってきたような顔をしていた。彼の同僚たちは彼を心配し、何度もご飯に誘ったり、趣味に誘ったりしていた。
私は当然それを眺めるだけだった。
私が死んで約2年たった時、同僚が彼に女を紹介した。
「そろそろお前も先に進め。彼女もそれを望んでいるよ。」
彼は、一度は会ったもののその女を拒み続けた。
だがその女は彼の優しさや、才色兼備な所に惚れたのだろうか。彼にしつこく付きまとった。
その女は彼に言った。
「きっと、彼女もあなたが幸せになることを望んでいますよ。」
彼もその女に絆されたのか、付き合い始めるようになった。
許せない。許せない。許せない。霊になった私は自分の望みすら、他人に決められるのか。彼は私のものだったのに。
嗚呼、人の言葉など信じるものじゃなかった。
私はこうやって貴方を待っていたのに…。